システム・運用#195

アンテナサイト選定とRFI環境評価 — 地上局をどこに建てるかという設計変数

深宇宙探査機から届く電力は 10のマイナス19乗 W級であり、都市の携帯基地局やレーダーが漏らすわずかな人工電波(RFI)に容易に埋もれる。だからこそ『地上局をどこに建てるか』は、アンテナ口径や低雑音増幅器と並ぶれっきとした設計変数になる。ナイフエッジ回折による地形遮蔽の定量化、電波静穏地域の制度、スペクトラムアナライザによる長期RFI測定キャンペーンの統計、そして水蒸気量・地盤・経度分散という複合判断を、DSN三局の立地根拠に即して整理する。

前提知識: 周波数分配とITU電波規則 — 誰が『Xバンドは深宇宙専用』と決めているのか

RFIサイト選定ナイフエッジ回折電波静穏地域スペクトル占有率

この回で学ぶこと

周波数分配とITU電波規則の回では、深宇宙研究業務のためにXバンド8400–8450 MHz帯やKa帯31800–32300 MHz帯が国際条約上どのように保護されているかを見ました。あれは「誰がどの周波数を使ってよいか」という制度の話でした。しかし制度がどれほど整っていても、電波は物理的に漏れます。周波数分配表に従って正しく設計された地上の無線設備であっても、帯域外輻射やスプリアス、相互変調、あるいは単なる故障によって、深宇宙研究業務の帯域にわずかな電力を漏らします。そして深宇宙探査機からの信号は、その「わずか」に負けるほど微弱です。

この回で扱うのは、その物理的な現実に対する唯一かつ最も強力な対策——地上局をどこに建てるかという問題です。アンテナ口径 DD を大きくすること、低雑音増幅器の雑音温度 TLNAT_{LNA} を下げること、符号化利得を稼ぐこと。これらはすべてG/Tの回低雑音増幅器の回で扱ってきた「装置の性能」を上げる努力ですが、受信機の入力端に到達する干渉電力そのものは、装置の性能では一切減りません。干渉を減らせるのは、干渉源からの距離、干渉源との間に立ちはだかる地形、そして干渉源の存在を法的に禁じる制度の3つだけです。このうち前2者は完全にサイト選定の問題であり、3番目も「どの土地なら制度的保護を受けられるか」というサイト選定の問題に還元されます。

具体的には次の5つを順に扱います。(1) なぜ受信電力 101910^{-19} W という数字がサイト選定を強制するのか、(2) 山に囲まれた盆地がどれだけ干渉を減衰させるかをナイフエッジ回折で定量化する方法、(3) 電波静穏地域(Radio Quiet Zone)という制度、(4) 候補地で実際に行うRFI測定キャンペーンの統計的設計、(5) 水蒸気量・地盤・経度分散という非RFI要因との複合判断。最後にDSNのゴールドストーン・マドリード・キャンベラ三局の立地が、これらの基準にどう照らして選ばれたのかを整理します。

直感的導入: 101910^{-19} W という数字の意味

まず、私たちが守ろうとしている信号がどれほど小さいかを、具体的な数字で押さえておきましょう。

DSN概論では受信電力を 101610^{-16} W オーダーと述べましたが、これは比較的近距離・高利得の条件での値です。太陽系外縁部を飛ぶ探査機、たとえば送信電力 Pt=20P_t = 20 W、探査機側アンテナ利得 Gt=48G_t = 48 dBi(高利得アンテナ)の機体が、d=150d = 150 億km(100100 au)の彼方からXバンド8.4 GHzで送信する場合を考えます。自由空間損失は

Lfs=(4πdλ)2,Lfs[dB]=20log104πdλL_{fs} = \left(\frac{4\pi d}{\lambda}\right)^2, \qquad L_{fs}\,[\mathrm{dB}] = 20\log_{10}\frac{4\pi d}{\lambda}

λ=c/f=3.0×108/8.4×109=0.0357\lambda = c/f = 3.0\times 10^8 / 8.4\times 10^9 = 0.0357 m、d=1.5×1013d = 1.5\times10^{13} m を代入すると Lfs374L_{fs} \approx 374 dB。地上局の70mアンテナの利得を Gr=74G_r = 74 dBi とすれば、受信電力は

Pr[dBW]=Pt+GtLfs+Gr=13.0+48374+74=239 dBWP_r\,[\mathrm{dBW}] = P_t + G_t - L_{fs} + G_r = 13.0 + 48 - 374 + 74 = -239\ \mathrm{dBW}

239-239 dBW =1023.9= 10^{-23.9} W 1.3×1024\approx 1.3\times 10^{-24} W です。これは極端な例ですが、より現実的な火星距離(2.52.5 au、Lfs282L_{fs}\approx 282 dB)でも Pr147P_r \approx -147 dBW =2×1015= 2\times10^{-15} W、木星距離(55 au)なら 101610^{-16} W 台、天王星以遠では 101910^{-19} W 台に容易に落ち込みます。本稿ではこの 101910^{-19} W 級を基準に議論します。

一方、地上局の受信系が持つ内部雑音の電力密度は、システム雑音温度 TsysT_{sys} を使って N0=kTsysN_0 = k T_{sys}(k=1.38×1023k = 1.38\times10^{-23} J/K)で与えられます。極低温冷却された最良の受信系で Tsys=20T_{sys} = 20 K とすれば

N0=1.38×1023×20=2.76×1022 W/HzN_0 = 1.38\times10^{-23} \times 20 = 2.76\times 10^{-22}\ \mathrm{W/Hz}

つまり 1 Hz あたり 2.8×10222.8\times10^{-22} W です。ここに、外部からの干渉電力密度 I0I_0 が加わると、実効的なシステム雑音温度は Tsys+TIT_{sys} + T_I(TI=I0/kT_I = I_0/k)に増え、G/Tはその分だけ劣化します。

深宇宙研究業務の保護基準としてITU-Rが用いる考え方は、この劣化をシステム雑音温度の1%以内、すなわち ΔT/Tsys0.01\Delta T/T_{sys} \le 0.01 に抑えるというものです(ITU-R勧告SA.1157系の考え方)。Tsys=20T_{sys}=20 K なら ΔT0.2\Delta T \le 0.2 K、電力に直すと帯域幅 B=1B = 1 MHz あたり

Imax=kΔTB=1.38×1023×0.2×106=2.8×1018 W=175.6 dBWI_{\max} = k\,\Delta T\,B = 1.38\times10^{-23}\times 0.2 \times 10^6 = 2.8\times10^{-18}\ \mathrm{W} = -175.6\ \mathrm{dBW}

これが「許してよい干渉電力」の目安です。dBm に直せば 145.6-145.6 dBm。携帯電話が「圏外」と表示する受信電力がおおむね 110-110 dBm であることを思えば、地上局が守らねばならない静けさは、携帯電話の圏外よりさらに 3535 dB(約3000倍)静かな世界だとわかります。

都市部の基地局はどれだけ「うるさい」か

具体的に見積もってみましょう。ある携帯基地局のEIRP(等価等方輻射電力)を 6060 dBm(11 kW)、地上局からの距離を 1010 km、周波数を 22 GHz とします。自由空間損失は

Lfs[dB]=32.44+20log10d[km]+20log10f[MHz]=32.44+20+66.0=118.4 dBL_{fs}\,[\mathrm{dB}] = 32.44 + 20\log_{10} d\,[\mathrm{km}] + 20\log_{10} f\,[\mathrm{MHz}] = 32.44 + 20 + 66.0 = 118.4\ \mathrm{dB}

地上局アンテナは当然この基地局の方を向いていませんから、受かるのはサイドローブ経由です。大型パラボラの遠方サイドローブ利得を Gsl=10G_{sl} = -10 dBi と控えめに見積もっても、

PI=60118.4+(10)=68.4 dBmP_{I} = 60 - 118.4 + (-10) = -68.4\ \mathrm{dBm}

先ほどの許容値 145.6-145.6 dBm と比べると、7777 dB も過大です。ここで重要な補足を2つ入れておきます。第一に、この基地局は 22 GHz で送信していて深宇宙帯(2290229023002300 MHz 等)そのものには出ていませんから、実際に問題となるのは帯域外輻射・スプリアスの成分です。良く設計された基地局ならこれは搬送波比 60-60 dBc 以下に抑えられており、その分だけ差し引けば 128-128 dBm 程度。それでもなお 1818 dB 足りません。第二に、ひとつでも故障した増幅器、規格外の安価な機器、あるいは車載レーダーや違法な無線機が近傍にあれば、この 6060 dB の余裕は簡単に消えます。

つまり 「装置の性能」ではどうにもならず、距離と地形と制度で 8080 dB 級の抑圧を稼ぐしかない——これがサイト選定を工学的課題に押し上げている理由です。

定式化その1: 地形による遮蔽をナイフエッジ回折で見積もる

「山に囲まれた場所なら電波が届きにくい」というのは直感的に理解できます。しかし地上局の設計では、この直感を dB という単位の数字にしなければなりません。そのための最も基本的な道具がナイフエッジ回折(knife-edge diffraction)モデルです。

フレネルパラメータ

干渉源(送信点 T)と地上局(受信点 R)の間に、鋭い稜線を持つ山があるとします。稜線の頂点が、T と R を結ぶ直線(見通し線、line of sight)より高さ hh だけ上に出ており、T から稜線までの距離が d1d_1、稜線から R までの距離が d2d_2 であるとします。このとき、回折の強さを支配する無次元量がフレネルパラメータ(Fresnel-Kirchhoff diffraction parameter) vv です。

v=h2λ(1d1+1d2)v = h\sqrt{\frac{2}{\lambda}\left(\frac{1}{d_1}+\frac{1}{d_2}\right)}

hh は稜線が見通し線より上に出ていれば正、下に沈んでいれば負とします。v>0v>0 が「遮蔽されている」状態、v<0v<0 が「見通しはあるがフレネルゾーンが削られている」状態です。

この vv は、第1フレネルゾーン半径 F1F_1 を使うと意味がはっきりします。

F1=λd1d2d1+d2,v=2hF1F_1 = \sqrt{\frac{\lambda\, d_1 d_2}{d_1+d_2}}, \qquad v = \sqrt{2}\,\frac{h}{F_1}

つまり vv は「障害物が第1フレネルゾーン半径の何倍だけ突き出ているか」を 2\sqrt2 倍したものです。v=0v=0(稜線がちょうど見通し線上)のとき遮蔽損失は 66 dB、v0.78v \approx -0.78 以下(障害物が第1フレネルゾーンから十分離れている)のとき損失はほぼ 00 dB になります。

回折損失

ナイフエッジ回折による損失 J(v)J(v) は、厳密にはフレネル積分で与えられますが、実務ではITU-R勧告P.526に示された次の近似式が広く使われます(v>0.78v > -0.78 で有効)。

J(v)[dB]=6.9+20log10 ⁣((v0.1)2+1+v0.1)J(v)\,[\mathrm{dB}] = 6.9 + 20\log_{10}\!\left(\sqrt{(v-0.1)^2+1} + v - 0.1\right)

vv が十分大きいとき(v3v \gtrsim 3)、括弧の中は 2v2v に漸近するので

J(v)6.9+20log10(2v)=12.9+20log10v[dB]J(v) \approx 6.9 + 20\log_{10}(2v) = 12.9 + 20\log_{10} v \quad [\mathrm{dB}]

というきれいな漸近形になります。vv が10倍になるごとに遮蔽が 2020 dB 深くなる、と覚えておくと見積もりが速くなります。

数値例: 盆地の底に建てた地上局

具体的に計算してみましょう。地上局の 22 km 先に標高差 300300 m の尾根があり、その向こう 2020 km の地点に干渉源(都市の基地局)があるとします。周波数はXバンド 8.48.4 GHz、λ=0.0357\lambda = 0.0357 m。

第1フレネルゾーン半径は

F1=0.0357×2000×2000022000=64.9=8.06 mF_1 = \sqrt{\frac{0.0357 \times 2000 \times 20000}{22000}} = \sqrt{64.9} = 8.06\ \mathrm{m}

フレネルパラメータは

v=2×3008.06=52.6v = \sqrt2 \times \frac{300}{8.06} = 52.6

漸近形を使って

J12.9+20log10(52.6)=12.9+34.4=47.3 dBJ \approx 12.9 + 20\log_{10}(52.6) = 12.9 + 34.4 = 47.3\ \mathrm{dB}

この尾根ひとつで約 4747 dB の遮蔽が得られる計算です。先ほどの 7777 dB の不足のうち、6割以上をこの地形だけで埋められることになります。

同じ地形をUHF帯 400400 MHz(λ=0.75\lambda=0.75 m)で評価すると F1=36.9F_1 = 36.9 m、v=11.5v = 11.5J34.1J \approx 34.1 dB。周波数が高いほど遮蔽が効く(vfv \propto \sqrt{f}J10log10fJ \propto 10\log_{10} f)という、直感通りだが定量的には穏やかな依存性が読み取れます。Xバンド・Ka帯を主に使う深宇宙地上局にとって地形遮蔽が有効な戦略であるのは、この周波数依存性のおかげです。

モデルの限界を正しく理解する

ただし、この 4747 dB という数字をそのまま信じてはいけません。実際の地形は「無限に薄い完全導体のナイフエッジ」ではなく、有限の曲率を持つ丸い尾根であり、樹木や岩に覆われ、しかも複数の尾根が連なっています。実務上は次の補正を意識します。

  • 丸み補正: 稜線の曲率半径が大きい(なだらかな丘)ほど、ナイフエッジ予測より損失は増える方向に補正されます(ITU-R P.526の rounded obstacle モデル)。
  • 多重回折: 尾根が2つ3つ連なる場合、単純に J(v)J(v) を足し算すると過大評価になります。Deygout法・Bullington法・Epstein-Peterson法といった多重ナイフエッジ近似が用いられます。
  • 対流圏散乱・ダクト: 実際の大気は 50506060 dB を超える深い遮蔽の裏側にも、対流圏散乱(troposcatter)や大気ダクトによって電波を回り込ませます。このため、地形遮蔽で現実に期待できるのは概ね 40406060 dB 程度が上限で、それ以上をモデル計算だけで主張するのは危険です。
  • 散乱体: 稜線の手前に建物・鉄塔・送電線があれば、そこからの再放射が遮蔽を破ります。

結論として、地形遮蔽は「40405050 dB を稼ぐ強力な手段だが、それだけでは足りない」。残りは距離と制度で埋めることになります。

定式化その2: 電波静穏地域という制度的遮蔽

物理で稼げない分を法律で稼ぐ仕組みが**電波静穏地域(Radio Quiet Zone, RQZ)**です。これはITU電波規則の回で扱った国際的な周波数分配とは別レイヤーの、各国国内法・地方法によって特定の地理的領域内での電波発射を制限する制度です。周波数分配が「周波数軸上の縄張り」だとすれば、RQZは「地理空間上の縄張り」だと言えます。

代表的な例を挙げます。

  • 米国 NRQZ(National Radio Quiet Zone): 1958年に設定された、ウェストバージニア州・バージニア州にまたがる約 34,00034{,}000 km²(約13,000平方マイル)の区域。グリーンバンク電波天文台とシュガーグローブの受信施設を保護するためのもので、区域内に新設される送信局は事前調整と出力制限を課されます。天文台のごく近傍では、電子レンジやデジタルカメラのような意図しない放射源まで管理対象になります。
  • 豪州 ARQZWA(Australian Radio Quiet Zone Western Australia): マーチソン電波天文台(MRO、SKA-Lowのサイト)を中心とする、半径数十kmから 260260 km に及ぶ同心円状の保護区域。中心に近いほど厳しい規制がかかる階層構造になっています。
  • 南アフリカ: Astronomy Geographic Advantage Act に基づくカルー地域の保護区域(SKA-Midのサイト)。
  • 中国: FAST(500m球面電波望遠鏡)周辺の電波静穏区。

ここで正直に述べておくべき点があります。これらのRQZは主として電波天文業務(Radio Astronomy Service)の保護を目的とした制度であり、深宇宙研究業務のための専用RQZという枠組みは、少なくとも米豪においては同じ形では存在しません。 DSNの三局は、RQZ制度そのものではなく、土地の管理権という別の手段で同等の効果を得ています。

  • ゴールドストーンは米陸軍のフォート・アーウィン国立訓練センターという広大な軍用地の内部にあります。基地の敷地そのものが緩衝地帯として機能し、周囲数十kmに民生の送信設備が建てられません。
  • **キャンベラ(ティドビンビラ)**は、ナマジ国立公園に隣接する自然保護区域内に位置します。
  • **マドリード(ロブレド・デ・チャベラ)**は、マドリード市街から西へ約 6060 km、グアダラマ山系の地形に囲まれた場所にあります。

「軍用地」「国立公園」「山中」——いずれも、開発が法的・地理的に制限されており、結果として電波が静かなまま保たれる土地です。RQZという明示的制度がなくても、土地利用規制が事実上のRQZとして機能している、という構図です。サイト選定の実務では、電波環境の測定値だけでなく、**「その土地の周辺が今後20〜50年にわたって開発されない保証があるか」**という都市計画・法制度上の評価が同等の重みを持ちます。

定式化その3: RFI測定キャンペーンの統計設計

候補地が絞られたら、実際に機材を持ち込んで電波環境を測ります。このRFI測定キャンペーンは、数日で終わるものではなく、しばしば1年以上にわたる長期モニタリングになります。なぜそれほど時間が必要なのかを、統計の言葉で理解しましょう。

スペクトル占有率

最も基本的な指標が**占有率(spectrum occupancy)**です。ある周波数チャネル ff について、測定した電力 P(f,t)P(f,t) が閾値 PthP_{th} を超えている時間の割合を

O(f)=1T0T1 ⁣[P(f,t)>Pth]dtO(f) = \frac{1}{T}\int_0^T \mathbf{1}\!\left[P(f,t) > P_{th}\right] dt

と定義します(1[]\mathbf{1}[\cdot] は指示関数)。実際には離散サンプル NN 個で

O^(f)=1Nn=1N1 ⁣[P(f,tn)>Pth]\hat{O}(f) = \frac{1}{N}\sum_{n=1}^{N} \mathbf{1}\!\left[P(f,t_n) > P_{th}\right]

と推定します。この推定量は二項分布に従うので、標準誤差は

σO^=O(1O)N\sigma_{\hat O} = \sqrt{\frac{O(1-O)}{N}}

たとえば真の占有率 O=0.01O = 0.01(1%)を相対精度 10% で測りたければ σO^0.001\sigma_{\hat O} \le 0.001 が必要で、

NO(1O)σ2=0.01×0.991069900N \ge \frac{O(1-O)}{\sigma^2} = \frac{0.01 \times 0.99}{10^{-6}} \approx 9900

約1万サンプル。ただしサンプルが独立でなければこの式は使えません。干渉源が周期的な運用(たとえば毎日決まった時刻に動くレーダー)をしている場合、1分間隔で1万サンプル(約7日)取っても、実質的な独立標本数は「7日」程度でしかありません。測定期間は、干渉源の変動周期(日周・週周・年周)を何周期分カバーするかで決めるべきであり、これが「1年以上」という期間の根拠になります。

閾値 PthP_{th} の選び方も自明ではありません。受信系の雑音フロアより xx dB 上、という決め方が一般的ですが、xx を小さく取れば熱雑音のゆらぎで誤検出が増えます。分解能帯域幅 BresB_{res}、ビデオ帯域幅による平均化数 MM の下で、雑音電力推定のゆらぎは概ね σ4.34/M\sigma \approx 4.34/\sqrt{M} dB ですから、誤警報率を 10310^{-3} 程度に抑えるには x3σx \gtrsim 3\sigma が目安になります。この議論の背景は検出理論の回コグニティブ無線のスペクトルセンシングの回で扱った内容と同じ構造です。

間欠的・パルス的干渉の捕捉確率(POI)

深宇宙地上局にとって最も厄介なのは、まれにしか出ないが出たときは強烈な干渉です。航空管制レーダー、船舶レーダー、気象レーダーのパルス、あるいは近傍を通過する車両の点火ノイズ。これらは占有率としては 10410^{-4} 以下でも、たまたま重要な観測中に当たれば1回の観測を丸ごと失わせます。

問題は、掃引型のスペクトラムアナライザがこうした短いパルスを構造的に見落とすことです。掃引時間 TswT_{sw} で全スパンを掃く場合、ある特定の周波数を見ている時間は分解能帯域幅の割合だけ、すなわち TdwellTswBres/BspanT_{dwell} \approx T_{sw} \cdot B_{res}/B_{span} にすぎません。持続時間 τ\tau、繰り返し周期 TrepT_{rep} のパルス列が1掃引で捕捉される確率(POI: Probability of Intercept)は、おおよそ

PPOImin(1, TdwellTrep)(τTdwell の場合)P_{\text{POI}} \approx \min\left(1,\ \frac{T_{dwell}}{T_{rep}}\right) \quad (\tau \ll T_{dwell}\ \text{の場合})

数値例を挙げます。スパン Bspan=500B_{span} = 500 MHz、分解能帯域幅 Bres=100B_{res} = 100 kHz、掃引時間 Tsw=1T_{sw} = 1 s のとき

Tdwell=1s×1055×108=200 μsT_{dwell} = 1\,\mathrm{s} \times \frac{10^5}{5\times10^8} = 200\ \mu\mathrm{s}

繰り返し周期 Trep=1T_{rep} = 1 ms(PRF 1 kHz)のレーダーなら PPOI0.2P_{\text{POI}} \approx 0.2 で、掃引を数回繰り返せばまず捕まります。しかし Trep=10T_{rep} = 10 s に1回しか出ない散発的な干渉なら PPOI2×105P_{\text{POI}} \approx 2\times10^{-5}MM 回の掃引で1回以上捕捉する確率は

Pdetect(M)=1(1PPOI)MP_{\text{detect}}(M) = 1 - \left(1-P_{\text{POI}}\right)^{M}

なので、Pdetect0.99P_{\text{detect}} \ge 0.99 を得るには

Mln(10.99)ln(12×105)4.6052×1052.3×105M \ge \frac{\ln(1-0.99)}{\ln(1-2\times10^{-5})} \approx \frac{-4.605}{-2\times10^{-5}} \approx 2.3\times10^{5}

掃引 2323 万回、つまり 11 秒掃引なら約 6464 時間の連続測定が必要という計算になります。

この不利を覆すために、現代のRFI測定キャンペーンでは掃引型ではなく**リアルタイム・スペクトラムアナライザ(RTSA)**やFFTベースの広帯域デジタイザが使われます。RTSAはスパン全体を連続的にFFT処理するため、フレーム長より長いパルスは原理的に取りこぼしません。測定機器としての詳細はスペクトラムアナライザとRF試験の回を参照してください。加えて、生のIQデータを長時間記録しておけば、後から任意の閾値・任意の帯域で再解析できるという実務上の大きな利点があります。

方位別の到来方向推定

「干渉がある」だけでは対策が立ちません。どの方位から来ているかが分かって初めて、遮蔽壁を建てる、アンテナの運用禁止方位(keep-out zone)を設定する、干渉源の運用者と交渉する、といった対策に進めます。

実務でよく使われるのは、指向性アンテナ(ログペリオディックやホーン)を方位角 ϕ\phi について回転させ、受信電力 P(ϕ)P(\phi) のピークから到来方位を推定する方法です。方位分解能はアンテナの半値幅で決まり、口径 DD のアンテナなら

θ3dB70λD [deg]\theta_{3\mathrm{dB}} \approx \frac{70\lambda}{D}\ [\mathrm{deg}]

8.48.4 GHz(λ=0.0357\lambda=0.0357 m)で D=1D=1 m のホーンなら θ3dB2.5°\theta_{3dB} \approx 2.5°。より高精度が必要なら、地上局アンテナ自身を使った方位・仰角スキャン(RFIマップの作成)や、複数受信点の到来時間差(TDOA)による測位が用いられます。

こうして得られる成果物が RFI環境マップ——方位角・仰角・周波数・時刻の4次元空間における干渉電力の分布です。これはサイト選定の判断材料であると同時に、建設後の運用においても「この方位・この時間帯は観測に使えない」という運用制約(DSNスケジューリングの回で扱ったスケジューリング問題の入力)として使われ続けます。

定式化その4: 気象・地理条件との複合判断

RFIだけでサイトが決まるわけではありません。むしろ実際の選定では、互いに競合する複数の基準を同時に満たす場所を探すことになります。

水蒸気量 — Ka帯以上では支配的要因

Ka帯降雨減衰の回で扱ったように、周波数が上がるほど大気による減衰が効いてきます。降雨は間欠的ですが、大気中の水蒸気による吸収は晴天時でも常時存在する点が重要です。

天頂方向の大気減衰 AzA_z は、乾燥大気成分 AdryA_{dry} と水蒸気成分に分解でき、水蒸気成分は可降水量(PWV: Precipitable Water Vapour、大気柱の水蒸気を全部凝結させたときの水深、単位 mm) VV にほぼ比例します。

Az(f)Adry(f)+κ(f)VA_z(f) \approx A_{dry}(f) + \kappa(f)\, V

κ(f)\kappa(f)22.23522.235 GHz の水蒸気吸収線の裾で大きくなり、Ka帯 3232 GHz ではおおむね κ0.008\kappa \approx 0.008 dB/mm 程度のオーダーです(正確な値はITU-R P.676のライン・バイ・ライン計算で求めます)。

減衰は信号を弱めるだけでなく、大気自身が熱雑音を放射する点がさらに重要です。物理温度 TmT_m(275\approx 275 K)の吸収性媒質を通過した後のアンテナ雑音温度の増分は

ΔTsky=Tm(110Az/10)\Delta T_{sky} = T_m\left(1 - 10^{-A_z/10}\right)

数値で比較しましょう。乾燥した砂漠サイト(V=8V = 8 mm)と湿潤な沿岸サイト(V=30V = 30 mm)で、3232 GHz における水蒸気減衰は A=0.064A = 0.064 dB と 0.240.24 dB。雑音温度増分は

ΔTdry=275(1100.0064)=275×0.0146=4.0 K\Delta T_{\text{dry}} = 275\left(1-10^{-0.0064}\right) = 275 \times 0.0146 = 4.0\ \mathrm{K} ΔTwet=275(1100.024)=275×0.0537=14.8 K\Delta T_{\text{wet}} = 275\left(1-10^{-0.024}\right) = 275 \times 0.0537 = 14.8\ \mathrm{K}

差は約 1111 K。Tsys=25T_{sys} = 25 K の受信系にとって、これは 10log10(36/29)0.910\log_{10}(36/29) \approx 0.9 dB のG/T劣化に相当します。0.90.9 dB は、アンテナ口径を約 1111 % 拡大するのと同等の価値です。7070 m アンテナを 7878 m にする建設費を考えれば、乾燥地を選ぶことがいかに経済的かがわかります。しかも仰角 θ\theta が低いときは経路長が 1/sinθ1/\sin\theta 倍(平面平行大気近似)に伸びるため、低仰角運用ではこの差がさらに拡大します。

さらに水蒸気は空間的・時間的に激しく変動するため、大気による位相ゆらぎを通じて、VLBIドップラー計測による重力科学の精度も直接的に劣化させます。乾燥地選定の価値は、リンクバジェットだけにとどまりません。

高度と大気圧

標高を上げれば大気柱そのものが減るため、乾燥大気成分・水蒸気成分の両方が減ります。電波天文台やミリ波観測所が標高 4000400050005000 m の高地に建てられるのはこのためです。ただし深宇宙地上局の場合は事情が異なります。7070 m 級アンテナは数千トン規模の構造物であり、資材搬入・建設・恒常的な保守要員のアクセスが必須です。高標高地は建設費と保守性を著しく悪化させるため、DSN三局はいずれも標高 7007001,0001{,}000 m 級の、乾燥はしているが高すぎない土地に置かれています。**「大気は薄いほどよいが、人と重機が行けなければ話にならない」**という現実的な妥協です。

地盤 — 数千トンの構造物を支える

7070 m アンテナは可動部だけで数千トンの質量を持ち、その全体が方位軸まわりに回転します。DSSの 7070 m アンテナでは、この巨大質量を**静圧油軸受(hydrostatic bearing)**で浮かせて支えており、円形のランナー(軌道)の真円度・平面度をミリメートル以下で維持する必要があります。したがって基礎は

  • 不同沈下がほぼ起きない支持層(理想的には風化していない岩盤)に達していること
  • 地震時にも許容範囲を超える変形を起こさないこと
  • 地下水位が低く、季節変動による膨潤・収縮が小さいこと

を満たさねばなりません。加えて、アンテナの指向誤差バジェットで扱ったように、Ka帯運用では指向精度としてミリラジアン以下、しばしば数ミリ度が要求されます。基礎の傾きが 0.001°0.001° 変わるだけでも指向誤差予算の一角を食いつぶすため、地盤の安定性は電波環境と同格の選定基準です。同じ理由から、地表の風速統計(風によるアンテナの変形と指向誤差)や気温日較差(構造物の熱変形)も評価対象になります。

経度分散 — なぜ「3局」なのか

最後に、単一サイトでは決して満たせない要求があります。地球が自転する以上、ひとつの地上局からは探査機が一日の一部しか見えないということです。

地心緯度 φ\varphi の地上局から、赤緯 δ\delta の天体を仰角 εmin\varepsilon_{\min} 以上で見ることのできる時間は、時角 HH の範囲として

cosHmax=sinεminsinφsinδcosφcosδ\cos H_{\max} = \frac{\sin\varepsilon_{\min} - \sin\varphi\sin\delta}{\cos\varphi\cos\delta}

で与えられ、可視時間は tvis=2Hmax/ωEt_{vis} = 2H_{\max}/\omega_E(ωE=15°\omega_E = 15°/時)です。φ=35°\varphi = 35°δ=0°\delta = 0°εmin=10°\varepsilon_{\min}=10° の場合、cosHmax=sin10°/cos35°=0.1736/0.8192=0.212\cos H_{\max} = \sin 10°/\cos 35° = 0.1736/0.8192 = 0.212Hmax=77.8°H_{\max} = 77.8°、可視時間は 2×77.8/15=10.42\times 77.8/15 = 10.4 時間。

24時間の連続可視を得るには、可視窓が途切れなくつながるように地上局を経度方向に分散配置する必要があります。可視時間 10.410.4 時間の局を NN 局並べるとき、隙間なく覆うには経度間隔 Δλ\Delta\lambda

Δλ15°×tvis=15×10.4=156°\Delta\lambda \le 15° \times t_{vis} = 15 \times 10.4 = 156°

を満たせばよく、N=360/156=2.3N = 360/156 = 2.3、すなわち 3局あれば十分、2局では足りないことがわかります。実際のDSN三局の経度は

場所経度緯度
DSS-10番台ゴールドストーン(米カリフォルニア州モハベ砂漠)116.9°116.9°W35.4°35.4°N
DSS-50番台マドリード(スペイン・ロブレド・デ・チャベラ)4.2°4.2°W40.4°40.4°N
DSS-30番台キャンベラ(豪州・ティドビンビラ)149.0°149.0°E35.4°35.4°S

隣接局間の経度差はそれぞれ約 113°113°153°153°94°94°。名目上の 120°120° 等間隔からはずれていますが、いずれも 156°156° を下回っており、すべての探査機に対して24時間の可視性が確保され、しかも局間に重複時間が生じる——すなわちハンドオーバーの余裕と、アンテナアレイングΔ-DORのような複数局同時運用の機会が生まれます。緯度についても、北半球2局・南半球1局という配置により、黄道面上の広い赤緯範囲をカバーできるようになっています。

つまりDSN三局の立地は、「電波が静かで、乾燥していて、地盤が固く、しかも互いに 120°120° 前後離れている」土地の組み合わせという、極めて厳しい制約充足問題の解として選ばれたものです。三局それぞれが単独で最適なのではなく、三局の組み合わせとして最適化されている点が本質的です。

実務での使われ方

ゴールドストーン: 軍用地という制度的遮蔽

ゴールドストーン深宇宙通信施設は、カリフォルニア州モハベ砂漠、米陸軍フォート・アーウィン国立訓練センターの敷地内に位置します。1958年、パイオニア3号の追跡のために設置された初期の局を起点とし、以来 7070 m アンテナDSS-14(通称 “Mars”)をはじめとする複数のアンテナ群が展開されてきました。

この立地は、本稿で挙げた基準をほぼすべて満たしています。モハベ砂漠は北米で最も乾燥した地域のひとつであり、可降水量が小さくKa帯運用に適します。地盤は砂漠の安定した基盤岩。そして最も重要なのが軍用地であることです。フォート・アーウィンは面積 2,6002{,}600 km² を超える広大な演習場で、その内部および周辺に民生の送信設備を建てることは実質的に不可能です。前節で見た通り、深宇宙研究業務のための法的RQZは米国には存在しませんが、軍用地の境界がそれと同等の緩衝地帯として機能しているわけです。加えて周囲を山地に囲まれた盆地状の地形であり、遠方の都市(ロサンゼルス、ラスベガス)からの電波は地形遮蔽と距離減衰の両方で抑圧されます。

マドリードとキャンベラ: 山と国立公園

マドリード深宇宙通信施設は、マドリード市街の西約 6060 km、ロブレド・デ・チャベラの丘陵地帯にあります。首都圏に比較的近いという点では不利ですが、グアダラマ山系の地形が市街地方向からの電波を遮蔽しています。距離が近いことは保守要員のアクセスと電力・通信インフラの確保という点では利点であり、これもまたトレードオフです。

キャンベラ深宇宙通信施設(ティドビンビラ)は、キャンベラ市街の南西約 3535 km、ナマジ国立公園に隣接するティドビンビラ自然保護区の谷筋に位置します。国立公園・自然保護区という土地利用規制が、開発を長期的に抑制し、電波環境を保全するという構図は、ゴールドストーンの軍用地と機能的に同じです。ここでも周囲の丘陵が市街地方向を遮っています。

都市化によるRFI環境の経年悪化

サイト選定は建設時の一度きりの判断ですが、電波環境は数十年かけて悪化していきます。1960年代に選ばれた「何もない土地」の周囲に、その後の半世紀で道路が通り、住宅が建ち、携帯基地局が林立し、Wi-Fiが飽和し、そして近年は低軌道メガコンステレーションが空を埋めつつあります。ITU電波規則の回で触れた累積干渉(aggregate interference)の問題は、まさにこの経年悪化の最新形です。

地上局の運用者がとる対策は、おおむね次の階層に分けられます。

  1. 制度的対策: 周辺自治体の都市計画への関与、新規無線局免許への意見表明、周辺の土地取得。これは周波数調整の事例研究で扱った実務と地続きです。
  2. 物理的対策: 特定方位への遮蔽壁・遮蔽フェンスの建設、局舎のシールド強化。局内の機器が自ら出すノイズ(self-generated RFI)の管理も含まれ、これはEMC設計の回と同じ考え方です。
  3. RF回路的対策: 低雑音増幅器の前段に急峻な帯域通過フィルタを入れて帯域外の強い信号を落とす。ただし挿入損失が直接 TsysT_{sys} を悪化させるため(低雑音増幅器の回参照)、フィルタの追加は常に代償を伴います。
  4. 信号処理的対策: 干渉が存在する周波数チャネルをリアルタイムに検出して除外(RFIフラギング)、時間領域のパルス干渉のブランキング、適応的なヌル形成。
  5. 運用的対策: 干渉が強い方位・時間帯を避けたスケジューリング(DSNスケジューリング)、他局へのパス振り替え。

そして最も抜本的な対策が、より静かな周波数へ移行することです。Xバンドが混雑すればKa帯へ、Ka帯も逼迫すれば光通信へ。周波数を上げるほど地上の混雑から逃れやすく、かつ地形遮蔽も効きやすくなりますが、代わりに大気減衰・降雨・雲の影響が厳しくなり、サイト選定の主要基準がRFIから気象へと移っていく——これが今後数十年の地上局サイト選定の大きな流れです。

演習問題

  1. 地上局から 55 km の地点に、見通し線より 150150 m 高い尾根があり、その向こう 3030 km に干渉源があります。周波数 8.48.4 GHz について、第1フレネルゾーン半径 F1F_1、フレネルパラメータ vv、およびナイフエッジ回折損失 J(v)J(v) を計算してください。次に、同じ地形で 3232 GHz(Ka帯)の場合を計算し、周波数が JJ に与える影響を定量的に述べてください。またこの計算をそのまま設計値として採用してはいけない理由を、本文で挙げたモデルの限界のうち少なくとも2つを用いて説明してください。

  2. システム雑音温度 Tsys=25T_{sys}=25 K の受信系について、干渉によるシステム雑音温度の増分を 11% 以内に抑えるという基準を課します。帯域幅 B=2B = 2 MHz における許容干渉電力を dBW および dBm で求めてください。次に、EIRP =50= 50 dBm の干渉源が距離 3030 km、周波数 8.48.4 GHz にあり、地上局アンテナのサイドローブ利得が 5-5 dBi であるとき、この基準を満たすために必要な追加の抑圧量(地形遮蔽・帯域外輻射抑圧・フィルタリングの合計)を dB で求めてください。

  3. ある候補地で、繰り返し周期 Trep=5T_{rep} = 5 s、持続時間 τ=1\tau = 1 ms のパルス状干渉が存在すると疑われています。スパン 11 GHz、分解能帯域幅 300300 kHz、掃引時間 22 s の掃引型スペクトラムアナライザを用いる場合、(a) 1掃引あたりの捕捉確率 PPOIP_\text{POI}、(b) 捕捉確率 9999% を得るために必要な連続測定時間を求めてください。次に、リアルタイム・スペクトラムアナライザを用いれば必要な測定時間がどう変わるか、その理由とともに説明してください。

  4. 可降水量 V=6V = 6 mm の高地砂漠サイトと V=25V = 25 mm の温帯サイトを比較します。3232 GHz における水蒸気減衰係数を κ=0.008\kappa = 0.008 dB/mm、大気の平均放射温度を Tm=275T_m = 275 K、受信系の他の雑音寄与を 2222 K として、それぞれのサイトにおける天頂での総システム雑音温度とG/Tの差を求めてください。さらに、仰角 20°20° で運用する場合(平面平行大気近似で経路長が 1/sinε1/\sin\varepsilon 倍になるとする)に差がどう変化するかを計算し、低仰角運用がサイト選定に与える示唆を論じてください。

  5. 緯度 φ=35°\varphi = 35°、最低仰角 εmin=10°\varepsilon_{\min} = 10° の地上局3局で、赤緯 δ=0°\delta = 0° の探査機を24時間追跡することを考えます。本文の可視時間の式を用いて、(a) 経度を完全に 120°120° 等間隔にした場合の局間の重複可視時間、(b) 赤緯が δ=25°\delta = -25° の探査機に対して、緯度 35°35°N の局の可視時間がどう変わるかを求めてください。(b) の結果から、DSNが南半球に1局を置いていることの意義を論じてください。

まとめと次回予告

この回では、深宇宙地上局のサイト選定が、アンテナ口径や低雑音増幅器と同格の設計変数であることを見ました。探査機から届く 101910^{-19} W 級の信号を守るために許される干渉電力は 175-175 dBW/MHz 級であり、都市部の基地局が漏らすわずかな帯域外輻射に対してさえ 8080 dB 近い抑圧が必要になります。この抑圧は装置の性能では稼げず、距離・地形・制度の3つでしか稼げません。

地形による遮蔽はフレネルパラメータ v=h(2/λ)(1/d1+1/d2)v = h\sqrt{(2/\lambda)(1/d_1+1/d_2)} とナイフエッジ回折損失 J(v)12.9+20log10vJ(v) \approx 12.9 + 20\log_{10} v によって定量化でき、現実的には 40406060 dB が上限です。残りは、米国NRQZや豪州ARQZWAのような電波静穏地域、あるいはゴールドストーンの軍用地・キャンベラの自然保護区のような土地利用規制による事実上の緩衝地帯が担います。候補地では占有率統計とPOI(捕捉確率)を意識した長期のRFI測定キャンペーンが行われ、間欠的なパルス干渉を確実に捉えるためにリアルタイム解析が用いられます。そしてRFI以外にも、Ka帯以上では可降水量が 11 dB 級のG/T差を生み、数千トンのアンテナは安定した岩盤を要求し、24時間可視性は 156°156° 以内の経度間隔——すなわち3局体制——を要求します。DSN三局の立地は、これらすべての制約を同時に満たす解として選ばれたものです。

次回は、地上局から探査機側の設計へ視点を戻し、RF電力増幅器向けのDC-DC電源変換を扱います。進行波管増幅器固体電力増幅器が要求する高電圧・大電流を、探査機の限られた母線電力からどう作り出すか。スイッチング電源のトポロジ、変換効率が電力バジェットに与える影響、そして電源のスイッチングノイズが自機の受信系に回り込む問題——本稿で見た「干渉」の話が、今度は探査機の内部で再登場します。

参考文献

  • ITU-R Recommendation P.526, Propagation by diffraction
  • ITU-R Recommendation P.676, Attenuation by atmospheric gases and related effects
  • ITU-R Recommendation P.452, Prediction procedure for the evaluation of interference between stations on the surface of the Earth
  • ITU-R Recommendation SA.1157, Protection criteria for deep-space research
  • ITU-R Recommendation SM.1880, Spectrum occupancy measurement and evaluation
  • ITU-R Recommendation RA.769, Protection criteria used for radio astronomical measurements
  • ITU-R Report RA.2259, Characteristics of radio quiet zones
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • W. A. Imbriale, Large Antennas of the Deep Space Network, JPL Deep Space Communications and Navigation Series
  • J. D. Kraus, Radio Astronomy, 2nd ed.