システム・運用#194

ビーム導波管アンテナの光学系設計 — ガウシアンビームで鏡列を配置する

極低温冷却された低雑音受信機を、仰角とともに動く副鏡の裏ではなく、地下の静止した部屋に置きたい。DSNの34m BWGアンテナはそれを鏡列で実現する。ビームウエスト・レイリー長・ビーム半径の発展というガウシアンビーム光学の枠組みで、各ミラーの必要口径と配置則、そして代償としての雑音温度増加を定量的に設計する。

前提知識: DSN概論 — 3局体制が支える深宇宙通信システムの全体像パラボラアンテナの幾何設計 — 放物面反射鏡・カセグレン系・ビーム導波管

ビーム導波管ガウシアンビーム準光学DSN系雑音温度

この回で学ぶこと

パラボラアンテナの幾何設計の回で、ビーム導波管(Beam Waveguide, BWG)方式の存在そのものには触れました。カセグレン光学系で一度収束させたビームを、そこで受信機に渡さず、さらに数枚の鏡を経由させて構造物の内部を下方へ導き、地上の固定された部屋まで送り込む方式です。しかしあの回では「そういう方式がある」「保守性が上がる」という定性的な紹介にとどめ、では鏡を何枚、どこに、どれだけの大きさで置けばよいのかという設計の中身には立ち入りませんでした。

この回はその中身です。結論から言うと、BWGの光学系はパラボラの回で使った幾何光学(光線追跡)だけでは設計できません。鏡と鏡の間を伝わっているのは、直径わずか数mの有限な断面を持つマイクロ波ビームであり、波長 λ\lambda が数cm〜1cmという世界では回折が本質的に効いてくるからです。そこで登場するのが**ガウシアンビーム光学(準光学、quasi-optics)**という枠組みで、レーザー共振器の理論として発展したものが、そのままミリ波・マイクロ波の大型ビーム伝送系の設計言語として使われています。

この回で扱うのは次の4点です。

  1. なぜBWGが必要かという問題設定(受信機を動かしたくない、という機械・保守上の要求)
  2. ガウシアンビームの定式化: ビームウエスト w0w_0、レイリー長 zRz_R、ビーム半径の発展 w(z)w(z) から、各ミラーに必要な口径を決める
  3. ミラー系の配置則: 焦点条件、ウエストの再生成、非対称配置による交差偏波の発生と Mizuguchi–Dragone 条件
  4. BWGの代償: 鏡の枚数分の損失とスピルオーバーによる系雑音温度の増加、低周波側での破綻

直感的導入 — 液体ヘリウムを仰角軸の上に載せたくない

まず、なぜこんな凝った光学系が必要になるのかという問題設定を、はっきりさせておきましょう。

DSN概論で見た通り、地上局の性能はリンクバジェット中の G/TG/T に集約されます。分母の TsysT_{\text{sys}}(系雑音温度)を下げるために、深宇宙局では低雑音増幅器やメーザーを極低温まで冷却して使います。HEMT低雑音増幅器なら15 K程度、メーザーなら4.5 K程度という温度が必要で、これを実現するには極低温冷却系——ギフォード・マクマホン(GM)冷凍機やジュール・トムソン段、あるいは液体ヘリウムのデュワー、それらを駆動するヘリウム圧縮機と配管一式——が不可欠です。

ここで問題になるのが、この冷却設備の物理的な重さと保守の頻度です。圧縮機を含めた一式は数百kgから1トン規模になり、しかも定期的な保守(吸着材の交換、真空引き、冷凍機のオーバーホール)が必要です。

標準的なカセグレン給電では、受信機は主反射鏡の頂点裏側、副反射鏡から折り返されたビームが集まる第2焦点 F2F_2 に置かれます。この位置は主反射鏡と一体の構造物なので、アンテナが仰角を変えれば一緒に傾きます。天頂を向いているときと地平線を向いているときとで、重力の向きが受信機に対して90度変わるわけです。すると、

  • デュワー内の液体ヘリウムの液面が傾く、冷凍機の内部機構に姿勢依存の負荷がかかる
  • ヘリウム配管や電源ケーブルが、仰角運動のたびに曲げられる(疲労破壊のリスク)
  • 保守のたびに、地上数十mの高所にある反射鏡裏まで機材と人員を上げる必要がある
  • 複数の周波数帯(S/X/Ka)の受信機を同時に載せようとすると、そのぶん質量が増え、アンテナ構造の駆動系にも効いてくる

という具合に、機械的にも運用的にも厳しくなります。

BWGの発想は、この問題を制御やフィードバックで解決しようとするのではなく、電波の側を動かして受信機を静止させるというものです。F2F_2 に受信機を置く代わりに、そこに鏡を置いてビームをさらに折り返し、仰角軸に沿って、次いで方位角軸(=アンテナの回転中心軸、鉛直方向)に沿って下方へ導きます。方位角軸はアンテナがどちらを向いても空間に対して不動なので、その軸に沿ってビームを落としてやれば、地面レベルのペデスタル室(pedestal room)——温度管理された、揺れも傾きもしない部屋——にビームを届けることができます。受信機と冷却系は全部そこに据え置きです。

「電波を配管で運ぶ」という発想なら導波管がありますが、数十mの長さにわたって金属導波管で伝送すると、壁面の抵抗損失が無視できない大きさになり(そしてその損失はそのまま雑音温度になります)、せっかくの極低温受信機の意味がなくなります。そこで空間を伝わるビームのまま、鏡だけで導くのがBWGです。鏡の反射損失は導波管の壁面損失よりはるかに小さく、しかも複数周波数帯を同じ経路で通せます。

ガウシアンビームによる定式化

なぜ幾何光学では足りないのか

鏡でビームを導く、と言葉で言うのは簡単ですが、設計するには「ビームはどれくらいの太さで、どこまで細くできるのか」を定量的に知る必要があります。

幾何光学の答えは「焦点では1点に集まる」です。しかしこれは λ0\lambda \to 0 の極限での話であって、実際には回折によって焦点は有限の広がりを持ちます。X帯(f=8.42f=8.42 GHz, λ=3.56\lambda=3.56 cm)やKa帯(f=32f=32 GHz, λ=0.94\lambda=0.94 cm)では、この広がりは数十cm〜1mのオーダーになり、鏡の寸法(数m)と同じ桁です。つまり回折が主役であり、光線追跡だけで鏡の大きさを決めることはできません。

そこで、自由空間の波動方程式(ヘルムホルツ方程式)を、軸 zz 方向に強く指向した波に対して近似的に解いた**近軸波動方程式(paraxial wave equation)**の基本解を使います。その最低次の解が基本ガウシアンモード(TEM00_{00})です。

E(r,z)=E0w0w(z)exp ⁣[r2w(z)2]exp ⁣[jkzjkr22R(z)+jζ(z)]E(r,z) = E_0\,\frac{w_0}{w(z)}\exp\!\left[-\frac{r^2}{w(z)^2}\right]\exp\!\left[-jkz - j\frac{k r^2}{2R(z)} + j\zeta(z)\right]

ここで rr は軸からの半径方向距離、k=2π/λk=2\pi/\lambda です。この式には4つの重要な量が含まれています。

  • w(z)w(z): ビーム半径。振幅が軸上の 1/e1/e に落ちる半径(電力密度なら 1/e21/e^2)
  • R(z)R(z): 波面の曲率半径
  • ζ(z)\zeta(z): Gouy位相(平面波からの位相の遅れ)
  • w0w_0: ビームウエストw(z)w(z) が最小となる位置(z=0z=0 と取る)での値

レイリー長とビームの発展

この解を波動方程式に代入して整合させると、各量は次のように決まります。まず特徴的な長さとしてレイリー長(Rayleigh range、共焦点パラメータの半分)

  zR=πw02λ  \boxed{\;z_R = \frac{\pi w_0^2}{\lambda}\;}

が現れ、これを使ってビーム半径は

  w(z)=w01+(zzR)2  \boxed{\;w(z) = w_0\sqrt{1+\left(\frac{z}{z_R}\right)^{2}}\;}

波面曲率半径とGouy位相は

R(z)=z[1+(zRz)2],ζ(z)=arctanzzRR(z) = z\left[1+\left(\frac{z_R}{z}\right)^2\right],\qquad \zeta(z)=\arctan\frac{z}{z_R}

と書けます。この3本が、BWG設計のすべての土台になります。読み方は次の通りです。

zzR|z|\ll z_R(近傍場): w(z)w0w(z)\approx w_0 で、ビームはほとんど太らず、R(z)R(z)\to\infty すなわち波面は平面に近い。ウエストの近くではビームは平行光線束のように振る舞います。

zzR|z|\gg z_R(遠方場): w(z)w0z/zR=λz/(πw0)w(z)\approx w_0 z/z_R = \lambda z/(\pi w_0) となり、ビームは半頂角

θ0=limzw(z)z=λπw0\theta_0 = \lim_{z\to\infty}\frac{w(z)}{z} = \frac{\lambda}{\pi w_0}

の円錐状に直線的に広がります。また R(z)zR(z)\approx z となり、波面はウエストを中心とする球面に漸近します。つまり遠方場では幾何光学的な「点光源からの発散」として振る舞い、その点光源の位置がウエストです。

zRz_R は「ビームがほぼ平行と見なせる距離」を表しており、w(zR)=2w0w(z_R)=\sqrt{2}\,w_0 です。ここで決定的に重要なのは、θ0=λ/(πw0)\theta_0 = \lambda/(\pi w_0) という発散角とウエスト半径の反比例関係です。ビームを細く絞る(w0w_0 を小さくする)ほど速く広がり、遠くまで細いまま届けたければウエストを太く取らねばならない。これは開口アンテナのビーム幅 θ3dB70λ/D\theta_{3\text{dB}}\approx 70\lambda/D とまったく同じ、開口と回折の不確定性関係です。BWG設計とは、この制約の下で「鏡から鏡までの距離を、許される鏡の大きさで渡りきる」というパズルを解くことにほかなりません。

エッジテーパと切断損失 — 鏡の必要口径

では鏡はどれだけ大きくすればよいのでしょうか。半径 aa の円形ミラーにガウシアンビームが当たったとき、ミラーの外側にはみ出す(=切断される)電力の割合を計算します。電力密度は E2exp(2r2/w2)|E|^2\propto\exp(-2r^2/w^2) なので、

P(r>a)Ptotal=ae2r2/w2rdr0e2r2/w2rdr=exp ⁣(2a2w2)\frac{P(r>a)}{P_{\text{total}}} =\frac{\displaystyle\int_a^{\infty}e^{-2r^2/w^2}\,r\,dr}{\displaystyle\int_0^{\infty}e^{-2r^2/w^2}\,r\,dr} =\exp\!\left(-\frac{2a^2}{w^2}\right)

積分は u=r2u=r^2 の置換で初等的に実行できます。この量はミラー縁での電力密度が軸上に対して何分の1になっているか、すなわちパラボラの回で扱ったエッジテーパそのものであり、デシベルでは

Te [dB]=10log10exp ⁣(2a2w2)=20ln10(aw)28.686(aw)2T_e\ [\text{dB}] = -10\log_{10}\exp\!\left(-\frac{2a^2}{w^2}\right) = \frac{20}{\ln 10}\left(\frac{a}{w}\right)^2 \approx 8.686\left(\frac{a}{w}\right)^2

となります。具体的な値を並べると、

a/wa/wエッジテーパ切断される電力
1.08.7-8.7 dB13.5 %
1.519.5-19.5 dB1.1 %
2.034.7-34.7 dB3.4×1043.4\times10^{-4}
3.078.2-78.2 dB1.5×1081.5\times10^{-8}
4.0139-139 dB1014\sim10^{-14}

一見すると a=2wa=2w でも十分すぎるように見えます。実際、スピルオーバー電力そのものは 3.4×1043.4\times10^{-4} にすぎず、それが仮に全部 290 K の地面を見込んだとしても雑音温度への寄与は 0.10.1 K程度です。にもかかわらず、DSNのBWG設計では慣習的に

ミラー直径4×ビーム直径すなわちa4w\text{ミラー直径} \gtrsim 4\times\text{ビーム直径}\qquad\text{すなわち}\qquad a \gtrsim 4w

という、はるかに保守的な基準(Mizusawaの基準として知られる、周波数依存性を抑えるための設計則の1つ)が使われます。理由はスピルオーバーの電力量そのものではなく、ビームを切ると基本ガウシアンモードが壊れることにあります。開口で切断された場は、もはや純粋なTEM00_{00}ではなく高次モードの混合になり、それが下流の伝搬とともに振幅・位相のリップルとして現れます。BWGは鏡を5枚も6枚も通す縦続系なので、各段での小さなモード変換が積み重なり、最終段のフィードホーン(HE11_{11}モードのコルゲートホーン)との結合効率をじわじわ削っていきます。0.01-0.01 dBを積み上げないための設計マージンだ、と理解するのが正しいでしょう。

最適ウエスト — 2枚の鏡の間を最小のビーム径で渡る

ここまでの道具立てで、BWG設計の中核となる最適化問題を1つ解いてみましょう。距離 LL だけ離れた2枚のミラーの間をビームで渡すとき、両ミラー上でのビーム半径を最小にするには、ウエストをどこに、どれだけの太さで置けばよいか。

対称性からウエストは中点に置くのが最適です(z=±L/2z=\pm L/2ww が等しくなる)。このときミラー上のビーム半径は

w(L2)2=w02[1+(L/2zR)2]=w02+(L/2)2w02(πw02/λ)2=w02+λ2L24π2w02w\left(\frac{L}{2}\right)^2 = w_0^2\left[1+\left(\frac{L/2}{z_R}\right)^2\right] = w_0^2 + \frac{(L/2)^2 w_0^2}{(\pi w_0^2/\lambda)^2} = w_0^2 + \frac{\lambda^2 L^2}{4\pi^2 w_0^2}

第1項は w0w_0 とともに増え、第2項は減るので、最小値が存在します。x=w02x=w_0^2 とおいて微分すると

ddx(x+λ2L24π2x)=1λ2L24π2x2=0x=w02=λL2π\frac{d}{dx}\left(x+\frac{\lambda^2L^2}{4\pi^2 x}\right)=1-\frac{\lambda^2L^2}{4\pi^2x^2}=0 \quad\Longrightarrow\quad x = w_0^2 = \frac{\lambda L}{2\pi}

すなわち

  w0opt=λL2π,w ⁣(L2)=2w0opt=λLπ  \boxed{\;w_0^{\text{opt}}=\sqrt{\frac{\lambda L}{2\pi}},\qquad w\!\left(\frac{L}{2}\right)=\sqrt{2}\,w_0^{\text{opt}}=\sqrt{\frac{\lambda L}{\pi}}\;}

この最適解には美しい幾何学的意味があります。w02=λL/(2π)w_0^2=\lambda L/(2\pi) をレイリー長の定義に入れると

zR=πw02λ=L2z_R = \frac{\pi w_0^2}{\lambda} = \frac{L}{2}

つまりミラー間距離がちょうどレイリー長の2倍になっています。これはレーザー共振器でいう共焦点(confocal)配置そのもので、ミラー上での波面曲率半径も

R ⁣(L2)=L2[1+(L/2L/2)2]=LR\!\left(\frac{L}{2}\right)=\frac{L}{2}\left[1+\left(\frac{L/2}{L/2}\right)^2\right]=L

となり、曲率半径 LL の球面鏡(焦点距離 f=L/2f=L/2)を置けば波面にぴったり合う、という整合が取れます。BWGの曲面鏡がしばしば「ミラー間距離のおよそ半分の焦点距離」で設計されるのは、この共焦点配置に由来します。

数値例(X帯): ミラー間距離 L=12L=12 m、λ=3.56\lambda=3.56 cm(8.42 GHz)とすると、

w0opt=0.0356×122π=0.0680=0.261 m,w ⁣(L2)=2×0.261=0.369 mw_0^{\text{opt}}=\sqrt{\frac{0.0356\times12}{2\pi}}=\sqrt{0.0680}=0.261\ \text{m},\qquad w\!\left(\frac{L}{2}\right)=\sqrt{2}\times0.261=0.369\ \text{m}

a4wa\ge 4w の基準を当てはめると、ミラー半径は 1.471.47 m、直径にして約 3.03.0 m が必要ということになります。DSNの34m BWGアンテナのミラーが数m級の大きさである理由が、ここから直接説明できます。

ミラー系の配置則

曲面鏡による結像 — ガウシアンビームのレンズ公式

実際のBWGは2枚では済まず、仰角軸・方位角軸を曲がりながら下りていくため、平面鏡と曲面鏡を組み合わせた縦続系になります。曲面鏡(焦点距離 ff、曲率半径 Rm=2fR_m=2f の楕円面鏡や放物面鏡)がガウシアンビームに何をするかを押さえておきましょう。

薄レンズ近似では、鏡は波面の曲率だけを変え(1/Rout=1/Rin1/f1/R_{\text{out}}=1/R_{\text{in}}-1/f)、ビーム半径 ww はその場で変えません。この条件から、入射側ウエストが鏡の手前 d1d_1 にあるとき、出射側ウエストの位置 d2d_2 と半径 w0w_0'

d2f=(d1f)f2(d1f)2+zR2,w0=fw0(d1f)2+zR2d_2 - f = \frac{(d_1-f)f^2}{(d_1-f)^2+z_R^2},\qquad w_0' = \frac{f\,w_0}{\sqrt{(d_1-f)^2+z_R^2}}

と求まります。zR0z_R\to0(λ0\lambda\to0、幾何光学極限)ではこれは

1d1+1d2=1f\frac{1}{d_1}+\frac{1}{d_2}=\frac{1}{f}

という見慣れたレンズの結像公式に帰着します。逆に言えば、zRz_R が無視できないほど大きいとき、ガウシアンビームの「焦点」は幾何光学が予言する位置からずれる。BWG設計の第一歩は、この補正項 zR2z_R^2 を明示的に扱って各鏡の焦点距離と間隔を決めることです。

特徴的な2つの配置を挙げておきます。

  • d1=fd_1=f(前側焦点にウエスト): このとき d2=fd_2=f となり、後側焦点に新しいウエストができます。その半径は w0=fλ/(πw0)w_0'=f\lambda/(\pi w_0)。入出力ウエストが反比例するこの配置は、フーリエ変換的な関係にあり、波長に依存する(倍率が λ\lambda を含む)のが難点です。広帯域・多周波共用のBWGでは避けたい性質です。
  • d1=d2=2fd_1=d_2=2f 付近(1:1結像): 幾何光学極限では倍率1でウエストをそのまま写します。倍率が λ\lambda を含まないため、周波数によらず同じ振る舞いをさせやすく、S/X/Ka共用のBWGではこの近傍に設計点を置きます。前節の共焦点配置とあわせ、「各区間でウエストを再生成し、周波数依存性を最小化する」というのがBWG配置則の骨格です。

非対称配置と交差偏波 — Mizuguchi–Dragone条件

BWGは本質的にビームを曲げる光学系です。ビームを鉛直に落とすためには、どこかで45度前後の折り返しが必要で、鏡は軸対称にはなりません。この非対称性が、偏波の観点で厄介な副作用を生みます。

平面鏡でも曲面鏡でも、斜め入射では入射面内の成分(p偏波)と垂直な成分(s偏波)で反射の振る舞いがわずかに異なり、また曲面鏡では鏡面上の位置ごとに入射面の向きが変わります。その結果、入射時には純粋な直線偏波(あるいは円偏波)だった場に、本来の偏波と直交する成分——交差偏波(cross polarization)——が生じます。深宇宙局では左右円偏波を独立チャネルとして使うことがあり、交差偏波は直接的にチャネル間干渉になります。また偏波純度の劣化は開口効率の一項(ηx\eta_x)としても効きます。

重要な事実は、オフセット2枚鏡系では、幾何条件を適切に選ぶと、2枚目の鏡が生む交差偏波が1枚目の生む交差偏波をちょうど打ち消すということです。この条件は水口(Mizuguchi)とDragoneがそれぞれ独立に導いたため、Mizuguchi–Dragone条件と呼ばれます。オフセットカセグレン系では、副反射鏡の倍率 M=(e+1)/(e1)M=(e+1)/(e-1)、主鏡軸と副鏡軸のなす角 α\alpha、フィード軸の傾き β\beta に対して、

tanα2=Mtanβ2\tan\frac{\alpha}{2} = M\,\tan\frac{\beta}{2}

という形で表されます(角度の定義は文献によって異なるので、実際に使う際は必ず出典の定義図を確認してください)。BWGの折り返し鏡列でも同じ考え方が使われ、隣り合う曲面鏡のオフセット面(ビームを曲げる面)を互いに直交させる、あるいは折り返し角を条件を満たすように選ぶことで、系全体としての交差偏波を打ち消す設計が取られます。この回で扱う内容としては、「非対称光学系は必ず交差偏波を生むが、それは打ち消し合うように配置できる」という設計思想と条件の名前を押さえておけば十分です。

BWGの代償 — 系雑音温度と低周波側の破綻

BWGは無料ではありません。カセグレン直接給電に比べて何を失うのかを定量化しておきましょう。

損失は雑音温度になる

G/Tの回で扱った通り、受信系の低雑音増幅器の前段にある損失は、そのまま雑音温度の上乗せになります。物理温度 TpT_p の損失要素(損失倍率 L1L\ge1、すなわち透過率 1/L1/L)が入力換算で付加する雑音温度は

Tadd=(L1)TpT_{\text{add}} = (L-1)\,T_p

です。BWGの鏡列は、金属反射鏡なので抵抗損失自体は小さい(1枚あたり0.005〜0.02 dB程度)のですが、6枚通れば積み上がりますし、そこにビーム導波管シュラウド内での散乱、周波数分離用のダイクロイックプレート(X帯を反射しKa帯を透過させる、といった周波数選択板)の損失、そして各鏡でのスピルオーバーが加わります。

仮にBWG全体で 0.050.05 dBの損失があり、鏡や構造の物理温度が Tp=290T_p=290 K だとすると、

L=100.05/10=1.0116,Tadd=(1.01161)×2903.4 KL = 10^{0.05/10}=1.0116,\qquad T_{\text{add}}=(1.0116-1)\times290 \approx 3.4\ \text{K}

X帯の系雑音温度が20 K程度であることを思えば、3344 Kの上乗せは G/TG/T にして 0.70.7 dB前後の劣化に相当し、決して無視できません。DSNで34m HEF(High Efficiency)アンテナが長く併存してきたのは、まさにこの理由です。HEFは受信機を反射鏡裏の焦点に直接置くため鏡列の損失がなく、開口効率と雑音温度の点でBWGより有利でした。それでもDSNが主力をBWGに移したのは、複数周波数帯の同時運用・大型冷却系の設置・保守性という運用上の利得が、数Kの雑音温度を上回ると判断されたからです。

低周波側でビームが太りすぎる

もう1つの代償は、低い周波数ほどBWGが苦しくなることです。前節の最適ウエストの式

w ⁣(L2)=λLπw\!\left(\frac{L}{2}\right)=\sqrt{\frac{\lambda L}{\pi}}

を見れば明らかで、ミラー上のビーム半径は λ\sqrt{\lambda} に比例します。同じ L=12L=12 m の区間で、

  • Ka帯(λ=0.94\lambda=0.94 cm): w=0.0094×12/π=0.189w=\sqrt{0.0094\times12/\pi}=0.189 m → 4w=0.764w=0.76 m
  • X帯(λ=3.56\lambda=3.56 cm): w=0.369w=0.369 m → 4w=1.474w=1.47 m
  • S帯(λ=13.0\lambda=13.0 cm): w=0.130×12/π=0.705w=\sqrt{0.130\times12/\pi}=0.705 m → 4w=2.824w=2.82 m

となり、S帯では a4wa\ge4w を満たすのに直径 5.65.6 m のミラーが要ります。実際のDSN BWGミラーは3 m級なので、S帯では a/w2.1a/w\approx 2.1 程度、つまり基準を満たせず、モード変換とリップルによる効率劣化を受け入れることになります。BWGアンテナはX帯・Ka帯という高い周波数帯でこそ本領を発揮し、S帯では相対的に不利という周波数依存の性格は、この λ\sqrt{\lambda} 則から直接来ています。DSNのBWGアンテナ群がX/Ka中心で運用され、S帯の深宇宙運用が70mアンテナやHEFに寄っていた歴史的経緯には、こうした物理的背景があります。

実務での使われ方

DSNの34m BWGアンテナ

DSNにおけるBWGの実用化は、ゴールドストーンのDSS-13(研究開発用34mアンテナ、1990年代初頭に運用開始)で実証されました。ここでガウシアンビーム解析に基づく鏡列設計と性能検証が行われ、その成果が運用アンテナ群に展開されます。現在のDSNの主力である34m BWGアンテナ群は、

  • ゴールドストーン(米国): DSS-24, DSS-25, DSS-26(および DSS-13, DSS-23)
  • キャンベラ(豪州): DSS-34, DSS-35, DSS-36
  • マドリード(スペイン): DSS-54, DSS-55, DSS-56

という構成で、DSN概論で触れた3局体制の中核を担っています。

光学系の典型的な構成は次の通りです。34mの主反射鏡(公称 f/D0.33f/D\approx0.33)とカセグレン副反射鏡で集めたビームは、主反射鏡頂点の開口を通って裏側へ抜け、そこから平面鏡4枚+曲面鏡2枚、計6枚程度の鏡列(設計により枚数は異なります)を経由します。ビームはまず仰角軸に沿って曲げられ、次に方位角軸(鉛直軸)に沿って、直径2〜3 m級のシュラウド(ビーム導波管管)の中を約20 m下方へ落ちて、地下のペデスタル室に到達します。曲面鏡は前節の共焦点配置・1:1結像の考え方に沿って配置され、各区間でウエストを再生成しながら、周波数依存性を最小化するように設計されています。

ペデスタル室では、回転可能な平面鏡や周波数選択性のダイクロイックプレートによって、ビームを複数のフィード系統に振り分けます。X帯用のコルゲートホーンとHEMT/メーザー、Ka帯用のホーンと受信機などが円周上に並び、鏡の切り替えだけで周波数帯を変更できます。極低温冷凍機とヘリウム圧縮機は床に据え置きで、配管は一切曲げ伸ばしされません。

X帯/Ka帯共用とDSS-25

BWGの真価が発揮された例として、ゴールドストーンのDSS-25が挙げられます。この局はKa帯(32 GHz)の高性能運用に特化した整備が行われ、カッシーニ探査機によるKa帯の電波科学実験(重力波探索、太陽コロナ観測、一般相対論の検証に関わる電波掩蔽・ドップラー計測)において中心的な役割を果たしました。Ka帯はX帯に比べ波長が約1/3.8であり、アンテナ利得の式 G=η(πD/λ)2G=\eta(\pi D/\lambda)^2 からは同一口径で約 11.611.6 dBの利得増が期待できる一方、Ruzeの式による表面精度要求と、降雨・大気減衰の厳しさという代償を伴います。前節で見た通り、BWGのミラー必要口径は λ\sqrt{\lambda} に比例するので、Ka帯はBWGにとって最も相性の良い周波数帯でもあります。

系雑音温度の実測オーダーとしては、34m BWGアンテナの天頂方向で、X帯がおよそ 2020 K前後、Ka帯がおよそ 30304040 K程度というのが典型値です(冷却状態、大気条件、ダイクロイック板の有無、ダイプレクサを介するか低雑音経路かによって数K単位で変動します)。Ka帯の値が高いのは、大気(特に水蒸気)の輝度温度寄与が周波数とともに増大するためで、これは大気減衰の議論と表裏一体です。仰角が下がれば大気の見通し厚さ(エアマス)が増えるので、いずれの帯域でも系雑音温度は仰角の低下とともに上昇します。

電波天文・他機関での採用

BWG方式はDSNの専売ではありません。準光学的なビーム伝送という考え方は、大型電波望遠鏡やミリ波望遠鏡でも広く使われています。JAXAの臼田64mアンテナ、ESAのESTRACK深宇宙局(New Norcia、Cebreros、Malargüe の35mアンテナ群)なども、極低温フロントエンドを安定した環境に置くための光学的な工夫を取り入れており、国際クロスサポートにおける相互運用性の基盤になっています。ガウシアンビーム光学は、こうした「大型で、多周波で、極低温フロントエンドを持つ」受信系に共通する設計言語です。

演習問題

  1. Ka帯(f=32f=32 GHz、λ=0.94\lambda=0.94 cm)で、ミラー間距離 L=10L=10 m の区間を渡すとする。最適ウエスト半径 w0opt=λL/(2π)w_0^{\text{opt}}=\sqrt{\lambda L/(2\pi)} と、ミラー上でのビーム半径 w(L/2)w(L/2) を求めよ。さらに a4wa\ge 4w の基準を満たすのに必要なミラー直径を求め、同じ区間をX帯(λ=3.56\lambda=3.56 cm)で使う場合の必要直径と比較せよ。両者の比が λX/λKa\sqrt{\lambda_X/\lambda_{Ka}} に一致することを確認せよ。

  2. 半径 a=1.2a=1.2 m のミラーに、その位置でのビーム半径が w=0.5w=0.5 m のガウシアンビームが入射している。(a) エッジテーパをdBで求めよ。(b) 切断される電力の割合を求めよ。(c) その全電力が物理温度 290 K の地面を見込むと仮定したとき、系雑音温度への寄与は何Kか。Tadd=(spillover fraction)×TpT_{\text{add}}=(\text{spillover fraction})\times T_p として概算せよ。

  3. BWGの鏡列全体の損失が 0.080.08 dB、物理温度が 280280 K であるとする。Tadd=(L1)TpT_{\text{add}}=(L-1)T_p を用いて付加雑音温度を求めよ。もとの系雑音温度が 1818 K であったとして、BWG化後の G/TG/T の劣化量をdBで求めよ(アンテナ利得 GG は損失分だけ低下することも考慮すること)。

  4. ウエストが曲面鏡の前側焦点にある(d1=fd_1=f)配置では、出射ウエスト半径が w0=fλ/(πw0)w_0'=f\lambda/(\pi w_0) となり波長に比例する。この配置がS/X/Ka共用のBWGにとって不都合である理由を、各周波数帯のビームが下流のミラーでどう振る舞うかという観点から説明せよ。また d1=d2=2fd_1=d_2=2f の1:1結像配置がなぜ好まれるのかを述べよ。

  5. 深宇宙局の受信機を「動かない部屋」に置くという要求は、BWG以外の方法(たとえば長い導波管で伝送する、あるいは焦点位置でいったん光ファイバ伝送に変換する)でも原理的には満たせる。それでもDSNがミラー列によるBWGを選んだ理由を、損失と雑音温度の関係 Tadd=(L1)TpT_{\text{add}}=(L-1)T_p、および多周波共用という要求の両面から論じよ。

まとめと次回予告

BWGアンテナは、「極低温フロントエンドを仰角とともに動かしたくない」という機械・保守上の要求に対して、制御ではなく光学で答えた設計です。その設計言語がガウシアンビーム光学で、ビームウエスト w0w_0、レイリー長 zR=πw02/λz_R=\pi w_0^2/\lambda、ビーム半径の発展 w(z)=w01+(z/zR)2w(z)=w_0\sqrt{1+(z/z_R)^2} という3つの量から、各ミラーの必要口径(a4wa\gtrsim4w)、最適なウエスト位置と大きさ(w0opt=λL/2πw_0^{\text{opt}}=\sqrt{\lambda L/2\pi}、共焦点配置 zR=L/2z_R=L/2)、そして鏡の焦点距離が一貫して決まることを見ました。ビームを曲げる非対称光学系が必然的に生む交差偏波は、Mizuguchi–Dragone条件を満たす配置によって打ち消せます。

一方で代償もはっきりしています。鏡列の損失は Tadd=(L1)TpT_{\text{add}}=(L-1)T_p を通じて数Kの雑音温度増加となり、G/TG/T を1 dB近く削ることがあります。またミラー上のビーム半径が λ\sqrt{\lambda} に比例するため、低い周波数帯ほどミラーが足りなくなる——BWGはX帯・Ka帯でこそ生きる方式です。DSNが34m BWGを主力に据えたのは、この数Kと引き換えに、大型冷却系の据え置き・複数周波数帯の柔軟な切り替え・地上レベルでの保守という運用上の価値を取った、というシステム工学的な判断の結果でした。

次回は、アンテナそのものからいったん視野を広げ、アンテナサイト選定とRFI環境評価を扱います。どれだけ精緻な光学系と極低温受信機を用意しても、その局が置かれた土地の周囲に強力な電波源があれば台無しです。地形による遮蔽と仰角マスク、大気の水蒸気量と標高、そして近傍の人工電波(RFI: Radio Frequency Interference)をどう調査・評価し、局の立地をどう決めるのかを見ていきます。

参考文献

  • W. A. Imbriale, Large Antennas of the Deep Space Network, JPL Publication 02-6, Wiley
  • P. F. Goldsmith, Quasioptical Systems: Gaussian Beam Quasioptical Propagation and Applications, IEEE Press
  • W. Veruttipong, J. R. Withington, V. Galindo-Israel, W. A. Imbriale, D. Bathker, “Design Considerations for Beam-Waveguide in the NASA Deep Space Network,” IEEE Transactions on Antennas and Propagation, 1988
  • M. Mizusawa, T. Kitsuregawa, “A Beam-Waveguide Feed Having a Symmetric Beam for Cassegrain Antennas,” IEEE Transactions on Antennas and Propagation, 1973
  • C. Dragone, “Offset Multireflector Antennas with Perfect Pattern Symmetry and Polarization Discrimination,” Bell System Technical Journal, 1978
  • 水口 稔, “オフセットカセグレンアンテナの交差偏波特性に関する研究”, 電子通信学会論文誌, 1976
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005(34m BWG局のアンテナ性能・系雑音温度モジュール)
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76