システム・運用#154

周波数国際調整の実例研究 — 新しいミッションはどうやって干渉なく電波を出せるようになるのか

ITU電波規則が『誰が使ってよいか』という制度的な枠組みを定めていることは前回学んだ。では実際に新しいミッションが周波数を確保する現場では、どんな数式が回っているのか。干渉電力の計算からC/I比・ΔT/T基準、空間分離とガードバンドという2つの干渉回避戦略、そして調整プロセスの現実的なタイムラインまでを、実務寄りに掘り下げる。

前提知識: 周波数分配とITU電波規則 — 誰が『Xバンドは深宇宙専用』と決めているのか

周波数調整干渉評価リンクバジェットSFCGガードバンド

この回で学ぶこと

前回、私たちはITU電波規則が周波数分配表という形で「どの帯域を、どの無線業務が、どの優先順位で使ってよいか」を国際条約として定めていること、そして深宇宙研究業務がXバンド8400–8450 MHz帯やKa帯31800–32300 MHz帯のような専用帯域で手厚く保護されていることを見ました。また、新しいミッションが周波数を確保するまでの大まかな4段階の手続き(事前通知・干渉調整・登録・継続調整)にも触れました。

しかし、あの回で立ち止まらずに済ませてしまった問いがあります。「干渉調整」という段階で、実際には何を計算しているのか。「このミッションはこの周波数を使ってよい」という制度的な許可と、「実際に既存の利用者に有害な干渉を与えない」という技術的な事実は、まったく別の話です。周波数分配表の上で深宇宙研究業務に分配された帯域であっても、その帯域を同時に使う他のミッション、あるいは近傍帯域を使う商用衛星との間では、なお具体的な干渉電力の計算と、それに基づく合意形成が必要になります。

この回では、変調損失の回G/Tの回で組み立てたリンクバジェットの道具立てを流用しながら、次の3つを数式で追います。

  1. 干渉源が被干渉システムにどれだけの干渉電力を与えるかを、EIRP・伝搬損失・受信G/Tから計算し、許容干渉レベル(C/I比、あるいはΔT/T基準)と比較する干渉評価の基本枠組み
  2. 干渉を回避する2つの技術的戦略——空間分離(アンテナの指向性を利用した角度方向の分離)と周波数分離(ガードバンドによるスペクトル上の分離)——の数式的な比較
  3. 実際の調整プロセスがどれくらいの期間を要する、現実的な運用上の制約を持つプロジェクトなのか

制度の話は前回で終えたので、この回はひたすら「現場のエンジニアが計算機の前で何を計算しているか」に焦点を当てます。

直感的導入 — 「使ってよい帯域」と「実際に干渉しない」は別問題

具体的な状況を想像してみましょう。ある宇宙機関が、太陽系外縁天体を目指す新しい探査機のミッションを計画しているとします。深宇宙研究業務に一次分配されたXバンドのダウンリンク帯域(8400–8450 MHz)を使う予定です。制度的には、この帯域は深宇宙研究業務のために確保されているので、何の問題もなさそうに見えます。

ところが、同じ帯域は既に他の複数のミッション——たとえば別の国の深宇宙探査機や、同じ国の別の探査機——が同時に使っています。深宇宙研究業務同士は、電波規則上「対等な立場で共用する一次業務」なので、お互いに有害な干渉を与えないよう調整する義務を負います。さらに、周波数帯によっては、近傍の帯域を使う地球周回の商用衛星(静止衛星帯域の固定衛星業務など)との間でも、帯域外輻射や相互変調による干渉の可能性を検証しなければなりません。

ここで技術者が実際に問われるのは、次のような具体的な問いです。「新しいミッションのアンテナが、既存システムの受信機にどれだけの干渉電力を注ぎ込むのか。それは、既存システムが許容できる限度を下回っているか。」これはG/Tの回で扱った「受信機がどれだけ静かに、どれだけ弱い信号を拾えるか」という問題の裏返しであり、望まれた信号を受信する能力と、望まれない信号(干渉)を排除する能力は、同じリンクバジェットの土俵の上で計算できるというのが、この回の出発点です。

定式化その1 — 干渉電力の計算とC/I・ΔT/Tという2つのものさし

被干渉側から見た干渉電力

干渉源(新しいミッションの探査機、あるいは近傍の商用衛星など)から、被干渉システムの受信機に到達する干渉電力を考えます。干渉源のEIRPをEIRPiEIRP_i、干渉源から被干渉受信機までの伝搬損失をLpath,iL_{path,i}、被干渉受信機のアンテナが干渉源の方向を向いたときの利得をGr(θ)G_r(\theta)とすると、変調損失の回で導いたリンクバジェットの構造をそのまま流用して、被干渉受信機が受け取る干渉電力は

I[dBW]=EIRPi[dBW]Lpath,i[dB]+Gr(θ)[dBi]I\,[\text{dBW}] = EIRP_i\,[\text{dBW}] - L_{path,i}\,[\text{dB}] + G_r(\theta)\,[\text{dBi}]

と書けます。ここでθ\thetaは、被干渉受信機が本来向いている方向(希望波の方向)から見た、干渉源の方向のずれ角(オフアクシス角)です。Gr(θ)G_r(\theta)はアンテナ利得パターンそのものであり、θ=0\theta=0(干渉源が希望波と同じ方向)のとき最大利得GmaxG_{max}を取り、θ\thetaが大きくなるほど(サイドローブ・バックローブの領域に入るほど)小さくなります。

一方、被干渉システムが本来受信したい希望波の受信電力は、同じ形で

C[dBW]=EIRPd[dBW]Lpath,d[dB]+Gr(0)[dBi]C\,[\text{dBW}] = EIRP_d\,[\text{dBW}] - L_{path,d}\,[\text{dB}] + G_r(0)\,[\text{dBi}]

です(ddは”desired”、希望波を表す添字)。この2つの比

CI[dB]=C[dBW]I[dBW]\frac{C}{I}\,[\text{dB}] = C\,[\text{dBW}] - I\,[\text{dBW}]

が**希望波対干渉波比(C/I)**であり、干渉評価の最も基本的なものさしです。被干渉システムが要求するリンクマージンに応じて、C/IC/Iがある閾値を上回ることが干渉調整の技術的な合格基準になります。

ΔT/T基準 — 雑音温度の増加という、もう1つの見方

C/I比は直感的ですが、深宇宙研究業務のように極めて微弱な信号を扱う受信系の保護基準としては、しばしば別の指標が使われます。それが**ΔT/T(システム雑音温度の増加率)**です。

G/Tの回で見たように、受信系の熱雑音電力は帯域幅BB、システム雑音温度TsysT_{sys}、ボルツマン定数kkを使ってN=kTsysBN = kT_{sys}Bと書けました。干渉電力IIが受信機の雑音フロアに上乗せされると、これはあたかもシステム雑音温度がΔT\Delta Tだけ上昇したかのように振る舞います。干渉電力を等価な雑音温度上昇として表すと、

I=kΔTBΔT=IkBI = k\,\Delta T\, B \quad \Longrightarrow \quad \Delta T = \frac{I}{kB}

これをもとの雑音温度TsysT_{sys}で割ると、

ΔTTsys=IkBTsys=IN\boxed{\frac{\Delta T}{T_{sys}} = \frac{I}{k B T_{sys}} = \frac{I}{N}}

という、驚くほど単純な関係が出てきます。ΔT/T基準は、実はI/N比(干渉電力対雑音電力比)そのものと数式的に同一の量なのです。なぜわざわざ2つの呼び方を使い分けるかというと、C/I(あるいはI/N)が「通信リンクの成立性」という工学的な観点から語られるのに対し、ΔT/Tは「この受信系にとって、干渉がどれだけ本来の物理的な雑音環境を歪めているか」という、より根源的な保護の観点から語られる指標だからです。とりわけ深宇宙研究業務や電波天文業務のように、観測データの絶対的な精度(たとえばドップラー計測による精密な軌道決定)が重要な業務では、たとえ通信そのものは辛うじて成立していても、雑音温度がわずかでも底上げされること自体が測定精度の劣化として無視できません。

実務上の干渉保護基準は、具体的な業務や干渉の時間的性質(常時発生するのか、稀にしか発生しないのか)によってケースバイケースですが、目安としては干渉による雑音温度の増加が数%〜十数%程度(I/N比にしておよそ10-10 dBから6-6 dB程度)を超えないことが「有害な干渉ではない」ことの技術的な基準として扱われることが多く、これがSFCG(宇宙周波数調整グループ)の勧告文書などで、業務ごとにより具体的な数値として規定されています。数値そのものよりも、「干渉電力を、システムが元々持っていた雑音電力に対する増加率として評価する」という発想そのものが、この回で押さえておきたい核心です。

定式化その2 — 空間分離という戦略: アンテナの指向性を武器にする

C/IC/IあるいはI/NI/Nを許容範囲に収める方法は、大きく2つあります。1つ目が空間分離、すなわち干渉源と被干渉受信機の間に十分な角度的な隔たりを作り、被干渉受信機のアンテナのサイドローブ(あるいはバックローブ)という「感度の低い方向」に干渉源を追いやる戦略です。

これを定量化するには、アンテナの利得パターンGr(θ)G_r(\theta)の具体的な形が必要です。実務でよく使われる地球局アンテナのサイドローブ包絡線の経験式の1つに、次のような対数型のパターンがあります。

G(θ)=2925log10θ[dBi],1θ48G(\theta) = 29 - 25\log_{10}\theta \quad [\text{dBi}], \qquad 1^\circ \le \theta \le 48^\circ G(θ)=10[dBi],θ>48G(\theta) = -10 \quad [\text{dBi}], \qquad \theta > 48^\circ

(ここでθ\thetaはアンテナ主ビーム軸からのオフアクシス角度で単位は度、この形の包絡線はITU-Rの地球局アンテナ基準パターンに広く見られるものです。)このパターンが表しているのは、「アンテナの正面(θ=0\theta=0)からわずかにでもずれると、利得はサイドローブの包絡線に従って急激に(角度の対数に比例して)落ちていく」という性質です。

たとえば、静止衛星帯(GEO)の軌道弧上に、経度にして22^\circ離れた2機の衛星があり、地球局が一方(希望波の衛星)に正確に指向しているとします。もう一方の衛星は、地球局からおよそθ2\theta\approx 2^\circのオフアクシス角の方向に見えます($地球局の位置によって多少ずれますが、実務上は軌道間隔と概ね同程度の角度と近似されることが多い量です)。このとき、地球局アンテナが干渉源方向に向ける利得は

G(2)=2925log10(2)297.5=21.5 dBiG(2^\circ) = 29 - 25\log_{10}(2) \approx 29 - 7.5 = 21.5\ \text{dBi}

となります。地球局のメインビーム利得が仮にGmax=50G_{max}=50 dBiだったとすると、干渉源方向への利得は正面方向より

ΔGdiscrimination=GmaxG(2)5021.5=28.5 dB\Delta G_{\text{discrimination}} = G_{max} - G(2^\circ) \approx 50 - 21.5 = 28.5\ \text{dB}

も低くなります。これが**空間識別度(spatial discrimination)**であり、干渉電力の式I=EIRPiLpath,i+Gr(θ)I = EIRP_i - L_{path,i} + G_r(\theta)の最後の項が、希望波の場合に比べてこれだけ小さくなることを意味します。

軌道間隔を広げれば広げるほどθ\thetaが増え、G(θ)G(\theta)はさらに下がって空間識別度は稼げますが、その代償として、同じ静止軌道弧上に収容できる衛星の数(軌道リソース)が減ってしまいます。これは電波規則が扱うもう1つの有限資源——静止軌道の軌道位置スロット——の逼迫と直結する、実務上の重いトレードオフです。深宇宙探査機の場合は、そもそも地球の周りを回っていないため軌道スロットの制約はありませんが、代わりに探査機自身の位置(地球から見た見かけの方向)が時々刻々と変化するため、既存の他の探査機との角度的な分離が常に一定とは限らない、という別の複雑さがあります。

定式化その3 — 周波数分離という戦略: ガードバンドとスペクトルの重なり

2つ目の戦略が周波数分離です。角度的に十分な分離が確保できない場合(たとえば同じ方向にある2機の深宇宙探査機を、地上の同じアンテナで同時に受信しなければならない場合など)には、周波数軸上でスペクトルを重ねないようにする、という戦略が使われます。

パルス整形の回で見たように、ロールオフ率α\alphaのレイズドコサイン整形を施した信号の占有帯域幅は、シンボルレートRsR_sを使って

B=(1+α)RsB = (1+\alpha)\,R_s

と書けました。中心周波数f1f_1f2f_2の2つの信号があり、それぞれの占有帯域幅がB1B_1B2B_2だとすると、両者のスペクトルがまったく重ならないための条件は、単純な矩形近似のもとで

f1f2B1+B22+Bguard|f_1 - f_2| \ge \frac{B_1 + B_2}{2} + B_{guard}

と書けます。ここでBguardB_{guard}ガードバンド——両者の間に意図的に確保する周波数の緩衝地帯——です。理想的な矩形スペクトルであればBguard=0B_{guard}=0でも重なりませんが、実際のスペクトルはレイズドコサインフィルタの遷移域(ロールオフ域)や、送信機の非線形性による帯域外輻射のために裾を引いており、有限のガードバンドなしには隣接するスペクトルの裾同士が重なり合ってしまいます。

実務上、この「裾の重なりがどれだけ干渉として効いてくるか」を定量化する指標が**ネット・フィルタ識別度(Net Filter Discrimination, NFD)**です。これは干渉源の送信スペクトル密度Gt(f)G_t(f)と、被干渉受信機の受信フィルタ応答Hr(f)H_r(f)の重なり積分

NFD=10log10(Gt(fΔf)Hr(f)dfGt(f)Hr(f)df)\text{NFD} = -10\log_{10}\left(\frac{\displaystyle\int G_t(f - \Delta f)\,H_r(f)\,df}{\displaystyle\int G_t(f)\,H_r(f)\,df}\right)

として定義され、周波数オフセットΔf\Delta f(2つの信号の中心周波数の差)を大きくするほどNFDは大きくなり(=干渉が弱まり)ます。この積分は一般には数値計算が必要ですが、直感的には「2つの信号のスペクトルの裾同士が、周波数軸上でどれだけ重なっているか」を面積として測っているだけです。干渉電力の式に戻れば、周波数分離によって得られる利得は

I[dBW]=EIRPi[dBW]Lpath,i[dB]+Gr(0)[dBi]NFD[dB]I\,[\text{dBW}] = EIRP_i\,[\text{dBW}] - L_{path,i}\,[\text{dB}] + G_r(0)\,[\text{dBi}] - \text{NFD}\,[\text{dB}]

のように、空間識別度ΔG\Delta Gの代わりにNFDという項が干渉電力を押し下げる形で効いてきます(この式では干渉源が被干渉受信機の主ビーム方向にいる、つまり空間分離が使えない最悪ケースを想定しています)。

空間分離と周波数分離は、どちらも「干渉電力の式に、識別度という名の負の項を追加する」という同じ数学的な構造を持ちながら、犠牲にする資源が異なります。空間分離は軌道位置(あるいは指向精度)という資源を消費し、周波数分離は帯域幅という資源を消費します。実際の周波数調整の現場では、この2つの識別度を必要に応じて組み合わせ、C/IC/IあるいはI/NI/Nの基準を満たす最も経済的な(=希少な資源の消費が最も少ない)組み合わせを探る、という最適化問題が解かれています。

実務での使われ方

深宇宙研究業務における複数機関間の実際の調整

前回で触れた**SFCG(Space Frequency Coordination Group)**は、NASA・ESA・JAXA・Roscosmosなど主要宇宙機関が参加する実務フォーラムであり、深宇宙研究業務の周波数帯における干渉評価の技術的な方法論(受信G/Tの標準的な仮定値、許容されるΔT/T基準の目安、伝搬損失の計算条件など)を勧告文書として整備しています。新しいミッションを計画する機関は、打ち上げの数年前の段階で、この回で見たようなリンクバジェット計算(自機のEIRP、想定される既存ミッションとの角度的・周波数的な分離、相手側の受信G/T)を用いた干渉評価レポートを作成し、SFCGの場で他機関と共有・協議します。実際の深宇宙探査機同士の運用スケジュールは、DSNスケジューリングの回で見たようにそもそも限られたDSNアンテナ資源を複数ミッションで奪い合う構造になっているため、周波数面での干渉調整と、地上局の運用時間割当の調整は、実務上しばしば一体的に検討されます。

静止衛星帯域における商用衛星との共用調整

Ka帯のように、深宇宙研究業務の専用分配帯域のすぐ近傍に、地球周回の商用静止衛星(通信・放送用の固定衛星業務)が密集して運用されている帯域では、事情がさらに複雑になります。商用衛星オペレーターは、この回で見たG(θ)=2925log10θG(\theta) = 29 - 25\log_{10}\thetaのような標準的なアンテナ基準パターンを前提に、静止軌道弧上での軌道位置(経度)の間隔を数値的に管理しており、新規に軌道位置を確保しようとする事業者との間で、まさにこの回で扱った空間識別度の計算を用いた技術協議が日常的に行われています。深宇宙探査機からのダウンリンク信号がこうした商用衛星帯域の近傍に位置する場合、探査機自体は地球から見て静止軌道よりはるかに遠方にあるため主に周波数分離(ガードバンドとNFD)による調整が中心になりますが、地上局側のアンテナが商用衛星からの強い信号を受けてしまう(逆方向の)干渉についても、同様の計算で評価されます。

調整プロセスの現実的なタイムライン

前回整理した4段階の調整プロセス——事前通知・干渉調整・登録・継続調整——のうち、実務上もっとも時間を要するのは2番目の他業務との干渉調整の段階です。この回で見たような干渉電力の計算そのものは(パラメータさえ揃えば)数値計算として短時間で終わりますが、実際の調整では、干渉評価に使うパラメータ(相手側の正確なアンテナパターン、実際の受信G/T、運用スケジュール)についての情報交換、計算結果に対する双方の技術者間での確認・再計算の往復、そして必要であれば送信電力の制限や運用時間帯の調整といった合意形成に、数ヶ月から数年単位の時間がかかることが珍しくありません。とりわけKa帯や静止衛星帯域のように利用が輻輳している帯域では、最初の技術パラメータの事前通知から、実際に運用を開始できるだけの調整が完了するまでに、ミッション全体の開発期間と同程度——場合によっては3年から5年程度——を要することもあります。このため、周波数調整はミッション設計の最終段階で片付けるべき事務手続きではなく、前回で触れたようにミッション計画の初期段階から並行して進めるべき、スケジュール上の重要なクリティカルパスの1つとして扱われています。

演習問題

  1. ある新しい深宇宙探査機(干渉源)のダウンリンクEIRPがEIRPi=20EIRP_i = 20 dBW、既存の別ミッションの受信局までの伝搬損失がLpath,i=280L_{path,i} = 280 dB、その受信局のアンテナが干渉源の方向に向ける利得がGr(θ)=10G_r(\theta) = 10 dBiであるとする。受信局に到達する干渉電力IIをdBWで求めよ。また、その受信局のシステム雑音温度がTsys=20T_{sys}=20 K、雑音帯域幅がB=1B=1 MHzであるとき(10log10k228.610\log_{10}k \approx -228.6 dBW/Hz/K)、ΔT/Tsys\Delta T/T_{sys}を求め、これが「目安としてI/Nが10-10 dBを超えないこと」という基準を満たすかどうか判定せよ。

  2. 本文で導いたΔT/Tsys=I/N\Delta T/T_{sys} = I/Nという関係式を、N=kTsysBN = kT_{sys}BおよびI=kΔTBI = k\Delta T\, Bという2つの式から自分で再導出せよ。この式が意味するのは「干渉電力を、あたかも受信系の物理的な雑音温度が上昇したかのように換算できる」ということだが、なぜこの言い換えが干渉評価にとって有用なのか、C/I比だけを使う場合と比較して論じよ。

  3. 静止衛星帯において、地球局が経度間隔33^\circ離れた2機の衛星を同時に見ているとする。本文の経験式G(θ)=2925log10θG(\theta)=29-25\log_{10}\theta dBiを用いて、干渉源方向への利得G(3)G(3^\circ)を求めよ。地球局のメインビーム利得がGmax=52G_{max}=52 dBiのとき、空間識別度ΔGdiscrimination\Delta G_{\text{discrimination}}を求め、問1のGr(θ)=10G_r(\theta)=10 dBiという値と比較して、干渉抑圧の効果がどちらがどれだけ大きいか論じよ。

  4. 2つの深宇宙探査機からのダウンリンク信号が、地球から見てほぼ同じ方向(空間分離が使えない)にあり、地上局は周波数分離だけで両者を識別しなければならないとする。一方の信号のシンボルレートがRs,1=2R_{s,1}=2 Mbps、ロールオフ率α=0.35\alpha=0.35、もう一方がRs,2=1R_{s,2}=1 Mbps、α=0.25\alpha=0.25であるとき、本文の占有帯域幅の式B=(1+α)RsB=(1+\alpha)R_sを用いてそれぞれの占有帯域幅B1B_1B2B_2を求めよ。さらに、両者のスペクトルが理想的な矩形近似のもとでまったく重ならないために必要な最小の中心周波数間隔(ガードバンドをゼロとした場合)を求めよ。実際の運用ではこれより広い間隔を取るべき理由を、NFDの考え方に触れながら説明せよ。

まとめと次回予告

この回では、前回で学んだITU電波規則という制度的な枠組みを踏まえた上で、実際に新しいミッションが周波数を確保する過程でどのような技術的な計算が行われているかを掘り下げました。干渉電力I=EIRPiLpath,i+Gr(θ)I = EIRP_i - L_{path,i} + G_r(\theta)という、リンクバジェットとまったく同じ骨格を持つ式から出発し、C/IC/I比とΔT/T基準(=I/N=I/N)という2つの評価軸、そして空間分離(アンテナのサイドローブ包絡線を利用した角度的な識別)と周波数分離(ガードバンドとNFDによるスペクトル上の識別)という2つの干渉回避戦略が、どちらも「識別度という名の負の項を干渉電力の式に追加する」という同じ数学的構造を共有していることを見ました。そして、実際の調整プロセスが数ヶ月から数年単位の時間を要する、ミッション計画上の重要な制約であることも確認しました。

次回は、これまで地球と探査機の間の直接リンクを前提に考えてきた通信アーキテクチャから視点を広げ、月面ゲートウェイ通信アーキテクチャのような中継拠点を介した通信の構成に軽く触れていきます。

参考文献

  • Space Frequency Coordination Group (SFCG), Recommendations and Resolutions(特に深宇宙研究業務の干渉保護基準に関する勧告群)
  • ITU-R, Radio Regulations, Article 9(周波数調整の手続き)
  • ITU-R Recommendations, 地球局アンテナ基準パターン(S.580系)
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005
  • J. R. Wertz, D. F. Everett, J. J. Puschell (eds.), Space Mission Engineering: The New SMAD