システム・運用#40

G/T — アンテナ利得対雑音温度比という1つの数値に受信性能を凝縮する

リンクバジェット式に登場したG/T項を正式に掘り下げる。Friisの雑音公式を伝送線損失まで含めて拡張し、システム雑音温度を合成する。dBの世界で利得と雑音温度が全く対称に効くことを数式で確認し、DSNの実際のG/T値とKa帯化のトレードオフを見る。

前提知識: modulation-loss

G/Tシステム雑音温度Friisの雑音公式アンテナ利得リンクバジェット

この回で学ぶこと

変調損失の回で、リンクバジェット方程式

PRN0=EIRPLpath+GTk[dB表記]\frac{P_R}{N_0} = EIRP - L_{path} + \frac{G}{T} - k \quad \text{[dB表記]}

を導入したとき、G/TG/T は「アンテナ利得 GG を受信系全体の雑音温度 TsysT_{sys} で割ったもの」と一行で説明しただけで、先へ進みました。DSN概論の回でもこの量は再登場し、「巨大な開口(利得)と極低温に冷却された受信機(TsysT_{sys})がDSNの2本柱」としてさらっと触れましたが、なぜこの2つを割り算という形で1つの数値にまとめてよいのか、その数学的な正当性はまだ扱っていませんでした。

この回では、G/TG/T を受信地上局の性能を表す唯一無二の指標(figure of merit)として正式に掘り下げます。具体的には次の3つを数式で追います。

  1. リンクバジェット方程式の中で G/TG/T がなぜ「単一の数値」として機能するのか — dBの世界での加法性・線形領域での乗法性という、対数の構造そのものに由来する理由
  2. AWGNの物理的起源の回で導入したFriisの雑音公式を、アンテナ雑音温度・伝送線損失・LNA雑音温度まで含めた「受信系全体の縦続接続」として一般化し、システム雑音温度 TsysT_{sys} を合成する
  3. DSN概論の回で登場したアンテナ利得の式 G=η(πD/λ)2G=\eta(\pi D/\lambda)^2 の周波数依存性を踏まえ、GG を上げることと TsysT_{sys} を下げることが G/TG/T の最大化において数式的にまったく対称な操作であることを確認する

最後に、DSNの実際のG/TG/T数値とKa帯化によるトレードオフを見て、この指標が単なる机上の定義ではなく、地上局の設計思想そのものを左右する数値であることを確認します。

直感的導入 — なぜ「利得」と「雑音温度」を割り算するのか

アンテナの役割を一言でいえば「遠くの微弱な信号をできるだけ多く集める」ことです。開口面積が大きいアンテナほど、単位面積あたりに降り注ぐ電波のうちより多くを捕まえられます。これがアンテナ利得 GG が大きいほど良い、という直感です。

しかし、これだけでは受信性能を語るには不十分です。なぜなら、地上局が最終的に知りたいのは「信号がどれだけ強いか」ではなく、「信号が雑音に対してどれだけ強いか」だからです。どれだけ立派な開口面積で信号を集めても、受信機自体が生み出す熱雑音が大きければ、信号は雑音に埋もれてしまいます。逆に言えば、たとえ開口が小さくても、受信機の雑音を極限まで下げられれば、弱い信号でも雑音の中から拾い上げられます。

つまり受信系の善し悪しは、「どれだけ集められるか」(GG)と「どれだけ静かか」(1/Tsys1/T_{sys})という、独立した2つの軸の掛け算で決まります。G/TG/T という量が単一の数値として意味を持つのは、後述するようにこの2つの軸がリンクバジェット方程式の中で完全に対称な形で効いてくるからです。同じ1dBの改善であれば、アンテナを大きくして稼いでも、受信機を冷やして稼いでも、リンクの成立性にとってはまったく等価な価値を持ちます。この「等価性」こそが、この回で数式的に確認したい核心です。

リンクバジェットにおけるG/TG/Tの位置づけ

まず、リンクバジェット方程式を再掲し、G/TG/T がどの役割を担っているかを確認します(導出は変調損失の回を参照してください、ここでは再導出しません)。

PRN0=EIRP探査機側Lpath幾何学+GT地上局側k定数\frac{P_R}{N_0} = \underbrace{EIRP}_{\text{探査機側}} - \underbrace{L_{path}}_{\text{幾何学}} + \underbrace{\frac{G}{T}}_{\text{地上局側}} - \underbrace{k}_{\text{定数}}

この式の4項のうち、EIRPEIRPは探査機の送信電力とアンテナ利得で決まり、LpathL_{path}は探査機と地球の距離・波長という純粋に幾何学的な要因で決まります。地上局の設計者が能動的にコントロールできる唯一の項が G/TG/T です。逆に言えば、地上局の受信性能に関するあらゆる設計努力は、最終的にこの1つの数値に集約されるべきだ、というのがリンクバジェットの構造そのものが要求していることです。

G/TG/T が単位dB/Kという、一見奇妙な複合単位を持つのはこのためです。真数(線形領域)で書けば

(GT)真数=GTsys[無次元K]\left(\frac{G}{T}\right)_{\text{真数}} = \frac{G}{T_{sys}} \quad \left[\frac{\text{無次元}}{\text{K}}\right]

であり、dB表記では

(GT)dB/K=10log10G10log10Tsys\left(\frac{G}{T}\right)_{\text{dB/K}} = 10\log_{10}G - 10\log_{10}T_{sys}

という、2つの独立したdB量の単純な差になります。この「差」という構造こそが、次節で見る対称性の出発点です。PR/N0P_R/N_0 の式全体がdBの和(差)だけで組み立てられているという事実は、C/N0C/N_0(搬送波電力対雑音密度比)を真数で書き下すと一目瞭然になります。

CN0=EIRP真数Lpath,真数G真数kTsys\frac{C}{N_0} = \frac{EIRP_{\text{真数}}}{L_{path,\text{真数}}}\cdot\frac{G_{\text{真数}}}{k\,T_{sys}}

GG1/Tsys1/T_{sys} は、C/N0C/N_0 という物理量の中でどちらも単純な乗法因子として現れています。掛け算の中では、どちらの因子を2倍にしても結果への効き方はまったく同じです。これが「GG を上げることと TsysT_{sys} を下げることが等価である」という主張の、最も基本的な根拠です。

システム雑音温度の縦続接続 — Friisの雑音公式の拡張

G/TG/T の分母 TsysT_{sys} を実際に計算するには、受信系を構成する複数の要素(アンテナ・伝送線・低雑音増幅器・その後段)の雑音がどう積み重なるかを知る必要があります。AWGNの物理的起源の回では、次の2つの結果を個別に導きました。

  • Friisの雑音公式(多段増幅器の縦続接続): Te=T1+T2G1+T3G1G2+T_e = T_1 + \dfrac{T_2}{G_1} + \dfrac{T_3}{G_1G_2}+\cdots
  • 損失のある受動素子(伝送線)自体の等価雑音温度: Tline=(L1)TphysT_{line} = (L-1)\,T_{phys} (ここで L=1/Gline>1L=1/G_{line}>1 は損失の真数、TphysT_{phys} は素子の物理温度)

この2つはこれまで別々に提示されましたが、実際の地上局ではアンテナからバックエンドまでが1本の縦続接続系をなしており、伝送線とLNAとその後段をひとつのFriis公式の中に統一的に組み込む必要があります。これを導出しましょう。

アンテナ端子を基準点(参照面)に取り、そこから順に、伝送線(給電導波管、利得 Gline=1/LG_{line}=1/L、雑音温度 Tline=(L1)TphysT_{line}=(L-1)T_{phys})、LNA(利得 G1G_1、雑音温度 T1T_1)、後段の受信機一式(等価雑音温度 T2T_2T3T_3、…とみなせるがまとめて T1T_1段より後ろとして扱う)という順番で並んでいるとします。伝送線を「Friis公式の第0段」とみなして式を機械的に適用すると、

Te,total=Tline+T1Gline+T2GlineG1+T_{e,\text{total}} = T_{line} + \frac{T_1}{G_{line}} + \frac{T_2}{G_{line}\,G_1} + \cdots

Gline=1/LG_{line}=1/L なので 1/Gline=L1/G_{line}=L であり、これを代入すると、

Te,total=(L1)Tphys+LT1+LT2G1+=(L1)Tphys+L(T1+T2G1+)T_{e,\text{total}} = (L-1)T_{phys} + L\,T_1 + \frac{L\,T_2}{G_1} + \cdots = (L-1)T_{phys} + L\left(T_1 + \frac{T_2}{G_1}+\cdots\right)

ここで括弧の中身 T1+T2/G1+T_1 + T_2/G_1 + \cdots は、まさにLNA以降だけを対象にしたFriisの公式そのもので、これを受信機部の等価雑音温度 TrcvrT_{rcvr} と呼ぶことにします。したがって、

Te,total=(L1)Tphys+LTrcvr\boxed{T_{e,\text{total}} = (L-1)\,T_{phys} + L\,T_{rcvr}}

最後に、アンテナ自身が拾う外来雑音・自己損失雑音であるアンテナ雑音温度 TAT_A(AWGNの回で扱った、宇宙背景放射・銀河雑音・大気雑音・スピルオーバーの重ね合わせ)を足し合わせれば、アンテナ端子(=リンクバジェットで使う基準点)から見たシステム雑音温度が得られます。

Tsys=TA+(L1)Tphys+LTrcvr\boxed{T_{sys} = T_A + (L-1)\,T_{phys} + L\,T_{rcvr}}

この式は、AWGNの回で個別に登場した Tsys=TA+TeT_{sys}=T_A+T_eTline=(L1)TphysT_{line}=(L-1)T_{phys} という2つの断片的な結果を、実際の受信系のアーキテクチャに沿って1本の式にまとめ直したものです。ここで着目すべきは係数 LL です。伝送線より後段にある受信機部の雑音は、伝送線の損失 LL 倍に増幅されてシステム雑音温度に効いてくるということです。LL が(損失が)大きいほど、いくらLNA自体を低雑音に設計しても、その恩恵が線路の損失によって目減りしてしまいます。これが、AWGNの回で触れた「LNAをできるだけアンテナ給電部の近くに置く」という設計原則の、より定量的な根拠になっています。理想的には L1L\to 1(無損失)にできれば、TsysTA+TrcvrT_{sys}\to T_A + T_{rcvr} というシンプルな形に帰着します。

アンテナ利得の周波数依存性とG/TG/T最大化の対称性

次に、分子側のアンテナ利得を見ます。DSN概論の回で導いたように、円形パラボラアンテナの利得は開口効率 η\eta、開口径 DD、波長 λ\lambda を用いて

G=η(πDλ)2G = \eta\left(\frac{\pi D}{\lambda}\right)^2

と書けます。波長は周波数 ff と光速 cc を使って λ=c/f\lambda = c/f なので、これは

G=η(πDfc)2D2f2G = \eta\left(\frac{\pi D f}{c}\right)^2 \propto D^2 f^2

と、開口径の2乗にも周波数の2乗にも比例する形になります(開口径を固定したまま周波数を上げる、すなわち波長を短くするほど利得が上がることを意味します)。

これを踏まえて、G/TG/T をdBで最大化するという設計問題を考えます。

(GT)dB/K=10log10η+20log10D20log10λ10log10Tsys\left(\frac{G}{T}\right)_{\text{dB/K}} = 10\log_{10}\eta + 20\log_{10}D - 20\log_{10}\lambda - 10\log_{10}T_{sys}

この式を眺めると、G/TG/T を1dB改善する手段が本質的に2種類しかないことが分かります。

Δ(GT)dB=20log10(DnewDold)(開口径を大きくする)\Delta\left(\frac{G}{T}\right)_{\text{dB}} = 20\log_{10}\left(\frac{D_{\text{new}}}{D_{\text{old}}}\right) \quad \text{(開口径を大きくする)} Δ(GT)dB=10log10(Tsys,newTsys,old)(雑音温度を下げる)\Delta\left(\frac{G}{T}\right)_{\text{dB}} = -10\log_{10}\left(\frac{T_{sys,\text{new}}}{T_{sys,\text{old}}}\right) \quad \text{(雑音温度を下げる)}

ここで重要なのは、この2つの項が式の中でまったく独立に加算されているという事実です。開口径を2倍にすれば 20log1026.0220\log_{10}2\approx 6.02 dB の改善、システム雑音温度を半分にすれば 10log10(1/2)3.01-10\log_{10}(1/2)\approx 3.01 dB の改善が得られ、これらはどちらも他方の値によらず一定です(交差項が存在しません)。つまり G/TG/T という指標の設計は、「アンテナを大きくする」努力と「受信機を冷やす」努力という、物理的にはまったく異なる2つの技術領域が、dBという対数尺度の上で完全に対等な通貨として交換可能であるという数学的構造の上に成り立っています。

この対称性は、実務上のトレードオフにそのまま反映されます。開口径を大きくするコストは、構造強度・重力たわみ・製作誤差の制約から口径のべき乗(D2D^2を超えるオーダー、経験的にはおよそD2.5D^{2.5}D3D^3程度)で急増する一方、雑音温度を下げるコストも、物理的な下限(宇宙背景放射の2.72.7K、量子雑音の下限)に近づくにつれて指数関数的に高くつきます。両者とも「dBあたりのコスト」がある水準を超えると急激に跳ね上がるため、実際の地上局設計では、この2つの軸のどちらか一方だけを追求するのではなく、限界費用(1dBあたりの追加コスト)が両軸で釣り合う点まで両方に投資するのが合理的です。DSNが大口径パラボラ(開口)とメーザー・極低温HEMT増幅器(雑音温度)の両方に継続的に投資してきたのは、まさにこの対称性から導かれる合理的な帰結です。

実務での使われ方

DSNの実際のG/TG/T

DSN概論の回で見たように、DSNの70mアンテナはXバンドで約6.3dBの利得優位を34mアンテナに対して持ち、さらに極低温冷却されたメーザーや高性能HEMT増幅器によって TsysT_{sys} を20〜25K程度まで抑え込んでいます。この2つの効果を掛け合わせた結果、DSNの高性能局(70mアンテナ、あるいは複数の34mアンテナをアレイ合成した構成)のXバンドG/TG/Tは、実務上50dB/Kを優に超える水準(条件が良い場合には60dB/K近くに達するとされる)に達します。これは、変調損失の回の数値例で使った34mアンテナ級のG/T45G/T\approx 45dB/Kと比べても、リンクマージンにして10dB以上の差があることを意味し、外惑星探査機や太陽系外縁天体探査機のような極めて信号の弱いミッションで、なぜ70mアンテナ級の設備が不可欠になるのかを裏付けています。

Ka帯化によるG/TG/Tの変化

前節の式 Gf2G\propto f^2 が示す通り、同じ開口径・開口効率であれば、Xバンド(f8.4f\approx 8.4GHz)からKa帯(f32f\approx 32GHz)へ移行するだけで、周波数比のおよそ3.83.8倍の2乗、すなわち

ΔGdB=20log10(328.4)11.6 dB\Delta G_{\text{dB}} = 20\log_{10}\left(\frac{32}{8.4}\right) \approx 11.6\ \text{dB}

という、単純計算では非常に大きな利得の伸びが期待できます。晴天時であれば、この利得の伸びが TsysT_{sys} のわずかな増加(高周波ほど大気吸収・水蒸気放射の寄与がやや増える)を上回り、Ka帯のG/TG/TはXバンドを凌ぐことも珍しくありません。これがKa帯が「次世代の高速深宇宙リンク」として注目される数式的な根拠です。

しかし、この優位性は決して無条件ではありません。波長が短くなるほど反射鏡表面の製作誤差(数mm単位のうねり)が波長に対して相対的に大きくなり、開口効率 η\eta 自体がXバンドよりも下がりやすくなります(表面誤差による利得劣化は、開口アンテナ理論の中で扱われる古典的な問題です)。さらに決定的なのは、Ka帯は水蒸気・降雨による吸収・散乱の影響をXバンドよりもはるかに強く受けるため、降雨時にはTsysT_{sys}が急激に悪化し、G/TG/Tが大きく崩れるという弱点を抱えています。晴天時に稼いだ11dB超の利得優位は、悪天候時には一瞬で失われかねません。この「Ka帯のG/TG/Tは天候に脆弱である」という論点は、今後のレッスンで降雨減衰というテーマとして正式に扱います。

演習問題

  1. あるDSN局のXバンド受信系で、アンテナ利得 G=68G=68 dBi、システム雑音温度 Tsys=22T_{sys}=22 K であるとする。G/TG/T をdB/K単位で求めよ(10log102213.410\log_{10}22 \approx 13.4 dBを用いてよい)。

  2. アンテナ端子から見て、給電導波管の損失が L=1.05L=1.05(真数、物理温度 Tphys=290T_{phys}=290 K)、その後段のLNA以降の受信機部の等価雑音温度が Trcvr=15T_{rcvr}=15 K であるとする。本文で導いた式 Tsys=TA+(L1)Tphys+LTrcvrT_{sys}=T_A+(L-1)T_{phys}+L\,T_{rcvr} を用いて、アンテナ雑音温度 TA=12T_A=12 K のときのシステム雑音温度 TsysT_{sys} を求めよ。損失 LL をかけ忘れた場合(単純に TrcvrT_{rcvr} をそのまま足した場合)と比較して、どれだけ過小評価してしまうかも確認せよ。

  3. 開口径 D=34D=34 m のアンテナを D=70D=70 m に更新する場合と、システム雑音温度を Tsys=25T_{sys}=25 K から Tsys=12.5T_{sys}=12.5 K(半分)に下げる場合とで、それぞれG/TG/Tが何dB改善するかを本文の式を用いて別々に計算し、比較せよ。どちらがより「割の良い」改善に見えるか、数値だけで判断することの危うさ(コスト面を考慮していないこと)についても触れよ。

  4. 同じ開口径・開口効率のアンテナをXバンド(f=8.4f=8.4GHz)からKa帯(f=32f=32GHz)に切り替えたとする。利得の伸び ΔGdB\Delta G_{\text{dB}} を計算し、その上で、なぜこの利得の伸びがそのままG/TG/Tの改善に直結するとは限らないのかを、TsysT_{sys}の周波数依存性(大気吸収・降雨)と開口効率η\etaの周波数依存性(表面誤差)の両方の観点から説明せよ。

まとめと次回予告

G/TG/T が受信地上局の性能を1つの数値で語れる理由は、リンクバジェット方程式の中で GG1/Tsys1/T_{sys} が純粋な乗法因子として、dB表記では純粋な加法項として現れるからでした。これにより、アンテナを大きくすることと受信機を冷やすことは、G/TG/Tという指標の上では完全に対称かつ等価な操作になります。また、AWGNの回で個別に登場したFriisの雑音公式と伝送線の等価雑音温度の式を、Tsys=TA+(L1)Tphys+LTrcvrT_{sys}=T_A+(L-1)T_{phys}+L\,T_{rcvr} という1本の縦続接続式にまとめ、伝送線の損失が後段の雑音をそのままLL倍に増幅してしまうことを確認しました。そしてDSN概論の回のアンテナ利得の式を使って、G/TG/Tを周波数・開口径・雑音温度の関数として最大化する設計問題を眺め、DSNの実際のG/TG/T値やKa帯化のトレードオフを見ました。

次回は、ここまでG=η(πD/λ)2G=\eta(\pi D/\lambda)^2という経験式として扱ってきたアンテナ利得の背後にある開口アンテナ理論の基礎に軽く触れます。開口効率 η\eta がどのような物理(照射パターン、エッジテーパ、表面誤差によるRuze損失など)によって決まるのかを見ることで、今回Ka帯の節で触れた「表面誤差が高周波ほど効いてくる」という論点にも数式的な裏付けを与えます。

参考文献

  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005 (System Noise Temperature / G-over-T モジュール)
  • H. T. Friis, “Noise Figures of Radio Receivers,” Proceedings of the IRE, vol. 32, no. 7, pp. 419–422, 1944
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • J. R. Wertz, D. F. Everett, J. J. Puschell (eds.), Space Mission Engineering: The New SMAD
  • NASA/JPL, DSN Deep Space Network (公式解説資料、アンテナ性能諸元)