システム・運用#156

宇宙状況把握(SSA) — 通信リンクがセンサになるとき、カタログ・RFフィンガープリンティング・国際データ共有の数理

自分のネットワークの健全性監視と、2機の衝突リスク評価。この2つを統合し、軌道上のすべての物体を対象にする、より広い概念としてのSSA(Space Situational Awareness / Space Domain Awareness)を扱う。地上局が受信する電波そのものが軌道上物体の状態を語る『センサ』になるという視点と、単一機関を超えたSSAデータの国際共有の枠組みを整理する。

前提知識: 宇宙ネットワークの管理 — SNMP/MIBの発想でメガコンステレーション時代の監視を捉える

SSA宇宙状況把握RFフィンガープリンティング国際協力メガコンステレーション

この回で学ぶこと

宇宙ネットワークの管理の回では、地上局・リンク・中継衛星という自分たちが運用する資産の健全性を、SNMP/MIBの発想を借りて階層的に監視する枠組みを学びました。ポーリングとトラップという2つの情報収集モデル、そしてFCAPSという管理対象の分類は、いずれも「自分のネットワークの中で、いま何が起きているか」を把握するための道具でした。

一方、衝突回避運用の通信の回では視点が少し変わりました。そこで扱ったのは自分の衛星と、別の1機(デブリや他社の衛星)との間の関係でした。2機の軌道不確かさから衝突確率 PcP_c を計算し、CDM(Conjunction Data Message)という標準フォーマットで情報を交換し、回避マヌーバを判断する——これは「自分」対「特定の1つの相手」という、2者間の関係を扱う枠組みでした。

この回では、この2つの視点をさらに一段階統合します。地球を回る物体は、自分が運用する衛星や、たまたま接近してきた1個のデブリだけではありません。数万個規模のカタログ化された物体——運用中の衛星、運用を終えた衛星、ロケットの上段、破片——が、絶えず地球を周回しています。この「軌道上にあるすべての物体について、それが何であり、どこにあり、どんな状態にあるかを、継続的に把握し続ける」という、より広い営みを SSA(Space Situational Awareness、宇宙状況把握。米宇宙軍などではより広義の Space Domain Awareness という呼称も使われます)と呼びます。

この回で扱うのは次の3点です。(1) SSAが必要とする情報にはどのような種類があり、それぞれどのセンサでどう得られるのか。(2) network-management-space.mdの回で「自分のネットワークの健全性」を測るために使った通信リンクの監視という行為そのものが、実は自分の資産の枠を超えて、軌道上全体のSSAにとって重要な情報源になりうるという視点。(3) 国際相互運用の回で学んだクロスサポートの精神を、単一機関のカタログを超えたSSAデータの国際共有にどう広げるか。あわせて、この回をもってシステム・運用カテゴリはひとまず一区切りとなるため、最後にこれまでの積み上げを振り返ります。

直感的導入: 「知っている資産の健全性」から「知らない物体の存在」へ

network-management-space.mdの回の監視モデルには、暗黙の前提がありました。それは「監視対象の集合 EE(アンテナ・リンク・中継衛星)は、あらかじめすべて分かっている」という前提です。MIBツリーを作るにも、ポーリングするにも、まず「何を監視すべきか」というリストが最初から手元になければ始まりません。

collision-avoidance-comm.mdの回でも、この前提は形を変えて残っていました。CDMは「OBJECT1(自分)」と「OBJECT2(相手)」という、あらかじめ特定された2物体の関係を記述するフォーマットです。相手がどの物体であるかは、前回までの議論ではすでに18 SDS(第18宇宙防衛飛行隊)のスクリーニングによって特定済みという前提から出発していました。

しかしSSAが最初に取り組まなければならない、もっと根源的な問いは違います。そもそも軌道上に何があるのか。それは新しく打ち上げられた物体なのか、既知の衛星が壊れて生じた破片なのか、あるいはまだ誰もカタログ化していない未知の物体なのか。 これは「知っている集合 EE の状態を追う」問題ではなく、「集合 EE そのものを作り、更新し続ける」問題です。この根本的な違いが、SSAという営みを、これまでの2回で学んだ監視・評価の枠組みよりも一段広いものにしています。

SSAが必要とする情報の整理

カタログ化: 位置・軌道要素という基礎データ

SSAの最も基礎的な仕事は、軌道上のあらゆる物体 uu について、その運動状態

Xu(t)=(ru(t), vu(t))あるいは等価な軌道要素の組X_u(t) = \big(\mathbf{r}_u(t),\ \mathbf{v}_u(t)\big) \quad \text{あるいは等価な軌道要素の組}

とその不確かさ(共分散 Pu(t)P_u(t))を、軌道決定の回で見たフィルタリングの枠組みで継続的に更新し、軌道データメッセージの回で見たOPM/OMMのような標準形式でカタログとして維持することです。これは複数のセンサ(地上レーダー、光学望遠鏡)による繰り返し観測と軌道伝播を組み合わせて実現されます。

稼働状態の識別: 「生きている」か「死んでいる」か

しかし位置と速度だけでは分からないことがあります。それはその物体がいま能動的に制御されているのか、それとも制御を失った(あるいは最初から制御機能を持たない)デブリなのか、という運用状態です。レーダーや光学望遠鏡が測定する物理量(反射断面積、光度)からは、この区別を直接には読み取れません。制御を失って高速でタンブリング(不規則な自転)している廃衛星と、姿勢を安定させて運用中の衛星は、軌道力学的にはほとんど同じ物体として観測されうるからです。

RFフィンガープリンティング: 電波が語る「稼働状況」

ここで効いてくるのが、通信工学の視点です。**能動的に運用されている衛星は、多くの場合、何らかの電波を送信しています。**逆に言えば、ある物体からある周波数・変調方式の電波が観測されるかどうか、そしてその電波がどんな特性を持つかは、その物体の稼働状態について、レーダーや光学だけでは得られない直接的な手がかりを与えます。この観点を整理すると、SSAが使う代表的なセンサ種別と、そこから得られる情報は次のように対応づけられます。

センサ種別直接測定できる量間接的に推定できる量
レーダー位置・速度、反射断面積(RCS)おおよそのサイズ・形状
光学望遠鏡位置(角度)、光度とその時間変化自転(タンブリング)周期、大まかな姿勢、表面材質の反射特性
RF受信(通信リンク)信号の有無、周波数、変調方式、符号化方式稼働状態、電源系の健全性、姿勢の周期変化(後述)

RF受信から得られる特性ベクトルを

ϕ=(fc, Δfosc, B, M, )\boldsymbol{\phi} = (f_c,\ \Delta f_{osc},\ B,\ M,\ \dots)

のように、搬送波周波数 fcf_c・発振器の個体差(ドリフト・位相雑音の特性、発振器位相雑音の回参照)・占有帯域幅 BB・変調方式 MM などの要素からなる特徴量として定義すると、既知の衛星が事前に持つ特性ベクトル ϕi\boldsymbol{\phi}_i の集合と観測値 ϕobs\boldsymbol{\phi}_{obs} とのマッチングによって、

i^=argminiϕobsϕi\hat{i} = \arg\min_{i} \left\| \boldsymbol{\phi}_{obs} - \boldsymbol{\phi}_i \right\|

という形で、電波の「指紋」から発信源を同定できます。これがRFフィンガープリンティングと呼ばれる技術です。電波・電子戦(EW)の分野では、送信機ごとの微細な個体差(発振器のドリフト特性、電力増幅器の非線形性による歪み特性など)を利用して送信源を識別する**Specific Emitter Identification(SEI)**という技術が古くから研究されており、その発想を軌道上物体の識別に応用したものと理解できます。検出理論の回整合フィルタの回で学んだ、既知の波形パターンとの相関を取って検出・識別を行うという発想が、ここでもそのまま生きています。

通信リンクそのものがSSAのセンサになるという視点

network-management-space.mdの回では、地上局が「予定通り信号にロックしているか」を監視し、SNRがしきい値を下回ればトラップとして自機のFAULT状態を検知する、という枠組みを見ました。この枠組みは「自分の資産の健全性」だけを見るものでしたが、まったく同じ観察行為が、視点を変えるとSSAにとって重要な情報源になります。

「期待した信号がない」「期待しない信号がある」という2種類の異常

ある時刻において、あるスケジュール(たとえばDSNスケジューリングの回で見たようなコンタクト計画)に基づいて地上局が受信を予定している信号の集合を Sexp(t)\mathcal{S}_{\rm exp}(t)、実際に観測された信号の集合を Sobs(t)\mathcal{S}_{\rm obs}(t) とすると、両者のずれは2種類に分類できます。

Type I(期待した信号の欠落): sSexp(t)Sobs(t)s \in \mathcal{S}_{\rm exp}(t) \setminus \mathcal{S}_{\rm obs}(t)。予定されていた衛星からの信号が受信できない状況です。原因としては、安全モード通信の回で見たような機体側の異常(電源喪失、姿勢喪失によるアンテナの指向ずれ)のほか、軌道の予期しない逸脱によってアンテナの追尾範囲から外れてしまった可能性、あるいは大気圏再突入による物体そのものの消失まで、幅広い解釈がありえます。単一ミッションの視点では「自分の通信異常」ですが、SSAの視点では「その物体の軌道・姿勢・生存状態に関する重要な兆候」です。

Type II(期待しない信号の存在): sSobs(t)Sexp(t)s \in \mathcal{S}_{\rm obs}(t) \setminus \mathcal{S}_{\rm exp}(t)。予定になかった電波が観測される状況です。これは、(a) 運用終了・機能停止したと考えられていた衛星が、実は制御を失ったまま送信機だけが動作し続けている場合、(b) 別のシステムからの干渉、(c) まだカタログ化されていない物体が新たに検出された場合など、複数の解釈がありえます。(a)の実例として広く知られているのが、2010年に商業静止衛星Galaxy 15が地上からのコマンドに応答しなくなったにもかかわらず、中継機能を維持したまま静止軌道帯を漂流し、隣接する他社の衛星に電波干渉を与え続けた、いわゆる「ゾンビ衛星」の事例です。地上からは制御不能でも送信機自体は生き続けている、という状態は、レーダーや光学の観測だけでは判断がつかず、RF受信によって初めて明確になる典型例です。

これは、network-management-space.mdの回で見たLOCKED→DEGRADEDというトラップの発想を、「自分の資産の異常検知」から「軌道上全体の共有RF環境における異常検知」へと一般化したものだと理解できます。監視の対象が広がり、判定の意味づけ(自分の障害か、他者の状態変化か)がより多義的になった点が違いです。

受信電力の周期性から姿勢状態を読む

RF受信は、稼働状態の有無だけでなく、より定量的な情報も引き出せます。制御を失ってタンブリングしている衛星のアンテナ利得は、機体の姿勢角 θ(t)\theta(t) に依存するパターン G(θ)G(\theta) を持つため、地上局で観測される受信電力は

Prx(t)P0G(θ0+ωt)+n(t)P_{\rm rx}(t) \approx P_0 \, G\big(\theta_0 + \omega t\big) + n(t)

のように、タンブリングの角速度 ω\omega に応じて周期的に変動します。この時系列 Prx(t)P_{\rm rx}(t) をフーリエ変換し、パワースペクトルのピーク周波数を読み取れば、

ω^=argmaxωPrx(t)ejωtdt2\hat{\omega} = \arg\max_{\omega} \left| \int P_{\rm rx}(t)\, e^{-j\omega t}\, dt \right|^2

という形で、機体の自転(タンブリング)周期を、通信の受信電力ログだけから推定できます。これは光学観測におけるライトカーブ解析(反射光の周期変動から自転周期を求める手法)のRF版に相当し、実際に故障・制御喪失後の衛星の姿勢状態を推定する手段として使われています。地上局自動化の回network-management-space.mdの回で「健全性指標」として扱ってきたSNR・受信電力といった量が、視点を変えると、機体の物理的な運動状態そのものを語る観測データになるという好例です。

SSAデータの共有と国際協力: クロスサポートの精神をSSAへ拡張する

network-management-space.mdの回では、監視対象の要素数 NN が増えたとき、単一の管理ステーションに情報を集約しようとすると通信量・処理量が破綻することを見て、階層化という解決策を紹介しました。SSAにおいても、これと似た規模の壁が存在しますが、そこにはもう1つの軸が加わります。それは、そもそもすべてのセンサが単一の機関に属しているわけではない、という点です。

米宇宙軍、ヨーロッパ各国、商用事業者は、それぞれ独自のセンサ網(レーダー、光学望遠鏡)を運用しており、それぞれが独自のカタログ EkE_k(kk は運用主体)を維持しています。

E=kEkE = \bigcup_{k} E_k

という形で全体像を把握しようとするとき、単純な和集合を取るだけでは済まない問題が生じます。同じ物理的な物体が、異なる運用主体によって異なる仮符号(provisional designator)で独立に検出され、両者が「実は同一の物体である」ことがすぐには分からない、というクロスレジストレーション(相互対応付け)の問題です。これは軌道要素空間での状態ベクトルの近さ

Xu(k)(t)Xu(k)(t)<ϵ\| X_{u}^{(k)}(t) - X_{u'}^{(k')}(t) \| < \epsilon

を判定基準に、異なるカタログ間で同一物体を突き合わせる、実務上決して自明ではない照合作業を必要とします。

この問題への対処として、network-management-space.mdの回で見た「ポーリング(定期同期)+トラップ(緊急通知)」のハイブリッドモデルは、機関間のスケールでも姿を変えて現れます。平常時には各機関・事業者が定期的に更新済みカタログ(TLEなど)を公開・交換し(定期的な同期)、collision-avoidance-comm.mdの回で見たように衝突確率がしきい値を超えた緊急時にはCDMという専用フォーマットで即座に通知する(トラップ的な緊急通知)、という2層構造です。

そしてこの情報共有全体を機関の壁を越えて成立させているのが、国際相互運用の回で学んだクロスサポートの精神です。あの回では、周波数帯・変調方式・符号化方式・フレームフォーマット・上位プロトコルという通信の各層が標準化されていることで、異なる国のどの地上局でも探査機の信号を受信できる、という技術的な相互運用性を見ました。SSAデータの共有においても、同じ発想が「共通の軌道要素フォーマット」「共通の物体番号体系(COSPAR識別子・SATCAT番号)」「共通のリスク評価フォーマット(CDM)」という形で貫かれています。通信の相互運用性が「探査機の声を、どの国の地上局でも聞き取れるようにする」ための標準化だったとすれば、SSAデータの相互運用性は「軌道上の状況を、どの国・どの機関でも同じ言葉で語れるようにする」ための標準化だと言えます。

実務での使われ方

米宇宙軍 宇宙監視ネットワーク(Space Surveillance Network, SSN)と第18宇宙防衛飛行隊(18 SDS)。 collision-avoidance-comm.mdの回で紹介した18 SDSは、世界各地に展開されたレーダー・光学望遠鏡から成るSSNを運用し、2020年代半ばの時点で10cm以上のサイズを持つ物体だけでも4万数千個規模をカタログ化し続けています。このカタログはspace-track.orgを通じて公開・共有され、SSA全体の基盤データとなっています。

EU Space Surveillance and Tracking(EU SST)パートナーシップ。 ヨーロッパでは、フランス・ドイツ・イタリアをはじめとする複数国のレーダー・光学センサ資産を、単一の欧州域内の枠組みとして連携させるEU SSTパートナーシップが構築されており、欧州域内の衛星運用者に向けたコンジャンクション評価・再突入予測などのサービスを提供しています。これは、国際相互運用の回で見たESA/ESTRACKの枠組みと同様、単一国では賄いきれないセンサ網の規模を、複数国の資産を束ねることで実現するという発想の実例です。

商用SSA事業者。 collision-avoidance-comm.mdの回で紹介したLeoLabsは、独自運用のフェーズドアレイレーダー網(フェーズドアレイアンテナの回参照)をアラスカ・コスタリカ・ニュージーランド・テキサスなど世界複数拠点に展開し、低軌道の準リアルタイムなカタログ化サービスを提供しています。ExoAnalytic Solutionsは世界中に展開した光学望遠鏡網により、特に静止軌道帯の常時監視を強みとしています。これらの商用事業者のデータは、政府機関のセンサ網を補完・検証する形で統合的に利用されています。

Unified Data Library(UDL)。 米宇宙軍が構築したUnified Data Libraryは、政府機関の観測データと、商用SSA事業者・学術機関から提供されるデータを1つの共通基盤に統合し、認可された利用者(同盟国政府、商用衛星運用者など)がアクセスできるようにする取り組みです。これは、本文で述べた「異なる運用主体のカタログ EkE_k をどう束ねるか」という問題に対する、実際のインフラとしての1つの答えです。

IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)。 1993年に設立された機関間宇宙デブリ調整委員会は、NASA・ESA・JAXA・Roscosmos・CNSAなど世界十数か国の宇宙機関が参加する国際協調の枠組みで、デブリ低減のためのガイドライン策定などを通じて、SSAの結果(誰のどの物体が、どの程度デブリ化リスクを持つか)を各国の運用方針にどう反映させるかという、国際相互運用の回で見たクロスサポートの精神をデブリ・SSA分野に適用した実例です。

ITU無線通信局(ITU-R)との接点。 周波数管理とITUの回で見たように、ITU無線通信局は各国からの有害な混信(harmful interference)の報告を受け付け、調停する役割を担っています。本文で見たType II異常(予期しない信号の存在)のうち、干渉に起因するものは、しばしばこのITUの枠組みを通じて解決されます。SSAとスペクトル管理は、扱う対象(物体の状態 vs 周波数の秩序)こそ異なりますが、どちらも「共有された宇宙・電波環境を、複数の利用者がどう秩序立てて使うか」という同じ性質の問題に属しています。

メガコンステレーション時代の重要性増大。 collision-avoidance-comm.mdの回で見たように、SpaceXは2022年12月から2023年5月の半年間だけでStarlink衛星群全体としておよそ2万6千回の衝突回避マヌーバを実施したと報告しています。カタログ化された物体どうしの近接事象は物体数のほぼ2乗のオーダーで増加するため、この傾向は今後さらに加速すると見られています。1978年にKesslerとCour-Palaisが指摘した、デブリの増加がさらなる衝突とデブリ発生を誘発する連鎖反応(いわゆるケスラーシンドローム)のリスクは、メガコンステレーション時代においてSSAを「専門家だけが知っていればよい特殊技術」から「軌道の持続可能な利用そのものを支える基盤インフラ」へと押し上げています。

演習問題

  1. ある地上局が、制御を喪失したと考えられる衛星からのビーコン信号の受信電力 Prx(t)P_{\rm rx}(t) を記録したところ、そのパワースペクトルに周期 T=7.2T = 7.2 秒に対応するピークが見られました。この衛星のタンブリング角速度 ω\omega(rad/s)と、1分あたりの回転数(rpm)を求めてください。またこの観測結果だけから、この衛星の電源系や姿勢制御系についてどこまで言えて、どこから先は言えないか、本文の議論に基づいて論じてください。

  2. 次の2つの観測事象を、本文で定義したType I(期待した信号の欠落)・Type II(期待しない信号の存在)に分類し、それぞれ考えられる原因を2つ以上挙げてください。(a) 定常運用中の探査機から、予定されたパスの時間帯にまったく信号が受信できなかった。(b) 5年前に運用を終了し廃棄処置済みとされていた通信衛星の軌道位置から、微弱ながら特定の周波数の電波が繰り返し検出された。

  3. あるSSA運用主体Aが3万個、主体Bが2万5千個の物体をそれぞれ独自にカタログ化しており、両者のカタログを軌道要素で突き合わせたところ、2万2千個が同一物体として相互対応付け(クロスレジストレーション)できました。全体として一意にカタログ化されている物体数(和集合のサイズ)を求めてください。また、AにのみあってBにない物体、BにのみあってAにない物体が、それぞれどのような理由で生じうるか、本文中のセンサ種別ごとの特性(レーダー・光学・RF)を踏まえて考察してください。

  4. 本文の表で整理したように、RF受信は稼働状態の識別には強い一方、単独では正確な位置の推定には向きません(信号の到来方向だけからは、レーダーのような精密な距離情報が直接には得られないため)。逆にレーダーは精密な位置・速度を与える一方、稼働状態の識別には不向きです。この2つのセンサ種別を組み合わせることで、単独では埋められないそれぞれの弱点をどう補い合えるか、具体的な運用シナリオを1つ想定して説明してください。

まとめと次回予告

この回では、network-management-space.mdの回で学んだ「自分の資産の健全性監視」と、collision-avoidance-comm.mdの回で学んだ「2機の衝突リスク評価」という2つの視点を統合し、軌道上のあらゆる物体を対象とする、より広い概念としてのSSA(宇宙状況把握)を扱いました。カタログ化・稼働状態の識別・RFフィンガープリンティングという3種類の情報と、それぞれを支えるセンサ種別(レーダー・光学・RF受信)の特性を整理し、通信リンクの監視という行為そのものが、期待した信号の欠落・期待しない信号の存在という2種類の異常検知を通じて、軌道上全体のSSAにとって重要な情報源になりうることを見ました。さらに、単一機関を超えたSSAデータの共有が、国際相互運用の回で学んだクロスサポートの精神の延長線上にあることを、複数のカタログをどう束ねるかという実務上の課題とともに確認しました。

この回をもって、システム・運用カテゴリはひとまず一区切りです。 ここまでの積み上げを振り返ると、RF伝送線路と整合Sパラメータフィルタ設計といったRFの基礎理論から出発し、パラボラアンテナフェーズドアレイアンテナアレイ運用といったアンテナ工学を積み上げ、電力バジェット放射線環境極低温冷却といった探査機を過酷な宇宙環境で長期間動かし続けるための設計を学び、DSN地上局自動化国際相互運用といった地上セグメントのアーキテクチャと運用体制を見て、最後にこの回でSSAという最も広い視座にたどり着きました。個々の探査機の物理層から出発し、その運用を支える組織・制度のレイヤーまで、探査機を「動かし続ける」ために必要な技術と仕組みを一通り俯瞰してきたことになります。

次回からはネットワーク・プロトコルカテゴリに戻り、これまでとは異なる新しいトピックへと進みます。個々のリンクや個々の機器の健全性・状態把握という、いわば「点」の視点から、複数の探査機・地上局・中継衛星が織りなす通信網全体を、プロトコルの設計としてどう成り立たせるかという、また違った角度の問いを扱っていきます。

参考文献

  • D. J. Kessler, B. G. Cour-Palais, “Collision Frequency of Artificial Satellites: The Creation of a Debris Belt,” Journal of Geophysical Research, Vol. 83, No. A6, 1978
  • IADC, IADC Space Debris Mitigation Guidelines, IADC-02-01, Revision 2
  • CCSDS 508.0-B-1, Conjunction Data Message
  • CCSDS 502.0-B-3, Orbit Data Messages
  • USSPACECOM / 18th Space Defense Squadron, Space Surveillance Network, Fact Sheet
  • D. A. Vallado, Fundamentals of Astrodynamics and Applications, Microcosm Press / Springer
  • ESA Space Debris Office, ESA’s Annual Space Environment Report
  • U.S. Space Force, Unified Data Library (UDL), Program Overview
  • SpaceX, Space Exploration Holdings, LLC Technical Attachment, FCC Filing (Starlink Gen2 Order), 2023