システム・運用#42

パラボラアンテナの幾何設計 — 放物面反射鏡・カセグレン系・ビーム導波管

前回学んだ開口アンテナ理論を、実際のパラボラ反射鏡の幾何光学設計に落とし込む。放物面が平行波を1点に集める理由を反射の法則と放物線の定義的性質から導出し、カセグレン・グレゴリアン・オフセット給電の違い、DSNのビーム導波管(BWG)方式、フィード照度テーパーと開口効率のトレードオフを数式とともに理解する。

前提知識: antenna-theory-basics

パラボラアンテナカセグレンビーム導波管開口効率反射鏡幾何

この回で学ぶこと

前回、開口アンテナの理論として、開口面積 AA と波長 λ\lambda から利得 GG が決まること、そして実際の開口には理想的な一様照射からのズレ(開口効率 ηap\eta_{ap})が伴うことを学びました。しかしそこでは「開口面に、ある振幅・位相分布を持つ電磁波が乗っている」ことを出発点にしていて、そもそもなぜパラボラ(放物面)という特定の形状の反射鏡を使うと、その理想的な平面波の開口分布が作れるのかには立ち入りませんでした。

この回ではその手前、つまり幾何光学(ジオメトリカル・オプティクス)のレベルまで話を戻します。深宇宙探査機からの電波は、地球に届く頃には波面がほぼ完全な平面波とみなせるほど広がりきっています。この平行に近い電波を、直径34mや70mという巨大な開口全体で受け止め、たった数cm四方の受信ホーンの中に集める役目を担っているのが、回転放物面の形をした反射鏡です。なぜ放物面だとそれができるのか、その幾何がどんなパラメータ(ffDDf/Df/D比)で特徴づけられるのか、そして実際のアンテナがなぜ単純な「お椀を1個置くだけ」の形をしていないのか(カセグレン式・グレゴリアン式・ビーム導波管方式)を、この回では数式で追っていきます。

直感的導入 — なぜ放物面は電波を1点に集めるのか

懐中電灯やヘッドライトの反射鏡、あるいは古典的な太陽炉(パラボラ型の集光鏡)を思い浮かべてみてください。これらはすべて放物面(またはその一部)の形をしています。放物面には「軸に平行に入射した光線は、すべて反射後にただ1点(焦点)を通る」という、他のどんな曲面にもない特別な性質があります。逆に、焦点から出た光線は、反射後にすべて軸に平行な平行光線になります(懐中電灯はこちらの向きで使っています)。

深宇宙通信のアンテナはこの性質を受信側で使います。数億km彼方の探査機から来た電波は、34mや70mという開口全体にわたって見ればほとんど完全な平面波(軸に平行な波面)とみなせます。この平行な波面を放物面反射鏡で受け止めると、すべての反射光線(電波の場合は光線ではなく波面の法線方向とエネルギーの流れの方向ですが、幾何光学近似ではまったく同じ扱いができます)が焦点に集まり、そこに置いた受信ホーン(フィード)が、開口全体で集めたエネルギーを一手に受け取れるわけです。

この「なぜ焦点に集まるのか」という問いに、単に「そういう性質がある」で済ませず、反射の法則(入射角 = 反射角)と放物線の定義そのものから、きちんと導いてみましょう。

放物面の幾何 — 焦点距離とf/D比

回転放物面は軸まわりに回転対称なので、軸を含む1つの平面で切った2次元の断面(放物線)だけを考えれば十分です。軸方向の座標を xx(頂点 x=0x=0 から測る)、軸からの半径方向の距離を rr とすると、焦点距離 ff の放物線は、準線(directrix、頂点から軸方向に f-f の位置にある、軸に垂直な直線)からの距離と、焦点 F=(f,0)F=(f,0) からの距離が等しい点の軌跡として定義されます。

P=(x,r)P=(x,r) について、準線までの距離は x+fx+f なので、この定義式は

PF=x+f(xf)2+r2=x+f|PF| = x+f \qquad \Longleftrightarrow \qquad \sqrt{(x-f)^2+r^2} = x+f

両辺を2乗して整理すると、おなじみの放物線の方程式が得られます。

(xf)2+r2=(x+f)2r2=4fx(x-f)^2+r^2=(x+f)^2 \quad\Longrightarrow\quad r^2 = 4fx

アンテナの開口直径を DD とすると、反射鏡の縁(リム)は r=D/2r=D/2 にあり、そこでの軸方向の深さ(サグ、sag)は

xrim=(D/2)24f=D216fx_{\text{rim}} = \frac{(D/2)^2}{4f} = \frac{D^2}{16f}

です。ここで工学的に最も重要な設計パラメータが、焦点距離と開口直径の比

fD\frac{f}{D}

です。f/Df/D が小さいほど(ff が短い、あるいは DD に対して浅い)反射鏡は「深いお椀」形になり、焦点は反射鏡の近くに来ます。逆に f/Df/D が大きいほど反射鏡は「浅い皿」形になり、焦点は反射鏡から遠くに離れます。深宇宙用の大型パラボラでは、後述する理由により f/D0.30.4f/D\approx0.3〜0.4 程度の比較的浅めの形状が標準的に選ばれます。

反射の法則からの証明 — なぜ焦点に集まるのか

放物線の定義式 PF=x+f|PF|=x+f だけから、反射の法則(入射角=反射角)によって軸に平行な光線が本当に焦点へ集まることを示しましょう。

放物線 r2=4fxr^2=4fx 上の点 P=(x0,r0)P=(x_0,r_0)(r02=4fx0r_0^2=4fx_0)における接線の傾きを、陰関数微分で求めます。

2rdrdx=4fdrdxP=2fr02r\,\frac{dr}{dx}=4f \quad\Longrightarrow\quad \left.\frac{dr}{dx}\right|_{P} = \frac{2f}{r_0}

この接線が軸(r=0r=0)と交わる点 TT を求めます。接線の式 rr0=2fr0(xx0)r-r_0=\dfrac{2f}{r_0}(x-x_0)r=0r=0 を代入すると、

r0=2fr0(xTx0)xTx0=r022f=4fx02f=2x0xT=x0-r_0 = \frac{2f}{r_0}(x_T-x_0) \quad\Longrightarrow\quad x_T-x_0=-\frac{r_0^2}{2f}=-\frac{4fx_0}{2f}=-2x_0 \quad\Longrightarrow\quad x_T=-x_0

ここで、焦点 F=(f,0)F=(f,0) から T=(x0,0)T=(-x_0,0) までの距離と、FF から PP までの距離を比べてみます。

FT=fxT=f+x0|FT| = f-x_T = f+x_0 FP=(x0f)2+r02=(x0f)2+4fx0=(x0+f)2=x0+f|FP| = \sqrt{(x_0-f)^2+r_0^2} = \sqrt{(x_0-f)^2+4fx_0} = \sqrt{(x_0+f)^2} = x_0+f

(FP=x0+f|FP|=x_0+f は、そもそも放物線の定義そのものからも直接言えることに注意してください。)つまり

FT=FP=x0+f|FT| = |FP| = x_0+f

三角形 FPTFPT は、FF を頂角とする二等辺三角形です。二等辺三角形の底角は等しいので、

FTP=FPT\angle FTP = \angle FPT

一方、準線上の点で PP から準線に下ろした垂線の足を D=(f,r0)D=(-f,r_0) とすると、線分 PDPD は軸に平行(水平)です。そして直線 TFTF(軸そのもの)も水平なので、PDTFPD \parallel TF です。この2本の平行線を横切る直線(接線 PTPT)によってできる錯角は等しいので、

DPT=FTP\angle DPT = \angle FTP

先ほどの二等辺三角形の結果 FTP=FPT\angle FTP=\angle FPT と合わせると、

DPT=FPT\angle DPT = \angle FPT

すなわち、接線 PTPT は角 DPF\angle DPF(軸に平行な方向と、焦点への方向がなす角)をちょうど2等分することが示されました。

これはまさに反射の法則そのものです。軸に平行にやってくる入射光線(その延長線が DD の側を通る方向)は、点 PP での反射面(接線平面)に対して、入射角と反射角が等しくなるように反射します。DPT=FPT\angle DPT=\angle FPT という角の2等分性は、「軸に平行な方向」と「焦点への方向」が接線に対して対称であることを意味しており、これはつまり軸に平行な入射光線が反射後に必ず焦点 FF を通ることを意味します。点 PP は放物線上の任意の点として選んだので、この性質は反射鏡上のどの点でも成り立ちます。

さらに、この幾何学的証明は「集光する」以上のことも教えてくれます。定義式 PF=x+f|PF|=x+f は、準線から焦点までの光路長(準線 → 反射点 → 焦点)が、反射鏡上のどの点を経由しても常に同じであることを意味します。準線は波面(軸に垂直な平面)そのものなので、これは「反射鏡上のどこで反射しても、焦点に到達するまでの位相(光路長)がすべて揃う」ことを意味します。つまり放物面は単に光線(エネルギーの流れ)を1点に集めるだけでなく、波面の位相まで焦点で揃えて同位相合成させるという、開口アンテナとして本質的に重要な性質を持っているのです。これが、前回学んだ「開口面の一様な振幅・位相分布が高い利得を生む」という議論と、幾何設計とをつなぐ橋渡しになります。

フィードの照度分布とテーパー — 開口効率とサイドローブのトレードオフ

放物面が波面を焦点に集めることが分かったところで、次は逆向きの問題を考えます。実際のアンテナでは、焦点に置いたフィード(一次放射器、送信ホーンやレンジングでは受信ホーン)自身にも、方向によって放射強度が異なる指向性パターン Gf(θ)G_f(\theta) があります(θ\theta はフィードの軸——放物面の軸と一致——からの角度)。このパターンが反射鏡の縁でどれだけの強さになっているかによって、開口面上の照度分布(振幅分布)が決まります。

まず、フィードから見て反射鏡の縁がどの角度に見えるかを求めておきましょう。反射鏡の縁(x=xrim=D2/16fx=x_{\text{rim}}=D^2/16fr=D/2r=D/2)を RR とし、焦点 FF から見た軸とのなす角を θ0\theta_0(フィード開口半角、feed subtended half-angle)とします。放物線の定義式より RF=xrim+f|RF|=x_{\text{rim}}+f であることを使うと、cosθ0=(fxrim)/RF=(fxrim)/(f+xrim)\cos\theta_0 = (f-x_{\text{rim}})/|RF| = (f-x_{\text{rim}})/(f+x_{\text{rim}}) となり、半角の公式 tan2(θ0/2)=(1cosθ0)/(1+cosθ0)\tan^2(\theta_0/2)=(1-\cos\theta_0)/(1+\cos\theta_0) に代入すると、

tan2 ⁣(θ02)=xrimf=D2/16ff=D216f2\tan^2\!\left(\frac{\theta_0}{2}\right) = \frac{x_{\text{rim}}}{f} = \frac{D^2/16f}{f}=\frac{D^2}{16f^2} tan ⁣(θ02)=D4f=14(f/D)\therefore\quad \tan\!\left(\frac{\theta_0}{2}\right) = \frac{D}{4f} = \frac{1}{4\,(f/D)}

これは前節で導入した f/Df/D 比と、フィードが反射鏡全体をどれだけ広い角度で見渡さなければならないかを直結させる、幾何設計上たいへん実用的な式です。f/Df/D が小さい(深いお椀形)ほど θ0\theta_0 は大きくなり、フィードは広角にわたって強く放射できる指向性パターンが必要になります。逆に f/Df/D が大きい(浅い皿形)ほど θ0\theta_0 は小さくなり、フィードは軸付近に絞られた鋭いパターンで十分になります。

フィードのパターン Gf(θ)G_f(\theta)θ\theta とともに一般に減衰するので、縁(θ=θ0\theta=\theta_0)での強度は中心(θ=0\theta=0)より弱くなります。この減衰量(デシベル)を**エッジテーパー(edge taper)**と呼びます。エッジテーパーが小さい(縁でもあまり弱まらない、照射がほぼ一様に近い)と開口の照度分布は一様に近づき、開口効率は高くなりますが、フィードのパターンが広角まで裾を引いているということでもあるので、反射鏡からはみ出して空間(あるいは地面)へ漏れる電力——スピルオーバー(spillover)——が増えます。逆にエッジテーパーが大きい(縁で大きく減衰する)とスピルオーバーは減りますが、開口の照度分布が中心に偏り、開口効率は下がります。

この2つの効果を定量化しましょう。開口の照度(振幅)分布 E(ρ)E(\rho)(ρ=r/(D/2)\rho=r/(D/2) は開口面上の正規化半径、0ρ10\le\rho\le1)による**照度効率(テーパー効率)**は、一般に次の式で与えられます。

ηt=AE(ρ)dA2AAE(ρ)2dA\eta_t = \frac{\left|\displaystyle\int_A E(\rho)\,dA\right|^2}{A\displaystyle\int_A |E(\rho)|^2\,dA}

(AA は開口面積。この式はコーシー・シュワルツの不等式から ηt1\eta_t\le1 となり、等号は E(ρ)E(\rho) が一様なとき(E=E=一定)にのみ成り立つことが分かります。)

具体例として、放物面反射鏡でよく使われる典型的なテーパー形状 E(ρ)=(1ρ2)pE(\rho)=(1-\rho^2)^p(pp はテーパーの強さを表すパラメータ、p=0p=0 が一様照射)を代入してみましょう。dA=2πρdρdA=2\pi\rho\,d\rho として、

01(1ρ2)pρdρ=12(p+1),01(1ρ2)2pρdρ=12(2p+1)\int_0^1(1-\rho^2)^p\,\rho\,d\rho = \frac{1}{2(p+1)}, \qquad \int_0^1(1-\rho^2)^{2p}\,\rho\,d\rho=\frac{1}{2(2p+1)}

(いずれも u=1ρ2u=1-\rho^2 と置換すれば直接積分できます。)これを ηt\eta_t の式に代入すると、

ηt=[2π12(p+1)]2π2π12(2p+1)=2p+1(p+1)2\eta_t = \frac{\left[2\pi\cdot\dfrac{1}{2(p+1)}\right]^2}{\pi\cdot 2\pi\cdot\dfrac{1}{2(2p+1)}} = \frac{2p+1}{(p+1)^2}

というきれいな閉じた式が得られます。p=0p=0(一様照射)で ηt=1\eta_t=1(100%)、p=1p=1ηt=3/4=75%\eta_t=3/4=75\%p=2p=2ηt=5/956%\eta_t=5/9\approx56\% となり、テーパーを強くするほど照度効率は下がっていくことが確認できます。

一方スピルオーバー効率は、フィードが放射する全電力のうち、反射鏡(角度 00 から θ0\theta_0 まで)に実際に当たる割合として定義されます。

ηs=0θ0Gf(θ)sinθdθ0πGf(θ)sinθdθ\eta_s = \frac{\displaystyle\int_0^{\theta_0}G_f(\theta)\sin\theta\,d\theta}{\displaystyle\int_0^{\pi}G_f(\theta)\sin\theta\,d\theta}

テーパーを強くする(フィードのパターンを鋭く絞る)と、θ0\theta_0 の外側にはみ出す電力は減るので ηs\eta_s は上がりますが、上で見た通り ηt\eta_t は下がります。逆にテーパーを弱める(パターンを広げる)と ηt\eta_t は上がりますが ηs\eta_s は下がります。実効的な開口効率はこの積を含む形

ηap=ηtηsηϕηxηblock\eta_{ap} = \eta_t\,\eta_s\,\eta_\phi\,\eta_x\,\eta_{\text{block}}\cdots

(位相誤差効率 ηϕ\eta_\phi、交差偏波効率 ηx\eta_x、遮蔽効率 ηblock\eta_{\text{block}} など他の損失要因を含む全体の式は前回の開口効率の議論を参照)で表されるので、ηtηs\eta_t\eta_s を最大にするエッジテーパーの「最適点」が存在します。古典的な解析(Silverらによる反射鏡アンテナ理論)では、典型的なコサインべき乗型のフィードパターンに対して、エッジテーパーがおよそ 11-11 dB 前後のときにこの積がほぼ最大になることが知られています。テーパーをこれより弱めれば照度効率は稼げてもスピルオーバー損失(そしてスピルオーバーが暖かい地面を見込むことによる系雑音温度の増加)が効き始め、これより強めればスピルオーバーは減っても照度の不均一によるロスが支配的になる、というトレードオフです。

さらに、テーパーはサイドローブレベルにも直結します。開口面の照度が縁に向かって滑らかにゼロへ近づくほど(テーパーが強いほど)、開口分布のフーリエ変換にあたる遠方界パターンのサイドローブは低く抑えられます。逆に一様照射に近づける(テーパーを弱める)と、主ビームの利得は上がる代わりにサイドローブは高くなります。深宇宙局のアンテナでは、他システムへの干渉抑制や電波天文的な運用要求から、ある程度のサイドローブ抑制(=ある程度のテーパー)が要求されるため、単純に開口効率だけを最大化する設計にはなっていません。

アンテナ構成の分岐 — プライムフォーカス・カセグレン・グレゴリアン・オフセット

これまでは焦点にフィードを直接置く**プライムフォーカス(前面焦点)**方式を暗黙に想定していました。これは幾何としては最も単純ですが、大型アンテナでは深刻な実務上の問題を抱えています。フィード(および、低雑音増幅器やダウンコンバータといった受信機のフロントエンド一式)を、支持構造(トライポッドやクアッドポッドと呼ばれる脚)で反射鏡の前方、焦点の位置に浮かせて固定しなければなりません。この支持構造と受信機自体が開口の一部を物理的に遮る(アパーチャブロッキング、aperture blocking)ため、利得の低下とサイドローブの増加を招きます。さらに、探査機からの信号は微弱なため、フィード直後にできるだけ雑音の少ない増幅器(次回扱うメーザーなど)を置きたいのですが、それを前方の焦点に置くと、点検・交換・低温維持(極低温冷却)が構造的にも運用的にもきわめて困難になります。

この問題を解決するのがカセグレン(Cassegrain)方式です。放物面(主反射鏡)の焦点 F1F_1 の手前に、凸型の双曲面(サブリフレクタ、副反射鏡)を追加で置きます。双曲面は2つの焦点を持ち、一方を主反射鏡の焦点 F1F_1 に一致させ、もう一方の焦点 F2F_2 を主反射鏡の頂点付近(反射鏡の裏側)に置きます。主反射鏡で反射して F1F_1 に向かう光線は、双曲面のもう1つの反射則(双曲面もまた「2焦点への距離の差が一定」という定義的性質から、F1F_1 方向への光線を F2F_2 方向へ折り返す性質を持ちます)によって F2F_2 へと折り返されます。こうして実質的な焦点(給電点)を、反射鏡の裏側、構造的に支持しやすく点検もしやすい頂点近くまで引き戻すことができます。

副反射鏡の離心率を e (>1)e\ (>1) とすると、カセグレン系は主反射鏡単体に比べて実効的な焦点距離を拡大する働きも持ち、その拡大率(倍率、magnification)は

M=e+1e1M = \frac{e+1}{e-1}

で与えられます。実効焦点距離は fe=Mff_e = M f となり、物理的にはコンパクトな構造でありながら、光学的には f/Df/D の大きい(浅く、収差の少ない)系として振る舞わせることができます。これにより、フィード自体の設計も、広角に強く照射する必要のあった深いお椀形のプライムフォーカス系よりも、扱いやすくなります。

グレゴリアン(Gregorian)方式は考え方は同じですが、副反射鏡に凹型の楕円面を使い、主反射鏡の焦点 F1F_1 よりも外側(遠く)に置く点が異なります。楕円面はやはり2つの焦点(距離のが一定という定義的性質)を持ち、一方を F1F_1、他方を頂点付近の F2F_2 に一致させることで、カセグレンと同様に給電点を折り返します。グレゴリアン配置は副反射鏡が主反射鏡の焦点よりも遠くに来るため、同じ主反射鏡でも副反射鏡がやや大きくなる傾向がありますが、副反射鏡による遮蔽や散乱の特性がカセグレンとは異なり、系によっては雑音特性の面で有利になることもあります。

もう1つの分類軸が**オフセット給電(offset-fed)**方式です。これはより大きな親放物面の一部(軸から外れた「切り出し」部分)だけを反射鏡として使う設計で、フィード(あるいはカセグレン系ならサブリフレクタ)を開口の外側にオフセットして配置することで、支持構造による開口遮蔽そのものをなくすことができます。遮蔽がないぶん理論上のサイドローブ・開口効率の面で有利ですが、反射鏡自体が非対称形状になるため製造・構造設計は複雑になり、また偏波特性にも非対称な影響(交差偏波の増加)が出ます。家庭用の衛星放送用パラボラなどではオフセット方式が広く使われていますが、DSNクラスの数十m級大型アンテナでは、構造的な複雑さと大きさの兼ね合いから、軸対称なカセグレン系が標準となっています。

ビーム導波管(BWG)方式

カセグレン方式で給電点を反射鏡の頂点付近まで引き戻せたとはいえ、その位置はまだアンテナの仰角軸・方位角軸とともに物理的に動き続ける構造物の上にあります。探査機のミッションによっては、同時に複数の周波数帯(SバンドとXバンド、あるいはXバンドとKaバンド)を受信したい、あるいは複数の受信機(通常の通信用、レンジング用、電波科学用など)を切り替えて使いたい、という要求があります。これらの受信機、とりわけ次回扱う低雑音のメーザー増幅器は、大型の極低温冷凍機を伴う重量物であり、アンテナの構造とともに仰角方向に傾き続ける場所には設置しづらいものです。

ビーム導波管(Beam Waveguide, BWG)方式は、カセグレン光学系(主反射鏡+双曲面副反射鏡)で一度収束させたビームを、そこで止めずに、さらに複数枚の平面鏡(あるいは成形された鏡)を経由させて、仰角軸・方位角軸に沿って構造物の内部を下方へ導き、最終的に地上の固定された「ペデスタル室(pedestal room)」まで送り込む設計です。DSNの34m BWGアンテナでは、典型的に4枚から6枚程度の追加ミラーを使ってこの経路を実現しています。

BWG方式の設計思想上の利点は以下の通りです。

  • 受信機を動かない場所に置ける。ペデスタル室はアンテナの回転軸の直下にあり、アンテナが方位角・仰角どちらに向いても位置が変わりません。重量のあるメーザー増幅器や極低温冷凍機を、揺れ・振動・重力方向の変化を気にせず安定に設置・運用できます。
  • 複数の受信機を容易に切り替えられる。ペデスタル室内に複数の周波数帯・複数の受信機系統を並べて配置し、回転鏡や周波数選択性のダイクロイックプレート(特定の周波数帯だけを反射・透過させる板)を使ってビーム経路を切り替えることで、同じアンテナで複数の受信機を機械的に(あるいは一部電気的に)選択できます。
  • 保守性の向上。地上レベルでの点検・交換作業が可能になり、アンテナ構造の高所に登る必要が大幅に減ります。
  • 熱的・機械的安定性。感度の高い低雑音フロントエンドを、温度管理された固定室内に置けるため、外気温変化や構造変形の影響を受けにくくなります。

この設計思想は、前々回までに扱ったPLLやアンテナ自動追尾の「フィードバックで誤差を追い続ける」という発想とは異なり、そもそも動く部分と動かない部分を光学的に分離してしまうという、幾何設計ならではのアプローチだと言えます。

実務での使われ方

NASA/JPLのDSN(Deep Space Network)では、ゴールドストーン(米国)・マドリード(スペイン)・キャンベラ(オーストラリア)の3局に、口径34mのBWGアンテナが複数機ずつ、そして各局に口径70mのアンテナが1機ずつ展開されています。

34m BWGアンテナは、公称値として主反射鏡の f/D0.327f/D\approx0.327 程度のカセグレン・ビーム導波管系として設計されており、この浅めの f/Df/D とBWG方式の組み合わせにより、S/X/Kaバンドを同時にペデスタル室で受信・切り替えできる柔軟な運用が可能になっています。特にKaバンド(32 GHz、λ0.94\lambda\approx0.94 cm)のような高周波受信を可能にするには、反射鏡表面の製作精度が極めて重要です。表面の実効的なランダム誤差(RMS)を ε\varepsilon とすると、理想的な鏡面に対する利得の低下は、Ruzeの式として知られる次の関係で近似されます。

GG0=exp ⁣[(4πελ)2]\frac{G}{G_0} = \exp\!\left[-\left(\frac{4\pi\varepsilon}{\lambda}\right)^2\right]

たとえばKaバンド(λ=0.94\lambda=0.94cm)で利得低下を0.2dB以内(真数比でおよそ 100.020.95410^{-0.02}\approx0.954)に抑えたい場合、

(4πελ)2ln(0.954)0.047ε0.0474π×0.94 cm0.017 cm0.17 mm\left(\frac{4\pi\varepsilon}{\lambda}\right)^2 \le -\ln(0.954)\approx0.047 \quad\Longrightarrow\quad \varepsilon \le \frac{\sqrt{0.047}}{4\pi}\times0.94\text{ cm}\approx0.017\text{ cm}\approx0.17\text{ mm}

このように、34m級の反射鏡全面にわたって0.2mm程度以下のRMS精度を実現しなければならず、これがKaバンド対応アンテナの製造・パネル調整における最大の技術的挑戦の1つになっています。

70mアンテナはDSN最大の開口を持つカセグレン系アンテナで、公称 f/D0.41f/D\approx0.41 程度と34m BWGよりもやや浅めの光学系を採っています。最大の利得(集光力)を持つため、ボイジャーのような太陽系外縁を航行する探査機や、電力の限られた最小限のリンクバジェットしか持たないミッションなど、最も信号強度に余裕のないケースで運用の主力となります。

大型パラボラには、幾何設計だけでは解決しきれない構造的な課題も伴います。

  • 自重による表面変形(gravity deformation): 仰角によって反射鏡各部にかかる自重の向きが変わるため、天頂を向いているときと地平線近くを向いているときとでは、反射鏡はわずかに異なる形に撓みます。70m級の構造ではこの変形量は無視できません。この問題への古典的な対処法が**ホモロガス設計(homologous design)**という考え方で、反射鏡の裏面トラス構造を、どんな仰角でも「変形後の形状がやはり別の(焦点距離のわずかに異なる)放物面になる」ように設計します。完全に変形を防ぐのではなく、変形しても放物面という性質そのものは保たれるようにし、副反射鏡やフィードの位置を仰角に応じて微調整(リフォーカス)することで性能を維持する、という発想です。
  • 熱変形: 太陽が反射鏡の片側だけを加熱すると、構造材の熱膨張が不均一になり、やはり表面精度を乱します。
  • 風荷重: 数十mの開口はそれ自体が巨大な「帆」として働くため、突風や強風時には駆動モータの制御能力を超える外乱トルクがかかります。DSNの運用では、一定以上の風速になると追尾精度の劣化を許容するか、極端な場合はアンテナを風の影響を受けにくい安全姿勢(ゼニス方向に向けるスタウ姿勢など)に退避させる運用ルールが定められています。

これらの構造的制約は、アンテナ自動追尾の回で扱った機械的サーボ追尾の性能とも密接に関係しており、幾何設計・構造設計・制御設計が一体となって初めて、深宇宙リンクに必要なポインティング精度と表面精度が両立されているのです。

演習問題

  1. DSNの34m BWGアンテナの公称値 f/D0.327f/D\approx0.327 を用いて、フィード開口半角 θ0\theta_0 を式 tan(θ0/2)=1/(4(f/D))\tan(\theta_0/2)=1/(4(f/D)) から求めよ(度単位)。同様に70mアンテナの f/D0.41f/D\approx0.41 についても θ0\theta_0 を求め、どちらのフィードがより広角にわたる指向性パターンを必要とするか論じよ。

  2. 開口照度分布 E(ρ)=(1ρ2)pE(\rho)=(1-\rho^2)^p について、p=1p=1p=2p=2 のそれぞれの照度効率 ηt=(2p+1)/(p+1)2\eta_t=(2p+1)/(p+1)^2 を計算せよ。pp を大きくすると開口効率と(本文で述べた)サイドローブレベルはそれぞれどう変化するか、トレードオフの観点から説明せよ。

  3. Kaバンド(λ=0.94\lambda=0.94cm)ではなくXバンド(λ3.57\lambda\approx3.57cm)で運用する反射鏡について、利得低下を0.2dB以内に抑えるために許容される表面RMS誤差 ε\varepsilon をRuzeの式から求め、Kaバンドの場合(本文中で約0.17mmと計算した)と比較せよ。周波数が上がるほど製作精度への要求がどう変化するか、その理由も含めて述べよ。

  4. カセグレン方式やビーム導波管方式が、なぜ低雑音増幅器(次回扱うメーザーなど)をアンテナ設計に組み込むうえで、プライムフォーカス方式より有利なのかを、本文で述べた構造的・熱的・保守性の観点から自分の言葉でまとめよ。

まとめと次回予告

放物面反射鏡は、その定義的性質(準線と焦点への等距離性)ゆえに、軸に平行な入射波を焦点に集めるだけでなく、反射点によらず光路長を一定に保ち、波面の位相まで焦点で揃えるという、開口アンテナとして本質的な性質を持っています。この幾何は焦点距離 ff と開口直径 DD の比 f/Df/D によって特徴づけられ、フィードが反射鏡を見込む角度 θ0\theta_0 を通じて、フィードの照度分布(テーパー)・開口効率・スピルオーバー・サイドローブレベルという一連のトレードオフに直結します。さらに、カセグレン式やビーム導波管方式は、この幾何を単に「電波を集める」だけでなく「給電点をどこに、どう配置するか」という構造・運用上の要求まで含めて最適化する工夫であることを見ました。

次回は、この給電点(フィードやペデスタル室)に実際に置かれる低雑音増幅器とメーザーを扱います。ここまで見てきた幾何設計がどれだけ精密に電波を焦点へ集めても、そこで受け取った微弱な信号に増幅器自身の雑音が上乗せされてしまっては意味がありません。極低温に冷却したメーザー増幅器がどうやって熱雑音の理論限界に迫る性能を実現しているのかを、次は見ていきます。

参考文献

  • W. A. Imbriale, Large Antennas of the Deep Space Network, JPL Publication 02-6, Wiley
  • J. Ruze, “Antenna Tolerance Theory — A Review,” Proceedings of the IEEE, 1966
  • P. W. Rusch, D. Potter, Analysis of Reflector Antennas, Academic Press
  • C. A. Balanis, Antenna Theory: Analysis and Design, Wiley
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005(アンテナ光学系・反射鏡設計に関するモジュール)
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76