変調・符号化#177

偏波多重による周波数再利用 — 交差偏波識別度(XPD)と直交性の限界

[偏波の回](/lessons/polarization-circular-linear/)で学んだ直交する2つの偏波状態を、同じ周波数帯で独立な2チャンネルとして使う「偏波多重による周波数再利用」を扱う。偏波損失係数(PLF)の一般式を『望ましくないクロストーク』の評価に転用して交差偏波識別度(XPD)を定式化し、アンテナの偏波純度の限界・降雨・ファラデー回転によって完全な直交性が崩れる理由を軸比とアラインメント誤差の式で定量化する。

前提知識: 偏波 — 直線偏波と円偏波、なぜ深宇宙リンクは円偏波を選ぶのか

偏波多重周波数再利用XPD軸比降雨減衰

この回で学ぶこと

偏波の回では、電場ベクトルの振動の向き――直線偏波・円偏波・楕円偏波――を数式で定式化し、送受アンテナの偏波が食い違うとどれだけ受信電力が損なわれるかを**偏波損失係数(PLF)**として導きました。そこで得られた結論の1つが、「右旋円偏波(RHCP)と左旋円偏波(LHCP)は理想的には完全に直交し、互いにまったく干渉しない」というものでした(前回のケース3、PLF=0\mathrm{PLF}=0)。

この事実は、見方を変えると強力な工学的資源になります。もし2つの偏波状態が本当に独立なチャネルとして使えるなら、同じ周波数帯を2回使い回して、周波数帯域を増やさずに伝送容量を2倍にできるはずです。これが**偏波多重による周波数再利用(polarization frequency reuse)**の基本アイデアで、静止衛星通信をはじめ多くの実システムで容量を稼ぐための標準的な手法になっています。

しかしこの回で見ていくように、「完全な直交性」はあくまで理想化された仮定です。アンテナのフィード設計には物理的な限界があり、電波が通過する大気にも乱れがあります。この回では、

  • 2つの偏波チャネルが互いに漏れ込む量を定量化する**交差偏波識別度(XPD: Cross-Polarization Discrimination)**の定義、
  • アンテナの偏波純度(軸比)の限界が、なぜXPDに上限を課すのかを表す数式、
  • 大気中のファラデー回転降雨が、なぜ運用中にXPDを悪化させるのかという物理、
  • 実際の静止衛星通信・地上局受信系での偏波多重の使われ方、

を順番に扱います。前回導出したPLFの一般式を、今回は「望ましい信号成分」ではなく「望ましくないクロストーク」を評価する道具として読み直すのがこの回の中心的な視点です。

直感的導入 — 同じ「箱」に2つの荷物を詰める

電波の周波数帯域は有限な資源です。ある周波数帯を2つの独立な信号(たとえば2つのテレビチャンネル、あるいは2つの探査機テレメトリストリーム)で同時に使いたいとき、最も素朴な方法は周波数を分割することです。しかしこれは占有帯域幅をそのまま2倍必要とします。

偏波多重はこれとは別の軸を使います。電波には周波数のほかに「電場がどの向きに振動しているか」という自由度があり、直交する2つの偏波状態(RHCPとLHCP、あるいは水平偏波Hと垂直偏波V)は、理想的には互いにまったく相関を持たない独立な”箱”として扱えます。同じ周波数 f0f_0 にチャンネル1をRHCPで、チャンネル2をLHCPで載せて同時に送信すれば、受信側でRHCP用アンテナとLHCP用アンテナをそれぞれ用意するだけで、2つの信号を分離して受信できる――これが偏波多重の直感です。周波数帯域という「箱の大きさ」は変えずに、偏波という別の仕切りで箱の中身を2倍に増やすようなものです。

ただし現実には、この2つの仕切りの間に完全な壁はありません。片方のチャネルの信号がわずかに漏れ、もう片方のチャネルの受信機にノイズのように混入します。これを**交差偏波干渉(cross-polarization interference)**と呼び、この回の後半で扱う各種の非理想性がその原因になります。

数式定式化

直交性の条件 — PLF=0をクロストーク評価の道具として読み直す

前回、複素偏波ベクトル ρ^\hat\rho を使ってPLFを

PLF=ρ^wρ^a2\mathrm{PLF} = \left|\hat\rho_w \cdot \hat\rho_a^{*}\right|^2

と定義しました(ρ^w\hat\rho_w: 到来波の偏波ベクトル、ρ^a\hat\rho_a: 受信アンテナの偏波ベクトル)。偏波多重の文脈でこの式を使うときは、主役が入れ替わります。前回は「自分が受け取りたい信号がどれだけロスなく届くか」を評価する式でしたが、今回は同じ式を「自分が受け取りたくない、隣のチャネルの信号がどれだけ漏れ込んでくるか」を評価するために使います。

2つの直交する送信チャネルの偏波ベクトルを ρ^1,ρ^2\hat\rho_1, \hat\rho_2 とし、これらが理想的に直交している(前回のケース2・3で確認したRHCP対LHCP、あるいはH対Vの関係)とすると、

ρ^1ρ^2=0\hat\rho_1 \cdot \hat\rho_2^{*} = 0

が成り立ちます。この条件のもとでは、チャネル1用に設計された受信アンテナ(ρ^a=ρ^1\hat\rho_a = \hat\rho_1)は、チャネル1の信号を PLF=ρ^1ρ^12=1\mathrm{PLF}=|\hat\rho_1\cdot\hat\rho_1^{*}|^2=1(ロスなし)で受け取る一方、チャネル2の信号は PLF=ρ^2ρ^12=0\mathrm{PLF}=|\hat\rho_2\cdot\hat\rho_1^{*}|^2=0(理論上ゼロ)でしか受け取りません。この「片方は1、もう片方は0」という理想的な二分法こそが、周波数を共有しても2つのチャネルが混信しないことの数式的な根拠です。

交差偏波識別度(XPD)の定義

現実のシステムでは、上記の PLF=0\mathrm{PLF}=0 は達成されず、有限の漏れ込みが残ります。この漏れ込みの大きさを実務で扱いやすい形にしたのが**交差偏波識別度(XPD)**です。チャネル1用の受信機が受け取る電力のうち、

  • 本来受け取るべきチャネル1の信号電力を PcoP_{\text{co}}(co-polar、共偏波成分)、
  • 本来なら遮断したいチャネル2からの漏れ込み電力を PcrossP_{\text{cross}}(cross-polar、交差偏波成分)

とすると、XPDは両者の比としてdBで定義されます。

XPD [dB]=10log10 ⁣(PcoPcross)\boxed{\mathrm{XPD}\ [\text{dB}] = 10\log_{10}\!\left(\frac{P_{\text{co}}}{P_{\text{cross}}}\right)}

理想的な直交性(PLFcross=0\mathrm{PLF}_{\text{cross}}=0)のもとではXPDは無限大(漏れ込みゼロ)ですが、現実のアンテナ・伝搬路ではXPDは有限の値、実用上はおおむね20〜35 dB程度の範囲に収まります。XPDが大きいほど2つのチャネルの独立性が高く、後段の受信機で追加の信号処理をしなくても各チャネルを個別に復調できます。逆にXPDが小さくなると、隣接チャネルの信号がノイズのように重畳し、実効的な Eb/N0E_b/N_0(PCM/PSK/PMの回で導入した信号対雑音比)を悪化させ、ビット誤り率を増加させます。

アンテナの偏波純度の限界 — 軸比とXPDの関係

なぜXPDは無限大にならないのでしょうか。最大の原因の1つは、アンテナのフィードそのものが完全な円偏波(あるいは完全な直線偏波)を作れないことです。アンテナフィード系の回で見たように、円偏波は偏波器(ポラライザ)やセプタムポラライザによって直線偏波から人工的に作られますが、これらの部品の加工精度・組み立て精度には限界があり、実際に放射される偏波はわずかに楕円化します。この楕円化の度合いを表す指標が、前回導入した軸比(axial ratio) rr(r=1r=1: 理想的な円偏波、rr\to\infty: 直線偏波)です。

ここで前回導出したPLFの一般式(軸比 rw,rar_w, r_a、主軸のなす角 ψ\psi、旋回方向の一致を表す符号 χ\chi)を再掲します。

PLF=12[1+4χrwra+(1rw2)(1ra2)cos2ψ(1+rw2)(1+ra2)]\mathrm{PLF} = \frac{1}{2}\left[1 + \frac{4\chi\, r_w r_a + (1-r_w^2)(1-r_a^2)\cos2\psi}{(1+r_w^2)(1+r_a^2)}\right]

送信側は理想的な円偏波(rw=1r_w=1)を送るが、受信アンテナのフィードには実測の軸比 ra=ρ (ρ1)r_a=\rho\ (\rho \ge 1) の非理想性があり、主軸の向きは揃っている(ψ=0\psi=0)とします。まず共偏波チャネル(チャネル1をRHCPで送信し、同じRHCP用に設計された受信ポートで受ける、χ=+1\chi=+1)について rw=1,ra=ρ,ψ=0r_w=1, r_a=\rho, \psi=0 を代入すると、

PLFco=12[1+4ρ2(1+ρ2)]=(1+ρ)22(1+ρ2)\mathrm{PLF}_{\text{co}} = \frac{1}{2}\left[1+\frac{4\rho}{2(1+\rho^2)}\right] = \frac{(1+\rho)^2}{2(1+\rho^2)}

次に交差偏波チャネル(チャネル2をLHCPで送信したものが、同じ受信ポートに漏れ込む、χ=1\chi=-1。物理的なフィードの向きは同じなので ρ,ψ\rho, \psi は共通)については、

PLFcross=12[14ρ2(1+ρ2)]=(1ρ)22(1+ρ2)\mathrm{PLF}_{\text{cross}} = \frac{1}{2}\left[1-\frac{4\rho}{2(1+\rho^2)}\right] = \frac{(1-\rho)^2}{2(1+\rho^2)}

両者の比を取ると、分母の 2(1+ρ2)2(1+\rho^2) が消えて、

PLFcoPLFcross=(1+ρ1ρ)2=(1+ρρ1)2(ρ1 なので 1ρ=ρ1)\frac{\mathrm{PLF}_{\text{co}}}{\mathrm{PLF}_{\text{cross}}} = \left(\frac{1+\rho}{1-\rho}\right)^2 = \left(\frac{1+\rho}{\rho-1}\right)^2 \quad(\rho\ge1\text{ なので }|1-\rho|=\rho-1)

これをdBに直すと、軸比だけからXPDの上限を予測する式が得られます。

XPD [dB]=20log10 ⁣(1+ρρ1)\boxed{\mathrm{XPD}\ [\text{dB}] = 20\log_{10}\!\left(\frac{1+\rho}{\rho-1}\right)}

この式は、円偏波アンテナの設計仕様としてよく引用される軸比 ARdB=20log10ρ\mathrm{AR}_{\text{dB}} = 20\log_{10}\rho と直結しています。たとえば軸比 ARdB=1.0\mathrm{AR}_{\text{dB}}=1.0 dB(ρ=101/201.122\rho = 10^{1/20}\approx1.122)のフィードでは、

XPD=20log10 ⁣(2.1220.122)20log10(17.4)24.8 dB\mathrm{XPD} = 20\log_{10}\!\left(\frac{2.122}{0.122}\right) \approx 20\log_{10}(17.4) \approx 24.8\ \text{dB}

一方、より高精度に加工された軸比 ARdB=0.5\mathrm{AR}_{\text{dB}}=0.5 dB(ρ1.059\rho\approx1.059)のフィードでは、

XPD20log10(34.7)30.8 dB\mathrm{XPD} \approx 20\log_{10}(34.7) \approx 30.8\ \text{dB}

軸比のわずか0.5 dBの差が、XPDでは約6 dBもの差になって現れます。これが、円偏波を用いた偏波多重システムで軸比の仕様(多くの場合1 dB以下、高性能な地上局アンテナでは0.3〜0.5 dB程度)がシビアに管理される理由です。

同様の議論は直線偏波(H/V)による周波数再利用にも成り立ちます。送受のフィード軸に角度 ε\varepsilon のアラインメント誤差(機械的な組み立て誤差、あるいは後述するファラデー回転による偏波面の回転)があるとすると、前回の演習問題で確認した直線偏波の極限(rw,rar_w,r_a\to\infty)でPLFが cos2ψ\cos^2\psi に収束することを使って、共偏波チャネルは PLFco=cos2ε\mathrm{PLF}_{\text{co}}=\cos^2\varepsilon、交差偏波チャネル(直交するはずのもう一方の偏波からの漏れ込み)は PLFcross=sin2ε\mathrm{PLF}_{\text{cross}}=\sin^2\varepsilon となるので、

XPD [dB]=20log10(cotε)=20log10(tanε)\mathrm{XPD}\ [\text{dB}] = 20\log_{10}(\cot\varepsilon) = -20\log_{10}(\tan\varepsilon)

たとえば ε=1°\varepsilon=1° のアラインメント誤差では XPD35.2\mathrm{XPD}\approx35.2 dB、ε=2°\varepsilon=2° では XPD29.1\mathrm{XPD}\approx29.1 dBまで低下します。1°程度の違いが数dBの差になるため、直線偏波による周波数再利用を行う衛星通信システムでは、アンテナの偏波面を1°程度の精度で衛星の偏波基準に合わせ込む「偏波アラインメント調整」が運用上重要な作業になります。

伝搬路での偏波の乱れ — ファラデー回転と降雨減衰

ここまではアンテナ自体の非理想性が原因でしたが、電波が伝搬する媒質そのものが偏波を乱すこともあります。

ファラデー回転。 偏波の回で扱ったように、直線偏波の電波が電離圏のような磁化プラズマを通過すると、偏波面が伝搬距離・電子密度・磁場強度に応じて回転するファラデー回転が生じます。この回転角を εF\varepsilon_F とすると、これは前節で導入したアラインメント誤差 ε\varepsilon とまったく同じ形でXPDに効いてきます。つまりファラデー回転は、直線偏波による周波数再利用システムにとって共偏波信号のわずかな減衰であると同時に、隣接チャネルとのクロストークを増大させる直接の原因になります。ファラデー回転角はおおよそ周波数の2乗に反比例して小さくなるため、L帯・S帯のような低い周波数帯では無視できない一方、Ku帯・Ka帯(10 GHz以上)の静止衛星通信リンクでは通常ごくわずかであり、これらの帯域で直線偏波による周波数再利用が広く採用されている一因になっています。

降雨による減偏波(rain depolarization)。 Ku帯・Ka帯のようにファラデー回転の影響が小さい周波数帯でも、XPDを実運用上悪化させる支配的な要因が別にあります。それが降雨です。雨滴は完全な球形ではなく、落下中の空気抵抗によって扁平な回転楕円体に変形します。この非球形の雨滴が電波の伝搬路を斜めに横切ると、雨滴の長軸方向の偏波成分と短軸方向の偏波成分とで減衰量・位相遅延が異なるため、直線偏波(あるいは円偏波)の一部が意図しないもう一方の偏波成分に変換されてしまいます。ITU-R勧告 P.618は、この現象による降雨時のXPD劣化を、共偏波側の降雨減衰量 ApA_p(dB、[リンク環境・電力設計]分野で扱う降雨減衰モデルで求まる量)の対数に対してほぼ線形に劣化するという経験式

XPDrain [dB]UVlog10(Ap)\mathrm{XPD}_{\text{rain}}\ [\text{dB}] \approx U - V\log_{10}(A_p)

の形でモデル化しています(U,VU, V は周波数・偏波の幾何配置に依存する経験定数)。定性的に重要なのは、降雨減衰が大きい(強い雨)ほどXPDは対数的に悪化するという関係で、晴天時に30 dB程度あったXPDが、強い降雨時には20 dBを下回るところまで劣化することも珍しくありません。これが、次回予告で触れる交差偏波干渉除去(XPIC)という追加の信号処理が必要とされる主要な動機です。

実務での使われ方

静止衛星通信での容量倍増。 固定衛星通信(FSS)や直接放送衛星(DBS)の分野では、偏波多重による周波数再利用は容量を稼ぐための標準的な手法です。Intelsat・Eutelsat・SESなどの商用静止衛星オペレータは、C帯・Ku帯のトランスポンダを水平偏波(H)・垂直偏波(V)の2系統に分け、同じ周波数プランをH系統とV系統で重ねて使うことで、割り当てられた周波数帯域はそのままに実効的なトランスポンダ数(≒伝送容量)を約2倍に増やしています。米国のKu帯DBS(DIRECTV・DISH Networkなど)では、FCCの規則に基づき円偏波(RHCP/LHCP)による周波数再利用が採用されており、限られた12.2〜12.7 GHz帯の中でチャンネル数を実質的に倍増させています。

XPDの規制上の要件。 こうした偏波による周波数再利用が成立するためには、静止衛星の軌道間隔調整(コーディネーション)においても一定のXPD性能が前提とされます。ITU-Rや各国の電波法制(米国であればFCC Part 25)では、偏波多重を利用する衛星システムに対して、晴天時でおおむね30 dB程度以上のXPDを確保することが実務上の目安として扱われており、この回で導いた軸比・アラインメント誤差の式が、アンテナメーカーの仕様書に記載される軸比スペック(多くの場合1 dB以下)の根拠になっています。

地上局側の受信系統。 偏波多重された信号を受信するには、地上局のフィードで2つの偏波を分離する必要があります。アンテナフィード系の回で扱ったセプタムポラライザやOMT(直交モードトランスデューサ)は、まさにこの分離を担う部品で、1つの導波管開口部から2つの直交ポートを取り出し、それぞれを独立のLNA・ダウンコンバータ・復調器のチェーンへ送ります。これは探査機RFフロントエンドの回で扱ったダイプレクサが「周波数」によって送信・受信の2系統を分離する部品だったのと発想は同じですが、ここでは「偏波」という別の軸で2つの同一周波数のチャネルを分離している点が異なります。DSNの大型アンテナの多くがRHCP・LHCPを同時に受信できるデュアル円偏波フィードを備えているのは、電波科学観測(掩蔽観測やレーダー観測での偏波情報の取得)に加えて、複数の偏波チャネルを独立に扱える受信系統そのものの汎用性を確保するためでもあります。

演習問題

  1. 軸比 ARdB=0.8\mathrm{AR}_{\text{dB}}=0.8 dBのフィードについて、まず ρ=10ARdB/20\rho=10^{\mathrm{AR}_{\text{dB}}/20} を計算し、その値を本文の XPD=20log10 ⁣(1+ρρ1)\mathrm{XPD}=20\log_{10}\!\left(\dfrac{1+\rho}{\rho-1}\right) に代入してXPD(dB)を求めてください。

  2. 本文中の PLFco=(1+ρ)22(1+ρ2)\mathrm{PLF}_{\text{co}}=\dfrac{(1+\rho)^2}{2(1+\rho^2)}PLFcross=(1ρ)22(1+ρ2)\mathrm{PLF}_{\text{cross}}=\dfrac{(1-\rho)^2}{2(1+\rho^2)} の導出を、前回のPLF一般式に rw=1, ra=ρ, ψ=0, χ=±1r_w=1,\ r_a=\rho,\ \psi=0,\ \chi=\pm1 を代入する計算過程を自分の手で追い、ρ=1\rho=1(理想的な円偏波)のときに PLFco=1, PLFcross=0\mathrm{PLF}_{\text{co}}=1,\ \mathrm{PLF}_{\text{cross}}=0 となる(つまりXPDが無限大に発散する)ことを確認してください。

  3. 直線偏波による周波数再利用システムで、地上局アンテナの偏波面アラインメント誤差が ε=1.5°\varepsilon=1.5° だったとします。本文の式 XPD=20log10(tanε)\mathrm{XPD}=-20\log_{10}(\tan\varepsilon) を使ってXPDを計算し、ε=1°\varepsilon=1°ε=2°\varepsilon=2° の場合(本文中の数値)と比較して、アラインメント精度がXPDにどれだけ敏感かを論じてください。

  4. 晴天時のXPDが32 dBあるリンクで、降雨により共偏波側の降雨減衰が Ap=8A_p=8 dBまで増加したとします。本文で紹介した経験式 XPDrainUVlog10(Ap)\mathrm{XPD}_{\text{rain}} \approx U - V\log_{10}(A_p) において、仮に晴天時のXPD値がAp0A_p\to0dBの極限(この経験式の適用範囲外ではありますが)にほぼ対応すると仮定し、U=32U=32 dB、V=12V=12 という係数を当てはめた場合の降雨時XPDを概算してください。その上で、この劣化がなぜ復調器に追加の信号処理(次回予告のXPIC)を要求するのか、Eb/N0E_b/N_0 の悪化という観点から自分の言葉で説明してください。

まとめと次回予告

前回学んだ偏波損失係数(PLF)の一般式は、「望ましい信号がどれだけロスなく届くか」だけでなく、視点を変えれば「望ましくない隣接チャネルの信号がどれだけ漏れ込むか」を評価する道具としても使えることを見ました。この漏れ込みを定量化する交差偏波識別度(XPD)は、アンテナの軸比(偏波純度)から理論上の上限が決まり、さらに伝搬路でのファラデー回転や降雨によって運用中に劣化します。静止衛星通信の多くが、この有限だが十分に大きいXPD(晴天時でおおむね30 dB前後)を前提に、同じ周波数帯をH/VあるいはRHCP/LHCPの2チャネルで再利用し、実効的な伝送容量を倍増させています。

しかし降雨のように運用中にXPDが大きく劣化する場面では、固定的なアンテナ設計だけでは対処しきれません。次回は、受信側の信号処理でこの劣化を補償する**交差偏波干渉除去(XPIC: Cross-Polarization Interference Canceller)**に軽く触れます。これは、一方のチャネルの復調結果を使ってもう一方のチャネルへの漏れ込み成分をリアルタイムに推定・除去する適応信号処理で、降雨によってXPDが規定値を下回るような衛星通信・地上マイクロ波中継回線で広く使われている技術です。

参考文献

  • C. A. Balanis, Antenna Theory: Analysis and Design, Wiley
  • ITU-R Recommendation P.618, Propagation data and prediction methods required for the design of Earth-space telecommunication systems
  • ITU-R Recommendation S.736, Cross-polarization isolation and discrimination for satellite systems
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • G. Maral, M. Bousquet, Satellite Communications Systems: Systems, Techniques and Technology, Wiley
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005