システム・運用#191

導波管モード理論 — 中空の金属管が大電力マイクロ波を運ぶ物理

DSNの数十kW級送信系はなぜ同軸ケーブルではなく中空の金属管で給電されるのか。マクスウェル方程式と境界条件から矩形導波管のTE/TMモードと遮断周波数を導出し、管内波長・位相速度・群速度の分散関係、壁面損失、大電力耐性までを数式で理解する。

前提知識: 伝送線路理論とVSWR — アンテナと送受信機をつなぐケーブルの物理

導波管TE10モード遮断周波数大電力送信DSN

この回で学ぶこと

伝送線路理論とVSWRの回では、同軸ケーブルを分布定数線路としてモデル化し、特性インピーダンス Z0Z_0 と反射係数 Γ\Gamma、VSWRを導出しました。あのモデルは、内導体と外導体という2本の導体の間を電圧・電流の波が伝わる、という描像に立っていました。

しかし地上局の送信系統図を眺めると、クライストロンやTWTAの出力からアンテナ給電部までの区間には、同軸ケーブルではなく、断面が長方形の中空の金属管が這い回っているのに気づきます。これが**導波管(waveguide)**です。中には誘電体も内導体も入っていません。ただの空洞の管です。導体が1本しかない(管壁だけ)のに、なぜ電磁波を導けるのでしょうか。そして、なぜ大電力送信系ではわざわざ同軸ではなく導波管が選ばれるのでしょうか。

この回では、マクスウェル方程式と金属壁の境界条件から出発して、矩形導波管の中を伝搬できる電磁界パターン——モード——が離散的にしか存在できないことを導き、以下を数式で理解します。

  • TE/TMモードの分類と、基本モードTE₁₀の電磁界分布
  • 遮断周波数 fcf_c の導出と、遮断以下でのエバネッセント減衰
  • 管内波長・位相速度・群速度の分散関係(位相速度は光速を超えるが群速度は超えない)
  • 壁面オーミック損失と、同軸ケーブルに対する損失・大電力耐性の優位性

直感的な導入 — なぜ同軸ではダメなのか

前回導いた通り、同軸ケーブルは直流からギガヘルツ帯まで使える優れた伝送線路です。しかし周波数と電力を上げていくと、2つの物理的限界に突き当たります。

限界1: 損失。 同軸ケーブルの損失の主因は、細い内導体の表面を流れる電流のオーミック損失と、内外導体間を満たす誘電体の誘電損失です。表皮効果により高周波電流は導体表面の薄い層(表皮深さ δ=2/(ωμσ)\delta = \sqrt{2/(\omega\mu\sigma)}、Xバンドの銅で1μm以下)にしか流れないため、実効抵抗は f\sqrt{f} に比例して増大します。特に断面積の小さい内導体が損失のボトルネックになり、Xバンド(8.4GHz)では実用的な太さの同軸ケーブルでも1mあたり0.5〜1dB程度を失います。送信電力20kWなら、1dBの損失は約4kWを熱として捨てることを意味します。

限界2: 耐電力。 同軸の内導体表面は電界が集中する場所であり、大電力では誘電体の絶縁破壊や内導体の過熱が起きます。数十kW級のCW(連続波)送信を同軸で行うのは現実的ではありません。

導波管はこの両方を解決します。内導体がないので「細い導体に電流が集中する」問題がそもそも存在せず、電流は断面積の大きい管壁全体に分散します。中身は空気(あるいは乾燥窒素)なので誘電損失もほぼゼロです。その代償として、導波管は遮断周波数より低い周波数の波をいっさい通せないという、同軸にはなかった性質を持ちます。ロープの波や音波のような「どんな周波数でも通す」伝搬とは質的に異なる、この離散的なモード構造こそが導波管の物理の核心です。

マクスウェル方程式から導波管モードへ

問題設定

断面が xx 方向に幅 aayy 方向に高さ bb(a>ba > b)の矩形導波管を考え、波は zz 方向に伝搬するとします。管内は真空(空気)、管壁は完全導体と仮定します。角周波数 ω\omega のフェーザ表示で、ソースのない領域のマクスウェル方程式から、電磁界の各成分はヘルムホルツ方程式

2ψ+k2ψ=0,k=ωc\nabla^2 \psi + k^2 \psi = 0, \qquad k = \frac{\omega}{c}

を満たします(ψ\psiEzE_zHzH_z などの任意の界成分、kk は自由空間の波数)。zz 方向への伝搬を ejβze^{-j\beta z} と仮定して代入すると、断面内の2次元方程式に帰着します。

(2x2+2y2)ψ+kc2ψ=0,kc2k2β2\left( \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} \right) \psi + k_c^2\, \psi = 0, \qquad k_c^2 \equiv k^2 - \beta^2

ここで現れた kck_c が**遮断波数(cutoff wavenumber)**で、この後の議論の主役です。

境界条件がモードを離散化する

完全導体の壁面では、電界の接線成分がゼロでなければなりません(接線電界があれば無限大の表面電流が流れてしまうため)。

E=0(壁面上)E_{\parallel} = 0 \quad \text{(壁面上)}

この境界条件が決定的に重要です。自由空間なら kck_c は任意の値を取れますが、「壁で接線電界がゼロ」という条件を満たす解は、弦の振動が両端固定によって特定の振動パターンに限られるのと同じ理由で、離散的なパターンしか許されなくなります

伝搬解は2つの族に分類されます。

  • TEモード(Transverse Electric): Ez=0E_z = 0Hz0H_z \ne 0。電界が進行方向成分を持たない。
  • TMモード(Transverse Magnetic): Hz=0H_z = 0Ez0E_z \ne 0。磁界が進行方向成分を持たない。

(同軸ケーブルが運ぶ、Ez=Hz=0E_z = H_z = 0TEMモードは、中空導波管には存在できません。TEMモードには2つ以上の導体が必要である、ということが示せます。前回の電圧・電流による記述がそのまま使えたのは同軸がTEM線路だったからで、導波管では「電圧」「電流」の定義自体が自明でなくなります。)

TEモードについて変数分離法でヘルムホルツ方程式を解き、壁面(x=0,ax=0,a および y=0,by=0,b)での境界条件を課すと、許される解は

Hz(x,y)=H0cos ⁣(mπxa)cos ⁣(nπyb),m,n=0,1,2,H_z(x, y) = H_0 \cos\!\left(\frac{m\pi x}{a}\right) \cos\!\left(\frac{n\pi y}{b}\right), \qquad m, n = 0, 1, 2, \dots

という離散的な族に限られ、対応する遮断波数は

kc=(mπa)2+(nπb)2k_c = \sqrt{\left(\frac{m\pi}{a}\right)^2 + \left(\frac{n\pi}{b}\right)^2}

となります。整数の組 (m,n)(m, n) がモードの名前です。mmxx 方向(幅方向)の半波長パターンの数、nnyy 方向のそれを表します。TMモードも同様の手順で Ezsin(mπx/a)sin(nπy/b)E_z \propto \sin(m\pi x/a)\sin(n\pi y/b) の族が得られますが、こちらは sin\sin の性質上 m,n1m, n \ge 1 が必要で、最低次はTM₁₁です。

基本モードTE₁₀の電磁界分布

最も遮断周波数が低い(=最も「通りやすい」)モードは、a>ba > b の場合 TE₁₀(m=1,n=0m=1, n=0)です。その電磁界を書き下すと、

Ey=E0sin ⁣(πxa)ejβz,Ex=Ez=0E_y = E_0 \sin\!\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z}, \qquad E_x = E_z = 0 Hx=βωμ0E0sin ⁣(πxa)ejβz,Hz=jπωμ0aE0cos ⁣(πxa)ejβzH_x = -\frac{\beta}{\omega\mu_0} E_0 \sin\!\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z}, \qquad H_z = \frac{j\pi}{\omega\mu_0 a} E_0 \cos\!\left(\frac{\pi x}{a}\right) e^{-j\beta z}

電界は yy 方向(短辺方向)を向いた成分だけを持ち、その振幅は幅方向に半波長の正弦分布——両側壁(x=0,ax=0, a)でゼロ、中央(x=a/2x=a/2)で最大——を描きます。側壁で電界がゼロという境界条件を、ちょうど半波長ぶんの「たわみ」で満たしている姿です。電界が短辺と平行なので、偏波面が構造で固定されるという実務上の利点もあります(直線偏波の向きが管の向きで決まる)。

遮断周波数とエバネッセント減衰

伝搬定数の関係式 kc2=k2β2k_c^2 = k^2 - \beta^2β\beta について解くと、

β=k2kc2=2πcf2fc2\beta = \sqrt{k^2 - k_c^2} = \frac{2\pi}{c}\sqrt{f^2 - f_c^2}

ここで k=kck = k_c となる周波数、すなわち

fc=ckc2π=c2(ma)2+(nb)2f_c = \frac{c\, k_c}{2\pi} = \frac{c}{2}\sqrt{\left(\frac{m}{a}\right)^2 + \left(\frac{n}{b}\right)^2}

が**遮断周波数(cutoff frequency)**です。TE₁₀では fc=c/(2a)f_c = c/(2a)、つまり「管の幅 aa が自由空間半波長に等しくなる周波数」というきわめて直感的な形になります。

f>fcf > f_c では β\beta は実数で、波は ejβze^{-j\beta z} として位相を回しながら伝搬します。ところが f<fcf < f_c では根号の中が負になり、β=jα\beta = -j\alpha と純虚数になります。このとき波は

ejβz=eαz,α=2πcfc2f2e^{-j\beta z} = e^{-\alpha z}, \qquad \alpha = \frac{2\pi}{c}\sqrt{f_c^2 - f^2}

と、位相を回さず振幅だけが指数関数的に減衰するエバネッセント波になります。これはオーミック損失による減衰ではなく(壁は完全導体と仮定したままです)、単に「その周波数の波はこの断面形状の中に伝搬解として存在できない」ことの現れで、エネルギーは入口で反射されます。減衰は強烈で、ffcf \ll f_c の極限では長さ λc/2\lambda_c/2(λc=c/fc\lambda_c = c/f_c)あたり約27dBにも達します。導波管が優秀なハイパスフィルタ(遮断周波数以下を物理的に通さないフィルタ)として振る舞う理由です。

単一モード動作の帯域設計

モードごとに遮断周波数が異なることは、使用帯域の設計指針を与えます。標準的な矩形導波管は ba/2b \approx a/2 に作られており、このときモードの遮断周波数は低い順に

fcTE10=c2a,fcTE20=ca=2fcTE10,fcTE01=c2b2fcTE10f_c^{\mathrm{TE}_{10}} = \frac{c}{2a}, \qquad f_c^{\mathrm{TE}_{20}} = \frac{c}{a} = 2 f_c^{\mathrm{TE}_{10}}, \qquad f_c^{\mathrm{TE}_{01}} = \frac{c}{2b} \approx 2 f_c^{\mathrm{TE}_{10}}

となり、TE₁₀だけが伝搬できる周波数窓が fcf_c から 2fc2f_c まで1オクターブ確保されます。複数モードが同時に伝搬できる周波数で運用すると、モード間でエネルギーが行き来し、モードごとに伝搬速度が違うため信号が歪み、受信側でどのモードを拾うかも不定になります。そこで実務では、遮断のすぐ上(β\beta が急変し損失も増える領域)と第2モードのすぐ下を避け、おおむね 1.25fc1.25 f_c1.9fc1.9 f_c の範囲で単一モード動作させるのが標準です。「使いたい周波数帯に応じて管のサイズを選ぶ」という導波管規格の体系(後述のWR規格)は、この設計則そのものです。

管内波長・位相速度・群速度 — 導波管は分散性媒質

伝搬状態(f>fcf > f_c)での β\beta の式から、管内を進む波の見かけの波長——管内波長 λg\lambda_g——が求まります。

λg=2πβ=λ1(fc/f)2>λ\lambda_g = \frac{2\pi}{\beta} = \frac{\lambda}{\sqrt{1 - (f_c/f)^2}} > \lambda

管内波長は自由空間波長 λ\lambda より長くなります。同様に位相速度は

vp=ωβ=c1(fc/f)2>cv_p = \frac{\omega}{\beta} = \frac{c}{\sqrt{1 - (f_c/f)^2}} > c

と、真空中の光速を超えます。相対論に反しているように見えますが、位相速度は「波の山という幾何学的パターンが動く速さ」であって、エネルギーや情報の輸送速度ではありません。情報を運ぶのは群速度

vg=dωdβ=c1(fc/f)2<cv_g = \frac{d\omega}{d\beta} = c\sqrt{1 - (f_c/f)^2} < c

であり、これはつねに光速未満です。2つの速度の間には美しい関係

vpvg=c2v_p \, v_g = c^2

が成り立ちます。物理的な描像としては、TE₁₀モードは「管の両側壁の間をジグザグに斜め反射しながら進む平面波の重ね合わせ」と厳密に等価であり、斜めに走るぶん軸方向の実効速度(vgv_g)は遅くなり、壁に沿って位相パターンが走る見かけの速さ(vpv_p)は速くなる、と理解できます。ffcf \to f_c の極限では反射角が壁に垂直に近づき、波は前に進まなくなります(vg0v_g \to 0)。

重要な帰結として、vgv_g が周波数に依存するため、導波管は分散性の伝送媒体です。広帯域信号を長い導波管走行(地上局では数十mに及びます)に通すと群遅延が周波数に依存して波形が歪むため、測距信号やワイドバンド受信系ではこの群遅延分散が較正項として管理されます。

導波管の損失と大電力耐性

壁面オーミック損失

実際の管壁は完全導体ではなく、有限の導電率 σ\sigma を持つ金属(銅、あるいは銀メッキ)です。モード電磁界の磁界接線成分に応じて壁面に表面電流が流れ、表面抵抗

Rs=πfμ0σR_s = \sqrt{\frac{\pi f \mu_0}{\sigma}}

によるオーミック損失が生じます(RsfR_s \propto \sqrt{f} は表皮効果によるもの)。TE₁₀モードの減衰定数は摂動計算により

αc=Rsa3bβkη0(2bπ2+a3k2)[Np/m]\alpha_c = \frac{R_s}{a^3 b\, \beta\, k\, \eta_0} \left( 2 b \pi^2 + a^3 k^2 \right) \quad [\text{Np/m}]

と求まります(η0377Ω\eta_0 \approx 377\,\Omega は自由空間の波動インピーダンス)。この式の形を覚える必要はありませんが、振る舞いは重要です。ffcf \to f_cβ0\beta \to 0 となるため損失は遮断近傍で発散的に増大し、いったん極小を経て、高周波側では RsfR_s \propto \sqrt{f} を反映して再び緩やかに増加します。単一モード帯域の中央付近が損失の面でも最適という、前節の帯域設計則と整合した結果になります。

数値で比べると優位は歴然です。Xバンド用標準導波管(銅)の実測減衰はおよそ0.1dB/m以下であり、同帯域の実用的な同軸ケーブルの0.5〜1dB/mに対して1桁近く低損失です。20kW送信で10mを引き回す場合、この差は「数百W捨てるか、数kW捨てるか」の違いになります。

大電力耐性

耐電力の面でも導波管は圧倒的です。TE₁₀モードの伝送電力は電界振幅と

P=E02ab4η01(fc/f)2P = \frac{E_0^2\, a b}{4 \eta_0} \sqrt{1 - (f_c/f)^2}

の関係にあり、電界の最大値 E0E_0 が乾燥空気の絶縁破壊電界(約3MV/m、実務では大きな安全係数をとる)に達するまで電力を上げられます。断面全体に電磁界が分布するため同軸のような内導体近傍への電界集中がなく、Xバンドの標準管で理論破壊限界は1MWのオーダーに達します。実際の連続波運用ではVSWRによる定在波(前回学んだ Vmax=V0+(1+Γ)|V|_{\max} = |V_0^+|(1+|\Gamma|) に相当する電界増大が導波管内でも起きます)、フランジ接合部の不連続、湿度などを考慮した大きなマージンを取りますが、それでも数十kW級CWを安定に運べるのは実用上、導波管だけです。さらに大電力系では管内に乾燥空気や乾燥窒素を加圧充填して絶縁耐力を上げ、湿気の侵入と放電を防ぐ運用が標準的に行われます。

実務での使われ方

DSN送信系の導波管給電。 NASAディープスペースネットワーク(DSN)の34m・70mアンテナの送信系は、導波管給電の代表例です。34m局の標準Xバンド送信機は20kW、70m局では80kW級のクライストロン送信機が運用され、さらにゴールドストーンDSS-14の惑星レーダー(Goldstone Solar System Radar)ではSバンドで数百kW級の送信が行われてきました。この電力域では送信管出力からフィードまでの全区間が導波管系統(waveguide run)で構成され、途中のロータリージョイント(アンテナが仰角・方位角に回転しても導波管接続を維持する回転継手)、方向性結合器(電力モニタ用)、フィルタ、そして前回・前々回の文脈で登場したダミーロードへの切替スイッチなどもすべて導波管部品として実装されます。DSNの設計基準を集約したDSN Telecommunications Link Design Handbook (810-005) には、これら導波管系統の損失・VSWR・耐電力の割当が規定されています。

WR規格 — サイズがそのまま周波数帯を決める。 矩形導波管はEIA(米国電子工業会)のWR規格で標準化されており、番号は内寸の幅 aa をインチの1/100単位で表します。深宇宙通信でなじみ深いものを挙げると、

規格内寸 a×ba \times bTE₁₀遮断周波数推奨使用帯域主な用途
WR-430109.2 × 54.6 mm1.37 GHz1.7–2.6 GHzSバンド(2.1/2.3 GHz)
WR-11228.50 × 12.62 mm5.26 GHz7.05–10.0 GHzXバンド(7.2/8.4 GHz)
WR-287.11 × 3.56 mm21.1 GHz26.5–40 GHzKaバンド(32/34 GHz)

推奨帯域が遮断周波数のおよそ1.3〜1.9倍に収まっていること、周波数が上がるほど管が小さくなる(fc1/af_c \propto 1/a)ことが表から読み取れます。Kaバンドでは管の断面が指先ほどしかなく、加工精度・表面粗さが損失に直結するため、内面の銀メッキや精密フランジが重要になります。

円形導波管とコルゲート導波管へ。 断面が円形の導波管にも同様のモード理論が成り立ち(基本モードはTE₁₁、ベッセル関数で記述されます)、円偏波の伝送や、直交する2つの直線偏波を同一の管で運ぶ用途に使われます。さらにDSNや大型地上局のフィードホーンには、内壁に周期的な溝を切ったコルゲート(波形)導波管・ホーンが使われ、TE₁₁とTM₁₁を適切に混合したハイブリッドモードHE₁₁を作ることで、軸対称で低サイドローブ・低交差偏波のビームパターンを実現しています。このフィード系の設計はアンテナ給電系の回で扱った内容の理論的基盤であり、今回のモード理論はその「なぜそう設計するのか」に答えるものです。

演習問題

  1. WR-112導波管(内寸 a=28.50a = 28.50 mm、b=12.62b = 12.62 mm)について、TE₁₀・TE₂₀・TE₀₁の各遮断周波数を計算し、DSNのXバンド上りリンク周波数7.15GHzと下りリンク8.42GHzがどちらも単一モード帯域に収まっていることを確認してください。
  2. WR-112中を8.42GHzのTE₁₀モードが伝搬するときの管内波長 λg\lambda_g、位相速度 vpv_p、群速度 vgv_g を求め、vpvg=c2v_p v_g = c^2 が成り立つことを数値で確かめてください。
  3. WR-28導波管(fc=21.1f_c = 21.1 GHz)に、誤って遮断周波数より低い15GHzの信号を入力してしまったとします。エバネッセント減衰定数 α=(2π/c)fc2f2\alpha = (2\pi/c)\sqrt{f_c^2 - f^2} を計算し、管を10cm進んだ時点で信号が何dB減衰しているか求めてください(dB=20log10eαz8.686αz\text{dB} = 20\log_{10}e^{\alpha z} \approx 8.686\,\alpha z)。
  4. Xバンド20kW送信を、(a) 損失0.08dB/mの導波管、(b) 損失0.6dB/mの同軸ケーブル、それぞれで15m引き回した場合について、アンテナに届く電力と熱として失われる電力を計算してください。この結果と耐電力の議論をふまえ、大電力地上局で導波管が選ばれる理由を自分の言葉でまとめてください。

まとめと次回予告

中空の導波管では、金属壁での境界条件(E=0E_\parallel = 0)がマクスウェル方程式の解を離散的なTE/TMモードに制限し、各モードは遮断周波数 fc=(c/2)(m/a)2+(n/b)2f_c = (c/2)\sqrt{(m/a)^2 + (n/b)^2} 以上でしか伝搬できません。基本モードTE₁₀の単一モード帯域(1.25fc\approx 1.25 f_c1.9fc1.9 f_c)で運用するのが標準であり、管内では vp>cv_p > cvg<cv_g < cvpvg=c2v_p v_g = c^2 という分散関係が成り立ちます。内導体と誘電体を持たない構造ゆえに低損失かつ大電力に強く、DSNの20kW〜数百kW級送信系はすべて導波管給電で成立しています。

次回は、この導波管系統の中に挿入されるフェライト素子——サーキュレータとアイソレータ——を扱います。前回「反射波を送信管に戻さずダミーロードへ吸収させる」と役割だけ紹介したこの素子が、フェライト中のスピン歳差運動を使って「行きは通すが帰りは通さない」という非可逆伝搬をどう実現しているのかを見ていきます。

参考文献

  • D. M. Pozar, Microwave Engineering, 4th ed., Wiley(第3章: 伝送線路と導波管)
  • R. E. Collin, Foundations for Microwave Engineering, 2nd ed., IEEE Press
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005(送信系・マイクロ波系統モジュール)
  • CCSDS 401.0-B, Radio Frequency and Modulation Systems, Part 1: Earth Stations and Spacecraft