ネットワーク・プロトコル#62

Proximity-1宇宙リンクプロトコル — 近距離だからできる対話型通信

ローバーと周回機の間の数百kmリンクは、数億km彼方のDSNとの直接リンクとは通信設計の発想がまったく違う。低遅延ゆえに実現できる自動ハンドシェイク・対称マスター/スレーブ・ハードウェアARQを備えたCCSDS Proximity-1プロトコルを、遅延の桁の違いから読み解く。

前提知識: space-data-link-protocol

Proximity-1CCSDSUHF帯ARQ中継通信

この回で学ぶこと

中継通信アーキテクチャの回で、火星ローバーは地球と直接大容量通信をするのではなく、周回機を中継点とする2ホップ構成を取ることを見ました。あのときは「なぜ2ホップに分けるのが有利か」をリンクバジェットの数式で確認し、Hop 1(ローバー↔周回機、近接リンク)とHop 2(周回機↔DSN、深宇宙リンク)がそれぞれ独立に最適化できることを示しました。そして、Hop 1の物理層・データリンク層を規定する標準として CCSDS Proximity-1 Space Link Protocol(CCSDS 211.0-B/211.1-B/211.2-B)の名前だけ挙げていました。

この回では、そのProximity-1そのものを主役に据えます。これまでの多くの回——PCM/PSK/PMPLLトランスポンダDSN概論——は、暗黙のうちに「探査機と地球局が数億km、片道数分から数十分の伝搬遅延で結ばれている」という深宇宙リンク特有の制約を前提にプロトコル・変調・追尾方式を設計してきました。しかしProximity-1が相手にするのは、わずか数百km・片道数ミリ秒というまったく別のスケールの世界です。この遅延の桁がまるごと変わるという一点から、Proximity-1がなぜ深宇宙リンクのプロトコル群とは似ても似つかない、自動ハンドシェイク・双方向対称・ハードウェアARQという特徴を持つ「対話型」のプロトコルとして設計されているのかを、順を追って理解していきます。

直感的導入: 「独白」の深宇宙リンクと「対話」の近接リンク

深宇宙リンクでの通信がどんな性質を持っていたか、思い出してみましょう。地球から火星への電波は、往復に数十分かかります。この状況で「送って、返事を待って、次を送る」という対話をしていたら、1往復のやり取りだけで貴重な通信時間の大半が消えてしまいます。そのため深宇宙リンクの実務は、レンジングの回誤り訂正符号の回で見てきたように、基本的に**「あらかじめ決めた手順とパラメータに従って、片方向にデータを流し続け、誤りは主に前方誤り訂正符号(FEC)で直す」という、いわば独白型**の通信になります。ビットごとの応答確認や、その場での動的な交渉はほとんど行いません。行ったところで、その返事が届く頃には状況も探査機の姿勢も変わっているからです。

一方、火星低軌道を回る周回機とその真下にいるローバーの距離は、せいぜい数百kmです。電波は光速で伝わるので、この距離を往復するのにかかる時間は

tprop=dc4×105 m3×108 m/s1.3 mst_{\text{prop}} = \frac{d}{c} \approx \frac{4\times10^5\ \text{m}}{3\times10^8\ \text{m/s}} \approx 1.3\ \text{ms}

程度、往復でもわずか2.7ミリ秒ほどにしかなりません。この時間スケールは、地上のWi-Fiやモバイル通信の往復遅延と大差ない水準です。ここまで遅延が小さいと、「送って、すぐ返事が来て、それを見てまた送る」という対話型のやり取りが現実的な選択肢になります。相手が本当にそこにいるかを確かめてから通信を始めることもできますし、届かなかったフレームがあれば「その場で」検出して再送を要求することもできます。深宇宙リンクでは物理的に不可能だったこの種のやり取りが、近接リンクでは”タダ”に近いコストで手に入るのです。

Proximity-1は、この「対話ができるほど近い」という近接リンク特有の恵まれた条件を最大限に活用するために設計されたプロトコルです。 以下ではこの直感を、遅延の定量比較・セッション確立手順・ARQの効率という3つの角度から数式で裏付けていきます。

定式化1: 遅延の桁を比較する

まず両者の遅延がどれだけ違うのかを、具体的な数値で押さえておきます。地球-火星間の距離は会合位置によって変動し、最接近時でおよそ 7.5×1077.5\times10^7 km、合(衝)の頃には 2.7×1082.7\times10^8 km 程度まで広がります。片道の伝搬遅延は

tDSN=REarth-Marsct_{\text{DSN}} = \frac{R_{\text{Earth-Mars}}}{c}

に従うので、最短で約4分強、最長では20分を優に超えます。往復(コマンド送信からその確認応答が返るまで)では、この2倍、数分から40分以上に達することもあります。

これに対し近接リンクの片道遅延は、前節で見た通り約1.3ミリ秒です。両者の比を取ると、

tDSNtprox250s1500s1.3×103s105106\frac{t_{\text{DSN}}}{t_{\text{prox}}} \approx \frac{250\,\text{s} \sim 1500\,\text{s}}{1.3\times10^{-3}\,\text{s}} \sim 10^5 \text{–} 10^6

遅延にして5〜6桁もの差があります。 これは単に「近接リンクの方が速い」という量的な違いにとどまらず、「その場で対話できるかどうか」という質的な違いを生みます。深宇宙リンクでは、地上局が送ったコマンドに対する探査機の応答が返ってくる頃には、地上局側の状況(アンテナの向き、運用計画)も大きく進んでしまっているため、リアルタイムの対話を前提にした設計は成立しません。近接リンクでは、往復2.7ミリ秒という遅延は、フレーム1つの送信時間(後述するように数ミリ秒〜数十ミリ秒程度)と同じオーダーに収まるため、「送って確認して次へ」という対話のループを、リンク全体のスループットをほとんど犠牲にせずに回せます。これが、Proximity-1が対話型プロトコルとして成立するための物理的な土台です。

定式化2: 自動的な局発見とセッション確立(ハンドシェイク)

深宇宙リンクでは、地上局と探査機の幾何学的な位置関係(どちらがどの方向にいるか、いつ可視になるか)は、軌道力学に基づいてあらかじめ精密に予報され、DSNスケジューリングの回で見たように運用計画としてスケジュールされます。「相手が本当にそこにいるか」を通信そのもので確認する必要はほとんどありません。

近接リンクでは事情が異なります。周回機の軌道は精密に分かっていても、ローバー側の姿勢や、周回機がその瞬間に中継運用のためにアンテナ(あるいはビーム)をローバー方向へ向けているかどうかは、必ずしも1ミリ秒単位で確定的ではありません。また複数の周回機が同じ地域の上空を通過する可能性もあり、「今この瞬間、誰と話すべきか」を通信の開始時点で確認する必要があります。Proximity-1はこのために、Hail(呼びかけ)から始まる自動的な局発見・セッション確立手順を規定しています。おおまかな流れは次の通りです。

  1. 呼びかけ (Hailing): 通信を開始したい側のノードが、あらかじめ固定された既知のパラメータ(周波数・変調方式・符号化・低めのビットレート)で、短い呼びかけ信号を周期的に送信し続けます。相手が受信可能な状態でその周波数にいれば、いつでも検出できるようにするためです。
  2. 検出と応答: 相手ノードがこの呼びかけを検出すると、同じ既知パラメータで応答を返し、「聞こえている」ことを知らせます。
  3. パラメータのネゴシエーション: 双方は、これから使う実際のデータレート・フレームフォーマット・符号化方式・運用モード(片方向のみか双方向か)などを、短いメッセージのやり取りで交渉・確定します。この交渉が現実的な時間で終わるのも、往復1.3ミリ秒×数回程度で済むという近接リンクの低遅延あってこそです。
  4. 役割の確定とセッション開始: 次節で見る「マスター/スレーブ」の役割を確定し、合意したパラメータで本番のデータ転送セッションに移行します。

深宇宙リンクでは考える必要すらなかった「相手がそこにいるかを自分で確かめてから話し始める」という手順が、ここでは毎回のパスのたびに自律的に実行されます。これにより、運用者が手作業で「今から周回機Aとローバーがリンクを張る」という細かい調整を毎回行わなくても、両者が可視範囲に入りさえすれば、機器同士が自動的にリンクを確立できるという、地上のBluetoothペアリングにも似た自律性が実現されています。

定式化3: 双方向対称リンクとマスター/スレーブ

深宇宙リンクのアーキテクチャを思い出すと、トランスポンダの回で見たように、そこには明確な非対称性がありました。地上局が精密な周波数基準を持つ「主」であり、探査機のトランスポンダはアップリンクにコヒーレントに同期して折り返す「従」の役割を担っていました。運用上も、コマンドを発行するのは常に地上、探査機は基本的にそれに従う立場です。

近接リンクでは、この固定的な主従関係は成り立ちません。ローバーが周回機に呼びかけて中継を要求することもあれば、周回機側が先にローバーを呼び出してデータ回収を開始することもあります。着陸機がEDL中に周回機へ向けて一方的にテレメトリを流すケースもあれば、将来の有人拠点のように複数の機器が対等にネットワークを組む場面もあり得ます。この多様な運用形態に対応するため、Proximity-1は双方向対称リンクとして設計されており、リンクの物理層・フレームフォーマットの仕様上は、どちらの機器もマスターにもなれるしスレーブにもなれます。

  • マスター: リンクのタイミングを主導し、通信パラメータを提示し、セッションの開始・終了を制御する側。
  • スレーブ: マスターが提示したパラメータに従い、応答・データ送受信を行う側。

マスター/スレーブの役割は、機体の種類(ローバーか周回機か)によって固定的に決まるのではなく、そのセッションを誰が始めたか、あるいは運用シナリオ上どちらが手順を主導すべきかに応じて、セッションごとに動的に決まります。 この対称性のおかげで、同じProximity-1のハードウェア・ソフトウェアスタックを、ローバー側にも周回機側にも(さらには将来の月面拠点や有人探査機にも)同じ仕様のまま実装でき、「誰が誰の中継を担ってもよい」という中継アーキテクチャの回で触れた相互運用性を、プロトコルレベルで下支えしています。

定式化4: ハードウェアARQの効率 — なぜ近接リンクでしか成立しないのか

Proximity-1のもう1つの柱が、データリンク層でのフレーム単位の自動再送要求(ARQ: Automatic Repeat reQuest)です。送信側はフレームに連番を振って送り出し、受信側は届いたフレームの成否を(誤り検出符号を使って)判定し、抜けているフレームがあれば再送を要求します。これは地上のTCPにも似た発想ですが、Proximity-1ではこの確認・再送のループを、ソフトウェアの上位層ではなくデータリンク層のハードウェア/ファームウェアレベルで、ミリ秒オーダーの速さで回します。信頼性が要求されるデータは連番管理・確認応答付きのSequence-Controlled(順序制御)サービスで、逆に多少の欠落は許容してでも遅延を最小化したいリアルタイム性の高いデータは、確認応答を伴わないExpedited(速達)サービスで、それぞれ送ることができます。

このARQがなぜ近接リンクでしか実用にならないのか、ストップ&ウェイト型ARQの伝送効率の式で確認してみましょう。1フレームの送信に要する時間を TframeT_{frame}、往復伝搬遅延を 2tprop2t_{prop}、送受信切り替えや処理にかかる時間を TprocT_{proc} とすると、送達確認を待ってから次のフレームを送るという最も単純なARQの伝送効率は

η=TframeTframe+2tprop+Tproc\eta = \frac{T_{frame}}{T_{frame} + 2t_{prop} + T_{proc}}

で与えられます。具体例として、ビットレート 128128 kbps、フレーム長 40964096 bit のフレームを考えると Tframe=4096/12800032T_{frame} = 4096/128000 \approx 32 ms です。

近接リンクの場合: 2tprop2.72t_{prop}\approx2.7 ms、処理時間を Tproc5T_{proc}\approx5 ms と見積もると、

ηprox=3232+2.7+50.80\eta_{\text{prox}} = \frac{32}{32+2.7+5} \approx 0.80

およそ80%の効率でARQが回せます。フレームロスに対する再送コストも、往復数ミリ秒で済むためほとんど気になりません。

深宇宙リンクの場合: 同じフレーム長・レートのまま、往復伝搬遅延だけを火星の代表値 2tprop15002t_{prop}\approx1500 s(25分)に置き換えると、

ηDSN=32×10332×103+1500+5×1032×105\eta_{\text{DSN}} = \frac{32\times10^{-3}}{32\times10^{-3}+1500+5\times10^{-3}} \approx 2\times10^{-5}

効率は実質ゼロにまで潰れてしまいます。 1フレーム(32ミリ秒分)のデータを送るたびに25分待たされるのでは、リンクの実効スループットは何桁も落ち込み、実用になりません。これが、深宇宙リンクが確認応答型のARQではなく、Reed-Solomon符号畳み込み符号・ビタビ復号LDPC符号のような**前方誤り訂正(FEC)**主体の設計を取り、再送が必要な場合もフレーム単位ではなくファイル単位・セッション単位の粗い粒度で行う理由でもあります。一方、往復遅延がフレーム送信時間と同程度の近接リンクでは、この効率の壁が存在しないため、Proximity-1はフレーム単位のきめ細かいハードウェアARQを標準機能として採用できるのです。

定式化5: なぜUHF帯なのか

Proximity-1のリンクの多くはUHF帯(390〜450MHz帯)を使います。アンテナ理論の基礎アンテナ種別(HGA/MGA/LGA)の回で見たように、アンテナの利得はおおよそ実効開口面積 AeffA_{eff} と波長 λ\lambda を使って

G=ηap4πAeffλ2G = \eta_{ap}\,\frac{4\pi A_{eff}}{\lambda^2}

と表され、同じ物理的なアンテナサイズなら波長が短い(周波数が高い)ほど利得は高くなります。深宇宙リンクではこの関係を最大限利用し、X帯・Ka帯という比較的短い波長と大口径のHGAを組み合わせて、限られた送信電力でも高い利得(≒鋭いビーム)を稼ぐ必要がありました。

しかし近接リンクでは事情が逆転します。中継通信アーキテクチャの回で確認した通り、数百km級の近接リンクは、同じ周波数帯で比較しても深宇宙リンクよりおよそ115 dBも自由空間伝搬損失が小さく、これは電力比にして 101110^{11} 倍以上の余裕に相当します。この巨大な余裕があるため、高利得アンテナも高い送信電力も、近接リンクでは本質的に不要です。むしろ実務上重要になるのは、次の2点です。

  • 姿勢の不確かさへの耐性: ローバーは走行中に姿勢が刻々と変わり、着陸機はEDL中に激しく回転・振動します。周回機がどの方向の空にいるかを精密に把握し、狭いビームを向け続けることは現実的ではありません。ビーム幅の目安 θ70λ/D\theta \approx 70\,\lambda/D (度、DDはアンテナの物理サイズ)からも分かるように、波長 λ\lambda が長いUHF帯では、小型のアンテナでも自然に広いビーム幅(準無指向性に近いパターン)が得られ、姿勢によらず常にある程度の利得でリンクを維持できます。
  • 回折・多重伝搬への耐性: 火星表面には岩や地形の起伏があり、ローバーと周回機の間に完全な見通し線が保証されない局面もあります。波長の長いUHF波はX帯・Ka帯の波よりも障害物の陰へ回り込みやすく(回折しやすく)、多少の遮蔽があってもリンクが完全に切れにくいという実務上の利点があります。

つまりUHF帯の選択は、単に「近いから電波が弱くてもよい」という消極的な理由だけでなく、姿勢が不確定で見通しも保証されない近接リンク特有の運用環境に、準無指向性アンテナが自然にフィットするという積極的な理由に基づいています。これは中継通信アーキテクチャの回で見た「ローバーは周回機の方向を精密に把握して指向する必要すらない」という設計思想を、周波数選択の面から裏付けるものです。

実務での使われ方

火星表面ミッションでの日常運用

現行の火星ミッションでは、Proximity-1が実際の中継運用の標準として使われています。NASA/JPLのマーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)は中継専用無線機Electraを搭載し、キュリオシティパーサヴィアランスとUHF帯でProximity-1リンクを確立します。同様に2001マーズ・オデッセイや、ESAの**トレース・ガス・オービター(TGO)**もProximity-1準拠の中継能力を備え、国籍の異なるミッション同士が同じプロトコルスタックで相互運用できる体制が整っています。1火星日(ソル)のうちに周回機がローバー上空を通過するのは数分〜十数分のパスが1〜数回程度で、そのたびにHail、セッション確立、Sequence-Controlledサービスによるデータ転送、セッション終了という一連のシーケンスが自動的に実行されます。

EDL(Entry, Descent, Landing)中継

Proximity-1のUHFリンクは、着陸機が大気圏突入から着地までのわずか数分間を経験する**EDL(Entry, Descent, Landing)**フェーズの中継にも使われてきました。キュリオシティ(2012年)の着陸では、着地までの一連のテレメトリがUHF帯で周回機(オデッセイ)へリアルタイムに送信され、地球へ転送されました。パーサヴィアランス(2021年)の着陸でも同様にMROなどの周回機がUHFリンクでテレメトリ(および着陸カメラの画像)を受信・転送しています。EDLは探査機の姿勢・速度が数分間で劇的に変化する極めて動的なフェーズであり、事前に決めたタイミング通りに完璧な見通し線と姿勢を維持できる保証がありません。このような場面では、Proximity-1が提供する低遅延・準指向性に頼らないUHFリンクという特性が、限られた時間の中で可能な限り多くのテレメトリを地球へ届けるための生命線になります。EDLのような一刻を争う場面では、フレーム単位の再送を待つより、たとえ一部のフレームが欠落しても構わないので途切れず流し続けることが優先されることも多く、そうした場面ではSequence-Controlledサービスではなく、確認応答を待たないExpeditedサービスが選ばれる場合もあります。

演習問題

  1. 地球-火星間の距離を最接近時 Rmin=7.5×107R_{min}=7.5\times10^7 km、会合(合)付近で Rmax=2.7×108R_{max}=2.7\times10^8 km とする。それぞれについて片道伝搬遅延 tDSN=R/ct_{DSN}=R/c を求め、近接リンクの片道遅延 tprox1.3t_{prox}\approx1.3 ms との比 tDSN/tproxt_{DSN}/t_{prox} を計算せよ。両者が何桁違うか述べよ。

  2. ビットレート 6464 kbps、フレーム長 20482048 bit のストップ&ウェイトARQを考える。(a) 近接リンク(往復伝搬遅延 2tprop=2.72t_{prop}=2.7 ms、処理時間 Tproc=3T_{proc}=3 ms)での伝送効率 η\eta を求めよ。(b) 同じフレームを、往復伝搬遅延 2tprop=15002t_{prop}=1500 s の深宇宙リンクに適用した場合の伝送効率 η\eta を求め、(a)と比較して何桁悪化するか述べよ。

  3. UHF帯(中心周波数 435435 MHz、λ0.69\lambda\approx0.69 m)とX帯(8.48.4 GHz、λ3.57\lambda\approx3.57 cm)について、同じ物理サイズ D=0.3D=0.3 m のアンテナを仮定したとき、ビーム幅の目安 θ70λ/D\theta\approx70\lambda/D (度)をそれぞれ計算せよ。この結果から、姿勢が不確定なローバーのアンテナとしてどちらの周波数帯がふさわしいか、本文の議論を踏まえて説明せよ。

  4. なぜProximity-1は、DSNの深宇宙リンクのように「地上局が常にマスター、探査機が常にスレーブ」という固定的な役割分担ではなく、どちらのノードもマスターにもスレーブにもなれる対称的なリンクとして設計されているのか。EDL中の着陸機と周回機の関係、および複数の周回機が同一地域を中継し得るという運用上の事情を踏まえて、自分の言葉で説明せよ。

まとめと次回予告

Proximity-1は、数百km・数ミリ秒という近接リンク特有の低遅延を最大限に活かし、深宇宙リンクでは成立しなかった「対話」を前提に設計されたプロトコルです。自動的なHailとハンドシェイクによる局発見・セッション確立、どちらのノードもマスター/スレーブになれる双方向対称性、そしてフレーム単位でミリ秒オーダーの再送を回せるハードウェアARQ——これらはすべて、往復伝搬遅延がフレーム送信時間と同程度に収まるという物理的な条件があってはじめて実用になる設計でした。UHF帯の採用も、伝搬損失に余裕があることに加え、姿勢が不確定な近接リンクの運用環境に準無指向性アンテナが自然にフィットするという理由に基づいていました。

次回は、この回では概念の紹介にとどめたProximity-1のARQ機構をさらに一般化し、CCSDSの再送制御プロトコルである COP-1(Communications Operation Procedure-1) を扱います。送信側・受信側それぞれにあるFARM(Frame Acceptance and Reporting Mechanism)・FOP(Frame Operation Procedure)という機能エンティティが、シーケンス番号と肯定/否定確認応答をどうやり取りしながらフレームの信頼性を保証しているのかを、状態遷移の数式とともに見ていきます。

参考文献

  • CCSDS 211.0-B, Proximity-1 Space Link Protocol—Data Link Layer
  • CCSDS 211.1-B, Proximity-1 Space Link Protocol—Physical Layer
  • CCSDS 211.2-B, Proximity-1 Space Link Protocol—Coding and Synchronization Sublayer
  • C. D. Edwards Jr. et al., “Relay Communications Strategies for Mars Exploration through 2020,” Acta Astronautica, and related JPL mission papers on Mars relay operations (MRO Electra, Mars Odyssey)
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • J. R. Wertz, D. F. Everett, J. J. Puschell (eds.), Space Mission Engineering: The New SMAD