測距・追跡#4

トランスポンダ — コヒーレントターンアラウンドとドップラー計測

探査機に搭載されたトランスポンダは、地上局からのアップリンク搬送波にPLLで位相同期し、正確な周波数比でダウンリンクへ折り返す。このコヒーレントターンアラウンドの仕組みと、そこから得られる高精度ドップラー計測の数理を、ターンアラウンド比・One/Two/Three-wayドップラー・USO精度比較とともに追う。

前提知識: pll

トランスポンダコヒーレントドップラーターンアラウンド比軌道決定USO

この回で学ぶこと

前回、地上局の受信機が微弱な残留搬送波を見失わずに追尾し続けるPLL(位相同期ループ)の仕組みを学びました。そして最後に少しだけ触れたように、実は探査機の側にもPLLが搭載されています。しかも探査機側のPLLは、地上局のように「自分の内部基準に位相を合わせる」のではなく、「地上から送られてきたアップリンク搬送波に位相を合わせ、それを正確な周波数比でダウンリンク搬送波として折り返し送信する」という、もう一段階手の込んだ仕事をしています。

この探査機搭載機器をトランスポンダ (transponder) と呼びます。トランスポンダが行う「受信した搬送波の位相に同期しながら、別の周波数で送り返す」動作をコヒーレントターンアラウンド (coherent turnaround) と呼び、これによって生まれる位相の連続性が、地上局に驚くほど高精度なドップラー計測をもたらします。地上の高安定な周波数基準(水素メーザーなど)から送り出した電波が、数億km彼方の探査機で折り返され、往復の位相情報を保ったまま地上に戻ってくる——このとき地上局は、探査機に自前の高精度発振器を積ませることなく、地上側の基準の精度をそのままドップラー計測に利用できるのです。

この回では、コヒーレントターンアラウンドの仕組みをPLLの言葉で数式化し、ターンアラウンド比という実在のミッションで使われる具体的な数値、そしてOne-way/Two-way/Three-wayドップラーという3つの測定形態の違いと精度を、順を追って理解していきます。

直感的な全体像

たとえるなら、トランスポンダは「相手の声の高さ(ピッチ)とタイミングを寸分違わず真似して、しかし別の声色で歌い返す、極めて正確なオウム返し」のような装置です。

地上局は、非常に安定した音叉(周波数基準)を持っていて、その音叉に合わせた音(アップリンク搬送波)を探査機に向けて送ります。探査機のトランスポンダは、届いたその音の高さとタイミングにぴったり同調し(これが探査機側のPLLの仕事です)、その同調した位相を保ったまま、あらかじめ決められた一定の音程比(ターンアラウンド比)だけ声を変えて、地上に向けて歌い返します。

なぜわざわざこんな回りくどいことをするのでしょうか。理由は2つあります。

理由1: 送受信を同時に行うため。 探査機は地上からの信号を受信しながら、同時に地上へ信号を送信する必要があります。もし同じ周波数を使うと、自分の送信機の電波が自分の受信機に回り込んで干渉してしまいます(全二重通信の宿命です)。そこでアップリンクとダウンリンクには別の周波数帯(たとえばXバンドなら上り約7.2GHz・下り約8.4GHz)を割り当て、干渉を避けています。

理由2: 地上の高精度な周波数基準を、探査機の速度計測にそのまま使うため。 もし探査機が自分の発振器だけを基準にダウンリンクを送信すると、そのダウンリンクの周波数安定度は探査機に積める発振器の性能で頭打ちになります。しかしコヒーレントターンアラウンドを使えば、探査機は「受信した位相をそのまま(比率をかけて)送り返す」だけでよく、地上局の水素メーザーのような超高安定な基準の精度が、そのまま探査機の速度計測精度として活きてきます。これが次節以降で見るTwo-wayドップラーの本質です。

数式による定式化

コヒーレントターンアラウンドの仕組み

トランスポンダ内部の構造は、前回学んだPLLとほぼ同じ3要素(位相検波器・ループフィルタ・VCO)から成りますが、VCOの出力をそのままダウンリンクとして送信するのではなく、**周波数シンセサイザ(逓倍・分周のチェーン)**を介して整数比で変換してから送信する点が異なります。

地上局から送られたアップリンク搬送波の(探査機到達時点での)瞬時周波数を f1f_1 とします。探査機のトランスポンダPLLはこの f1f_1 に位相同期し、自身の基準発振器の位相 θ1(t)\theta_1(t)f1f_1 の位相にロックさせます。ロックが確立すると、探査機はこの再生された基準位相を整数比 N2/N1N_2/N_1 で逓倍・分周した信号を生成し、ダウンリンク搬送波として送信します。

f2=N2N1f1G2G1f1f_2 = \frac{N_2}{N_1}\, f_1 \equiv \frac{G_2}{G_1}\, f_1

ここで G2/G1G_2/G_1ターンアラウンド比 (turnaround ratio) と呼びます。G1,G2G_1, G_2 が互いに素な整数比として厳密に定義されているのは、周波数シンセサイザがPLLベースの逓倍器・分周器のチェーンで実装されており、共通の基準周波数 freff_{ref} に対して f1=N1freff_1 = N_1 f_{ref}f2=N2freff_2 = N_2 f_{ref} という整数関係を作るのが、デジタル回路的にもっとも正確かつ安価だからです。この構造そのものが「PLLは正確な整数比の周波数を作る道具でもある」という、前回学んだPLLの応用の一形態になっています。

ターンアラウンド比の実在の値

ターンアラウンド比はCCSDS 401.0-Bで国際標準として規定されており、どの深宇宙局(NASA/JPLのDSN、ESAのESTRACK、JAXAのUDSCなど)でも共通の値を使うことで、異なる機関のミッションが互いの局を使い合う「国際相互運用(クロスサポート)」が可能になっています。代表的な値は次の通りです。

バンドアップリンクダウンリンクターンアラウンド比 G2/G1G_2/G_1小数値
Sバンド2110–2120 MHz2290–2300 MHz240/221240/2211.08597\approx 1.08597
Xバンド7145–7190 MHz8400–8450 MHz880/749880/7491.17490\approx 1.17490

たとえばXバンドで探査機がアップリンク中心周波数付近の f1=7167.5 MHzf_1 = 7167.5\ \text{MHz} を受信したとすると、ダウンリンクの名目周波数は

f2=880749×7167.5 MHz8419.6 MHzf_2 = \frac{880}{749} \times 7167.5\ \text{MHz} \approx 8419.6\ \text{MHz}

となり、これはXバンドダウンリンク帯(8400–8450 MHz)にきちんと収まります。この比が両バンドの割当周波数レンジを跨いで整合するように、国際的な周波数調整機関(ITUなど)とCCSDSが協調してこれらの数値を決めています。

往復のドップラーシフトと折り返し

トランスポンダが折り返すのは名目周波数だけではありません。探査機と地球の間に相対運動があれば、アップリンク・ダウンリンクの両方の伝搬過程でドップラーシフトが乗ります。これを段階的に追いましょう。

地上局が送信する基準周波数を fupf_{up} とします。探査機に到達する瞬間の周波数 f1f_1 は、アップリンク伝搬中の相対速度 vr,1v_{r,1}(視線方向、遠ざかる向きを正)によって、一次近似で

f1=fup(1vr,1c)f_1 = f_{up}\left(1 - \frac{v_{r,1}}{c}\right)

とドップラーシフトを受けています。トランスポンダはこの f1f_1 にコヒーレントに同期し、ターンアラウンド比をかけて

f2=G2G1f1=G2G1fup(1vr,1c)f_2 = \frac{G_2}{G_1}\, f_1 = \frac{G_2}{G_1}\, f_{up}\left(1 - \frac{v_{r,1}}{c}\right)

を送信します。この f2f_2 がダウンリンク伝搬中にさらに相対速度 vr,2v_{r,2} によるドップラーシフトを受けて、地上局に周波数 fdownf_{down} として受信されます。

fdown=f2(1vr,2c)=G2G1fup(1vr,1c)(1vr,2c)f_{down} = f_2\left(1 - \frac{v_{r,2}}{c}\right) = \frac{G_2}{G_1}\, f_{up}\left(1 - \frac{v_{r,1}}{c}\right)\left(1 - \frac{v_{r,2}}{c}\right)

往復の光路時間(片道でも数分〜数十分)の間に相対速度が大きく変わらないと仮定できる場合(準静的近似、vr,1vr,2vrv_{r,1}\approx v_{r,2}\approx v_r)、これを整理すると

fdownG2G1fup(1vrc)2G2G1fup(12vrc)f_{down} \approx \frac{G_2}{G_1}\, f_{up}\left(1-\frac{v_r}{c}\right)^2 \approx \frac{G_2}{G_1}\, f_{up}\left(1-\frac{2v_r}{c}\right)

となります(vr/c1v_r/c \ll 1 より2次の項を無視)。ここでターンアラウンド比をかけた名目ダウンリンク周波数を fc(G2/G1)fupf_c \equiv (G_2/G_1) f_{up} とおくと、ドップラーによる周波数偏移は

Δf=fdownfc2vrcfc\Delta f = f_{down} - f_c \approx -\frac{2v_r}{c}\, f_c

すなわち、記号の符号を「近づく向きを正」の慣習に合わせて書き直すと、よく知られたコヒーレント2-wayドップラーの式

Δf=2vrcfc\boxed{\Delta f = \frac{2v_r}{c}\, f_c}

が得られます。片道(One-way)のドップラー公式 Δf=(vr/c)fc\Delta f = (v_r/c) f_c に対して係数が 2倍 になっているのは、信号が往復ともにドップラーシフトを受けるためです。この「2倍」の感度こそが、コヒーレントトランスポンダを使う最大の実利であり、探査機の視線方向速度をOne-wayより2倍敏感に測定できることを意味します。

One-way / Two-way / Three-wayドップラーの幾何学

トランスポンダの運用形態によって、ドップラー計測には3つの種類があります。

  • One-way(1-way)ドップラー: 探査機がアップリンクにロックせず、自身に搭載した発振器(USO、後述)を基準にダウンリンクを自律的に送信するモード。地上局は受信のみを行い、ドップラーシフトは片道分しか測定できません。上り経路の情報が全く無いため、ドップラーシフトの絶対値は探査機側発振器の周波数安定度に直接依存します。アップリンクが届かない状況(太陽合の近傍で電波が乱される、あるいは深宇宙で長時間追跡できない局面)で使われます。
  • Two-way(2-way)ドップラー: 同一の地上局がアップリンクを送信し、探査機がコヒーレントターンアラウンドで折り返したダウンリンクを、同じ地上局が受信するモード。上式で導出した通り、往復2回分のドップラーが乗るため感度は2倍。かつ上りも下りも同じ地上局の周波数基準(水素メーザー)を通るため、探査機側の発振器の精度に依存しない、非常に高精度な速度計測が可能になります。標準的な軌道決定運用の主力です。
  • Three-way(3-way)ドップラー: アップリンクを送信する地上局(局A)と、ダウンリンクを受信する地上局(局B)が異なるモード。探査機のコヒーレントターンアラウンド自体はTwo-wayと同じですが、地上側の2局が別々の周波数基準を持つため、その基準同士の同期(局間の時刻・周波数較正)が測定精度に影響します。DSNの3局体制(ゴールドストーン、マドリード、キャンベラ)を使えば、1局のパスが沈む直前に別局へ引き継いで連続追跡したり、複数局から同時に見ることで軌道決定に必要な幾何学的なベースラインを増やしたりできます。

精度の目安としては、Two-way ≳ Three-way ≫ One-way という順になります。Two-way/Three-wayはいずれも地上の高安定基準に支えられているため原理的に近い精度が出ますが、Three-wayは局間較正の誤差が上乗せされる分わずかに劣ります。One-wayは探査機搭載発振器の安定度で頭打ちになるため、Two-way/Three-wayに比べて一桁以上精度が劣化するのが通例です。

速度計測精度とPLLループSNRのつながり

地上局が実際にドップラーシフト Δf\Delta f をどれだけ正確に測れるかは、前回学んだPLLの追尾性能に直結します。地上局の受信機PLLは、ロックしたVCOの位相 θo(t)\theta_o(t) を連続的にカウントすることでドップラー周波数を測定します。カウント時間 TcT_c の間に蓄積した位相 Δθ\Delta\theta から、周波数推定値は

f^=Δθ2πTc\hat{f} = \frac{\Delta\theta}{2\pi T_c}

として得られます。前回導いたように、PLLのロック状態での位相誤差の分散はループSNR ρL\rho_L を使って σϕ21/ρL\sigma_\phi^2 \approx 1/\rho_L と近似できました。この位相雑音がそのまま周波数推定の誤差に伝播すると考えると、

σfσϕ2πTc12πTcρL\sigma_f \approx \frac{\sigma_\phi}{2\pi T_c} \approx \frac{1}{2\pi T_c \sqrt{\rho_L}}

Two-wayドップラー式 Δf=(2vr/c)fc\Delta f = (2v_r/c) f_cvrv_r について逆に解くと vr=(c/2fc)Δfv_r = (c/2f_c)\Delta f なので、速度推定の誤差は

σv=c2fcσfc4πfcTcρL\sigma_v = \frac{c}{2f_c}\, \sigma_f \approx \frac{c}{4\pi f_c T_c \sqrt{\rho_L}}

という形にまとまります。数値を入れてみましょう。Xバンドダウンリンク fc=8.4 GHzf_c = 8.4\ \text{GHz}、カウント時間 Tc=60 sT_c = 60\ \text{s}、ループSNR ρL=20 dB=100\rho_L = 20\ \text{dB} = 100 とすると、

σf12π×60×100=12π×6002.65×104 Hz\sigma_f \approx \frac{1}{2\pi \times 60 \times \sqrt{100}} = \frac{1}{2\pi\times 600} \approx 2.65\times10^{-4}\ \text{Hz} σv3×1082×8.4×109×2.65×1044.7×106 m/s=4.7 μm/s\sigma_v \approx \frac{3\times10^{8}}{2\times 8.4\times10^{9}} \times 2.65\times10^{-4} \approx 4.7\times10^{-6}\ \text{m/s} = 4.7\ \mu\text{m/s}

これは実際のDSN深宇宙ミッションで報告されているドップラー速度精度(1分程度の積分でμm/s〜数十μm/sオーダー)とよく一致する、現実的な数字です。ループSNRがPLLの設計(ループ雑音帯域幅 BLB_L)と受信電力 PCP_C で決まる量だったことを思い出すと、「PLLの設計が最終的な軌道決定精度を左右する」という、前回と今回の内容が一直線につながっていることが分かります。

コヒーレントモード vs ノンコヒーレントモードの精度差

Two-way/Three-wayモードでは、探査機のトランスポンダは自分自身の発振器の絶対精度を必要としません。位相をロックして比率をかけて送り返すだけなので、最終的な周波数安定度は地上局側の基準発振器(典型的には水素メーザー、周波数安定度(アラン偏差)σy1015\sigma_y \sim 10^{-15} 程度、積分時間1000秒オーダー)によって決まります。

一方One-wayモードでは、探査機はUSO (Ultra-Stable Oscillator) と呼ばれる高安定な発振器(多くは温度補償された水晶発振器、精密なものでルビジウム発振器)を自前で搭載し、これを基準にダウンリンクを生成します。USOの周波数安定度は典型的に σy1013\sigma_y \sim 10^{-13} 程度で、地上の水素メーザーより2桁ほど劣ります。ドップラーによる速度計測の誤差は、基準発振器の相対周波数安定度にほぼ比例するため(σvcσy\sigma_v \sim c\,\sigma_y)、One-wayドップラーの速度精度は同じ積分時間で比較するとTwo-way/Three-wayより一桁以上悪化するのが一般的です。

それでもUSOを搭載する意味は大きく、太陽合(探査機が太陽の向こう側に隠れ、電波が太陽コロナで激しく擾乱される時期)のようにアップリンクの安定なコヒーレントロックが維持できない局面や、そもそも地上からのコマンドが届かない探査フェーズでも、探査機だけで一定のダウンリンク周波数基準を保てるという運用上の柔軟性を提供します。USOそのものの詳しい特性は、後の回(atomic-clocks-uso)で改めて扱います。

実務での使われ方

トランスポンダとコヒーレントドップラーは、深宇宙ミッションの軌道決定(Orbit Determination, OD)と重力科学の根幹を支える技術です。

  • NASA/JPLのDSN標準トランスポンダは、S/X/Kaバンドの組み合わせでコヒーレントターンアラウンドをサポートしており、上記のターンアラウンド比(240/221、880/749など)はDSN Telecommunications Link Design Handbook (810-005) のTurnaround Ratiosに関するモジュールに規定されています。
  • ボイジャー1号・2号は打ち上げ(1977年)以来、S/Xバンドのコヒーレントトランスポンダを使い続けており、太陽系を離脱した現在でも、Two-wayドップラーによる精密な軌道決定運用が(通信が成立する限り)継続されています。
  • カッシーニ探査機(土星探査、2004–2017年運用)は、X/Kaバンドの複数リンクを同時にコヒーレントに折り返す高度な機器構成を持ち、太陽近傍を通る電波経路のドップラー計測から、一般相対性理論のパラメータ(PPNパラメータ γ\gamma)を検証する実験(Bertotti, Iess, Tortora, 2003, Nature)などの重力科学ミッションを行いました。これはコヒーレントドップラーの精度がなければ到達不可能な測定です。
  • JAXAのはやぶさ2もXバンドのコヒーレントトランスポンダを搭載しており、小惑星リュウグウとのランデブー運用中、Two-wayドップラーによる精密な相対軌道決定に利用されました。
  • 火星探査機(MRO等)では、コヒーレントドップラーによる軌道決定精度の向上が、火星の重力場モデルの推定や、火星大気による電波遅延の較正研究にも応用されています。

いずれのケースでも、トランスポンダのターンアラウンド比という「たった1つの有理数」が、地上の周波数基準の精度をそのまま探査機の速度計測精度に変換する橋渡し役を担っている点は共通しています。

演習問題

  1. Sバンドのターンアラウンド比 240/221240/221 を用いて、アップリンク周波数 fup=2115 MHzf_{up} = 2115\ \text{MHz} のときの名目ダウンリンク周波数 fcf_c を計算し、Sバンドダウンリンク帯(2290–2300 MHz)に収まっているか確認してください。
  2. 探査機の視線方向相対速度が vr=15 km/sv_r = 15\ \text{km/s}(地球から遠ざかる向き)であるとき、Xバンド(fc=8.4 GHzf_c = 8.4\ \text{GHz})のTwo-wayコヒーレントドップラーシフト Δf\Delta f を、式 Δf=(2vr/c)fc\Delta f = (2v_r/c) f_c を使って計算してください。同じ状況でOne-wayドップラーシフトはいくらになるか、両者を比較してください。
  3. 地上局のループSNRが ρL=26 dB\rho_L = 26\ \text{dB}、カウント時間 Tc=100 sT_c = 100\ \text{s}、ダウンリンク周波数 fc=8.4 GHzf_c = 8.4\ \text{GHz} のとき、本文の式 σvc/(4πfcTcρL)\sigma_v \approx c/(4\pi f_c T_c \sqrt{\rho_L}) を使って速度推定精度 σv\sigma_v をμm/s単位で求めてください。
  4. なぜOne-wayドップラーの速度計測精度は、探査機搭載USOの周波数安定度に大きく依存するのに対し、Two-wayドップラーはそうならないのかを、コヒーレントターンアラウンドの仕組みを踏まえて自分の言葉で説明してください。また、太陽合の時期になぜOne-wayモードへの切り替えが必要になるのか考察してください。

まとめと次回予告

トランスポンダは、探査機側にもPLLを搭載し、地上からのアップリンク搬送波にコヒーレントに位相同期しながら、正確な整数比(ターンアラウンド比)でダウンリンクを折り返すことで、地上局の高精度な周波数基準をそのまま探査機の速度計測に活かす仕組みでした。One-way/Two-way/Three-wayという3つのドップラー測定形態の違い、そしてコヒーレントモードとUSO基準のノンコヒーレントモードの精度差を数式で確認し、前回学んだPLLのループSNRが最終的な速度計測精度に直結することも見ました。

ところで、トランスポンダが折り返すのは搬送波の位相(ドップラー情報)だけではありません。探査機との距離を測るための擬似雑音(PN)符号やトーン信号も、同じトランスポンダを通じて地上からアップリンクされ、探査機側で折り返されてダウンリンクとして戻ってきます。次回は、この「距離を測る」ための信号処理である**測距(レンジング)のうち、探査機が受信信号をそのまま透過的に折り返す非再生測距(Non-regenerative Ranging)**の仕組みを扱います。トランスポンダが今回学んだコヒーレントターンアラウンドの中で、ドップラー用の搬送波とレンジング信号をどう同居させているのか、その数式的な詳細に踏み込んでいきます。

参考文献

  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005 (Turnaround Ratios / Transponder Turnaround に関するモジュール)
  • CCSDS 401.0-B, Radio Frequency and Modulation Systems, Part 1: Earth Stations and Spacecraft
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • B. Bertotti, L. Iess, P. Tortora, “A test of general relativity using radio links with the Cassini spacecraft,” Nature 425, 374–376 (2003)
  • F. M. Gardner, Phaselock Techniques, 3rd ed., Wiley
  • J. R. Wertz, D. F. Everett, J. J. Puschell (eds.), Space Mission Engineering: The New SMAD