測距・追跡#84

双方向時刻転送(TWSTT) — 伝搬遅延と時計オフセットを同時に解く

離れた2つの時計を同期させるには、片道の信号だけでは時計のずれと伝搬遅延を分離できないという根本問題がある。双方向に信号を交換し往復の観測量を組み合わせることでこの問題を解く双方向時刻転送(TWSTT/TWSTFT)の原理を、連立方程式による導出と経路非対称性の誤差解析とともに数式で理解する。

前提知識: 原子時計とUSO — アラン分散で読み解く周波数安定度の限界CCSDS時刻コード — CUC/CDSフォーマットで探査機と地上局の時刻をそろえる

時刻同期TWSTTTWSTFT時計オフセットDSN

この回で学ぶこと

原子時計とUSOの回では「時計そのものがどれだけ安定に時を刻めるか」をアラン分散で定量化し、CCSDS時刻コードの回では「時刻という値をビット列としてどう表現し、探査機と地上局のあいだで矛盾なくやり取りするか」を扱いました。しかしこの2つを押さえただけでは、まだ足りないピースが残っています。それは、離れた場所にある2台の時計を、そもそもどうやって同じ時刻に合わせるのかという問題です。

いくら水素メーザーが σy1015\sigma_y \sim 10^{-15} という驚異的な安定度を持っていても、それは「自分自身が一定のペースで時を刻み続けている」ことを保証するだけであり、「隣の局の水素メーザーと、いま何ナノ秒ずれているか」を教えてはくれません。DSNのゴールドストーン局とマドリード局、あるいは探査機と地上局のように、物理的に離れた2つの時計のオフセットを実際に測定し、較正するための技術が必要です。この回で扱う双方向時刻転送(Two-Way Time Transfer, TWSTT)——衛星回線を使う場合はしばしば**TWSTFT (Two-Way Satellite Time and Frequency Transfer)**とも呼ばれます——は、まさにこの「2つの時計のオフセットをどう測るか」に答える技術です。

結論を先取りすると、片道だけの信号伝送では、時計のずれと伝搬遅延という2つの未知数が1つの観測量に混ざり込んでしまい、原理的に分離できません。TWSTTは、信号を双方向に交換し、それぞれの方向の観測量を組み合わせることで、伝搬遅延の効果を打ち消しながら時計オフセットだけを抽出する、代数的にとても美しい仕組みを持っています。この構造は、トランスポンダの回で学んだコヒーレント2-wayドップラーが「往復させることで探査機側の未知の発振器を経路から追い出す」仕組みと、発想の根っこがよく似ています。

直感的な全体像

まず、なぜ片道だけの信号ではダメなのかを直感的に考えてみましょう。

局Aの時計が「10時00分00秒」を指した瞬間に電波を送信し、局Bの時計がそれを「10時00分00秒120ミリ秒」に受信したとします。この120ミリ秒という数字には、2つのまったく性質の異なる要因が混ざっています。

  1. 本当に電波が伝わるのにかかった時間(伝搬遅延) — 局間の距離や大気による遅延で決まる、純粋に幾何学的・物理的な量。
  2. 局Aと局Bの時計が、そもそもどれだけずれているか(時計オフセット) — 局Bの時計が局Aの時計より進んでいる、あるいは遅れている度合い。

観測されるのはこの2つのでしかありません。もし局間の距離が正確に分かっていれば伝搬遅延を差し引いて時計オフセットだけを取り出せますが、実際には測距精度そのものに限界がありますし、そもそも「時計を合わせたい」という状況では、しばしば正確な距離もまだ確立していない場合すらあります。片道の情報だけでは、120ミリ秒のうち何ミリ秒が伝搬遅延で何ミリ秒が時計のずれなのか、原理的に切り分けようがないのです。

ここで発想を転換します。局Bから局Aへも同じように信号を送り返してもらい、往復2つの観測量を得るとどうなるでしょうか。行き(A→B)の遅れには「伝搬遅延 + 時計オフセット」が乗り、帰り(B→A)の遅れには「伝搬遅延 − 時計オフセット」(符号が逆転する)が乗ります。この2つの式を足せば時計オフセットの寄与が打ち消し合って伝搬遅延だけが残り、引けば伝搬遅延の寄与が打ち消し合って時計オフセットだけが残る——これが双方向時刻転送の核心的なアイデアです。カギを握るのは、**往路と復路の伝搬遅延がほぼ等しい(経路が対称である)**という仮定であり、これが成り立つ限り、たった4つの時刻の読み取り値から、時計オフセットと伝搬遅延という2つの未知数をきれいに分離できます。

数式による定式化

局所時刻系と時計オフセットの定義

局A・局Bそれぞれの時計は、共通の理想的な時刻軸(たとえばTAIのような連続時刻系。CCSDS時刻コードの回で導入したSCLKの発想と同じです)を基準にした真の時刻 tt に対して、それぞれ小さなオフセット εA(t)\varepsilon_A(t)εB(t)\varepsilon_B(t) を持つとします。

CA(t)=t+εA(t),CB(t)=t+εB(t)C_A(t) = t + \varepsilon_A(t), \qquad C_B(t) = t + \varepsilon_B(t)

ここで CA,CBC_A, C_B は各局の時計が実際に表示する(読み取れる)値です。測定を行う数秒〜数分程度の短い時間スケールでは、εA,εB\varepsilon_A, \varepsilon_B の時間変化(ドリフト)は無視できるほど小さいとみなし、この間の時計オフセット

ΔTεBεA\Delta T \equiv \varepsilon_B - \varepsilon_A

と定義します。ΔT\Delta T を測定することが、この回の最終目標です(ドリフトそのものの評価はアラン分散の領分であり、ここでは短時間内で一定とみなせる「瞬間のオフセット」を扱います)。

一方向時刻転送の限界

局Aが真の時刻 t1t_1 に信号を送信したとします。局Aの時計はこの瞬間を

tA,send=t1+εAt_{A,\text{send}} = t_1 + \varepsilon_A

と記録します。信号は局A→局B間の一方向伝搬遅延 τAB\tau_{AB} をかけて局Bに到達し、局Bの時計はこの受信の瞬間を

tB,recv=t1+τAB+εBt_{B,\text{recv}} = t_1 + \tau_{AB} + \varepsilon_B

と記録します。局Bが観測できるのは、2つの時計の読み取り値の差だけです。

tB,recvtA,send=τAB+(εBεA)=τAB+ΔTt_{B,\text{recv}} - t_{A,\text{send}} = \tau_{AB} + (\varepsilon_B - \varepsilon_A) = \tau_{AB} + \Delta T

これが一方向時刻転送の根本的な限界です。左辺は観測できる既知量である一方、右辺には未知数が τAB\tau_{AB}ΔT\Delta T2つ含まれています。方程式が1本しかないのに未知数が2つあるため、このままでは絶対に解けません。局間の距離を独立に(たとえば測地測量で)極めて正確に知っていれば τAB\tau_{AB} を別途計算して差し引くこともできますが、そもそも数cm〜数十cmの精度で距離を知っていても、光速で割ればサブナノ秒の不確かさが残ってしまい、ナノ秒〜サブナノ秒精度の時計比較には力不足です。

双方向時刻転送の原理

そこで、局Bからも局Aへ折り返し信号を送ります。局Bが真の時刻 t2t_2(局Aの送信からそう遠くない時刻、典型的には数秒〜数十秒以内)に信号を送信したとすると、局Bの時計はこれを

tB,send=t2+εBt_{B,\text{send}} = t_2 + \varepsilon_B

と記録します。信号は局B→局A間の一方向伝搬遅延 τBA\tau_{BA} をかけて局Aに到達し、局Aの時計はこの受信の瞬間を

tA,recv=t2+τBA+εAt_{A,\text{recv}} = t_2 + \tau_{BA} + \varepsilon_A

と記録します。局Aが観測する差は

tA,recvtB,send=τBA(εBεA)=τBAΔTt_{A,\text{recv}} - t_{B,\text{send}} = \tau_{BA} - (\varepsilon_B - \varepsilon_A) = \tau_{BA} - \Delta T

となります。行きの式では +ΔT+\Delta T、帰りの式では ΔT-\Delta T と、時計オフセットの符号が反転して現れているのがポイントです。これはちょうど、トランスポンダの回でコヒーレント2-wayドップラーを導いたときに、往路と復路のドップラーシフトが同じ符号で足し合わさって感度が2倍になった構造と対をなす関係になっています。ドップラーの場合は「往復で同じ符号の量(速度)を2倍に強調する」ことが目的でしたが、ここでは逆に「往復で符号の反転する量(時計オフセット)と符号の変わらない量(伝搬遅延)を、線形結合によって分離する」ことが目的です。

連立方程式とΔT, τの導出

いま局間の伝搬路が往路・復路でほぼ同一であり(電波の通り道がわずか数秒〜数十秒の間にほとんど変化しない)、τAB=τBAτ\tau_{AB} = \tau_{BA} \equiv \tau という**経路対称性(reciprocity)**の仮定が成り立つとします。すると先の2つの観測方程式は

tB,recvtA,send=τ+ΔTtA,recvtB,send=τΔT\begin{aligned} t_{B,\text{recv}} - t_{A,\text{send}} &= \tau + \Delta T \\ t_{A,\text{recv}} - t_{B,\text{send}} &= \tau - \Delta T \end{aligned}

という、未知数 τ,ΔT\tau, \Delta T に対する2元1次連立方程式になります。これは代数的に一意に解けて、2式を引き算すればΔT\Delta Tが、足し算すればτ\tauが得られます。

ΔT=12[(tB,recvtA,send)(tA,recvtB,send)]\boxed{\Delta T = \frac{1}{2}\Big[(t_{B,\text{recv}} - t_{A,\text{send}}) - (t_{A,\text{recv}} - t_{B,\text{send}})\Big]} τ=12[(tB,recvtA,send)+(tA,recvtB,send)]\tau = \frac{1}{2}\Big[(t_{B,\text{recv}} - t_{A,\text{send}}) + (t_{A,\text{recv}} - t_{B,\text{send}})\Big]

4つの時刻の読み取り値——局Aの送信時刻、局Bの受信時刻、局Bの送信時刻、局Aの受信時刻——さえあれば、時計オフセット ΔT\Delta T と片道伝搬遅延 τ\tau の両方を、それぞれ独立に決定できるのです。これがTWSTTの核心です。一方向転送では原理的に分離不可能だった2つの未知数が、双方向に交換するだけで(距離を外部から測ることなく)きれいに解ける、というのは初めて見ると驚くべき結果ですが、種を明かせば「対称な量は足し算で残り、反対称な量は引き算で残る」という、線形代数のごく基本的な性質を使っているに過ぎません。

簡単な数値例で確認しましょう。局Aと局Bが衛星回線経由で信号を交換し、次の4つの時刻(局所時計の読み取り、単位は秒、小数点以下はミリ秒)が得られたとします。

tA,send=100.000000,tB,recv=100.119405t_{A,\text{send}} = 100.000000, \quad t_{B,\text{recv}} = 100.119405 tB,send=150.000000,tA,recv=150.119395t_{B,\text{send}} = 150.000000, \quad t_{A,\text{recv}} = 150.119395

行きの差は 119.405119.405 ms、帰りの差は 119.395119.395 ms です。これを公式に代入すると、

ΔT=12(119.405119.395) ms=0.005 ms=5 μs\Delta T = \frac{1}{2}(119.405 - 119.395)\ \text{ms} = 0.005\ \text{ms} = 5\ \mu\text{s} τ=12(119.405+119.395) ms=119.400 ms\tau = \frac{1}{2}(119.405 + 119.395)\ \text{ms} = 119.400\ \text{ms}

局Bの時計は局Aの時計よりおよそ 5μs5\,\mu\text{s} 進んでおり、片道の伝搬遅延はおよそ 119.4119.4 ms(静止衛星経由の中継に近い値)である、と決定できました。実際のTWSTFTシステムでは、時刻の読み取り精度そのものがピコ秒オーダーまで追い込まれており、ΔT\Delta T の決定精度もサブナノ秒に達します。

伝搬経路の非対称性による誤差

先の導出は τAB=τBA\tau_{AB} = \tau_{BA} という理想化に立脚していました。しかし実際には往路と復路の伝搬遅延が完全に一致するとは限りません。τABτBA\tau_{AB} \ne \tau_{BA} のとき、先ほどの ΔT\Delta T の推定式に何が起きるかを見てみましょう。

ΔTest=12[(τAB+ΔT)(τBAΔT)]=ΔT+τABτBA2\Delta T_{\text{est}} = \frac{1}{2}\Big[(\tau_{AB}+\Delta T) - (\tau_{BA}-\Delta T)\Big] = \Delta T + \frac{\tau_{AB} - \tau_{BA}}{2}

つまり推定誤差は、往路と復路の伝搬遅延の差のちょうど半分として、そのまま時計オフセットの推定値に漏れ込みます。

δ(ΔT)=τABτBA2\delta(\Delta T) = \frac{\tau_{AB} - \tau_{BA}}{2}

この非対称性はどこから生まれるのでしょうか。主な要因は次の3つです。

  • 電離圏遅延の分散性: 電離圏によるプラズマ遅延は周波数の2乗に反比例します(1/f2\propto 1/f^2)。往路と復路で異なる搬送波周波数を使う構成(たとえば衛星中継のトランスポンダが上りと下りで別のバンドを使う場合)では、同じ経路長でも電離圏遅延の量が往復で異なり、そのまま非対称誤差になります。
  • 対流圏遅延の非対称性: 対流圏遅延は周波数に依存しない(非分散性)ものの、仰角や経路長に依存します。往路の送信から復路の受信までのわずかな時間差の間に衛星や大気の状態がわずかに変化すれば、厳密な対称性は崩れます。
  • 局内機器遅延の非対称性: 送信系統(変調器、パワーアンプ、ケーブル)と受信系統(LNA、復調器、ケーブル)を通過する信号処理遅延は、装置ごとに異なる値を持ち、往路・復路で完全には一致しません。この機器遅延は、TWSTFT運用では閉合較正(closure calibration)——可搬型の基準局や較正用モデムを使い、既知の遅延ループで機器遅延そのものを定期的に測定する作業——によって独立に校正されます。

さらに、静止衛星などを中継点とする長距離のTWSTFTでは、地球の自転によるサニャック効果が往復の経路長にわずかな非対称性を生みます。これは真の意味での「往路と復路の物理的な経路差」ではなく、回転する地球基準系で時刻を扱うことに起因する相対論的な補正項であり、詳しくは相対論補正の回で扱う枠組みで補正されます。大陸間規模のTWSTFTリンクでは、このサニャック補正だけで数十ナノ秒に達することもあり、補正を怠るとナノ秒精度の時刻比較は成立しません。

実務でのTWSTFTシステム設計は、この非対称性起源の誤差を最小化すること——できるだけ同じ周波数・同じ経路・同じ機器遅延特性を往復で共有し、残った非対称性は個別に較正・補正すること——に多くの労力が割かれています。

実務での使われ方

双方向時刻転送は、地上の時刻標準機関から深宇宙探査機との通信まで、幅広いスケールで実際に使われています。

  • 国際原子時(TAI)の維持とBIPM: フランスのBIPM(国際度量衡局)は、世界各国の時刻標準機関(ドイツのPTB、米国のNIST、日本のNICT、フランスのObservatoire de Parisなど)が持つ原子時計群を比較し、TAI・UTCを計算しています。この各機関間の時刻比較の主力手法の一つがTWSTFTで、静止通信衛星を中継してPN符号ベースの双方向信号交換を行い、サブナノ秒〜数百ピコ秒オーダーの不確かさで各機関の時計オフセットを決定します。この結果はBIPMが毎月発行するCircular Tに掲載され、TAI計算の基礎データの一部となっています。TWSTFTの運用方式はITU-R勧告 TF.1153に規定されています。
  • GPS共通観測(Common-View)時刻転送との比較: GPS Common-Viewは、2つの局が同じGPS衛星を同時に観測し、それぞれが測定した「自局時計とGPS衛星時刻の差」を突き合わせることで、GPS衛星のクロック誤差という共通の未知量を差し引き、局間の時計オフセットを求める手法です。TWSTFTとの本質的な違いは、TWSTFTが2局間で直接信号を交換し、経路の対称性という仮定だけで伝搬遅延を消去するのに対し、Common-Viewは衛星の精密軌道暦(既知の幾何学的位置)を使って各局までの伝搬遅延を計算で求めるという点にあります。つまりTWSTFTは経路の対称性に、Common-Viewは軌道決定の精度に、それぞれ精度の根拠を置いています。両者は独立な手法であるため、実際の時刻標準機関はTWSTFTとGPS(現在はより高精度な搬送波位相ベースのPPP時刻転送)を相互チェックに用いることで、系統誤差の検出・較正を行っています。
  • DSN局間の時刻同期: CCSDS時刻コードの回で触れた通り、DDORがナノラジアンオーダーの角度精度を出すには、2つのDSN局(ゴールドストーン・マドリード・キャンベラ)の時刻系が数十ピコ秒以下の精度で相互較正されていなければなりません。DSNではGPS共通観測やTWSTFTに類する手法を用いて各局の水素メーザーを共通の時刻系(UTC(NIST)に連なるDSNのタイムスケール)に結び付け、局間の時計オフセットを継続的に監視・較正しています。この較正結果はDSN Telecommunications Link Design Handbook (810-005) の周波数・時刻基準系(FTS)モジュールで運用要件として規定されています。
  • 深宇宙探査機との時刻同期プロトコル: 探査機と地上局のあいだの片道光行時間は数分〜数時間に達するため、地上局同士のTWSTFTのようにτそのものを直接測るのではなく、非再生測距再生測距で説明した**往復測距(2-way ranging)**が、数学的にはまったく同じ「往復観測量からτとΔTを分離する」という原理の延長線上にあります。往復測距では通常「探査機の時計オフセットは無視できる、あるいは補正済み」という前提で片道光行時間 τ\tau だけを抽出しますが、探査機が独自のSCLKを刻んでいる場合には、往復測距で得たτと、テレメトリに刻まれたSCLKタイムスタンプとを組み合わせることで、SCLK-SCET相関——すなわち探査機時計のΔTに相当する量——を最小二乗的に推定しています。地上の2局間で使うTWSTFTと、探査機との間で使う往復測距は、スケール(τがナノ秒〜サブナノ秒 vs 光分〜光時間)こそ大きく異なりますが、根底にある数式は同じ構造をしています。

演習問題

  1. 局Aと局Bが直接見通し内の短距離マイクロ波リンクで信号を交換したところ、次の4つの時刻が得られた。tA,send=500.000000000t_{A,\text{send}} = 500.000000000 s、tB,recv=500.000033560t_{B,\text{recv}} = 500.000033560 s、tB,send=520.000000000t_{B,\text{send}} = 520.000000000 s、tA,recv=520.000033520t_{A,\text{recv}} = 520.000033520 s(局所時計の読み取り、単位は秒)。本文の公式を使って、時計オフセット ΔT\Delta T(ナノ秒単位)と片道伝搬遅延 τ\tau(マイクロ秒単位)を求めよ。
  2. 前問の伝搬遅延 τ\tau の値から、局Aと局Bのおおよその直線距離を見積もれ(電波は真空中を光速で伝わるとしてよい)。
  3. 往路の電離圏遅延が τAB\tau_{AB} の中に 2020 ns、復路の電離圏遅延が τBA\tau_{BA} の中に 1212 ns 含まれており、それ以外の遅延要因は完全に対称であるとする。この非対称性だけによって、本文の式 δ(ΔT)=(τABτBA)/2\delta(\Delta T) = (\tau_{AB}-\tau_{BA})/2 から生じる ΔT\Delta T の推定誤差を求めよ。また、往復で同一の搬送波周波数を使うことがこの誤差の低減にどう役立つか、電離圏遅延の周波数依存性(1/f2\propto 1/f^2)に触れながら説明せよ。
  4. 一方向時刻転送では時計オフセット ΔT\Delta T と伝搬遅延 τ\tau を分離できない理由を、観測方程式の本数と未知数の個数という観点から自分の言葉で説明せよ。また、GPS Common-View方式が同じ問題をTWSTFTとは異なるアプローチ(衛星軌道暦の利用)で解決していることを踏まえ、両手法が精度面でそれぞれ何に依存しているか比較せよ。

まとめと次回予告

双方向時刻転送(TWSTT/TWSTFT)は、離れた2つの時計のオフセットを測るという一見素朴な問題に対して、片道の信号だけでは伝搬遅延と時計オフセットという2つの未知数を原理的に分離できないという壁に突き当たり、それを信号の双方向交換によって解決する技術でした。局Aの送信・局Bの受信・局Bの送信・局Aの受信という4つの時刻の読み取り値から、経路対称性という仮定のもとで ΔT\Delta Tτ\tau を同時に解く連立方程式は、コヒーレント2-wayドップラーと同じく「往復させることで見えなかったものを分離する」という深宇宙通信に繰り返し現れるモチーフの一つです。また、往路・復路の非対称性(電離圏の分散性、機器遅延、サニャック効果)が同期精度に与える誤差の構造も確認しました。

次回は、この回で扱ってきたようなドップラー・レンジング・時刻転送といった追跡観測量を、機関間で標準化されたファイル形式としてどうやり取りするかという、CCSDSの航法データメッセージ標準(Navigation Data Messages、追跡データメッセージ TDM やオービットデータメッセージ ODM など)に軽く触れます。これまで数式として導いてきた観測量が、実際の運用ではどのようなフォーマットのファイルとして機関間を飛び交っているのか、という視点から見ていきます。

参考文献

  • ITU-R Recommendation TF.1153, The Operational Use of Two-Way Satellite Time and Frequency Transfer Employing Pseudorandom Noise Codes
  • D. Kirchner, “Two-Way Time Transfer via Communication Satellites,” Proceedings of the IEEE, vol. 79, no. 7, pp. 983–990 (1991)
  • BIPM, Circular T(各国時刻標準機関の時刻比較データの月次公表)
  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005(Frequency and Timing Subsystem に関するモジュール)
  • J. Levine, “Introduction to Time and Frequency Metrology,” Review of Scientific Instruments, vol. 70, no. 6, pp. 2567–2596 (1999)
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76