システム・運用#49

太陽合 — 太陽コロナが引き起こす位相シンチレーションと合ブラックアウト運用

探査機が地球から見て太陽の真裏に回り込む太陽合の時期、電波は太陽コロナのプラズマを貫いて届く。プラズマ分散がもたらす群遅延と、コロナ乱流による位相シンチレーションを、PLLのループSNRを拡張する新しい雑音源として定式化し、合ブラックアウト運用の設計判断を理解する。

前提知識: dsn

太陽合太陽コロナ位相シンチレーションプラズマ分散運用

この回で学ぶこと

これまでの回で、PLLが地上局の受信機の中で微弱な残留搬送波をどう追尾し続けるかを見ました。位相誤差の分散はループSNR ρL=PC/(N0BL)\rho_L = P_C/(N_0 B_L) を使って σϕ21/ρL\sigma_\phi^2 \approx 1/\rho_L と近似でき、ρL\rho_L が下がるとサイクルスリップの危険が増す、というのがそこでの結論でした。この議論の背後には、暗黙のうちに「雑音源は受信機の熱雑音(N0N_0)だけである」という前提が置かれていました。

しかし探査機が地球から見て太陽のほぼ真後ろに位置する時期には、この前提が崩れます。地球〜探査機間の電波の視線(line of sight)が太陽近傍を掠めて通過するようになり、電波は太陽から絶えず吹き出しているプラズマの大気——太陽コロナ——を貫いて地上に届くことになります。プラズマは電波にとって単なる「透明な真空」ではなく、周波数に依存して伝搬速度を変え、しかも乱流によって絶えず密度が揺らいでいる媒質です。この回では、この太陽コロナが電波にもたらす2つの効果——(1) 電磁波の分散(dispersion)による群遅延の変動と、(2) コロナの乱流による位相シンチレーション——を物理から定式化し、後者がPLLの位相雑音源としてどう効いてくるかを、PLLの回のループSNRの議論を拡張する形で理解します。最後に、実際のミッション運用でこの現象がどう扱われているか(合ブラックアウト運用、Ka帯の優位性など)を見ます。

直感的導入: コロナは電波にとって「揺らぐガラス」である

夜空の星がまたたいて見えるのは、星の光そのものが揺らいでいるからではなく、地球大気の乱流(温度・密度のむら)を光が通過する際に、経路ごとにわずかに屈折率が変わり、位相や強度がランダムに乱されるからです。これを光学的シンチレーションと呼びます。

太陽合の時期に探査機からの電波が経験するのは、これとまったく同じ種類の現象です。ただし乱すのは大気ではなく、太陽から常時吹き出している太陽風と、それが太陽近傍でより濃く電離した状態になっている太陽コロナという、電離したプラズマの「大気」です。プラズマ中では電波の伝搬速度が電子密度に依存するため、電波の視線が太陽に近づけば近づくほど、電子密度が高く、かつ乱流的に揺らぐ領域を長く通過することになり、電波の位相はランダムに、しかも激しく乱されます。

この位相の乱れは、PLLの回で「線形近似が破れると起きる」と説明したサイクルスリップの引き金に直接つながります。したがって太陽合の時期は、たとえ探査機からの送信電力や地上局の受信感度がまったく変わっていなくても、電波が通過する空間そのものが「悪い媒質」に変わることによって、通信リンクの実効的な品質が劣化する、という他の回とは毛色の違う劣化要因です。以下ではこれを定量的に追っていきます。

プラズマ分散: 群遅延と位相前進

太陽コロナは電離した希薄プラズマで、自由電子の密度を nen_e [m3\text{m}^{-3}] とすると、そのプラズマ振動数(電子がプラズマ中で集団的に振動する固有周波数)は

fp=12πnee2ε0me8.98ne  [Hz, ne は m3]f_p = \frac{1}{2\pi}\sqrt{\frac{n_e e^2}{\varepsilon_0 m_e}} \approx 8.98\sqrt{n_e}\ \ [\text{Hz}, \ n_e \text{ は } \text{m}^{-3}]

で与えられます(ee: 電気素量、ε0\varepsilon_0: 真空の誘電率、mem_e: 電子質量)。冷たい非磁化プラズマ中を伝搬する電磁波の分散関係は ω2=ωp2+c2k2\omega^2 = \omega_p^2 + c^2 k^2 であり、これを解くと屈折率 n(f)=ck/ωn(f) = ck/\omega

n(f)=1(fpf)21fp22f2(ffp)n(f) = \sqrt{1-\left(\frac{f_p}{f}\right)^2} \approx 1 - \frac{f_p^2}{2f^2} \qquad (f \gg f_p)

と求まります。地上局が使うS/X/Ka帯(数GHz〜数十GHz)は太陽コロナのプラズマ振動数(せいぜい数十kHz〜数MHzのオーダー)よりはるかに高いため、この近似は深宇宙リンクの太陽コロナ通過時にも十分成り立ちます。

この分散関係から、位相速度 vph=c/n>cv_{ph}=c/n > c群速度 vg=nc<cv_g = nc < c という、通常の直感とは逆向きの2つの速度が導かれます(実際 dk/dω=1/(nc)dk/d\omega = 1/(nc) と計算できるため vg=dω/dk=ncv_g=d\omega/dk=nc です)。信号のエネルギー・情報を運ぶのは群速度なので、プラズマを通過した電波は真空を伝搬した場合より遅れて到着します。これが測距(レンジング)に効いてくる群遅延です。一方、搬送波の位相そのものは逆に真空の場合より速く進みます。これが位相前進です。

視線に沿って電子密度を積分した量を電離層物理と同じ流儀で**電子数積分量(TEC, Total Electron Content)**と呼びましょう。

TEC視線ne(l)dl[/m2]\text{TEC} \equiv \int_{\text{視線}} n_e(l)\, dl \qquad [\text{個}/\text{m}^2]

n(f)1fp2/2f2n(f)\approx 1-f_p^2/2f^2 を使って群遅延・位相前進を距離(等価な光路長の変化)に換算すると、電離層物理でよく知られた次の関係が得られます。

ΔRgroup=e28π2ε0meTECf240.3TECf2  [m],ΔRphase=ΔRgroup\Delta R_{\text{group}} = \frac{e^2}{8\pi^2\varepsilon_0 m_e}\cdot\frac{\text{TEC}}{f^2} \approx 40.3\,\frac{\text{TEC}}{f^2}\ \ [\text{m}], \qquad \Delta R_{\text{phase}} = -\Delta R_{\text{group}}

(TECは /m2\text{個}/\text{m}^2ff は Hz。定数 40.340.3 はGPSの電離層遅延補正でもおなじみの、プラズマ分散に普遍的な係数です。)群遅延と位相前進が符号は逆・大きさは等しいという関係は、後で見る「複数周波数を同時観測すればプラズマ効果を較正できる」という実務上の手法の理論的根拠になっています。

ここで見落としてはいけない重要な違いがあります。距離換算の群遅延 ΔRgroup\Delta R_{\text{group}}1/f21/f^2 に比例しますが、PLLが実際に追尾する**位相そのもの(ラジアン単位)**は、

Δϕcorona=2πfcΔRphase=2π×40.3cTECf  [rad]\Delta\phi_{\text{corona}} = \frac{2\pi f}{c}\,\Delta R_{\text{phase}} = -\frac{2\pi\times 40.3}{c}\cdot\frac{\text{TEC}}{f}\ \ [\text{rad}]

と、1/f1/f にしか比例しません。同じプラズマ分散という1つの物理現象が、測距精度の指標としては 1/f21/f^2 で、PLLが追いかける位相雑音の指標としては 1/f1/f で効いてくるという、この違いを押さえておくことが以下の議論のポイントです。いずれにせよ、周波数が低いほどプラズマの影響を強く受けるという定性的な傾向は共通しています。

SEP角とコロナ電子密度モデル: なぜ「合」の時期だけ問題になるか

視線が太陽にどれだけ近づくかは、地球から見た太陽と探査機の間の角度——太陽・地球・探査機角(Sun-Earth-Probe angle, SEP角)、慣習的に単に「太陽離角」とも呼ばれます——によって決まります。太陽・地球間距離を a1AUa_\oplus \approx 1\,\text{AU}、SEP角を ψ\psi とすると、視線が太陽中心から最も近づく距離(インパクトパラメータ pp)は、探査機が太陽よりはるかに遠方にある(外惑星探査機や合の幾何に近い内惑星探査機で妥当な近似)として、

pasinψaψ(ψ が小さいとき、ラジアン)p \approx a_\oplus \sin\psi \approx a_\oplus\, \psi\quad (\psi \text{ が小さいとき、ラジアン})

と近似できます。ψ\psi がゼロに近づく(探査機が太陽の真裏に隠れる)ほど、視線は太陽表面すれすれを通過するようになります。

太陽コロナの電子密度 ne(r)n_e(r) は、太陽中心からの距離 rr の関数として、太陽半径 RR_\odot を単位に取ったべき乗則でおおむね近似できます。

ne(r)n0(rR)νn_e(r) \approx n_0\left(\frac{r}{R_\odot}\right)^{-\nu}

古典的な太陽コロナのモデル(Baumbach–Allen型の経験式など)では、太陽表面近くのK-コロナ成分で ν6\nu\sim 6 程度、太陽風として定常的に外側へ広がっていく遠方の成分では ν2\nu\sim 2 程度と、太陽からの距離によって傾きが変わることが知られています。ここではこの傾き ν\nu を一般化したパラメータとして扱い、視線に沿ったTECをインパクトパラメータ pp の関数として計算してみましょう。視線を zz(太陽中心からの視線方向の座標、最近接点で z=0z=0)とすると、視線上の各点の太陽中心からの距離は r=p2+z2r=\sqrt{p^2+z^2} なので、

TEC(p)=n0(p2+z2R)νdz=n0Rνp1ν(1+u2)ν/2duCν\text{TEC}(p) = \int_{-\infty}^{\infty} n_0\left(\frac{\sqrt{p^2+z^2}}{R_\odot}\right)^{-\nu} dz = n_0 R_\odot^{\nu}\, p^{\,1-\nu}\underbrace{\int_{-\infty}^{\infty}(1+u^2)^{-\nu/2}\,du}_{\displaystyle C_\nu}

(2行目は z=puz=pu と置換した結果です。CνC_\nuν>1\nu>1 で収束する、pp によらない無次元定数です。)つまり

TEC(p)p1ν\text{TEC}(p) \propto p^{\,1-\nu}

という、非常にシャープなべき乗則が得られます。先ほどの paψp\approx a_\oplus\psi を代入すれば、

TEC(ψ)ψ(ν1)\boxed{\text{TEC}(\psi) \propto \psi^{-(\nu-1)}}

です。ν=2\nu=2(遠方の太陽風的成分が支配的な場合)でも TECψ1\text{TEC}\propto \psi^{-1} とSEP角に反比例しますが、ν=6\nu=6(視線が太陽表面近くのK-コロナを直撃するような、SEP角が数度以下の深い合)になると TECψ5\text{TEC}\propto\psi^{-5} と、SEP角が半分になるだけでプラズマ効果が30倍以上に跳ね上がる計算になります。これが、太陽合が近づくとリンク品質が緩やかにではなく劇的に悪化する理由であり、後述する「SEP角の閾値でオペレーションを切り替える」という運用判断の物理的根拠です。

PLLへの拡張: コロナ位相雑音とループ設計

PLLの回では、受信機の熱雑音だけを考慮し、ループSNR ρL=PC/(N0BL)\rho_L = P_C/(N_0 B_L) から位相誤差の分散を σϕ21/ρL\sigma_\phi^2 \approx 1/\rho_L と近似しました。太陽合の期間は、これに加えて、いま定式化したコロナのプラズマ揺らぎに由来する追加の位相雑音項 σc2\sigma_c^2 を考える必要があります。

σϕ,total2    1ρL熱雑音(PLLの回)  +  σc2(ψ,f)コロナ位相シンチレーション\sigma_{\phi,\text{total}}^2 \;\approx\; \underbrace{\frac{1}{\rho_L}}_{\text{熱雑音(PLLの回)}} \;+\; \underbrace{\sigma_c^2(\psi, f)}_{\text{コロナ位相シンチレーション}}

σc2\sigma_c^2 は上で見た TEC(ψ)ψ(ν1)\text{TEC}(\psi)\propto\psi^{-(\nu-1)}揺らぎ成分(コロナは静的ではなく乱流的に密度が変動するため、TECの時間平均からのずれそのものが位相を揺さぶります)に由来し、ΔϕcoronaTEC/f\Delta\phi_{\text{corona}}\propto \text{TEC}/f の関係から、おおむね σc2\sigma_c^2 もSEP角が小さくなるほど、また周波数が低くなるほど大きくなります。

ここで熱雑音とコロナ位相雑音のあいだには、PLLのループ設計にとって本質的な違いがあります。熱雑音は(近似的に)白色雑音であり、ρL=PC/(N0BL)\rho_L=P_C/(N_0B_L) の式が示す通り、ループ帯域幅 BLB_L を狭めれば狭めるほど単調に σϕ2\sigma_\phi^2 を減らせました。ところがコロナの乱流揺らぎは白色ではなく、その電力の大部分がループ帯域幅と同程度か、それより低い周波数帯(揺らぎの相関時間はおよそ秒〜数十秒のオーダー)に集中した「色付き」雑音です。DSNの搬送波追尾ループの帯域幅 BLB_L は典型的に数Hz〜数十Hzのオーダー(PLLの回参照)であり、これはコロナ揺らぎの主要な周波数帯とちょうど重なってしまいます。

このため、熱雑音対策として単純に BLB_L を狭めても、コロナ位相雑音の低周波成分の多くはループの追尾帯域内に入り込んでしまい、期待したほどには効果が出ません。むしろ合が深まり σc\sigma_c が線形近似の範囲(sinϕϕ\sin\phi\approx\phi)を超えて大きくなると、PLLの回で扱ったサイクルスリップの発生率が跳ね上がります。したがって太陽合期の運用では、単純にループ帯域幅を操作するだけでなく、後述するように運用モードそのもの(周波数帯の選択、コマンド送信の停止など)を変えて対処するのが実務上の標準的な解決策になります。

実務での使われ方

合ブラックアウト運用。 多くの深宇宙ミッションでは、SEP角があるしきい値(典型的には数度、ミッションや周波数帯によって 22^\circ55^\circ程度)を下回る期間、地上からのコマンド送信を停止する**合ブラックアウト(conjunction blackout / command moratorium)**運用を設定します。これは、コロナのプラズマ揺らぎでアップリンクの復調が不安定になった状態で誤ったコマンドが探査機に届き、意図しない動作を引き起こすリスクを避けるためです。テレメトリのダウンリンクは、データレートを大幅に落とすなどして品質劣化に耐える形で継続されることが多く、トランスポンダの回原子時計とUSOの回で触れたように、アップリンクへのコヒーレントロックが維持できない局面では探査機はOne-wayモードに切り替わり、搭載USOを基準に自律的にダウンリンクを送信し続けます。火星探査機は地球との会合周期(シノディック周期、約26か月=約2.135年)ごとに太陽合を経験し、そのつど数週間にわたってコマンド送信が制限される運用計画が組まれます。この期間はミッション側もあらかじめ探査機を安全な待機シーケンスに設定し、地上からの介入なしに数週間を乗り切れるようにしておく必要があります。

Ka帯がS/X帯より合に強い理由。 数式定式化の節で見た通り、コロナのプラズマ効果は位相(ラジアン)で 1/f1/f、群遅延(距離)で 1/f21/f^2 とどちらも周波数が高いほど小さくなります。したがって同じSEP角であっても、S帯(約2.3GHz)よりX帯(約8.4GHz)、X帯よりKa帯(約32GHz)の方がプラズマ揺らぎの影響を大きく減らせます。X帯とKa帯を単純に比較すると、周波数比はおよそ 32/8.43.832/8.4\approx 3.8倍なので、位相雑音は理論上 1/3.81/3.8、群遅延は 1/3.821/14.51/3.8^2\approx1/14.5 に軽減される計算になります。実際には強い散乱(深い合)の領域では単純な 1/f1/f 則からのずれ(回折効果によるさらに急な減衰)も観測されており、Ka帯の優位性は単純計算以上に大きいことが知られています。これが、近年のミッションでダウンリンクにKa帯を積極的に採用する動機の1つになっています。

多周波数観測によるプラズマ効果の較正。 群遅延と位相前進が符号こそ逆でも大きさが等しく、どちらも(近似の範囲で)電子数積分量TECに比例するという関係を利用し、X帯とKa帯など複数の周波数で同時にドップラー・レンジングを観測すれば、周波数依存性を持つプラズマ由来の遅延と、周波数に依存しない(非分散性の)効果とを分離できます。相対論補正の回で扱ったシャピロ遅延(太陽の重力による時空の歪みで生じる、周波数に依存しない遅延)はまさにこの非分散性の効果であり、カッシーニ探査機が2002年の太陽合でX/Ka帯を同時運用してPPNパラメータ γ\gamma を高精度に検証できたのは、この多周波数較正によってコロナのプラズマ雑音を除去できたからです。プラズマ効果とシャピロ遅延は、同じ「太陽合の時期に強く現れる」という点で紛らわしいですが、前者は分散性(周波数依存)、後者は非分散性(周波数に依存しない)という点で物理的起源がまったく異なります。

演習問題

  1. SEP角 ψ=2\psi=2^\circ および ψ=5\psi=5^\circ のとき、太陽・地球間距離 a=1.496×1011a_\oplus=1.496\times10^{11} m、太陽半径 R=6.96×108R_\odot=6.96\times10^8 m を用いて、視線のインパクトパラメータ p=asinψp=a_\oplus\sin\psi を太陽半径単位(p/Rp/R_\odot)で求めてください。

  2. コロナ電子密度のべき指数が ν=2\nu=2 の場合と ν=6\nu=6 の場合それぞれについて、TEC(ψ)ψ(ν1)\text{TEC}(\psi)\propto\psi^{-(\nu-1)} を使って、ψ=5\psi=5^\circ から ψ=1\psi=1^\circ に近づいたときTEC(したがってコロナ位相雑音の目安)が何倍になるか計算してください。

  3. ある太陽合の局面でTEC =5×1017=5\times10^{17} 個/m2^2 であったとします。式 ΔRgroup40.3TEC/f2\Delta R_{\text{group}}\approx 40.3\,\text{TEC}/f^2 [m] を使って、S帯(f=2.3f=2.3 GHz)、X帯(f=8.4f=8.4 GHz)、Ka帯(f=32f=32 GHz)それぞれの群遅延(距離換算)を計算し、周波数が高いほどどれだけ有利になるか比較してください。

  4. なぜ太陽合期のPLLでは、熱雑音対策として有効だった「ループ帯域幅 BLB_L を狭める」という手段が、コロナ位相雑音に対しては同じようには効かないのか、この回で述べたコロナ揺らぎのスペクトル特性(色付き雑音であること)を踏まえて自分の言葉で説明してください。またミッション運用がKa帯の採用やブラックアウト運用など、ループ設計以外の対策に頼る理由も考察してください。

まとめと次回予告

太陽合の時期、探査機からの電波は太陽コロナという乱流的なプラズマ媒質を貫いて届きます。プラズマの分散関係から、群遅延は 1/f21/f^2、位相前進(したがってPLLが追尾すべき位相雑音)は 1/f1/f でそれぞれ周波数に依存すること、そしてSEP角が小さくなるほど視線が太陽近傍の高密度領域を通り、TECが ψ(ν1)\psi^{-(\nu-1)} という急峻なべき乗則で増大することを見ました。このコロナ位相雑音はPLLの回のループSNR ρL\rho_L の議論に、熱雑音とは性質の異なる「色付き雑音」として付け加わり、単純なループ帯域幅の調整だけでは十分に抑えられないことも確認しました。実務では、SEP角のしきい値による合ブラックアウト運用、プラズマ効果に強いKa帯の活用、多周波数観測によるプラズマ効果の較正といった、複数の対策を組み合わせてこの数週間の困難な期間を乗り切っています。

次回は、この合ブラックアウトのように地上からの介入が長期間期待できない局面や、想定外の異常事態が発生した局面で探査機がどう振る舞うべきかという、セーフモードにおける通信設計に軽く触れます。限られた電力・限られたリンクマージンの中で、探査機が「生きていること」だけは確実に地球に伝え続けるための、これまでとは違う設計思想を見ていきます。

参考文献

  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005(太陽コロナ・荷電粒子効果に関するモジュール)
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • Muhleman, D. O., and Anderson, J. D., “Solar wind electron densities from Viking dual-frequency radio measurements,” Astrophysical Journal, 247, 1093–1101 (1981)
  • Bertotti, B., Iess, L., and Tortora, P., “A test of general relativity using radio links with the Cassini spacecraft,” Nature 425, 374–376 (2003)
  • Davies, K., Ionospheric Radio, Peter Peregrinus Ltd.