変調・符号化#28
シンボル同期 — Gardner検出器でシンボル境界のタイミングを追跡する
整合フィルタの出力は『正しい時刻でサンプリングすれば』2E/N₀を達成できる、が肝心のその時刻はどうやって知るのか。PLLが搬送波の位相を追尾したのに対し、今回はシンボル境界のタイミングを追尾するGardner検出器を導出し、なぜそれがキャリア位相に依存せず動作できるのかを数式で示す。
前提知識: matched-filter
この回で学ぶこと
整合フィルタの回で、私たちは受信SNRを最大化する最適フィルタの形 を導出し、その出力を時刻 でサンプリングすれば、判定変数が
という理想的な信号空間モデルに帰着し、 が達成できることを厳密に示しました。しかしこの議論には、あからさまに天下りな仮定が1つ隠れていました。「時刻 でサンプリングすれば」というくだりです。実際の受信機は、ある1つのシンボルがいつ始まりいつ終わるのか、あらかじめ知りません。探査機からの信号は伝搬遅延・ドップラーシフト・局部発振器の周波数誤差を経て届くため、受信機のサンプリングクロックとシンボル境界の間には、未知でしかも時間とともにゆっくり変動するずれが存在します。整合フィルタが理論上の性能限界を「達成可能」と示したことと、実際にその限界を「達成する」ことの間には、このタイミングのずれを推定し補正するという、もう1つの仕事が挟まっているのです。
この仕事を担うのがシンボル同期(symbol synchronization)、別名タイミングリカバリ(timing recovery)と呼ばれる受信機のサブシステムです。PLLの回で、私たちは地上局が探査機の残留搬送波の位相 を、雑音の中からフィードバックループで追尾し続ける仕組みを学びました。今回のシンボル同期は、これと構造的によく似た問題です。ただし追いかける対象が搬送波の位相ではなく、シンボル境界のタイミング (あるいは正規化したタイミングオフセット )である点が違います。PLLが「位相」の同期ループだったのに対し、今回は「時間」の同期ループを作ります。この回では、そのタイミング誤差を検出する代表的な回路である Gardner検出器 (Gardner Timing Error Detector) を数式で導出し、それがなぜ「決定(判定結果)を使わずに」「搬送波の残留位相に影響されずに」動作できるのかを厳密に示し、最後にPLLとの数学的な類似性・相違点、そして実装上の要である補間フィルタの仕組みまでを見ていきます。
直感的な導入: サンプリング時刻がずれると何が起きるか
ISIとアイダイアグラムの回で、判定回路がサンプリングする時刻 が最適点からずれると、ピーク歪み が増大し、アイダイアグラムの「目」が横方向に閉じていくことを見ました。整合フィルタ理論が保証する という上限値は、あくまでパルスのピーク(整合フィルタ出力が最大になる瞬間)でサンプリングできたときにのみ達成されます。サンプリング時刻が最適点から だけずれると、整合フィルタ出力はそのピークから離れた値しか取れず、実効的な信号振幅が小さくなり、隣接シンボルからの漏れ込み(ISI)も増えるため、実効SNRは劣化します。
つまり受信機は、整合フィルタを正しく実装しただけでは足りず、その出力のどの瞬間をサンプリングすべきかを自分で見つけ、しかも探査機との相対運動によって刻々と変化するそのタイミングを追い続けなければならないわけです。これはPLLが「見失った搬送波の位相を推定し追い続ける」問題と構造的に同じで、パラメータが位相からタイミングに変わっただけです。したがって解決策の骨格もPLLに似せて作ることができます。
- タイミング誤差検出器 (Timing Error Detector, TED): 受信サンプルから「今のサンプリングタイミングがどちらの方向にどれだけずれているか」を表す誤差信号を作る。
- ループフィルタ: その誤差信号を平滑化・積分する。
- 補間器/可変クロック: フィルタ後の値に応じて、実際にサンプリングする時刻(あるいはサンプル列から作り出す仮想的なサンプリング時刻)を調整する。
PLLの位相検波器・ループフィルタ・VCOという3点セットと見比べれば、対応関係は明らかです。以下ではまず、この対応関係の心臓部である「タイミング誤差検出器」をどう作るかを、具体的な数式で詰めていきます。
問題の定式化
整合フィルタ出力(あるいは同じことですが、まだ整合フィルタをかける前でもよい、後述)を、シンボルレート に対して十分細かくサンプリングした連続時間波形 とします。伝送された(未知の)シンボル列を 、combined pulse(送信パルス整形と受信フィルタを合成した波形、ISIの回で使ったのと同じ記法)を 、未知のタイミングオフセットを とすると、
正規化したタイミングオフセット を使うと、受信機の仕事は「 を雑音の中から推定し、 が最大値(ピーク)を取る瞬間、すなわち を狙ってサンプリングすること」だと言い換えられます。
ここで整合フィルタ理論からの重要な前提を思い出しておきます。整合フィルタの回で証明した通り、送信パルスの自己相関関数がそのまま整合フィルタの出力波形になります。NRZ矩形パルス ()の自己相関は、よく知られているように三角形になります。以下ではこの具体的なケースを使い、Gardner検出器の誤差信号を最後まで厳密に計算します。合成パルスをピーク位置を原点に取り直して
と正規化します。この は隣接シンボルとしか重ならない(2シンボル以上離れると完全にゼロ)という扱いやすい性質を持っており、以下の計算をきれいに閉じた形にしてくれます。
Gardner検出器の導出
Gardner検出器の特徴は、1シンボルあたり2つのサンプル(シンボル境界上の「オンタイムサンプル」と、その中間点の「中間サンプル」)だけを使い、しかも判定結果(推定シンボル )を一切使わずに誤差信号を作れる点にあります。受信機のサンプリングクロックが にあると仮定して(実際のずれ はこれから推定する)、次の2種類のサンプルを定義します。
Gardner検出器の誤差信号は、次の単純な積として定義されます。
直感的には、 と (隣接する2つのオンタイムサンプル)の差分が、その間にある中間サンプル でどれだけ重み付けされるかを見ています。もしサンプリングタイミングが完全に正しければ()、中間サンプルはちょうど2つのシンボル遷移の中点にあり、対称性から誤差信号の期待値はゼロになるはずです。タイミングがずれると、この対称性が崩れて誤差信号にゼロでない値が現れる——というのが直感的な仕組みです。これを厳密に確認しましょう。
三角パルスによる厳密な計算
が でしか非ゼロにならないことを使うと、 の範囲で(タイミングオフセットが小さく、隣接する高々2シンボルしか重ならない状況を考えます)、次の値が具体的に計算できます。
(それぞれ、、、、 を代入し、支持区間 の外側にあたる項をゼロとして落としたものです。)
これらを に代入し展開すると、
シンボル が独立同分布で 、(異なる時刻のシンボルは無相関)であることを使って期待値を取ると、異なる添字の積(、、)の期待値はすべてゼロになり、 の項だけが残ります。
これを丁寧に展開すると、
これがGardner検出器のS字カーブです。 でちょうどゼロを通り、 が小さいうちは
と、タイミングオフセットに比例した(符号付きの)誤差信号が得られます。ループフィルタとNCO/補間器がこの誤差信号を使って の方向にサンプリングタイミングを修正し続ければ、ループはタイミングオフセットゼロの状態に収束します。PLLの回の位相検波器の特性 (小さい で線形近似)と、まったく同じ構造の「線形化されたS字カーブ」が、ここでもタイミング誤差について再現されていることに注目してください。
なお興味深いことに、 ちょうどのときは、確率的な期待値としてではなく、どんなデータパターンでも厳密に になります(実際に代入すると 、 より恒等的にゼロ)。しかし では、 の値そのものはデータパターン( の組み合わせ)によってばらつきます。この期待値まわりのばらつきは、加法性雑音とは別に生じるセルフノイズ (self-noise) と呼ばれ、Gardner検出器のような「判定結果を使わない (non-data-aided, NDA)」タイプの誤差検出器に特有の、実務上無視できない誤差源になります(後述)。
なぜこの検出器は「非データ判定型」かつ「キャリア位相非依存」で動作できるのか
Gardner検出器の重要な利点は2つあり、両方とも上の導出の構造そのものから直接見て取れます。
(1) 非データ判定型(non-data-aided)であること。 上の の計算では、シンボル の実際の値が何であったかを一切使っていません。使ったのは「 が独立同分布で 」という統計的な性質だけです。これは、受信機が誤り訂正やシンボル判定を行う前の、生のサンプル だけから誤差信号を計算できることを意味します。対照的に、いわゆる決定指向型 (decision-directed) の検出器(たとえばMueller-Müller検出器)は、暫定的な判定結果 を使って誤差を計算するため、判定回路より後段に位置する必要があり、判定誤りがあると誤差検出そのものが乱れるという弱点を持ちます。Gardner検出器はこの依存関係を持たないため、受信チェーンの早い段階、極端には判定回路や誤り訂正復号より前でタイミングを確立できます。
(2) キャリア位相に非依存であること。 ここまでは簡単のため実数(ベースバンドで位相回転のない)信号として扱ってきましたが、実際のQPSK/BPSK受信機では、Costasループの回で見たように、搬送波位相の再生が完全に収束しきる前の段階でも、あるいは残留した位相誤差 が乗ったままの状態でも、シンボル同期を並行して走らせたいことがよくあります。複素ベースバンド表現で、受信サンプルに未知の一定位相回転 が乗っている状況を考えます。
このとき、Gardner検出器を複素数に自然拡張した形
を使います(実数の場合の を、複素共役を使った内積の形に一般化したものです)。ここで、すべてのサンプルに共通の位相回転 が乗っているとすると、、、 となるので、
したがって、
ですから、未知の位相回転 は完全に打ち消し合い、誤差信号 にはまったく現れません。 これは複素共役を挟んだ積が本質的に位相回転に対して不変な演算になっている(内積の絶対値・実部が回転で保存される)という一般的な事実の直接の帰結です。この性質のおかげで、Gardner検出器は搬送波再生ループ(Costasループなど)がまだロックし切っていない、あるいはそもそも搬送波再生と独立に動かしたい局面でも、正しくタイミング誤差を検出できます。実務上、多くのディジタル受信機ではシンボル同期ループを搬送波再生ループと並行に(あるいはタイミング同期を先に確立させてから搬送波再生に入る順序で)動かすことができ、この柔軟性の根拠がまさにこの位相不変性です。
ループ全体の構造とPLLとの対比
以上を踏まえ、シンボル同期ループの全体をブロック図として整理すると、PLLの回で見た構造と1対1に対応します。
| 要素 | PLL(搬送波位相追尾) | シンボル同期ループ(タイミング追尾) |
|---|---|---|
| 追尾する量 | 搬送波の位相 | シンボルタイミング (正規化 ) |
| 誤差検出器 | 位相検波器: | Gardner検出器(TED): |
| ループフィルタ | PIフィルタ | 同様のPIフィルタ(離散時間版) |
| 制御対象 | VCO(電圧制御発振器、) | 補間器 + NCO(数値制御発振器、可変サンプリング位相) |
| ループの積分器数 | 2個(VCO 1個 + フィルタ 1個)→ Type-II | 2個(NCO 1個 + フィルタ 1個)→ 同じくType-II構造が標準 |
誤差検出器がロック近傍で線形近似できる()という点さえ認めてしまえば、PLLの回で導いた開ループ伝達関数 、閉ループ伝達関数 、そしてループ雑音帯域幅
の枠組みが(ゲイン を に読み替えるだけで)そのまま流用できます。Costasループの回でも同じ手法を使い、Costas検出器の等価線形ゲイン をPLLの式にそのまま代入しました。シンボル同期ループも本質的には**「制御対象がVCOではなく、離散時間で動くタイミング補間器である」PLLの一種**とみなせるわけです。
ただし相違点も明確にしておく必要があります。PLLのVCOは連続時間の物理的な発振器で、電圧に応じて瞬時角周波数を直接偏移させます。これに対しシンボル同期ループの「制御対象」は、実装によって大きく2通りに分かれます。
方式1: アナログ的解法(可変サンプリングクロック)。 VCO(あるいはVCXO, 電圧制御水晶発振器)そのものでA/D変換器のサンプリングクロックの位相を直接調整する方式です。PLLとほぼ同じ回路構成がそのまま流用できますが、A/D変換器のクロックを動的に動かす必要があり、現代の高集積度のディジタル受信機ではあまり好まれません。
方式2: デジタル的解法(補間器 + NCO)。 現代のSDR(Software-Defined Radio)受信機で標準的なのがこちらです。A/D変換器は探査機のシンボルレートとは無関係な、固定の(かつ十分高い)クロックレートで動作し続けます。受信機はこの固定レートのサンプル列 から、補間フィルタ (interpolator) を使って、任意の(整数サンプル間隔の狭間にある)非整数時刻のサンプル値を計算で作り出します。
補間器の仕組みの概要
固定レートのサンプル列 ( は整数、サンプル周期 )から、非整数時刻 ( が求めたい小数遅延)におけるサンプル値 を求める問題は、ディジタル信号処理では帯域制限された信号の補間として一般的に扱われます。理論的にはサンプリング定理に基づく sinc 補間が厳密解ですが、無限のタップ数が必要で実装できないため、実際には低次の多項式補間(線形補間、あるいは3次多項式によるキュービック補間)で近似します。
実装上よく使われるのが Farrow構造 と呼ばれる効率的な形です。これは、補間フィルタの係数を の多項式として
という形に分解し、内側の(固定係数の)FIRフィルタ群をあらかじめ設計しておけば、 が変わるたびにフィルタ係数全体を再計算する必要がなく、 のべき乗を外側でかけ合わせるだけで済む、という構造です。ループフィルタの出力は、この (小数タイミング、シンボル周期に対する位相)を刻々と更新する信号として使われます。
このループの中で、PLLのVCOに相当する役割を果たすのがNCO(Numerically Controlled Oscillator, 数値制御発振器)、より正確には「モジュロ1のカウンタ(アキュムレータ)」です。固定サンプルレートのクロックごとに、ループフィルタの出力(推定されたシンボルレートのわずかなずれに相当する量)をアキュムレータに積算していき、アキュムレータが1を超えて桁上がりする(オーバーフローする)瞬間が「次のシンボル境界に到達した」ことを意味します。オーバーフロー直前のアキュムレータの値がその瞬間の小数タイミング を与え、それを使って補間器がその時刻のサンプル値を計算し、これがシンボルレートで出力される「タイミング補正済みサンプル」になります。この一連の流れ(誤差検出 → ループフィルタ → NCO(アキュムレータ) → 補間器)が、PLLの(位相検波器 → ループフィルタ → VCO)の構造を、連続時間の物理発振器を使わずに完全にディジタル演算だけで模倣したものになっているわけです。
実務での使われ方
現代のディジタル受信機・SDR(GNU Radioなどのオープンソースツールチェーンを含む)では、上記の「固定レートADC + Gardner検出器 + Farrow型補間器 + NCO」という構成が、シンボル同期を実装する際の事実上の標準アーキテクチャになっています。典型的な実装では、A/D変換器はシンボルレートの2倍(2サンプル/シンボル)以上でオーバーサンプリングし、Gardner検出器はその中間サンプルを使って誤差を計算し、ループフィルタとNCOがシンボルレートに同期したサンプリング位相を維持し続けます。
DSN(Deep Space Network)や商用衛星地上局のベースバンドプロセッサでは、シンボル同期ブロックはCostasループなどの搬送波再生ブロックと、Viterbi/LDPC復号などの誤り訂正ブロックとの間、整合フィルタの直後に位置づけられ、CCSDS 401.0-B や DSN Telecommunications Link Design Handbook (810-005) にも、この受信チェーン全体の構成が規定されています。
タイミングジッタとBERの関係については、ISIとアイダイアグラムの回で導出したピーク歪みの枠組みがそのまま使えます。シンボル同期ループが残す残留タイミング誤差の標準偏差を (シンボル周期 に対する正規化値)とすると、これはアイダイアグラムの横方向の開口をランダムに侵食する量に対応し、実効的なピーク歪み を増大させ、結果としてビット誤り率を劣化させます。実務上の経験則としては、ループがある程度整定した後の残留ジッタ を、シンボル周期のおおむね数パーセント以下(たとえば –程度)に抑えることが、実用上無視できるBER劣化(1dB未満)の目安として扱われます。この設計では、PLLと同様にループ雑音帯域幅 を狭くするほど雑音の取り込みが減り が下がる一方、探査機側のシンボルレート変動(ドップラーに伴うシンボルレートの伸縮)への追従が遅れるというトレードオフが働き、(ループ帯域幅とシンボル周期の積)の値がミッションのダイナミクスと信号強度に応じて選定されます。
また前節で触れたセルフノイズは、Gardner検出器のような非データ判定型のTEDに共通する特性で、雑音のない理想的なチャネルでも、データパターンのランダム性そのものに起因する残留ジッタのフロア(下限)を生み出します。これは決定指向型の検出器(受信機が高SNRで安定に動作している局面でより低いセルフノイズを持つことが知られています)との性能上のトレードオフの一因であり、Mengali & D’Andreaなどの標準的な文献で詳しく解析されています。実際のミッション設計では、想定される動作SNRレンジ全体でセルフノイズを含めたジッタ性能をシミュレーションで評価し、Gardner検出器を採用するか、決定指向型や他のNDA検出器(たとえばMueller-Müller検出器)を採用するかが判断されます。
演習問題
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本文では の場合について Gardner 検出器の期待値 を導出しました。同様の手順を の場合について行い(対称性を使ってもよいですし、 への代入からやり直してもかまいません)、 の前後で が符号を変える(タイミングのずれの方向を正しく検出できる)ことを確認してください。
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複素ベースバンドのGardner検出器 が、共通の位相回転 に対して不変であることを、本文の導出をなぞって自分の手で再現してください。また、もし複素共役を取らずに (実数の式をそのまま複素数に流用したもの)と誤って定義してしまった場合、位相回転に対してどのような不都合が生じるかを議論してください。
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あるシンボル同期ループが 、正規化ループ帯域幅 で設計されているとします。PLLの回の公式 を踏まえ、(シンボル周期で正規化した自然角周波数)の値を求めてください。またこの値が意味する「ループが整定するのに要するおおよそのシンボル数」を、 のオーダーで概算してください。
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Gardner検出器(非データ判定型、1シンボルあたり2サンプル必要)と、決定指向型の検出器(判定結果 を使い、原理的には1シンボルあたり1サンプルで動作可能)を比較し、それぞれの利点・欠点を、本文で述べた「非データ判定型であること」「セルフノイズ」「判定回路との依存関係」というキーワードを使って自分の言葉で整理してください。
まとめと次回予告
シンボル同期は、整合フィルタの回で証明した「理論上達成可能な最大SNR」を、実際の受信機で本当に達成するために欠かせない、もう1つのフィードバック制御ループです。PLLが搬送波の位相を追尾するループだったのに対し、今回のGardner検出器を使ったループはシンボルタイミングを追尾するループであり、誤差検出器・ループフィルタ・制御対象(VCOではなく補間器+NCO)という同じ3点セットの構造、そして同じType-II線形ループの解析フレームワークを共有していることを見ました。Gardner検出器そのものは、非データ判定型でありながら三角パルスの具体例で厳密にS字カーブ を導出でき、しかも複素共役を使った構成によって未知の搬送波位相回転に対して数学的に不変であることも確認しました。
これで、PCM/PSK/PMによる変調から始まり、PLL・Costasループによる搬送波再生、整合フィルタによるSNR最大化、そして今回のシンボル同期まで、地上局が探査機からの微弱な信号を「見つけ、位相を合わせ、タイミングを合わせ、最適に判定する」という受信チェーンの主要な要素をひと通り数式付きで揃えたことになります。次回以降は、測距・追跡カテゴリに戻り、複数の地上局アンテナを使って探査機の到来方向を精密に測る同一ビーム干渉法のような技術に話を進めていきます。
参考文献
- F. M. Gardner, “A BPSK/QPSK Timing-Error Detector for Sampled Receivers,” IEEE Transactions on Communications, vol. 34, no. 5, 1986
- U. Mengali, A. N. D’Andrea, Synchronization Techniques for Digital Receivers, Plenum Press
- H. Meyr, M. Moeneclaey, S. A. Fechtel, Digital Communication Receivers: Synchronization, Channel Estimation, and Signal Processing, Wiley
- J. G. Proakis, M. Salehi, Digital Communications, 5th ed., McGraw-Hill
- CCSDS 401.0-B, Radio Frequency and Modulation Systems, Part 1: Earth Stations and Spacecraft
- DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005