測距・追跡#138

マヌーバ計画と通信ウィンドウ — 軌道変更をいつ、どの可視範囲内で実行するか

軌道マヌーバの実行時刻は、軌道力学だけでなくDSNの可視ウィンドウ・アンテナ指向・姿勢制約という通信側の都合と衝突する。なぜマヌーバは通信可能な時間帯に収めたいのか、姿勢変化がHGAリンクをどう途絶させるか、そしてコヒーレントドップラーがデルタVの実測検証にどう使われるかを、数式とともに理解する。

前提知識: DSN運用スケジューリング — 有限のアンテナを数十のミッションが取り合う資源配分問題

軌道マヌーバ通信ウィンドウ運用計画コヒーレントドップラーポインティング損失

この回で学ぶこと

DSN運用スケジューリングの回では、有限個しかないDSNアンテナという物理的資源を、太陽系中の数十のミッションがどう取り合っているのかを、パス要求 r=(m(r),[er,lr],dr,Ar,wr)r=(m(r),[e_r,l_r],d_r,A_r,w_r) の制約充足問題(CSP)として定式化しました。そこでの主役は「通信」そのものでした——可視ウィンドウ [er,lr][e_r,l_r] は幾何学(探査機と地上局の相対位置)から決まる所与の条件であり、スケジューラはその中で「誰が」「どのアンテナを」使うかを割り当てる立場でした。

この回では視点を1つずらします。探査機の軌道変更(マヌーバ)をいつ実行するかという、運用計画のもう1つの根幹的な意思決定を扱います。マヌーバの実行時刻 tmt_m は、本来なら軌道力学(いつ噴射すれば目的の軌道が最も効率よく達成できるか)だけで決めたいところですが、実際には通信可能な時間帯(ウィンドウ)の中で、あるいはそれに強く制約されながら決めなければなりません。前回のCSPの言葉で言えば、マヌーバという新しい種類の「要求」が、既存のパス要求と同じ可視ウィンドウ・アンテナ資源を取り合う形で、軌道計画のレイヤーに新たな制約を持ち込むのです。

この回では、(1) なぜマヌーバをわざわざ通信可視範囲内に収めたいのかという運用上の理由、(2) 姿勢変化を伴うマヌーバがアンテナ指向とリンクバジェットにどう影響するか、(3) マヌーバの前後でのコヒーレントドップラーの変化が、実際に加わった速度変化(デルタV)の検証データとしてどう使われるか、という3つの数式的な柱を順に見ていきます。

直感的導入: 「噴射する」ことと「見ている」ことは別問題

軌道力学の教科書だけを読んでいると、マヌーバは「望みの時刻に、望みの向きに、望みの大きさのデルタVを加える」という、力学だけで完結する操作に見えます。しかし実際の深宇宙ミッションでは、噴射という行為そのものが、地上局から見た探査機の「振る舞い」を一時的に不確実にします。

  • 噴射中・噴射直後は、探査機の速度・軌道要素が計画通りに変化しているかどうか、地上ではまだ確認できていません。もし推力が予定より弱い、あるいは強すぎる、あるいは方向がずれているといった異常が起きていた場合、それをできるだけ早く検知し、必要なら緊急コマンドで探査機を安全な状態に移行させたい——これには、噴射中・噴射直後にリアルタイムでテレメトリを受信し、かつコマンドを送り返せる通信リンクが望ましいという要求があります。
  • 大きな姿勢変更を伴うマヌーバでは、HGA(高利得アンテナ)の狭いビームが地球を向かなくなり、通信リンクそのものが一時的に途絶する可能性があります。これは前々回に学んだリンクバジェットの話と直結する、通信側の制約です。
  • 逆に通信側から見ると、マヌーバの前後で取得するトランスポンダのコヒーレントドップラーは、噴射で実際に何が起きたのかを検証する、非常に精度の高い観測データにもなります。

つまり「いつ噴射するか」という一見純粋に軌道力学的な問いは、実際には**軌道力学の要求(いつ噴射すれば効率的か)**と、**通信の要求(いつなら地上から監視・検証できるか)**という、性質の異なる2つの制約がせめぎ合う多制約の意思決定問題になっています。この回では、この2つの要求を数式で書き下し、両者がどう衝突し、どう折り合いをつけられているのかを見ていきます。

数式定式化

1. マヌーバウィンドウと通信ウィンドウの包含関係

まず、マヌーバに関連する時間軸を整理します。マヌーバ本体(噴射)は時刻 tmt_m に開始し、継続時間 τ\tau(インパルシブ近似が使えない有限推力の場合は数分〜数時間のオーダー)だけ続きます。実運用ではこれに加えて、次の2つの時間区間が必要です。

  • 噴射前チェックアウト時間 TpreT_{pre}: マヌーバコマンドシーケンスのアップリンク確認、探査機の健全性確認、直前のOD(軌道決定)結果に基づく最終的なターゲティングパラメータの確定にかかる時間。
  • 噴射後確認時間 TpostT_{post}: 噴射終了直後のテレメトリ(加速度計・姿勢センサのログ)のダウンリンク、そして前回のCSPの言葉で言う地上局側でのHGA再捕捉とコヒーレント2-wayドップラーロックの再確立にかかる時間。

このとき、マヌーバのために必要な「連続した通信の在圏」は、次の区間として書けます。

Im=[tmTpre,  tm+τ+Tpost]I_m = \big[\, t_m - T_{pre},\; t_m + \tau + T_{post} \,\big]

理想的な運用計画は、この区間全体が、あるアンテナ aAra \in A_r の可視ウィンドウ [er,lr][e_r, l_r] にすっぽり収まることを要求します。

Im[er,lr],すなわちertmTpre  かつ  lrtm+τ+TpostI_m \subseteq [e_r, l_r], \qquad \text{すなわち} \qquad e_r \le t_m - T_{pre} \ \text{ かつ } \ l_r \ge t_m + \tau + T_{post}

これは前回導入したパス要求のタプル r=(m(r),[er,lr],dr,Ar,wr)r=(m(r),[e_r,l_r],d_r,A_r,w_r) に、dr=Tpre+τ+Tpostd_r = T_{pre}+\tau+T_post という所要時間と、「単に時間が確保できればよい」のではなく「tmt_m を中心とした特定の位置に配置されなければならない」という**位置固定制約(fixed-position constraint)**を追加したものに相当します。さらにマヌーバのパス要求は、前回のクリティカルフェーズの議論と同様、優先度重み wrw_r が事実上のハード制約になるまで引き上げられ、同時間帯の他ミッションの定常運用要求を押しのけて確保されるのが通例です。

ここで軌道力学側の事情が絡んできます。マヌーバの実行時刻 tmt_m は、任意の時刻を自由に選べるわけではありません。目的の軌道修正(たとえば次のフライバイ点やランデブー点に正確に到達するための軌道修正マヌーバ、TCM: Trajectory Correction Maneuver)を達成するために必要なデルタVの大きさは、実行時刻 tmt_m が軌道力学的に最適な時刻 tt^* からずれるほど大きくなる、という感度を持ちます。これを2次近似で表すと、

Δv(tm)Δvmin+k(tmt)2\Delta v(t_m) \approx \Delta v_{\min} + k\,(t_m - t^*)^2

という凸関数的な形になります(kk は軌道の幾何学と目標精度で決まる感度係数)。つまりマヌーバ計画の担当者は、次の最適化問題を解いていることになります。

mintm[tmin,tmax]Δv(tm)s.t.Im(tm)[er,lr] for some schedulable (r,a)\min_{t_m \in [t_{\min}, t_{\max}]} \Delta v(t_m) \qquad \text{s.t.} \quad I_m(t_m) \subseteq [e_r,l_r] \ \text{for some schedulable } (r,a)

ここで「schedulable」とは、前回のCSP制約(a)可視性・適格性、(b)アンテナの排他利用、(c)追跡時間充足をすべて満たしつつ、他の高優先度要求と致命的に衝突しないことを意味します。実務的には、Δv(tm)\Delta v(t_m) を最小化する tt^* ちょうどのタイミングで都合よく通信ウィンドウが開いているとは限らないため、わずかなデルタVの超過を許容してでも、通信ウィンドウ内に収まる時刻 tmt_m へ実行時刻をずらすという妥協が日常的に行われます。これは軌道力学的な最適解と、運用上の安全性(監視可能性)とのトレードオフの一例です。

2. 姿勢変化によるアンテナ指向損失とリンク途絶

多くのマヌーバでは、探査機はデルタVを望みの方向に加えるため、巡航中の地球指向姿勢から、推力軸を目的の方向に向けたマヌーバ姿勢へと再姿勢変更(スラー)する必要があります。この再姿勢変更の角度を β\beta とし、これは推力方向とその時点での地球方向のなす角(軌道幾何学とマヌーバの向きで決まる)で与えられます。

HGAが機体に固定されている場合、姿勢が β\beta だけ回転すれば、HGAのボアサイトと地球方向のなす角(指向誤差)θerr\theta_{err} もほぼ同じだけ変化します。アンテナ種別の回で導いたガウス近似のポインティング損失式

Lpoint(dB)12(θerrθ3dB)2L_{\text{point}}(\text{dB}) \approx -12\left(\frac{\theta_{err}}{\theta_{3\text{dB}}}\right)^{2}

を思い出すと、リンクの受信マージン M(t)M(t) は、無指向性損失なしの名目マージンを M0M_0 として

M(t)=M0+Lpoint(θerr(t))M(t) = M_0 + L_{\text{point}}\big(\theta_{err}(t)\big)

と書けます。リンクが維持される(地上局のPLLが搬送波をロックし続けられる)条件は M(t)0M(t) \ge 0 であり、これを解くと、リンクが失われずに許容できる指向誤差の上限 θthresh\theta_{thresh} が求まります。

M012(θthreshθ3dB)2=0θthresh=θ3dBM012M_0 - 12\left(\frac{\theta_{thresh}}{\theta_{3\text{dB}}}\right)^2 = 0 \quad \Longrightarrow \quad \theta_{thresh} = \theta_{3\text{dB}}\sqrt{\frac{M_0}{12}}

HGAのビーム幅 θ3dB\theta_{3\text{dB}} は典型的に数分の1度〜数度しかないため、θthresh\theta_{thresh} もごく小さな角度にしかなりません。姿勢再変更の角速度を ωslew\omega_{slew}(一定と近似)とすると、姿勢が 0β00 \to \beta \to 0 と往復する間、指向誤差が θthresh\theta_{thresh} を超えている時間(=リンク途絶時間、ブラックアウト時間)は、β>θthresh\beta > \theta_{thresh} である限り近似的に

Tblackout2βθthreshωslew+τT_{\text{blackout}} \approx 2\,\frac{\beta - \theta_{thresh}}{\omega_{slew}} + \tau

と見積もれます(往復のスラー時間のうち θerr>θthresh\theta_{err}>\theta_{thresh} の部分、プラス、マヌーバ姿勢を保持したまま噴射する時間 τ\tau 全体)。β\beta が数十度規模になる大きな軌道変更マヌーバでは、この TblackoutT_{\text{blackout}} は容易に数十分〜数時間に達し、噴射中の実時間監視という前節の要求と正面から衝突します。

これに対する実務上の解決策は、アンテナ種別の回で先取りした通りです。マヌーバ実行前に、あらかじめHGAからMGAまたはLGAへ切り替えておくのです。MGA/LGAはビーム幅 θ3dB\theta_{3\text{dB}} 自体が桁違いに広いため、同じ式で計算し直すと θthresh\theta_{thresh} もはるかに大きくなり、多くの場合 β<θthresh\beta < \theta_{thresh} となって Tblackout0T_{\text{blackout}} \approx 0 にできます。ただし代償として、データレートが利得に比例して大きく落ち込むため、マヌーバ中に得られるのは大容量の科学データではなく、健全性を伝える最低限のハウスキーピングテレメトリと、次節で扱うコヒーレント搬送波(ドップラー情報)に限られます。つまり**「途絶なく監視できるが低ビットレート」か、「高ビットレートだが途絶するリスクがある」かの選択**を、リンクバジェットの数式が明示的に与えてくれるわけです。

3. コヒーレントドップラーによるデルタVの実測検証

マヌーバ中・マヌーバ前後で継続してコヒーレント2-wayドップラーがロックされていれば(前節のように途絶を避ける設計になっていれば)、それは単なる健全性確認以上の価値を持ちます。トランスポンダの回で導いたコヒーレント2-wayドップラーの式

Δf=2vrcfc\Delta f = \frac{2v_r}{c}\, f_c

を思い出すと、地上局が測定する周波数偏移 Δf\Delta f から、視線方向(LOS: Line-Of-Sight)の相対速度 vrv_r

vr=c2fcΔfv_r = \frac{c}{2f_c}\, \Delta f

として直接読み取れます。マヌーバ直前の視線速度を vr,beforev_{r,\text{before}}、噴射終了直後(あるいは連続追跡できていれば噴射完了の瞬間)の視線速度を vr,afterv_{r,\text{after}} とすると、その差

Δvr,actual=vr,aftervr,before=c2fc(ΔfafterΔfbefore)\Delta v_{r,\text{actual}} = v_{r,\text{after}} - v_{r,\text{before}} = \frac{c}{2f_c}\big(\Delta f_{\text{after}} - \Delta f_{\text{before}}\big)

は、実際に探査機に加わったデルタVベクトル Δv\vec{\Delta v} のうち、視線方向 u^\hat{u} への射影成分にほかなりません。

Δvr,actual=Δvactualu^\Delta v_{r,\text{actual}} = \vec{\Delta v}_{\text{actual}} \cdot \hat{u}

これは、搭載の加速度計や姿勢制御系のログとは独立な、地上側だけで完結する外部検証データである点が重要です。トランスポンダの回で見たように、地上局の水素メーザー基準に支えられたコヒーレントドップラーは μm/s\mu\text{m/s} オーダーの速度分解能を持つため、たとえ噴射時間 τ\tau が数分〜数十分程度の短いマヌーバであっても、計画されたデルタVからのわずかなずれ(推力の過不足、噴射方向の誤差)を高い感度で検出できます。

ただし、この Δvr,actual\Delta v_{r,\text{actual}} が教えてくれるのは視線方向1成分の射影だけであり、Δv\vec{\Delta v} の3次元的な全体像(向きも含めた完全な検証)を得るには不十分です。実際のミッション運用では、この即時のドップラー検証に加えて、マヌーバ後の複数パスにわたる追跡データを使った最小二乗法によるOD(軌道決定)を回すことで、初めて Δv\vec{\Delta v} の全成分と、それによって実現された新しい軌道要素が確定します。ドップラーによる即時検証は、あくまで「大きな異常がなかったか」を数分〜数十分のスケールで素早く判断するための一次スクリーニングであり、精密な軌道確定はそのあとに続く、という2段構えの検証プロセスになっています。

前節で触れた「HGAからMGA/LGAに切り替えて途絶を避ける」設計は、実はこのドップラー検証の観点からも合理的です。データレートは犠牲にしても、搬送波さえロックし続けられれば、地上局のPLLは噴射の間ずっとコヒーレントドップラーの連続的な時系列 f(t)f(t) を記録し続けられます。これを

vr(t)=c2fc(f(t)fc)v_r(t) = \frac{c}{2f_c}\big(f(t) - f_c\big)

としてリアルタイムに近い形で変換すれば、噴射中の推力プロファイル(速度が時間とともにどう立ち上がっていくか)そのものを、地上局にいながらにして監視できます。これは、姿勢を大きく変えずに実行できる小規模なTCMなど、β\beta が小さくHGAの指向を維持したまま噴射できるマヌーバでは特によく使われる運用手法であり、噴射プロファイルの異常(推力の途中停止、予期しない振動など)を、噴射が終わるのを待たずに検知できるという利点があります。

実務での使われ方

実際のミッション運用において、マヌーバの実行時刻を決めるプロセスは、この回で見た3つの制約——軌道力学的な最適時刻 tt^* とその感度 Δv(tm)\Delta v(t_m)通信ウィンドウ [er,lr][e_r,l_r]前回のDSNスケジューリングCSP姿勢制約とアンテナ指向損失 TblackoutT_{\text{blackout}}——を統合した、多制約最適化としての運用計画立案(mission planning)そのものです。

  • TCM(軌道修正マヌーバ)の計画では、OD担当チームがまず軌道力学的に望ましい実行時刻の候補範囲 [tmin,tmax][t_{\min}, t_{\max}] とデルタVの感度曲線を提示し、それをDSNスケジューリング担当(ミッション側のスケジューリングエンジニア)に渡して、候補範囲内でDSNの可視ウィンドウとアンテナの空きが確保できる時刻を探すという、双方向のすり合わせが行われます。多くの中小規模なTCMは、この回で述べたように地球指向を維持したまま(HGAを保ったまま)実行できるよう、噴射方向とスラスタ配置があらかじめ設計されており、その場合は連続的なコヒーレントドップラー監視が標準的に行われます。
  • 軌道投入マヌーバ(Orbit Insertion) のような大推力・長時間・大姿勢変更を伴うマヌーバでは、β\beta が大きくブラックアウトが避けられないことがあります。土星探査機カッシーニの土星周回軌道投入(SOI, 2004年7月)では、土星の環面を通過する際にHGAを盾として環の粒子から探査機本体を守る姿勢を取る必要があり、この間HGAは地球を向けられず、地上局は噴射終了まで信号を受信できませんでした。噴射終了後、探査機が再びHGAを地球に向け直し、地上局が信号を再捕捉した瞬間に、はじめて噴射が計画通り成功したことが確認された、という運用上の緊張感の高い事例として知られています。
  • 火星周回軌道投入のように、惑星の背後(掩蔽域)で噴射せざるを得ない設計もあります。この場合はアンテナ指向の問題である以前に、惑星そのものが視線を遮る幾何学的な掩蔽によって通信が途絶するため、TblackoutT_{\text{blackout}} にはさらに惑星掩蔽の継続時間も加味した計画が必要になります。
  • New Horizons冥王星最接近のような超高速フライバイでは、限られた時間内に大量の観測を優先し、あえて最接近時刻の周辺では地球方向にアンテナを向けず、観測完了後にまとめてハイレートのプレイバックを行う設計が取られました。これは今回の枠組みで言えば、通信ウィンドウとの整合を意図的に後回しにし、科学データ取得を最優先した設計判断の一例です。

いずれの事例にも共通するのは、「いつ噴射するか」を決める作業が、軌道力学だけの問題ではなく、通信ウィンドウ・DSNスケジュール・姿勢制約という複数の制約を同時に満たす計画立案問題であるという点です。

演習問題

  1. あるHGAのビーム幅が θ3dB=1.5\theta_{3\text{dB}} = 1.5^\circ、名目リンクマージンが M0=6M_0 = 6 dB であるとする。Lpoint(dB)12(θerr/θ3dB)2L_{\text{point}}(\text{dB}) \approx -12(\theta_{err}/\theta_{3\text{dB}})^2 を使って、リンクが維持できる指向誤差の上限 θthresh\theta_{thresh} を求めよ。さらに、マヌーバに伴う再姿勢変更角が β=40\beta = 40^\circ、スラー角速度が ωslew=0.5/s\omega_{slew} = 0.5^\circ/\text{s}、噴射継続時間が τ=300\tau = 300 秒であるとき、本文の近似式を使ってブラックアウト時間 TblackoutT_{\text{blackout}} を見積もれ。

  2. マヌーバ直前・直後のコヒーレント2-wayドップラー偏移がそれぞれ Δfbefore=1200.0\Delta f_{\text{before}} = 1200.0 Hz、Δfafter=1850.0\Delta f_{\text{after}} = 1850.0 Hz であったとする。ダウンリンク周波数を fc=8.42f_c = 8.42 GHz として、視線方向のデルタV Δvr,actual\Delta v_{r,\text{actual}} を式 Δvr,actual=(c/2fc)(ΔfafterΔfbefore)\Delta v_{r,\text{actual}} = (c/2f_c)(\Delta f_{\text{after}}-\Delta f_{\text{before}}) を用いて m/s 単位で求めよ。

  3. 本文の Im=[tmTpre,tm+τ+Tpost][er,lr]I_m = [t_m - T_{pre},\, t_m+\tau+T_{post}] \subseteq [e_r, l_r] という制約を、前回のCSP定式化における決定変数 xr,a,t{0,1}x_{r,a,t}\in\{0,1\} を使って書き直すとどうなるか(すなわち、ImI_m に含まれるすべての時間スロット tt について、あるアンテナ aa が要求 rr に割り当てられていなければならないことを表す式を書け)。また、この制約が前回の制約(a)(b)(c)に加えて、なぜ「位置固定」という追加の性質を持つのかを説明せよ。

  4. なぜ小規模なTCMでは地球指向を維持したまま(HGAを保ったまま)噴射できるよう設計されることが多いのに対し、軌道投入マヌーバのような大規模なマヌーバでは、しばしばHGAが地球を向けられない姿勢を取らざるを得ないのか。デルタVの大きさ・噴射方向・機体の推力軸配置という観点から、自分の言葉で説明せよ。

まとめと次回予告

この回では、軌道マヌーバの実行時刻という一見純粋に軌道力学的な決定が、実際には通信ウィンドウという制約と深く絡み合っていることを見ました。噴射前後の監視・介入余地を確保するための時間窓の包含制約 Im[er,lr]I_m \subseteq [e_r,l_r]、姿勢変化がHGAの指向損失を通じてリンクそのものを途絶させうるという物理的な制約、そしてコヒーレントドップラーの変化量が実行されたデルタVの検証データとして使えるという副次的な利点——これらはすべて、前回学んだDSNスケジューリングのCSPの上に、軌道力学と姿勢制約という新しいレイヤーが積み重なった、多制約の運用計画問題として理解できることを確認しました。

次回は、通信リンクを乱すもう1つの要因として、宇宙天気と電離圏シンチレーションに軽く触れます。太陽活動や地球・惑星の電離圏がもたらす電波伝搬の擾乱が、これまで扱ってきたリンクバジェットやドップラー計測にどう影響するのかを見ていきます。

参考文献

  • DSN Telecommunications Link Design Handbook, DSN No. 810-005
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76
  • J. R. Wertz, D. F. Everett, J. J. Puschell (eds.), Space Mission Engineering: The New SMAD
  • NASA/JPL, Cassini-Huygens Saturn Orbit Insertion Press Kit(SOI運用シーケンスとHGAシールド姿勢に関する記述)
  • NASA/JHUAPL, New Horizons Pluto Encounter Mission Design
  • M. D. Johnston, “Multi-Objective Scheduling for NASA’s Deep Space Network Array,” International Workshop on Planning and Scheduling for Space (IWPSS)