変調・符号化#130
チャネル等化技術 — ZF等化器・DFE・MLSEでISIを能動的に取り除く
パルス整形だけでは防ぎきれないISIを、受信側でどう能動的に除去するか。ゼロフォーシング等化器の雑音強調問題、決定帰還等化器(DFE)によるその緩和、そして通信路自体をトレリスとみなすMLSE(ビタビ等化)という発想の転換を数式で理解する。
前提知識: ISIとアイダイアグラム — 符号間干渉を目で読む、整合フィルタ — 受信SNRを最大化する最適フィルタの理論
この回で学ぶこと
ISIとアイダイアグラムの回では、送受信フィルタのペアがナイキストの第1基準を完全には満たさないとき、受信サンプル値が
という形に分解され、 が判定を狂わせる**符号間干渉(ISI)**の原因になることを見ました。そこで扱ったISIの発生源は、フィルタミスマッチ・帯域制限・非線形性・タイミング揺らぎといった、いわば「送受信システム側の不完全さ」でした。これらは原理的には、パルス整形の設計を精緻化し、整合フィルタを正しく実装すれば、かなりの程度まで抑え込めるはずのものです。
しかし、ISIの発生源はシステム側の不完全さだけとは限りません。通信路そのものが**周波数選択性(frequency-selective)を持つ場合——つまり、ある周波数帯の中で伝達特性 が平坦でなく、場所によって大きく減衰したり位相が回転したりする場合——には、送受信フィルタをどれだけ精密に設計しても、パルス整形の段階だけでISIを防ぎきることはできません。マルチパス・フェージングの回で見た、直接波と反射波が異なる遅延で重なり合う環境がその典型です。このとき、ナイキスト基準を満たすように送受信フィルタを固定的に設計しておくという「事前の予防」だけでは対処できず、受信側で通信路の歪みそのものを能動的に打ち消すという、もう一段階踏み込んだ処理が必要になります。この処理を等化(equalization)と呼び、そのための回路(またはディジタル信号処理ブロック)を等化器(equalizer)**と呼びます。
この回では、等化器の設計思想を3段階に分けて追います。
- ゼロフォーシング(ZF)等化器: 通信路の逆特性 をそのままかけることでISIを理論上完全に消す、最も素朴なアプローチと、その代償として生じる**雑音強調(noise enhancement)**問題。
- 決定帰還等化器(DFE): すでに判定確定したシンボルの影響を、フィードバックループで直接差し引くことで、ZF等化器の雑音強調問題をある程度緩和する構成。
- 最尤系列推定(MLSE)による等化: 通信路を「記憶を持つ状態機械」とみなし、畳み込み符号とビタビ復号の回で学んだビタビアルゴリズムを、符号の復号ではなく通信路そのものが生み出すISIの除去に応用するという発想の転換。
最後に、なぜ深宇宙リンクでは等化器の出番が比較的限られ、近地球のマルチパス環境や高速地上通信では等化が事実上必須になるのか、その対比を実務データとともに見ていきます。
直感的導入: なぜ「フィルタ設計」では足りなくなるのか
整合フィルタの回で見た受信チェーンを思い出すと、パルス整形と整合フィルタリングは、送受信で分け合ったルート・レイズド・コサイン(RRC)フィルタの縦続接続が、ちょうどナイキスト条件を満たすレイズド・コサイン特性になるよう設計時にあらかじめ仕組んでおく、という発想でした。この設計は、通信路 が(理想的には)平坦な伝達特性を持ち、送受信フィルタの設計値通りに振る舞う、という前提の上に成り立っています。
ところが通信路自体が周波数選択性を持つ場合——たとえば直接波と、それより だけ遅れて届く反射波が受信点で干渉し合う環境——を考えると、通信路の伝達関数はもはや定数ではなく、周波数に依存して深い落ち込み(ヌル)を持つ形になります。2波モデルで直感を掴んでおきましょう。振幅比 、遅延 の反射波が直接波に重なる単純化されたマルチパス通信路の周波数応答は、
と書けます。 となる周波数、すなわち が半整数()になる周波数では に近づき、 が1に近ければこの周波数で受信電力はほぼゼロまで落ち込みます。これが周波数選択性フェージングの最も単純な数式的表現です。送受信フィルタは設計時に固定されているのに対し、この は反射波の遅延・振幅——つまり周囲の地形や送受信機の位置関係——によって刻々と変わるため、あらかじめ「この通信路にぴったり合うフィルタ」を固定的に設計しておくことはできません。ナイキスト条件を満たすように送受信フィルタのペアをいくら精密に作っても、その後段に未知かつ時間変動する が挿入されてしまえば、全体のインパルス応答は のうち の部分で崩れ、ISIが再発します。
だとすれば、対処の方向性は自然と決まります。通信路の歪みを、受信後に測定・推定し、それを打ち消すフィルタを受信機の中に適応的に組み込むというアプローチです。以下ではこの等化器の設計を、易しいものから順に見ていきます。
ゼロフォーシング(ZF)等化器
周波数領域での定式化
最も素朴な発想は、通信路の伝達関数 をなんらかの方法(既知のトレーニング系列を送るなど)で推定できたなら、受信側にその逆特性を持つフィルタ を挿入すればよい、というものです。
送信信号のスペクトルを 、通信路通過後の受信信号を(雑音を除いて) とすると、この等化器を通した出力は
となり、通信路の影響が理論上完全に打ち消されます。この等化器をゼロフォーシング(ZF: Zero-Forcing)等化器と呼びます。名前の通り、判定サンプル点におけるISI項をゼロに「force(強制)」する設計だからです。
離散時間(シンボル速度サンプリング)で考えると見通しがよくなります。通信路の全体インパルス応答をタップ を持つFIRフィルタ、そのZ変換を
とすると、ZF等化器の伝達関数は
で与えられます。ここで重要な数学的事実は、 が有限次数の多項式(FIRフィルタ)である限り、その逆数 は一般に無限次数の有理関数(IIRフィルタ)になるということです。たとえば単純な2タップ通信路 ()の場合、
という無限級数(等比級数)に展開され、時間領域のタップ係数は と、指数的に減衰しながらも無限個続きます。実装上は、この無限インパルス応答を有限長のFIRフィルタで打ち切って近似する(あるいはIIR構成のまま実装する)必要があり、これが実務上のZF等化器が「理論上完全なISI除去」を、有限個のタップ数の範囲で近似的にしか実現できない理由です。
雑音強調問題
ZF等化器の本質的な弱点は、ISIをゼロにする代償として雑音を選択的に増幅してしまうことです。受信信号に加法性雑音 (片側スペクトル密度 )が重畳しているとすると、等化器通過後の出力は
となり、雑音成分も等化器の伝達関数 を通ります。したがって出力雑音のパワースペクトル密度は
となり、総雑音電力は
です。ここで先ほどの直感的導入で見た通り、周波数選択性フェージング通信路では がある周波数で深く落ち込みます(ヌルに近づきます)。 となる周波数では となるため、その周波数付近の雑音が理論上無限大に増幅されることになります。これが**雑音強調(noise enhancement)**問題です。
物理的な意味は単純です。ZF等化器は「通信路が弱めた周波数成分を、同じだけ強く持ち上げる」ことで平坦なスペクトルを取り戻そうとしますが、その持ち上げ操作は信号だけでなく、その周波数に元から乗っていた雑音も同じ倍率で持ち上げてしまいます。通信路が深いフェードを起こしている周波数では、そこに乗っている信号自体がすでに雑音に埋もれかけているため、それを強引に増幅してもSNRは改善しません。むしろ雑音の増幅分だけ、判定変数全体のSNRはかえって悪化することさえあります。ISIをゼロにするという目的においてZF等化器は「正しい」設計ですが、ビット誤り率という最終的な評価基準においては必ずしも最適ではない、というのがこの節の結論です。
決定帰還等化器(DFE)
発想: 判定済みシンボルは「もう雑音を含まない」
ZF等化器の雑音強調問題を緩和する自然なアイデアは、「まだ判定していない未来のシンボルによるISI」と「すでに判定を終えた過去のシンボルによるISI」を区別して扱うことです。前者(プリカーサISI、precursor ISI)は受信波形そのものから線形フィルタで抑圧するしかありませんが、後者(ポストカーサISI、postcursor ISI)は事情が違います。過去のシンボル は、受信機がすでに(おそらく正しく)判定を下し終えた既知の値として扱えるので、それらが現在のシンボル判定に及ぼすISI寄与
は、通信路タップ の推定値さえ分かっていれば、そのまま計算して現在のサンプルから引き算すればよいのです。この引き算には雑音の入る余地がありません——なぜなら は(判定が正しい限り)雑音の乗っていない、確定した の値だからです。
構成と判定式
この発想を実装したのが**決定帰還等化器(DFE: Decision Feedback Equalizer)**です。DFEは2つのフィルタから構成されます。
- フィードフォワードフィルタ : 受信サンプル列 に作用し、主にプリカーサISIと雑音のバランスを取る線形フィルタ(ZF等化器や、後述のMMSE規範の等化器と同種のもの)。
- フィードバックフィルタ : 過去に判定済みのシンボル に作用し、ポストカーサISIの推定値を作る。
判定変数は次のように構成されます。
そして判定は で下され、その結果 が次の時刻のフィードバックフィルタの入力として、フィードバックタップ列にシフトインされます。この「判定→フィードバックへ反映」というループ構造が名前の由来です。
理想的には、フィードバックフィルタの係数 を通信路のポストカーサタップ に一致させれば、 が実際のポストカーサISI を(判定が正しい限り)厳密に打ち消します。このとき、フィードフォワードフィルタが処理しなければならないのはプリカーサISIだけになり、ZF等化器のように通信路の逆特性 の全域(深いヌルを含む)を丸ごと反転する必要がなくなります。フィードバックによる打ち消しには雑音が一切乗らないため、DFEはZF単独の等化器に比べて雑音強調をかなりの程度抑えられる——これがDFEの中心的な利点です。
弱点: 誤り伝播
DFEの理論的な弱さは、フィードバックが「判定が正しい」という前提の上に成り立っている点にあります。もし何らかの理由で の判定を誤ると、その誤った値が以後複数のシンボル区間にわたってフィードバックループに乗り続け、後続の判定を連鎖的に誤らせる**誤り伝播(error propagation)**が起こり得ます。実務上は、畳み込み符号のような誤り訂正符号と組み合わせて誤り伝播の影響を短時間で断ち切る、あるいは判定信頼度が低いシンボルについてはフィードバックを一時的に弱めるといった工夫が併用されます。
最尤系列推定(MLSE)による等化 — 通信路をトレリスとみなす
発想の転換: ISIは「敵」ではなく「記憶を持つ通信路」
ZF等化器もDFEも、根底には「通信路の歪みを打ち消して、理想的な無ISI通信路に近づける」という発想があります。しかし、この発想には別の見方があります。ISIのある通信路とは、要するに現在の受信サンプルが、現在のシンボルだけでなく過去複数シンボルの履歴に依存する、記憶を持つシステムだということです。これはまさに、畳み込み符号とビタビ復号の回で扱った、シフトレジスタの過去の入力履歴によって出力が決まる符号器の構造と、数学的に同じ形をしています。
畳み込み符号器では、状態 (シフトレジスタに保持された過去の入力ビット)と現在の入力 から、出力ビット対 が決定論的に決まり、この状態遷移をトレリス上に展開してビタビアルゴリズムで最尤系列を復元しました。ISIのある通信路も、まったく同じ構造を持っています。全体インパルス応答が 個の有意なタップ を持つとき、時刻 の(雑音を除いた)受信サンプルは
と書けます。ここで「状態」を過去 シンボルの履歴
と定義すると、 は現在の状態 と現在の入力シンボル だけから決定論的に決まることが分かります。これは畳み込み符号器における「状態と入力から出力が決まる」という構造と完全に同型です。つまり、ISIのある通信路そのものを、シンボルアルファベットを状態遷移のラベルとする1つの有限状態機械(符号器)とみなせる——これがMLSE等化の核心となる発想の転換です。状態数は で、畳み込み符号のトレリスとまったく同じ要領で、時刻ごとに 個の状態ノードを持つトレリス線図が描けます。
ブランチメトリックとビタビアルゴリズムの適用
検出理論の議論をなぞれば、AWGN通信路のもとでの最尤系列推定は、受信系列 とのユークリッド距離を最小にする送信系列 を選ぶことです。トレリス上の各枝 には、状態遷移を引き起こす入力シンボル に対応する予測受信値 が一意に定まるので、ブランチメトリックを
というユークリッド距離の2乗で定義します。これは畳み込み符号の回で見たソフト判定ブランチメトリック(受信サンプルと期待値との距離)とまったく同じ考え方です。あとは同じAdd-Compare-Select(ACS)演算を用いたビタビアルゴリズムを、符号語のトレリスの代わりに通信路そのものが生成するトレリスの上で走らせるだけで、パスメトリック
の更新とトレースバックにより、ISIのある通信路のもとでの最尤送信系列 を復元できます。これを**MLSE等化(あるいはビタビ等化器、Viterbi equalizer)**と呼びます。
なぜMLSEには雑音強調がないのか
MLSE等化器はZF等化器のように通信路の逆特性 を明示的に構成することを一切しません。ビタビアルゴリズムが行っているのは、あらゆる可能な送信系列の候補について、その系列が通信路 を通過した場合に「実際に観測された受信系列に最も近い予測値を作るのはどれか」を、トレリス上で効率的に探索することだけです。等化器としての演算の中に「小さい で割る」という操作が一度も現れないため、原理的に雑音強調は発生しません。理論的には、MLSE等化器は、通信路が既知でありシンボル間隔でサンプリングされた条件のもとで達成可能な最適な等化方式であり、ZF等化器やDFEよりも一般に低いビット誤り率を実現します。
ただし代償は計算量です。状態数は で、通信路の記憶長 (有意なタップの本数)が増えるほど、畳み込み符号の回で見たのと同じ理由でトレリスの状態数が指数的に増大します。ISIが数タップ程度の穏やかな通信路であればMLSE等化は現実的な演算量で実装できますが、遅延広がりの大きい強いマルチパス環境(多数の有意なタップにわたってエネルギーが広がる通信路)では状態数が爆発し、実装が困難になります。この場合は、演算量を抑えるために、状態数を人為的に絞り込む簡易版(縮小状態MLSE、あるいはDFEとの折衷)が使われることもあります。
実務での使われ方
深宇宙リンク: 等化器の必要性が限定的な理由
深宇宙探査機と地上局を結ぶX/Kaバンドのリンクは、マルチパス・フェージングの回で確認した通り、基本的に見通し内(LOS)の単一経路です。地上局アンテナは広大な敷地に周囲の反射体を排除する形で設置され、ビーム幅も非常に狭いため、地面や周辺構造物からの反射波が受信系に混入すること自体がほとんどありません。つまり通信路の伝達関数 は、PCM/PSK/PMの回以来一貫して扱ってきたように、帯域内でほぼ平坦(周波数非選択性)とみなせます。
このため、深宇宙リンクで発生するISIは、この回の冒頭で整理した「通信路自体の周波数選択性」ではなく、ISIとアイダイアグラムの回で扱った「フィルタミスマッチや非線形増幅器の歪み」が主要因です。これらはRRCフィルタの精密な設計・較正や、進行波管増幅器の入力バックオフ調整といった送受信システム側の対策でかなりの程度まで抑え込めるため、ZF等化器やMLSE等化器のような能動的な等化処理を常時稼働させる必要性は、地上のマルチパス環境に比べれば限定的です。DSN(Deep Space Network)の受信機でも、周波数領域のイコライゼーションよりは、RRCフィルタのタップ係数較正やシンボルタイミング再生の精度向上に重点が置かれてきました。
近地球のマルチパス環境・高速地上通信: 等化が必須になる領域
対照的に、マルチパス・フェージングの回で見たLEOメガコンステレーションのユーザー端末や、地上の移動体衛星通信(車載・船舶端末)、あるいは陸上の高速ディジタル通信では、通信路自体が周波数選択性を持つことが常態であり、等化は受信機設計に不可欠な要素です。
- GSM(第2世代携帯電話): 都市部の典型的なマルチパス遅延広がりは数マイクロ秒に達する一方、GSMのシンボル周期(GMSKで約3.7μs)と同オーダーであるため、複数シンボルにまたがる強いISIが常時発生します。GSMの受信機標準は、通信路インパルス応答を(トレーニング系列から)推定したうえで、この回で説明したMLSE等化(ビタビ等化器)を使ってISIを除去することを前提に設計されており、移動体通信における等化の教科書的な実例として知られています。
- DSL・ケーブルモデムなどの有線高速通信: 銅線ケーブルやCATV配線は、周波数に対して平坦でない伝達特性(インピーダンス不整合による反射、ケーブル自体の周波数依存減衰)を持つため、適応DFEやMLSEに類する等化処理が標準的に組み込まれます。
- LEOメガコンステレーションのユーザー端末: 低仰角での通信時に地形・建造物からの反射波が混入しやすく、前回で見た角度ダイバーシティ(フェーズドアレイによるビーム走査)と並行して、受信側の適応等化処理が信号処理チェーンに組み込まれるケースがあります。
この対比から見えてくるのは、「等化器が必要かどうか」は変調方式そのものではなく、通信路の周波数選択性の強さ、より具体的には遅延広がりとシンボル周期の比によって決まる、という一般原則です。深宇宙リンクのように通信路がほぼ平坦であればパルス整形の設計だけで十分ですが、通信路自体がフェージング性の歪みを持ち込む環境では、受信側での能動的な等化が避けられません。
演習問題
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2タップの通信路 を考える。ZF等化器の伝達関数 を等比級数として展開し、タップ係数 の一般項を求めよ。また、この級数を最初の4項()で打ち切って近似FIR等化器を構成した場合、打ち切りによって生じる誤差(打ち切った残りの項の総和の大きさ)を評価せよ。
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ある通信路の周波数応答が、あるフェード周波数 で まで落ち込んでいるとする。この周波数付近でZF等化器を適用したときの雑音電力の増幅率()をデシベルで求めよ。また、この結果をもとに、なぜ深いフェード点の近くでZF等化器がかえってビット誤り率を悪化させうるのか、この回で導いた雑音強調の式にもとづいて説明せよ。
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DFEのフィードバックフィルタが、直前の1シンボルの判定 を誤って(本来 のところ と)判定してしまったとする。この誤りが、後続のシンボル判定にどのように影響を及ぼしうるか、フィードバック構造の式 に即して具体的に説明し、これが「誤り伝播」と呼ばれる理由を述べよ。
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通信路の有意なタップ数が (すなわち が非ゼロ)である場合と、 である場合とで、MLSE等化に必要なトレリスの状態数をそれぞれ求めよ。また、遅延広がりの大きいマルチパス環境ほどMLSE等化の実装が難しくなる理由を、畳み込み符号とビタビ復号の回で見た計算量 の議論と対応づけて説明せよ。
まとめと次回予告
パルス整形と整合フィルタの設計は、通信路がほぼ平坦であるという前提のもとでISIをあらかじめ防ぐ「予防的」なアプローチでした。しかし通信路自体が周波数選択性フェージングを持つ環境では、この予防だけでは不十分で、受信側でISIを能動的に取り除く等化が必要になります。この回では、通信路の逆特性を直接かけるゼロフォーシング等化器が理論上ISIを完全に消せる一方で深いフェード点の雑音を過剰に増幅してしまうこと、決定帰還等化器(DFE)が判定済みシンボルへのフィードバックによってこの雑音強調を緩和できること、そして最尤系列推定(MLSE)が通信路そのものを記憶を持つ状態機械=トレリスとみなし、ビタビアルゴリズムを通信路の等化という新しい文脈に応用することで雑音強調のない最適な性能を(計算量の代償と引き換えに)実現することを見ました。
次回は、探査機が大気圏に突入し、地表に降り立つまでのわずか数分間に何が起きているのかという、測距・追跡カテゴリの新しいテーマ——EDL(Entry, Descent, and Landing)通信に軽く触れます。プラズマシースによる通信途絶や、刻々と変化する探査機の姿勢・速度のもとでのリンク維持など、これまで扱ってきた定常的なリンク設計とはまた違う種類の難しさが登場します。
参考文献
- J. G. Proakis, M. Salehi, Digital Communications, 5th ed., McGraw-Hill (Equalization の章)
- J. G. Proakis, “Adaptive Equalization for TDMA Digital Mobile Radio,” IEEE Transactions on Vehicular Technology, 1991
- G. D. Forney Jr., “Maximum-Likelihood Sequence Estimation of Digital Sequences in the Presence of Intersymbol Interference,” IEEE Transactions on Information Theory, 1972
- B. Sklar, Digital Communications: Fundamentals and Applications, 2nd ed., Prentice Hall
- ETSI, GSM 05.05: Radio Transmission and Reception(GSM等化器の設計条件に関する規格文書)