測距・追跡#132

レーダー高度計 — 探査機が自分の足元までの距離を測る

地球局からの測距が数億kmの彼方を測る話だったのに対し、今回は探査機自身が搭載レーダーで数百km以下の『足元』を測る話。基本原理は同じ往復光行時間でも要求される時間分解能が桁違いに厳しくなることを起点に、FMCW方式のビート周波数による距離推定と、帯域幅で決まる距離分解能を導出する。

前提知識: 再生測距 — 探査機で雑音を洗い流してから送り返す測距方式

レーダー高度計FMCWパルス圧縮EDL距離分解能

この回で学ぶこと

前々回まで、私たちは地球局と探査機のあいだの距離——数千万kmから数十億kmという、光でさえ分単位から時間単位かかる距離——をどう測るかを扱ってきました。PN符号を送り、往復させ、相関器で遅延時間 τ\tau を推定し、光速 cc を使って R=cτ/2R = c\tau/2 で距離に変換する。これが「測距(レンジング)」の基本原理でした。

この回で扱う レーダー高度計(radar altimeter) は、まったく同じ物理原理——電波を出して、反射して返ってくるまでの時間を測る——を使いながら、測る対象もスケールも全く別物です。地球局が測っていたのは「地球から探査機まで」の距離でしたが、レーダー高度計が測るのは 探査機自身が搭載する送受信機から、その真下にある天体表面までの距離、すなわち高度です。距離のオーダーは数百kmから、着陸直前には数mまで——深宇宙測距が扱っていた数億kmという距離に比べれば、6桁から8桁も小さいスケールです。

「距離が近いのだから測るのは簡単になるはずだ」と思うかもしれませんが、実際にはむしろ逆です。この回では、まず往復光行時間の式 R=cτ/2R = c\tau/2 自体はそのまま使えることを確認したうえで、なぜ距離が近いことがかえって時間分解能の要求を厳しくするのかを数式で見て、その要求に応える実用的な方式として FMCW(Frequency-Modulated Continuous Wave、周波数変調連続波)レーダー を導入します。FMCWは、送信周波数を時間とともに直線的に掃引(スイープ)し、反射波との周波数差(ビート周波数)から遅延時間を求めるという、パルスを飛ばす方式とは発想の異なる測距法です。最後に、整合フィルタの回で学んだ「フィルタの形状を送信波形に合わせることで達成可能なSNRが決まる」という考え方が、ここでも形を変えて「距離分解能は帯域幅で決まる」という関係として姿を現すことを見ます。

直感的な導入: 同じ原理、まったく違うスケール

まず言葉で状況を整理しましょう。深宇宙測距では、地球局のアンテナから電波(PN符号で変調された信号)を探査機に向けて送り、探査機のトランスポンダがそれを送り返し、地球局が往復時間 τ\tau を測定していました。距離は数千万〜数十億km、往復時間は分から時間のオーダーです。

レーダー高度計では、電波を出す側と受ける側が両方とも探査機に搭載されています。探査機は自分の真下(あるいは進行方向)に向けて電波を送信し、天体表面(火星の地表、金星の雲下の地表、小惑星の表面など)で反射した電波を、同じ探査機のアンテナで受信します。これは実質的に「探査機自身が地球局の役割とトランスポンダの役割を同時に担っている」と考えることができ、地球局側の測距処理と本質的に同じ相関・遅延推定の考え方がそのまま使えます。

ただし決定的に違うのは距離のスケールです。着陸探査機が降下フェーズで測る高度は、典型的には数kmから、接地直前には数mのオーダーまで落ちます。この「近い」という性質が、後で見るように時間分解能の要求を極端に厳しくします。さらに、深宇宙測距では地上局は数秒から数十秒という長い時間をかけてPN符号を積分し、SNRを稼ぐことができました(前々回の式 στ2Tc2/(2T(PR/N0))\sigma_\tau^2 \approx T_c^2/(2T(P_R/N_0)) を思い出してください、積分時間 TT が長いほど精度が上がるという式でした)。ところがレーダー高度計では、探査機は秒速数十m〜数百mという速度で刻々と高度を変えながら降下しているため、悠長に何秒もかけて1回の高度を測っているわけにはいきません。高い更新レートで、しかも1回1回の計測を短い観測時間の中で完結させる必要があります。この「近距離・高更新レート」という要求が、FMCWという波形の選択を後押しすることになります。

基本式の再確認と時間分解能の壁

往復光行時間の式はそのまま使える

探査機からアンテナ直下の地表までの距離(高度)を RR、送信から受信までの往復時間を τ\tau とすると、前々回導入した式がそのまま成り立ちます。

R=cτ2R = \frac{c\,\tau}{2}

原理としては何も変わっていません。変わるのは RR の値そのものと、そこから要求される τ\tau の測定精度です。

なぜ近距離だと時間分解能がシビアになるのか

具体的な数値で見てみましょう。高度 R=100 kmR = 100\ \text{km}(降下フェーズの比較的高い段階)のとき、

τ=2Rc=2×105 m3×108 m/s6.7×104 s=667 μs\tau = \frac{2R}{c} = \frac{2 \times 10^5\ \text{m}}{3\times10^8\ \text{m/s}} \approx 6.7 \times 10^{-4}\ \text{s} = 667\ \mu\text{s}

接地直前、高度 R=100 mR = 100\ \text{m} まで下がると、

τ=2×100 m3×108 m/s6.7×107 s=667 ns\tau = \frac{2 \times 100\ \text{m}}{3\times10^8\ \text{m/s}} \approx 6.7 \times 10^{-7}\ \text{s} = 667\ \text{ns}

往復時間そのものは深宇宙測距(分〜時間オーダー)に比べて桁違いに短いのですが、問題はここからです。着陸の安全性を左右するのは高度の絶対値ではなく高度の測定誤差であり、接地直前には誤差 ΔR\Delta R が1m程度、場合によってはそれ以下に収まっていてほしいところです。この ΔR=1 m\Delta R = 1\ \text{m} に対応する時間分解能は、

Δτ=2ΔRc=2×1 m3×108 m/s6.7 ns\Delta \tau = \frac{2\,\Delta R}{c} = \frac{2 \times 1\ \text{m}}{3\times10^8\ \text{m/s}} \approx 6.7\ \text{ns}

わずか6.7ナノ秒です。深宇宙測距では、往復時間そのものが分〜時間オーダーある中で、PN符号のチップレート(Mchip/s オーダー、チップ周期 TcT_cμ\mus オーダー)を使い、さらに数秒〜数十秒の積分時間 TT をかけてノイズを平均化することで、最終的にメートルからサブメートルの精度を実現していました(前々回の式を思い出してください)。ところがレーダー高度計では、降下中の探査機は姿勢も速度も刻々と変化しており、高度の推定値は数十ミリ秒〜せいぜい数百ミリ秒の周期で更新し続けなければ、ガイダンス・制御(GNC)にとって使い物になりません。つまり「長時間積分してノイズを平均化する」という深宇宙測距の武器が、レーダー高度計ではそのままは使えないのです。短い観測窓の中で、ナノ秒オーダーの時間分解能を単発(あるいは少数回の平均)で達成する必要があります。

これがレーダー高度計特有の設計課題です。素朴に「短いパルスを送って、反射が返ってくるまでの時間をストップウォッチのように測る」パルスレーダー方式で考えると、パルス幅 τp\tau_p そのものが時間分解能の下限を与えます(パルスの立ち上がり・立ち下がりの鋭さ以上には遅延を分解できないため)。距離分解能は

ΔRcτp2\Delta R \approx \frac{c\,\tau_p}{2}

なので、ΔR=1 m\Delta R = 1\ \text{m} を達成するには τp6.7 ns\tau_p \approx 6.7\ \text{ns} という極めて短いパルスが必要です。ところが、パルスのエネルギーは(尖頭電力)×(パルス幅)にほぼ比例するため、パルス幅を6.7nsまで切り詰めながら十分なSNRを確保しようとすると、尖頭送信電力を途方もなく大きくする必要が出てきます。小型で電力の限られた着陸探査機の送信機にとって、これは非現実的です。この「短いパルス幅 = 高い尖頭電力」というトレードオフを回避するのが、次節で扱うFMCW方式です。

FMCW方式: 周波数の傾きで距離を測る

送信波形: 線形チャープ

FMCWレーダーは、パルスの代わりに、周波数を時間とともに直線的に掃引(スイープ)させた連続波(チャープ信号)を送信します。掃引時間を TsweepT_{sweep}、掃引する総帯域幅を BB とすると、送信信号の瞬時周波数は

ftx(t)=f0+BTsweept,0tTsweepf_{tx}(t) = f_0 + \frac{B}{T_{sweep}}\,t, \qquad 0 \le t \le T_{sweep}

という直線で表されます(f0f_0 は掃引開始周波数)。瞬時位相はこれを時間積分して、

ϕtx(t)=2π0tftx(t)dt=2π(f0t+B2Tsweept2)\phi_{tx}(t) = 2\pi \int_0^t f_{tx}(t')\,dt' = 2\pi\left(f_0 t + \frac{B}{2\,T_{sweep}}t^2\right)

周波数が時間の1次関数、位相が時間の2次関数になっているのが線形チャープの特徴です。

反射波との「ビート周波数」

この信号が高度 RR 先の地表で反射し、往復遅延 τ=2R/c\tau = 2R/c だけ遅れて戻ってくるとします。受信信号は送信波形をそのまま時間シフトしたものなので、その瞬時周波数は

frx(t)=f0+BTsweep(tτ)f_{rx}(t) = f_0 + \frac{B}{T_{sweep}}\,(t - \tau)

FMCWレーダーの核心的なアイデアは、送信中の信号(そのレプリカ)と受信信号をミキサーで掛け合わせ、低域(差の周波数成分)だけを取り出すという処理(デチャープ、あるいはストレッチ処理と呼ばれます)にあります。これは、送信波形のレプリカを使って受信信号との相関を取る操作であり、整合フィルタの回で学んだ「送信波形のレプリカと掛け合わせて積分する」相関受信機の考え方の、チャープ波形版だと考えることができます。

この操作で得られる差の周波数(ビート周波数)は、

fbeat(t)=ftx(t)frx(t)=BTsweepτf_{beat}(t) = f_{tx}(t) - f_{rx}(t) = \frac{B}{T_{sweep}}\,\tau

tt に依存しない定数になっていることに注目してください。線形チャープの美しさはここにあります。往復遅延 τ\tau(つまり距離)が、時間とともに変化しない一定のビート周波数として現れるため、受信機は単純にこのビート信号の周波数をFFT(高速フーリエ変換)などで求めるだけで、遅延——ひいては距離——を推定できます。τ=2R/c\tau = 2R/c を代入すると、

  fbeat=2RcBTsweep  \boxed{\;f_{beat} = \frac{2R}{c}\cdot\frac{B}{T_{sweep}}\;}

という関係式が得られます。これがFMCWレーダーの基本方程式です。左辺の fbeatf_{beat} はビート信号をFFTすることで容易に測定でき、右辺の B,TsweepB, T_{sweep} は自分で設計・制御しているパラメータなので、これを RR について解けば、

R=cfbeatTsweep2BR = \frac{c\,f_{beat}\,T_{sweep}}{2B}

という形で高度が求まります。パルスレーダーが「時間軸上での遅延」を直接測っていたのに対し、FMCWレーダーは距離の情報を周波数領域の一点(ビート周波数)に変換してから読み取るという、発想の異なるアプローチを取っていることが分かります。

FMCWの利点: 低い尖頭電力で高い距離分解能

先ほど見たように、パルスレーダーで高い距離分解能を得ようとすると、パルス幅を短くする必要があり、それは尖頭送信電力の増大に直結するという問題がありました。FMCWでは、掃引時間 TsweepT_{sweep} を(尖頭電力を抑えたいだけ)長く取ることができます。TsweepT_{sweep} を長くしても fbeatf_{beat} の値自体は変わらず(上の式に TsweepT_{sweep} は分母にも分子にも現れますが、実際に効いてくるのは掃引の傾き B/TsweepB/T_{sweep} であり、距離分解能を決めるのは次節で見る通り帯域幅 BB だけです)、送信エネルギーは「短時間に凝縮した尖頭電力」ではなく「長時間にわたる低電力の連続波」として供給できます。これは深宇宙測距において、PN符号を長時間積分することで低SNRでも精度を稼いでいた発想——エネルギーを時間方向に広げてから、受信機側で圧縮して取り出す——と本質的に同じ思想です。FMCWは、この「広げてから圧縮する」という考え方を、位相符号(PN符号)ではなく周波数の掃引という形で実現していると言えます。

距離分解能と帯域幅の関係

なぜ分解能は帯域幅だけで決まるのか

ビート周波数 fbeatf_{beat} をFFTで推定するとき、その周波数分解能は掃引時間 TsweepT_{sweep} の長さで決まります。有限長 TsweepT_{sweep} の信号をフーリエ変換したときの周波数分解能(メインローブ幅、いわゆるレイリー限界)は、

Δfbeat1Tsweep\Delta f_{beat} \approx \frac{1}{T_{sweep}}

です。この周波数の分解能を、先ほどの基本方程式 fbeat=(2R/c)(B/Tsweep)f_{beat} = (2R/c)(B/T_{sweep}) を通じて距離の分解能に変換すると、

ΔR=cTsweep2BΔfbeat=cTsweep2B1Tsweep=c2B\Delta R = \frac{c\,T_{sweep}}{2B}\,\Delta f_{beat} = \frac{c\,T_{sweep}}{2B}\cdot\frac{1}{T_{sweep}} = \frac{c}{2B}   ΔR=c2B  \boxed{\;\Delta R = \frac{c}{2B}\;}

掃引時間 TsweepT_{sweep} がきれいに約分されて消え、距離分解能は掃引帯域幅 BB だけで決まるという結果が得られました。これは前節で述べた「TsweepT_{sweep} を自由に(長く)選べる」という利点の数式的な裏付けです。TsweepT_{sweep} を長くしてもエネルギー(≒SNR)は稼げる一方、分解能は劣化しません。分解能を上げたければ、掃引時間ではなく掃引する帯域幅 BB を広げる必要があります。

興味深いのは、この ΔR=c/(2B)\Delta R = c/(2B) という式が、パルスレーダーの分解能の式 ΔRcτp/2\Delta R \approx c\tau_p/2 において、パルス幅 τp\tau_p を「実効的なパルス幅 1/B1/B」に置き換えたものとまったく同じ形をしていることです。実際、線形チャープを整合フィルタ(あるいは今回のデチャープ処理)で処理すると、見かけ上の掃引時間 TsweepT_{sweep} という長いパルスが、帯域幅 BB に応じた鋭い狭いピーク(実効幅 1/B\sim 1/B)に圧縮されて出力されます。これは**パルス圧縮(pulse compression)**と呼ばれるレーダー信号処理の中心的な考え方で、「長く広げて送信し(低尖頭電力)、受信側で鋭く圧縮する(高い距離分解能)」という、まさに整合フィルタ理論(送信波形に整合したフィルタを通すことでSNRと分解能を最大化する)の直接の応用例になっています。

数値例

高度分解能 ΔR=0.5 m\Delta R = 0.5\ \text{m} を達成したい場合、必要な掃引帯域幅は

B=c2ΔR=3×1082×0.5=3×108 Hz=300 MHzB = \frac{c}{2\,\Delta R} = \frac{3\times10^8}{2\times0.5} = 3\times10^8\ \text{Hz} = 300\ \text{MHz}

数百MHzという広い帯域幅が必要であることが分かります。これはRF回路設計上、決して小さくない要求ですが、パルスレーダー方式で同じ分解能を達成するために必要だった「尖頭電力を極端に増やした上でのナノ秒パルス」という要求に比べれば、はるかに現実的な設計です。実際の着陸レーダーでは、必要な高度分解能・更新レート・アンテナビーム幅などの兼ね合いから、数十MHzから数百MHzオーダーの掃引帯域幅が選ばれます。

実務での使われ方

火星着陸機の降下フェーズ

火星への着陸では、大気圏突入(エントリー)時に発生する高速のプラズマシースが探査機を包み込み、地球との通信(テレメトリ・測距の双方)が一時的に遮断される「通信ブラックアウト」が起こります。速度が減速し、超音速から遷音速・亜音速へと移行してプラズマが消散すると通信は復旧しますが、地球までの片道光行時間はミッションによって4分から24分にも及ぶため、降下から着陸までのわずか数分間、探査機は地球からの指示を一切待たずに完全自律でEDL(Entry, Descent, and Landing)シーケンスを実行しなければなりません。この自律シーケンスの根幹を支えるのが、探査機に搭載されたレーダー高度計です。パラシュート展開後、バックシェル分離、動力降下(パワードディセント)開始、あるいはMars Science Laboratory (Curiosity) やMars 2020 (Perseverance) の「スカイクレーン」機動のタイミングといった重要イベントは、いずれもレーダー高度計が刻々と更新する高度・降下速度データをガイダンス・制御(GNC)ソフトウェアが読み取り、判断することで決定されます。これらのミッションで使われた着陸用レーダー(Terminal Descent Sensor)は、軍用機の電波高度計をルーツに持つKa帯の複数ビーム式レーダーで、複数方向へのビームを使うことで高度だけでなく水平方向の速度成分も同時に推定し、動力降下の姿勢・軌道制御に必要な情報を供給しています。

金星・タイタンなど厚い大気を持つ天体での地形マッピング

金星は硫酸の雲に覆われ、可視光での地表観測が原理的に不可能です。NASAの金星探査機マゼラン(Magellan、1990年代)は、S帯の電波を使った合成開口レーダー(SAR)と高度計モードを同じアンテナ・送信機で切り替えながら運用し、雲の下に隠れた金星表面の地形図をほぼ全球にわたって作成しました。レーダーは電波を使う以上、可視光や近赤外を使う光学的な測距(レーザー高度計・LIDAR)では原理的に不可能な「雲やダストを透過して地表を測る」ことができるのが最大の強みです。

同様に、土星の衛星タイタンは光化学スモッグ(ヘイズ)に覆われており可視光観測ができませんが、探査機カッシーニ(Cassini)に搭載されたRADAR装置(Ku帯)は、SARモード・高度計モード・散乱計モード・放射計モードを切り替えながら、ヘイズの下に隠されたタイタンの湖や地形を明らかにしました。これらの例はいずれも「大気や雲を電波が透過できる」という、光学センサに対するレーダーの本質的な優位性を活かした運用です。

なお、大気のない小天体(小惑星・彗星)への探査機では、雲やダストの透過性という利点が不要な代わりに、より軽量・小型で高精度な**レーザー高度計(LIDAR)**が距離計測に使われることが多い点には注意してください。原理としては光を使った同種のFMCW的な連続波方式(FMCW LIDAR)も存在し、この回で学んだビート周波数による距離推定の考え方は、電波の代わりに光を使う場合にもそのまま応用できます。

演習問題

  1. 高度 R=50 mR = 50\ \text{m}(接地直前)のとき、往復光行時間 τ\tau を求めてください。また、この高度で ΔR=0.2 m\Delta R = 0.2\ \text{m} の分解能を達成するために必要な時間分解能 Δτ\Delta\tau を計算し、深宇宙測距における典型的なチップ周期(μ\mus オーダー)と比較して何桁小さいか述べてください。

  2. あるFMCWレーダー高度計が、掃引帯域幅 B=150 MHzB = 150\ \text{MHz}、掃引時間 Tsweep=1 msT_{sweep} = 1\ \text{ms} で動作しているとします。探査機の高度が R=3 kmR = 3\ \text{km} のとき、本文で導いた式 fbeat=(2R/c)(B/Tsweep)f_{beat} = (2R/c)(B/T_{sweep}) を使ってビート周波数を求めてください。

  3. 高度分解能 ΔR=0.3 m\Delta R = 0.3\ \text{m} を達成するために必要な掃引帯域幅 BB を、式 ΔR=c/(2B)\Delta R = c/(2B) を使って求めてください。次に、同じ分解能をパルスレーダー方式(短パルスを送信し、パルス幅そのもので分解能を決める方式)で達成しようとした場合に必要なパルス幅 τp\tau_p を求め、そのパルス幅がなぜ実用上の尖頭電力の問題を引き起こすのか、本文の議論に基づいて説明してください。

  4. 深宇宙測距(前々回)では積分時間 TT を数秒〜数十秒と長く取ることで測距精度を上げていましたが、レーダー高度計では同じ発想をそのまま使うことができません。なぜ着陸降下中のレーダー高度計では長時間の積分ができないのか、探査機の運動(高度・速度が刻々と変化すること)と、GNCが必要とする更新レートの観点から、自分の言葉で説明してください。

まとめと次回予告

レーダー高度計は、深宇宙測距と同じ「電波を送って、反射(または応答)が返ってくるまでの時間から距離を求める」という基本原理に立脚しながら、探査機自身が搭載する装置で数百km以下、着陸直前には数mというまったく異なるスケールの距離を測る技術でした。距離が近いことはむしろ、要求される時間分解能をナノ秒オーダーへと厳しくし、さらに降下中は積分時間を長く取れないという制約も加わります。この要求に応えるのがFMCW方式で、送信周波数を直線的に掃引し、反射波との差(ビート周波数)fbeat=(2R/c)(B/Tsweep)f_{beat} = (2R/c)(B/T_{sweep}) から距離を求めることで、低い尖頭電力のまま高い距離分解能 ΔR=c/(2B)\Delta R = c/(2B) を実現できることを見ました。この「長く広げて送信し、受信側で鋭く圧縮する」というパルス圧縮の考え方は、整合フィルタの理論の直接的な応用でもあります。

今回は探査機の真下、1点だけの距離(高度)を測る方法を扱いましたが、次回は視点を広げ、探査機の飛行に伴う空間的な広がりを利用して、地表の2次元的な画像を作り出す 合成開口レーダー(SAR, Synthetic Aperture Radar) の基礎に触れます。今回学んだ「距離分解能は帯域幅で決まる」という考え方に加えて、SARでは進行方向の分解能をどう稼ぐのか、という新しい問いに向き合うことになります。

参考文献

  • M. I. Skolnik, Introduction to Radar Systems, 3rd ed., McGraw-Hill(FMCW・パルス圧縮の章)
  • A. W. Rihaczek, Principles of High-Resolution Radar, Artech House
  • R. D. Braun, R. M. Manning, “Mars Exploration Entry, Descent, and Landing Challenges,” Journal of Spacecraft and Rockets
  • A. Steltzner et al., “Mars Science Laboratory Entry, Descent, and Landing System Overview,” IEEE Aerospace Conference
  • C. Elachi et al., “Radar: The Cassini Titan Radar Mapper,” Space Science Reviews
  • G. H. Pettengill et al., “Magellan: Radar Performance and Data Products,” Science
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76