測距・追跡#80
GNSS搭載航法 — 地上局を介さない、周回衛星の自律軌道決定
深宇宙探査機はDSNからの測距・ドップラーで位置を知るが、地球を周回する衛星はGPS/GNSS衛星群からの信号を自機で受信するだけで、数メートル精度の位置を即座に自律決定できる。擬似距離から位置とクロックバイアスを解く4元連立方程式、なぜ深宇宙ではこの方式が使えないかの幾何学、軌道上特有の高ドップラー・弱電界受信の課題、そしてカルマンフィルタとの融合までを扱う。
前提知識: カルマンフィルタによる軌道決定 — 逐次的に更新する最小分散推定
この回で学ぶこと
測距・ドップラー・DDORの統合とカルマンフィルタによる軌道決定の2回では、探査機の位置と速度を、地上局が電波を送受信して決定するという前提で話を進めてきました。DSN(Deep Space Network)のアンテナが測距トーンを送り、探査機のトランスポンダがそれを折り返し、往復時間やドップラーシフトから軌道を割り出す。この一連の流れは、数億kmの彼方にいる深宇宙探査機にとっては、事実上唯一の航法手段です。
しかし、地球のすぐ近く、高度数百kmから数千km程度を周回する衛星(LEO: Low Earth Orbit、低軌道)にとっては、まったく別の選択肢があります。それが、この回で扱う GNSS(Global Navigation Satellite System)搭載航法です。GPS・GLONASS・Galileo・BeiDouといった測位衛星群からの信号を、衛星自身に載せた受信機で直接受信するだけで、地上局を一切介さずに、その場で(オンボードで)自機の位置を数メートル精度で決定できます。
この回では、まず「なぜ深宇宙探査機ではこの便利な方式が使えないのか」を幾何学的に押さえたうえで、GNSS測位の心臓部である擬似距離(pseudorange)方程式と、そこから位置と受信機クロック誤差を同時に求める最小二乗法を導出します。そして、地上のカーナビやスマートフォンのGNSS受信機とは大きく異なる、軌道上特有の技術的な課題(超高速移動によるドップラー、高高度での弱電界受信)を見たあと、最後に前回学んだカルマンフィルタとGNSS測位がどう組み合わさって、リアルタイムの高精度軌道決定を実現しているかを扱います。
直感的導入: 「聞くだけ」で位置がわかる衛星
深宇宙探査機の航法は、いわば「地上から声をかけ、跳ね返ってきた声(エコー)の遅れと音程のズレを聞いて距離と速度を知る」というアクティブな仕組みでした。地上局が能動的に電波を送り、探査機がそれに応答する。距離が遠くなるほど、この往復には時間がかかります(火星なら片道数分、探査機がさらに遠ければ往復で数時間)。
一方、LEO衛星が使うGNSS航法は、まったく受け身(パッシブ)です。GPSなどの測位衛星は、地上のカーナビもスマートフォンも、そして頭上を飛ぶLEO衛星も区別せず、ひたすら一方的に「私は衛星番号◯◯、時刻はいまこれで、軌道上のこの位置にいます」という信号を四六時中放送し続けています。受信機側は、この放送を聞くだけでよく、何かを送り返す必要がありません。地上局との通信すら要りません。
なぜこれで自分の位置が分かるのか。直感的には、灯台の比喩がわかりやすいでしょう。複数の灯台(GNSS衛星)が、それぞれ「私はここにいる、いまはこの時刻だ」と正確な時刻つきの光(電波)を送り続けているとします。船(受信機)は、その光が届くまでにかかった時間から、それぞれの灯台までの距離を計算できます。灯台が3つ分かれば、3つの距離から(球面の交点として)自分の位置が三角測量的に決まります。GNSSでは、これに加えて受信機自身が持つ時計のズレという第4の未知数があるため、実際には4つ以上の「灯台」の距離が必要になります。この仕組みを、次節から数式で丁寧に追っていきます。
なぜ深宇宙探査機はGNSSを使えないのか — 幾何学的な理由
GNSS衛星は地球を回る中軌道(MEO: Medium Earth Orbit)、高度およそ20,200 kmを周回しています(地球中心からの軌道半径は )。円軌道の速度公式 にケプラーの重力定数 を代入すると、
となり、公転周期はおよそ11時間58分(恒星日のちょうど半分)です。重要なのは、GNSS衛星のアンテナが全方位に電波を撒き散らしているわけではないという点です。測位信号のエネルギーを地球上のユーザーに集中させるため、各衛星のアンテナは地球方向(ほぼ地心方向)を向いた指向性ビームとして設計されており、その主ローブ(メインローブ)は、その軌道高度から見た地球の見かけの大きさに合わせて設計されています。
地球半径を とすると、GNSS軌道高度から見た地球の視半径(地球の縁を見込む角度)は、
です。実際のGNSS衛星の送信アンテナは、この地球全体を余裕をもって照らせるよう、半角にしておよそ20度程度の主ローブ幅を持つように設計されています(正確な値は衛星の世代・機種によって異なります)。つまり、GNSS衛星のビームは最初から「地球の表面近くにいる受信機」だけを狙って設計されているのです。
- 高度数百km〜数千kmのLEO衛星は、地球のすぐ近く、GNSS衛星群のはるか下方にいます。見上げれば、地球の反対側にあるGNSS衛星も含め、多数の衛星のビームの中に自分がすっぽり収まっているため、地上のGPS受信機とほぼ同じような条件で、複数衛星からの強い主ローブ信号を受信できます。
- 高度が上がってGNSS衛星の軌道高度(約20,200 km)を超え、さらに静止軌道(約36,000 km)付近やそれ以上になると、受信機はGNSS衛星群の外側に出てしまいます。地球の反対側にあるGNSS衛星からの主ローブ信号(地球を貫通する形で、なお受信機側に届く分)や、近い側にあるGNSS衛星の主ローブから外れたサイドローブ(副ローブ)・バックローブの微弱な漏れ信号を拾うしかなくなります。これは後述する「宇宙サービスボリューム(Space Service Volume)」と呼ばれる、GNSS本来の想定を超えた利用形態です。
- そして、月やそれ以上遠い深宇宙探査機にとっては、事情はさらに絶望的です。GNSS衛星群のビームは地球近傍というごく狭い角度範囲だけを照らすように設計されているため、月軌道(平均約384,400 km)や惑星間空間にいる探査機は、そもそもどのGNSS衛星のビーム(主ローブはおろかサイドローブも含め)にも収まらない位置にいることがほとんどです。加えて、GNSS衛星の送信電力は「せいぜい地球近傍の距離(高々数万km)まで届けばよい」という前提で設計されているため、仮に幾何学的にビームの延長線上に運よく入ったとしても、逆二乗則で減衰した信号強度は実用にならないレベルまで落ち込みます。
これが、「深宇宙探査機はDSNからの能動的な測距・ドップラーに頼らざるを得ないが、地球近傍を回るLEO衛星はGNSS信号を受信するだけで自律的に位置を決定できる」という、この回の対比の幾何学的な根拠です。
GNSS測位の基本原理: 擬似距離と4元連立方程式
擬似距離方程式
GNSS衛星 は、自身の正確な送信時刻 を信号に刻んで放送します。受信機がこの信号を受信した(受信機の時計で測った)時刻を とすると、素朴には伝搬時間 に光速 をかければ衛星までの距離が求まりそうです。ところが、受信機側の時計(多くは安価な水晶発振器)には、真の時刻からのズレ (受信機クロックバイアス)があります。このズレを考慮せずに計算した「距離もどき」を擬似距離(pseudorange) と呼びます。
ここで は受信機(未知の)位置、 はGNSS衛星 の位置(航法メッセージ中の軌道暦から高精度に既知)です。衛星自身のクロック誤差やイオノスフェア遅延・相対論的補正などは航法メッセージや補正モデルで別途取り除けるとして、ここでは本質的な部分だけを残すと、擬似距離方程式は
という形になります。未知数は受信機の位置3成分 と、クロックバイアス を合わせた4つです。1個の衛星からの擬似距離では方程式が1本しか立たないため、少なくとも4個の衛星からの擬似距離が同時に必要になります。これが「GNSS測位には最低4機の衛星が見えている必要がある」という、よく知られた条件の数学的な根拠です。
線形化と最小二乗解
4本(以上)の非線形方程式 を直接解くのは煩雑なので、以前の軌道決定の回で使ったのと同じ手順で線形化します。おおまかな初期推定位置 とクロックバイアス推定値のまわりでテイラー展開1次までとると、視線方向の単位ベクトル
を使って、擬似距離の残差 (実測値と、初期推定位置から予想される擬似距離との差)は、位置の補正量 とクロックバイアス補正量 の線形結合として、
と書けます(符号は、受信機が衛星に近づく方向に動くと擬似距離が減る、という直感と整合しています)。これを4個以上の衛星について並べると、状態ベクトル に対する観測方程式
が得られます。ちょうど4機しか見えていなければ は正方行列で、 と一意に解けます。5機以上見えていれば、前々回導出した重み付き最小二乗解がそのまま使えます。
これを初期推定値に加えて更新し()、収束するまで数回反復すれば、受信機の位置 と、副産物として受信機時計の真の時刻からのズレ が同時に求まります。この「位置だけでなく時刻も一緒に解いてしまう」という点が、GNSS測位の数学的に面白いところであり、GPSが原子時計並みに正確な時刻源としても使われる理由でもあります。可視衛星数が多いほど 行列の行が増え、以前学んだDOP(Dilution of Precision)の議論がそのまま当てはまり、衛星の幾何配置が偏っていると の対角成分(位置分散)が悪化します。
軌道上GNSS受信機特有の課題
地上のカーナビやスマートフォンのGNSS受信機と、LEO衛星に搭載する受信機は、原理はまったく同じでも、実装上は大きく異なる課題を抱えています。
高速移動によるドップラーシフト
GNSS信号のキャリア周波数はL1帯で です。受信機とGNSS衛星の視線方向相対速度を とすると、受信される信号の周波数は
だけドップラーシフトします。地上のほぼ静止したユーザーの場合、相対速度はGNSS衛星自身の軌道運動(視線方向成分でせいぜい数百m/s〜1km/s程度)にほぼ限られ、ドップラーシフトの範囲は 程度に収まります。
ところがLEO衛星は、それ自体が高速で運動しています。高度400km程度の円軌道速度は、先ほどと同じ公式で
です。GNSS衛星の速度 と合わせ、幾何配置によっては視線方向の相対速度が10 km/s近くに達することがあります。仮に とすると、
と、地上受信機の10倍以上のドップラーシフトが生じます。さらに、LEO衛星の公転周期はわずか90分程度と短く、視線方向の幾何がめまぐるしく変化するため、ドップラーシフトの**時間変化率(ドップラーレート)**も地上に比べて一桁以上大きくなります。これは、コスタスループやPLLの回で学んだ追尾ループにとって、より広い捕捉(アクイジション)周波数レンジと、より速い応答(高い追尾帯域幅)の両方が要求されることを意味します。実際のLEO用GNSS受信機は、こうした高ダイナミクス環境向けに、周波数サーチのビン数を増やしたアクイジション回路や、軌道力学モデルによる予測(エイディング)を使ってドップラーの探索範囲を事前に絞り込む工夫を組み込んでいます。
弱電界・サイドローブ受信
前節で見たように、高度がGNSS衛星群の軌道高度(約20,200 km)に近づいたり、それを超えたりすると、受信機はGNSS衛星の主ローブの外に出て、サイドローブやバックローブの微弱な漏れ信号を拾わざるを得なくなります。この信号強度は主ローブに比べて20〜30 dB程度弱いことが多く、通常の地上向けGNSS受信機の感度ではまったく歯が立ちません。
このような高高度・弱電界環境での測位を可能にするのが、**宇宙サービスボリューム(SSV: Space Service Volume)**と呼ばれる利用形態で、以下のような専用の技術的工夫が必要になります。
- 高感度な相関器(コリレータ): 弱い信号でも拡散符号との相関ピークを検出できるよう、コヒーレント積分時間・非コヒーレント積分時間を延長し、実効的な処理利得を稼ぐ。ただし前節の高ドップラーレートとは相反する要求(積分時間を延ばすほど、その間の周波数の変動に弱くなる)であり、両者のトレードオフをどう設計するかが受信機設計の腕の見せどころになります。
- 軌道力学によるエイディング: 搭載コンピュータが自機のおおよその軌道(力学モデルによる予測)とGNSS衛星の軌道暦(あらかじめ地上からアップロードしておく、または過去の航法メッセージから蓄積する)を使って、探索すべき周波数・コード位相の範囲を大幅に絞り込み、弱い信号でも短時間で捕捉できるようにする。
- 高利得アンテナ: 単純な地球指向パッチアンテナだけでなく、必要に応じて指向性を持たせたアンテナで感度を稼ぐ設計。
カルマンフィルタとの接続 — 瞬時測位から高精度軌道決定へ
前節までの最小二乗解 は、その瞬間の観測データだけから位置とクロックバイアスを求める、いわば「単発のスナップショット」です。実際のGNSS単独測位(single-point positioning)の精度は、可視衛星の幾何配置や信号雑音に依存して、おおむね数メートルから十数メートル程度に留まり、エポックごとに独立に解いているため、時間的にランダムに近いノイズが乗ります。
ここで威力を発揮するのが、前回学んだカルマンフィルタです。GNSS受信機が出力する擬似距離(あるいはドップラーから求まる視線方向速度、搬送波位相)を観測量 として、軌道力学モデル(二体問題+ 摂動+大気抵抗などを含む状態遷移 )による予測ステップと組み合わせれば、
という、おなじみのカルマンフィルタのサイクルがそのまま適用できます。この場合の観測行列 は、この回で導出した擬似距離の線形化式 の並びそのものです。GNSS単独測位の「瞬時だが独立でノイズが大きい」情報と、軌道力学モデルの「滑らかだが外乱に弱い」予測を、カルマンフィルタが不確かさに応じた最適な重み(カルマンゲイン)で融合することで、単独のGNSS測位よりもはるかに滑らかで高精度な、リアルタイムの軌道推定値が得られます。数メートル精度の瞬時GNSS測位が、軌道力学モデルと組み合わさることでメートル未満の精度にまで改善される例も珍しくありません。これが、この回のタイトルにある「地上局を介さない自律航法」の完成形です。
実務での使われ方
**国際宇宙ステーション(ISS)**をはじめ、地球観測衛星、通信衛星コンステレーション、多くの科学衛星など、現代のLEO衛星の大半は搭載GNSS受信機を標準装備しています。かつては地上局からのレーダー測距やドップラー追跡に頼っていた軌道決定が、GNSS受信機1つで機上完結するようになったことは、運用面で大きな変化をもたらしました。
- 運用コストの劇的な削減: 地上局のアンテナ時間を確保し、パスごとに測距・ドップラーを取得してから地上でバッチ処理する、という従来の手順(測距・ドップラー・DDORの回で見た深宇宙探査機の運用形態そのもの)が不要になります。GNSS受信機は軌道上のどこにいても(可視衛星さえいれば)自律的に測位でき、地上局のスケジュール調整という制約から解放されます。
- 即時性(リアルタイム性): 地上局からの追跡を待つ必要がないため、姿勢制御・軌道制御コンピュータが必要とする「今の正確な位置・速度」を、遅延なくオンボードで得られます。これは編隊飛行(フォーメーションフライト)、ランデブー・ドッキング、精密な地球観測画像の幾何補正など、リアルタイム性が求められる用途で決定的な利点になります。
- NASAゴダード宇宙飛行センターのNavigator GPS受信機は、通常のGPS利用高度をはるかに超える高高度でのGNSS航法を実証した代表例です。2015年に打ち上げられたMMS(Magnetospheric Multiscale)ミッションでは、地球半径の十数倍にも及ぶ非常に高い楕円軌道(遠地点高度約190,000 km、月までの距離のおよそ半分)まで、この回で説明したサイドローブ受信の技術を使ってGPS測位を実証し、軌道上GNSS受信の到達範囲を大きく広げました。
- 精密軌道決定(POD: Precise Orbit Determination): TOPEX/Poseidon、Jason シリーズなどの海面高度計衛星や、GRACE・GRACE-FOのような重力場観測衛星では、GNSS単独測位の数メートル精度では不十分で、搬送波位相観測量と地上の高精度GNSS観測網のデータを組み合わせた事後処理(精密暦を使った後処理)により、センチメートル級の軌道決定精度を達成しています。この回で扱ったのはリアルタイム・オンボードの測位でしたが、地上に降ろしたデータを事後処理すればさらに桁違いの精度が引き出せることは覚えておく価値があります。
演習問題
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GNSS衛星の軌道高度を20,200 km、地球半径を6,378 kmとして、GNSS衛星から見た地球の視半径 を計算してください。また、なぜ実際のGNSS衛星アンテナのビーム半角はこれよりいくらか大きく設計されている必要があるのか、理由を考えてください。
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4機のGNSS衛星が見えている状況で、擬似距離の観測方程式 の観測行列 が正方行列になり と一意に解けることを確認したうえで、4機の衛星がすべて天頂付近の狭い範囲に集中して見えている(視線方向の単位ベクトル がほとんど同じ向きになる)場合、 がほぼ特異になり位置決定精度が悪化することを、軌道決定の回で学んだDOPの考え方を使って説明してください。
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高度400 kmの円軌道を回るLEO衛星の遠心加速度の大きさ を計算し(本文の 、 を使用)、この加速度がそのまま視線方向のドップラー変化率に効くと仮定して、 帯()でのおおよそのドップラーレート(Hz/s)を見積もってください。地上のほぼ静止した受信機のドップラーレートと比べて何が言えるか論じてください。
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GNSS単独測位(この回で導出した瞬時の最小二乗解)と、カルマンフィルタによって軌道力学モデルと融合した測位とで、位置推定精度や滑らかさにどのような違いが生じるか、前回のカルマンフィルタの回で学んだ予測ステップ・更新ステップの役割を踏まえて説明してください。
まとめと次回予告
地球を周回するLEO衛星は、深宇宙探査機のようにDSNからの能動的な測距・ドップラーに頼らずとも、GNSS衛星群からの信号を受信するだけで、擬似距離から位置とクロックバイアスを解く4元連立方程式によって、自律的に数メートル精度の位置を即座に決定できます。この方式が深宇宙では使えないのは、GNSS衛星のアンテナビームが地球近傍だけを照らすように設計されているという、純粋に幾何学的な理由によるものでした。一方で軌道上のGNSS受信機には、地上受信機にはない高ドップラー・高ドップラーレート、そして高高度でのサイドローブ弱電界受信という特有の課題があり、これらに対応する専用の受信機技術が発達してきました。そして、この瞬時のGNSS測位を前回学んだカルマンフィルタで軌道力学モデルと融合することで、リアルタイムかつ高精度な軌道決定が実現されていることを見ました。
ここまで、電波を使った航法(地上局からのDSN追跡、そして今回のGNSS搭載航法)を中心に扱ってきましたが、電波以外の航法手段も存在します。たとえば、パルサー(規則正しく電波・X線パルスを放つ中性子星)からの信号のタイミングを使って、GNSSも地上局も届かない深宇宙で自律的に絶対位置を決定しようというX線パルサー航法という野心的な研究分野があります。GNSSの「地球近傍だけ」という限界を、まったく異なる発想で乗り越えようとするこの技術に、次回は軽く触れます。
参考文献
- E. D. Kaplan, C. J. Hegarty (eds.), Understanding GPS/GNSS: Principles and Applications, 3rd ed., Artech House
- J. J. Spilker Jr. et al. (eds.), Global Positioning System: Theory and Applications, Vol. I & II, AIAA
- F. H. Bauer, J. J. Parker et al., “The GPS Space Service Volume: Ensuring Consistent Utility Across GPS Design Baselines,” ION GNSS Conference
- L. Winternitz, W. Bamford et al., “Global Positioning System Navigation Above 76,000 km for NASA’s MMS Mission,” NASA Goddard Space Flight Center
- O. Montenbruck, E. Gill, Satellite Orbits: Models, Methods, and Applications, Springer
- B. D. Tapley, B. E. Schutz, G. H. Born, Statistical Orbit Determination, Elsevier Academic Press