変調・符号化#175

レートスプリッティングと重畳符号化 — 1つの信号で複数の受信者に同時に送る

電力領域で信号を重ね合わせる重畳符号化とSIC復号の仕組みを数式で導き、直交多元接続より広い容量領域を実現できることをシャノン容量の凸性から示す。5G/6GのNOMAと将来のマルチビーム宇宙通信への応用も扱う。

前提知識: シャノンの通信路容量定理 — どれだけ送れるかを決める絶対的な壁

重畳符号化NOMASIC容量領域レートスプリッティング

この回で学ぶこと

シャノンの通信路容量定理の回では、1つの送信機と1つの受信機からなるリンクについて、通信路容量 C=Blog2(1+S/N)C=B\log_2(1+S/N) という「これ以上は原理的に送れない」という壁を導きました。しかしこれまでの全てのレッスンには、暗黙の前提がありました。1つの信号は1人の受信者に向けたものだ、という前提です。

現実には、1つの送信アンテナから出た電波を、複数の受信者が同時に受け取ることがよくあります。地上局のビーコンを複数の探査機が聞いていたり、逆に1機の中継衛星が地上の複数の受信局に同じビームを向けていたりする状況です。このとき、受信者ごとに通信路の品質(受信SNR)が異なるのが普通です。近くの受信者は良いSNRを、遠くの受信者は悪いSNRを経験します。

こうした「1対多」の状況で、複数のユーザーにどうやって別々の情報を送るか。もっとも素朴な答えは、時間や周波数を分割して、ユーザーごとに専用のスロットを割り当てる直交多元接続(OMA: Orthogonal Multiple Access、TDMAやFDMAがその代表例)です。しかしこの回で見ていくように、通信路容量の性質を丁寧に使うと、電力軸の上で複数ユーザーの信号を重ね合わせて同時に送る重畳符号化(superposition coding)の方が、原理的により大きな合計伝送レートを達成できることが分かります。さらにこれを一般化したレートスプリッティング(rate-splitting)という枠組みも紹介します。この技術は地上の5G/6GでNOMA(Non-Orthogonal Multiple Access、非直交多元接続)として研究が進んでおり、将来のマルチビーム衛星通信にも応用が期待されています。

直感的導入 — なぜ重ね合わせた方が得なのか

まず具体例で直感を掴みましょう。1つの送信機(地上局や中継衛星)が、2人の受信者 UserA(近く、高SNR)と UserB(遠く、低SNR)に、それぞれ別々のメッセージを送りたいとします。

直交多元接続(たとえばTDMA)であれば、時間を2つのスロットに分け、前半はUserA専用、後半はUserB専用にします。全送信電力 PP を両スロットとも使えますが、各ユーザーは時間の半分しか使えません。

これに対して重畳符号化では、時間を分割せず、全時間・全周波数を使って、UserA向けの信号とUserB向けの信号を、電力を分け合って同時に重ねて送ることを考えます。一見すると「2つの信号が互いに干渉し合って、両方とも品質が落ちるだけでは」と思うかもしれません。しかしここに巧妙な仕掛けがあります。

  • SNRの良いUserAの受信機は、まず相手(UserB)宛の信号を復号し、それを自分の受信信号から差し引いてから、残った自分宛の信号をきれいに復号します。これを逐次干渉除去(SIC: Successive Interference Cancellation)と呼びます。UserAにとってUserB宛の信号は「あとで消せる」ノイズでしかありません。
  • SNRの悪いUserBの受信機は、UserA宛の信号を復号する余裕がないので、それを単純な雑音として扱いながら、自分宛の信号だけを復号します。

この非対称な仕組みによって、UserAは実質的に「雑音のない環境」で自分の信号を受け取れ、UserBは「多少電力配分は不利だが専有時間は100%」という状況で自分の信号を受け取れます。後述するように、この組み合わせは時間分割よりも合計レートで有利になります。

重畳符号化の数式的な定式化

送信信号

送信機はUserA向けメッセージから作った信号 xA(t)x_A(t) と、UserB向けメッセージから作った信号 xB(t)x_B(t) を、電力配分係数 α(0,1)\alpha \in (0,1) を使って重ね合わせます。信号電力を正規化して E[xA2]=E[xB2]=1\mathbb{E}[x_A^2]=\mathbb{E}[x_B^2]=1 とすると、送信信号は

x(t)=αPxA(t)+(1α)PxB(t)x(t) = \sqrt{\alpha P}\, x_A(t) + \sqrt{(1-\alpha) P}\, x_B(t)

と書けます。ここで PP は総送信電力です。この式が重畳符号化の核心で、2つの独立なメッセージのための符号語を、電力領域で単純に足し合わせただけの信号になっています。通常、SNRの悪い(遠い)ユーザーであるUserBに、より多くの電力 (1α)P(1-\alpha)P を割り当て、SNRの良いUserAには少ない電力 αP\alpha P しか割り当てません(すなわち α<1/2\alpha < 1/2 が典型的な設計です)。理由は次節のSICの成立条件で明らかになります。

受信信号とSIC復号

UserAとUserBはそれぞれ異なる通信路利得 hA,hBh_A, h_B(および加法性白色ガウス雑音、雑音電力密度は共通に N0N_0 とします)を経て、次の信号を受け取ります。

yA(t)=hAx(t)+nA(t),yB(t)=hBx(t)+nB(t)y_A(t) = h_A x(t) + n_A(t), \qquad y_B(t) = h_B x(t) + n_B(t)

UserAをSNRの良いユーザー(hA2hB2|h_A|^2 \gg |h_B|^2)とします。UserAの受信機は次の2段階でSICを実行します。

  1. UserB宛の信号 xBx_B を先に復号する。 このときUserA自身の信号 xAx_A は雑音として扱われるので、UserAから見た xBx_B の復号に使えるSINR(信号対干渉雑音比)は
SINRAB=hA2(1α)PhA2αP+N0B\mathrm{SINR}_{A\to B} = \frac{|h_A|^2(1-\alpha)P}{|h_A|^2 \alpha P + N_0 B}
  1. 復号できた xBx_B のレプリカを受信信号から差し引く。 x^B\hat{x}_B が正しく復号できていれば、yA(t)hA(1α)Px^B(t)hAαPxA(t)+nA(t)y_A(t) - h_A\sqrt{(1-\alpha)P}\,\hat{x}_B(t) \approx h_A\sqrt{\alpha P}\,x_A(t) + n_A(t) となり、xBx_B による干渉がきれいに消えます。
  2. 残った信号から自分宛の xAx_A を復号する。 このときのSNRは、UserB由来の干渉が既に除去されているので
SNRAA=hA2αPN0B\mathrm{SNR}_{A\to A} = \frac{|h_A|^2 \alpha P}{N_0 B}

一方、UserBはSNRが悪いためSICを行う余裕がなく(あるいはUserA宛の信号を復号する必要もなく)、xAx_A を雑音として扱ったまま自分宛の xBx_B を直接復号します。

SINRBB=hB2(1α)PhB2αP+N0B\mathrm{SINR}_{B\to B} = \frac{|h_B|^2(1-\alpha)P}{|h_B|^2 \alpha P + N_0 B}

各ユーザーの達成可能レート

シャノン容量公式 C=Blog2(1+SNR)C=B\log_2(1+\mathrm{SNR}) をそのまま適用すると、UserA・UserBそれぞれが達成できるレートは

RA=Blog2 ⁣(1+hA2αPN0B),RB=Blog2 ⁣(1+hB2(1α)PhB2αP+N0B)R_A = B\log_2\!\left(1+\frac{|h_A|^2 \alpha P}{N_0 B}\right), \qquad R_B = B\log_2\!\left(1+\frac{|h_B|^2(1-\alpha)P}{|h_B|^2\alpha P + N_0 B}\right)

と書けます。α\alpha という1つのパラメータを動かすことで、RAR_ARBR_B の間でレートを融通し合える(トレードオフできる)ことが分かります。α0\alpha \to 0 に近づけるとUserAへの電力がゼロになりUserBが総電力を独占し(RA0R_A\to 0RBR_B が最大化)、α1\alpha \to 1 にするとUserAが独占します。

なお、SICが正しく機能するための前提条件は、UserAがUserB宛のメッセージを、UserB自身が復号できるのと少なくとも同じレートで復号できることです。すなわち、UserAにとっての xBx_B 復号レート Blog2(1+SINRAB)B\log_2(1+\mathrm{SINR}_{A\to B})RBR_B 以上であることが要求されます。hA2hB2|h_A|^2 \gg |h_B|^2 が成り立っていれば、この条件は自然に満たされます。SNRの良いユーザーほど、干渉として振る舞う他人の信号も余裕を持って復号できるからです。

なぜ重畳符号化が直交多元接続より優れうるのか — 容量領域の凸性

ここまでの議論を「2ユーザーの容量領域」という視点で整理すると、なぜ重畳符号化が優れているのかがはっきり見えてきます。容量領域(capacity region)とは、同時に達成可能な (RA,RB)(R_A, R_B) の組の集合のことです。

直交多元接続の容量領域

時間分割で、UserAに時間の割合 β\beta、UserBに残り 1β1-\beta を割り当てるとします(各スロットでは全電力 PP を使えるとする)。それぞれの区間で達成できるレートは

RA=βBlog2 ⁣(1+hA2PN0B),RB=(1β)Blog2 ⁣(1+hB2PN0B)R_A = \beta B\log_2\!\left(1+\frac{|h_A|^2 P}{N_0 B}\right), \qquad R_B = (1-\beta) B\log_2\!\left(1+\frac{|h_B|^2 P}{N_0 B}\right)

シャノン容量公式の回で見た log2(1+x)\log_2(1+x) の形を思い出すと、これは β\beta を動かしたときに (RA,RB)(R_A, R_B) 平面上で直線(2点 (0,RBmax)(0, R_B^{\max})(RAmax,0)(R_A^{\max}, 0) を結ぶ線分)を描きます。RAmax=Blog2(1+hA2P/N0B)R_A^{\max}=B\log_2(1+|h_A|^2P/N_0B)RBmax=Blog2(1+hB2P/N0B)R_B^{\max}=B\log_2(1+|h_B|^2P/N_0B) が、それぞれのユーザーが全時間・全電力を独占したときの最大レートです。

重畳符号化の容量領域

一方、重畳符号化では α\alpha00 から 11 まで動かすと、(RA(α),RB(α))(R_A(\alpha), R_B(\alpha)) の軌跡は log2(1+x)\log_2(1+x)対数関数(凹関数、concave)の非線形性によって、直交多元接続の直線よりも外側に膨らんだ曲線を描きます。

直感的な理由は次のとおりです。対数関数は凹関数なので、レートを電力に対して「頭打ちに」増加させます。直交分割では、UserAは自分の割り当て時間の中で常に「フルの電力 PP」を使いますが、その時間は全体の一部でしかありません。これに対して重畳符号化では、UserAは全時間を使いながら、SICによって(復号済みの)UserB信号の干渉を受けない状態で、αP\alpha P という部分的な電力からレートを得ます。log\log の凹性(限界効用逓減)により、「短い時間にフル電力」よりも「全時間に部分電力」の方が、同じ電力予算に対してより高い合計レートを引き出せるのです。

厳密には、任意の 0α10\le\alpha\le1 に対して重畳符号化で達成される点 (RA(α),RB(α))(R_A(\alpha), R_B(\alpha)) が、直交分割の直線上の対応する点(同じ電力配分比で線を引いた点)よりも右上(両方とも大きいか、少なくとも一方が大きく他方が同じ)にあることが示せます。これは情報理論において、2ユーザー・ガウス放送通信路(Gaussian broadcast channel)の容量領域が重畳符号化によって達成され、かつそれが真に最適(容量領域の境界そのもの)であることの一端です。直交多元接続の容量領域は、この本当の容量領域の内側に真に含まれる、つまり重畳符号化は原理的に劣ることがない(多くの場合、真に優れる)というのが結論です。

レートスプリッティング — より柔軟な一般化

重畳符号化は2つのメッセージを電力領域で単純に足すという発想でしたが、これをさらに一般化した枠組みがレートスプリッティングです。基本的な考え方は、送りたいメッセージそのものを複数のレイヤーに分割することです。

たとえばUserA向けのメッセージを、次の2つのレイヤーに分けます。

  • 共通レイヤー(common part): UserAとUserBの両方が復号できるように、十分低いレートで、十分な電力をかけて送るレイヤー。
  • 専用レイヤー(private part): UserA(SNRの良いユーザー)だけが復号できればよい、より高いレートのレイヤー。

送信信号は、共通レイヤーの信号 xcx_c、UserA専用レイヤーの信号 xp,Ax_{p,A}、UserB専用レイヤーの信号 xp,Bx_{p,B}(必要であれば)を、それぞれ電力 Pc,Pp,A,Pp,BP_c, P_{p,A}, P_{p,B}(Pc+Pp,A+Pp,B=PP_c+P_{p,A}+P_{p,B}=P)で重ね合わせた形に一般化されます。

x(t)=Pcxc(t)+Pp,Axp,A(t)+Pp,Bxp,B(t)x(t) = \sqrt{P_c}\,x_c(t) + \sqrt{P_{p,A}}\,x_{p,A}(t) + \sqrt{P_{p,B}}\,x_{p,B}(t)

受信側では、まず共通レイヤーを(全ユーザーが)復号して除去し、その後は各自の通信路品質に応じて専用レイヤーを直接復号するか、SICでさらに他ユーザーの専用レイヤーを除去してから復号します。単純な重畳符号化は、このレートスプリッティングの枠組みで「共通レイヤーの電力をゼロにした特殊ケース」とみなすことができ、逆に純粋な直交多元接続は「専用レイヤーだけで、干渉を時間・周波数分割によって完全に避けた特殊ケース」とみなせます。

レートスプリッティングが重畳符号化単体よりも優れる場面は、たとえば通信路の状態(CSI: Channel State Information)を送信側が完全には把握できない場合や、3人以上の多数の受信者を同時に相手にする場合です。共通レイヤーに「全員が最低限受け取れる情報」を乗せつつ、専用レイヤーで各受信者の追加容量を引き出すという構成は、SICの段数が受信者数とともに爆発的に増える単純な重畳符号化よりも、実装上・頑健性の面で扱いやすくなります。

実務での使われ方

地上の5G/6GにおけるNOMA

重畳符号化とSICを電力領域の多元接続方式として体系化したものが、NOMA(Non-Orthogonal Multiple Access、非直交多元接続)です。3GPPでは5Gの標準化検討の初期段階でNOMAが候補技術の1つとして議論され、日本のNTTドコモが主導した”MUST”(Multi-User Superposition Transmission)という提案がその代表例です。基地局から見て通信路条件の異なる複数の端末(セル中心の高SNRユーザーとセルエッジの低SNRユーザー)に、この回で見た電力領域重畳とSICを適用することで、同じ時間・周波数リソースブロックの上でセル全体のスループットを向上させることを狙っています。3GPP Release 13以降の技術報告書(TR 36.859など)にNOMAの評価結果がまとめられています。

6Gに向けた研究では、レートスプリッティング多元接続(RSMA: Rate-Splitting Multiple Access)が、NOMAとMIMO空間分割多元接続(SDMA)の両方を包含するより一般的な枠組みとして活発に研究されています。RSMAは、通信路推定誤差に対する頑健性の高さや、ユーザー数のスケーラビリティの面でNOMAより優位性があるとされ、6G物理層の候補技術の1つに挙げられています。

宇宙通信への応用可能性

深宇宙探査機通信では、これまでのレッスンで見てきたように1機の探査機と1つの地上局アンテナの1対1リンクが主な対象でしたが、地球周回のマルチビーム衛星通信や、複数の地上局・複数のミッションを同時にサポートする将来のシナリオでは、重畳符号化的な発想が意味を持ち始めています。

  • 1つの中継衛星ビームで複数の地上局に同時サービス: 静止軌道の中継衛星(TDRSSやJAXAのDRTS/こだまの後継システムなど)が、複数の低軌道ミッションのデータを同時に中継する場合、ビーム内の各リンクの受信条件(アンテナサイズ、地上局位置による仰角、天候による減衰)が異なることがあります。こうした状況で、電力領域の重畳符号化を用いれば、単純な時分割よりも合計スループットを改善できる可能性が理論的に示唆されています。
  • マルチキャスト的シナリオ: 複数の受信局が共通のテレメトリ・警報情報(共通レイヤー)を受け取りつつ、一部の局だけがより詳細な高レートデータ(専用レイヤー)を必要とする場合、レートスプリッティングの共通/専用レイヤー構成はまさにこの要求に対応します。将来の月周回中継システム(NASAのLunaNetやESAのMoonlight構想など、複数の月面・月周回ミッションを同時にサポートする通信インフラ)は、こうした1対多の非対称サービス要求が現実味を帯びる領域として、NOMA的な電力領域多元接続技術の研究対象になり始めています。

ただし、宇宙通信、特に深宇宙リンクでは、SICが要求する「良い方の受信機が相手の信号も復号できるだけの余裕のあるSNR」を満たすことが、電力制限領域にある深宇宙リンクの性質上そもそも難しい場合が多く、地上の5G/6Gほど直接的な適用が進んでいるわけではありません。今のところは主に、比較的リンクマージンに余裕のある地球周回・月周回のマルチユーザーシナリオでの応用研究が中心です。

演習問題

  1. 総送信電力 PP、電力配分 α=0.2\alpha=0.2 のとき、UserAの受信SNRが hA2P/N0B=20|h_A|^2P/N_0B = 20 dB、UserBの受信SNRが hB2P/N0B=0|h_B|^2P/N_0B = 0 dB だとします。RAR_ARBR_B をそれぞれ本文の式を使って計算してください(帯域幅 B=1B=1 として、bit/s/Hz単位で構いません)。

  2. 上の設問と同じ hA2P/N0B=20|h_A|^2P/N_0B=20 dB、hB2P/N0B=0|h_B|^2P/N_0B=0 dB の状況で、直交多元接続(時間分割、β=0.5\beta=0.5)を使った場合の RAR_ARBR_B を計算し、問1の重畳符号化の結果と比較してください。どちらの方式で合計レート RA+RBR_A+R_B が大きくなるでしょうか。

  3. 本文で述べたSICの成立条件「UserAにとっての xBx_B 復号レートが RBR_B 以上であること」を、本文の SINRAB\mathrm{SINR}_{A\to B} の式と RBR_B の式を使って不等式の形で書き下してください。この不等式が hA2hB2|h_A|^2 \ge |h_B|^2 であればほぼ自動的に成り立つことを、直感的にでよいので説明してください。

  4. レートスプリッティングにおける「共通レイヤー」の電力配分を極端に増やし、専用レイヤーの電力をゼロに近づけた極限は、どのような通信方式に近づくと考えられますか。逆に共通レイヤーの電力をゼロにした場合はどうなりますか。本文の議論をもとに説明してください。

まとめと次回予告

この回では、これまで暗黙に仮定してきた「1つの信号は1人の受信者向け」という前提を外し、電力領域で複数のメッセージを重ね合わせて送る重畳符号化と、受信側で干渉を段階的に取り除いていくSIC復号の仕組みを数式で追いました。log2(1+x)\log_2(1+x) というシャノン容量公式の凹性のおかげで、重畳符号化の容量領域が直交多元接続の容量領域を真に上回りうることを見て、これをさらに一般化したレートスプリッティングという枠組みも紹介しました。地上の5G/6GにおけるNOMA・RSMAの研究動向、そして将来のマルチビーム衛星通信・月周回中継システムへの応用可能性にも触れました。

次回は、この重畳符号化とはまた違う角度から、変調と誤り訂正符号を一体として最適化する考え方を扱います。具体的には、ビット交番符号化変調(BICM: Bit-Interleaved Coded Modulation)と、受信側でシンボル復号とビット復号を繰り返し行き来させる反復デマッピングという技術に軽く触れ、実際の深宇宙・地上通信システムで符号化と変調がどう組み合わされているかを見ていきます。

参考文献

  • T. M. Cover, J. A. Thomas, Elements of Information Theory, 2nd ed., Wiley (Broadcast Channel の章)
  • T. Cover, “Broadcast Channels,” IEEE Transactions on Information Theory, vol. 18, 1972
  • 3GPP TR 36.859, Study on Downlink Multiuser Superposition Transmission (MUST) for LTE
  • Y. Mao, B. Clerckx, V. O. K. Li, “Rate-Splitting Multiple Access for Downlink Communication Systems: Bridging, Generalizing, and Outperforming SDMA and NOMA,” EURASIP Journal on Wireless Communications and Networking, 2018
  • Z. Ding et al., “A Survey on Non-Orthogonal Multiple Access for 5G Networks: Research Challenges and Future Trends,” IEEE Journal on Selected Areas in Communications, vol. 35, 2017
  • J. H. Yuen (ed.), Deep Space Telecommunications Systems Engineering, JPL Publication 82-76